第98話 男性の部 決勝戦 アルバルトvsゼニス
いよいよ、ヒガリヤ編もクライマックスへ。
剣舞祭、女性の部の決勝戦。トキとレティシアの戦いが終わった。勇ましい健闘を見ていた誰しもが興奮冷め切れぬと観客同士で凄かったと意見を交わす。
「凄いっ、凄い!レティシアさん、あの七英雄に勝っちゃったわよ!」
「俺、なんか感動しちゃった。次は兄ちゃんの番だ……ってか、抱き付くなっ!ミリア姉ちゃん!」
「次はアルバルトの試合か…僕に勝ったあのゼニスっていう男は強い。異常なまでのタフさに力がアルバルト並みにあると考えると、この勝負はどちらが勝つか…」
興奮して抱き付くミリアにトーマスは嫌そうに手で顔を押し退ける。ユージーンはそんな彼女の隣で顎に手を置いて考えていた。その横顔は神秘的なまでに美しい。
ユージーンの独り言を拾ったトーマスが横から口を出す。
「そんな悩んだって意味ないよ、ユージーンの兄ちゃん。だってどっちが勝つかなんて決まってる!兄ちゃんが負ける筈がないからね!」
「……ははっ、そうだね。僕が信じなくてどうするんだよね」
この少年の言う通りだ言ってとユージーンは頭を掻いた。
「彼は僕に仇を取ると言ってくれた。正直言ってあのアルバルトが負ける所なんて想像出来ない。諦めの悪さで言ったら彼の方が何倍も酷いからね」
Bランクの昇格試験で見せたあの勝利への執着は凄い。何度も僕の攻撃を喰らっていた筈なのに満身創痍でも立ち上がってきた男だ。
それにカーマン選手との戦いでも骨が確実に折れた筈にも関わらず、あの動きが出来るなんて人の限界っていう物を知らないのかと正直驚いた。
(信じよう…彼は僕にとって大切な友人だ。僕が信じなくてどうする!)
ユージーンがトーマスの言葉に賛同して笑う。
ユージーンの憑き物が落ちた顔を見てニカッと親指を立てて笑うトーマスは何だか晴れやかな気分になった。
「あっ、ユージーンにガキンチョ!アルバルトさんが入ってきたわよ」
ミリアの指差す方向には舞台に上がり込んだアルバルトがいた。身をファイアボアの毛皮で包み、太陽で反射する艶やかな黒い毛皮の光は彼を照らす。
「…頑張れ、アルバルト」
祈る様な声のユージーンの呟きはアルバルトの向かい側から登場したゼニスの雄叫びによって掻き消された。
◆
マリア達との話し合いが終わり、俺は今、この大舞台で対戦相手であるゼニスと向かい合っている。なかなか面白い話を聞けたが、正直言って全部信じて良いのかは分からなかった。
「よう、アルバルト。此処までよく来たな、俺は嬉しいぜぇ。やっとお前をぶちのめせると思うと興奮しちまう」
ホレスの合図を待っているとゼニスが話しかけて来た。挑発的な態度に此方も強気に返す事にした。
「ゼニス…ユージーンの仇は取らせてもらうぞ…!」
「はっ、やってみろ!」
剣を前に構えてグリップを強く握る。気合いは入れた。後は勝つだけだ。ゼニスも腕を組むのをやめて半身になり、拳を握る。
「この剣舞祭もこれで最後になりました。最後の取りを飾るのはこの男達ッ!炎を巧みに操るアルバルト選手と破壊の申し子、ゼニス選手だぁぁぁああ!!!」
会場が騒つく。流石の決勝戦となると手に汗が滲んでいた。此処まで来るまでは気にならなかった視線が余計に気を散らす要因となっている。
(こんな中、レティシアはあのトキと戦っていたのか…やっぱりアイツは凄い奴だ)
俺も気張っていかないとなと気合いを入れ直す。実際は短い時間なのだが、俺にとっては長い時間と錯覚する程、緊張していた。
この緊張感を途切れない様に前を見据える。それは対戦相手であるゼニスも同じらしい。
そしてホレスから試合開始の合図が鳴らされた。その瞬間、両者が舞台の中央へと互いの獲物を構えてぶつかり合う。
「ゼニス…俺は、勝つ!」
「テメェに勝って…俺が最強だと先生に認めさせる。だからよォ…精々、足掻いてみろヤァ!!」
俺の大剣とゼニスのガントレットが火花を散らす。お互いの力がぶつかり合い、均衡する。
何度かの打ち合いの末に再び鍔迫り合い、アルバルトとゼニスの額同士がくっ付く程に顔を近づけて相手にガンを飛ばす。
「くっ…!俺の方が力は上だぁああ!!」
「チッ!」
鬼人の力を引き出す。魔力が身体を巡り、瞳が青から赤へ染まる。身体の奥底から途轍もない力が湧き上がった。
大剣をそのまま力任せに縦に振り抜く。ガントレットにヒビが入るのを見てゼニスは後ろへと自ら飛んで威力を殺した。
「…この状態の力比べじゃ、テメェに分があるらしい。なら、これはどうだ?"熊手"」
ゼニスの右腕が膨れ上がる。腕毛が長く伸び始めるとそれは右腕をすっぽりと覆い、まるで巨大な獣の腕だ。
「それは…ユージーンとの戦闘で見せた技か!」
「そうさ!俺のスキルの応用で身体の一部だけを獣化する事で理性を失うというデメリットを回避する事が出来る。更に…」
瞬きをする一瞬の間、アルバルトの前からゼニスの姿が消えた。ぞくりと背筋が凍る感覚に陥った。
「ーーー"爪研ぎ"」
自分の直感を信じて、振り向きざまに自分の背中に大剣を差し込んで守りを固める。1秒もしない内に剣を持っている手に衝撃が走った。身体が後ろへ吹っ飛ばされる。
どうやら俺の勘は合っていたらしい。剣を見れば攻撃を受けたであろう所はひしゃげていた。
「おいおい……これ鉄の塊だぞ…勘弁してくれよ」
「このスキルは身体能力も向上する。さぁ、遊ぼうぜぇ、オイッ!!」
俺も鬼人の力を引き出して迎撃に打って出る。あの巨大な腕から繰り出される攻撃は厄介だが、それを踏まえた上で当たらないように立ち回る。
「"爪研ぎ"」
「右腕は確かに厄介だがその他は人と変わらねぇ!」
右腕の攻撃をバックステップで避け、そのままひしゃげたままの剣を横凪に一閃。当たる寸前で熊手に防がれてしまったが、それさえ何とかできれば俺の攻撃もまだ届く筈だ。
「炎よ、ファイアボール!」
空いている手から火魔法を放つ。ゼニスの腕の隙間を通り抜けて胸の辺りに着弾した。
「…オラァ!!」
強引に俺の剣を熊手で押し弾くゼニスに向かって後ろへ下がりながらも火魔法を連続でぶつける。
炎と爆煙によってゼニスの姿は隠れてしまってどうなったのか判断が出来ない。
「あーあ、アチィ、アチィ。見ろよ、毛が焼けちまったじゃねぇか」
熊手で煙を振り払って出て来たゼニスを見ると確かに本人の言う通り、毛がチリチリになっている箇所があるが、ダメージは通っていない。
「タフな奴め…」
「テメェもいい動きするじゃねえか。流石は勇者様ってなっ!」
「勇者なんざ、こっちから、願い下げだわ!"灼熱剣"」
ゼニスは肥大化した巨大な腕を横凪に振り払う。アルバルトは大剣に炎を灯して応戦する。接戦を繰り広げる彼らの顔は笑っていた。
「……っ、そこだ…!!」
ゼニスのスイングを掻い潜り、下から上へと炎の剣を振り払おうとしたその時、ゼニスの顔が歪んだ。
「…掛かりやがったなァ!"咆哮弾"」
「うぐ……オオォオ…!!?」
アルバルトの剣がゼニスへ迫った時、彼は大きく口を開けると魔力の塊を瞬時に練り上げ、それをアルバルトに放った。
威力はそこまででは無いが、まともに喰らった衝撃でアルバルトは手を止めてしまった。そこへゼニスの熊手がアルバルトへ叩き込まれる。
「オェェ…ハァハァ、いってぇな、この熊さんめ…」
熊手によって折られた肋骨と腕の骨を鬼人の力で再生させてくっ付ける。これでまだ戦える。
「良い技だろ?これは俺の先生ぇが教えてくれたんだぜ。そしてコイツは俺の魔力が続く限り何度でも撃てるっ!"咆哮弾"ッ!!!」
再びゼニスの口から放たれる魔力の塊を横に飛んで躱すが、次々と絶え間なくアルバルトを襲っていく。
(クソ、厄介な技過ぎる。これじゃあ、まともに近づけねぇぞ!)
僅かな間を縫う様にして駆け抜ける。被弾したが最後、またあの熊手に襲われるのは明白だ。隙を見て火魔法をぶつけるがなかなかダメージには結びつかない様子だった。
「うぉおおおお!!」
「"パリィ"!」
「何っ!?」
何とか剣の射程限界までは近づけた。視界いっぱいに拳が迫ってくるがハルゲル直伝の技を使い、剣の側面で受け流す。
そして空いた脇腹目掛け、素早く剣を滑り込ませて力一杯に薙ぎ払った。吹き飛んだゼニスだが後ろへ一回転し、足を舞台上へ突き刺して場外へ後一歩と言うところまでで耐える。
「そこだ…!セイヤァァァア!!」
場外まで後一歩後ろへ飛ばせば勝てる。追撃をしようと走るが近付かせまいと魔力の弾幕が飛んで来る。
左右に身体を振って避け、短い直線を走る。
走り出したら止まらない。俺は剣を構えたまま飛んで上段から振り落とす。
「"灼熱剣 火柱"」
「アチィな……だがつかまえた!」
ゼニスが取った行動は自身の熊手を盾にするというやり方だった。炎が奴の毛を燃やすがガードが硬くこじ開けられなかった。
そこを狙われた。
「その厄介な剣……頂くぜ?」
剣を弾かれたと思ったら獣の手が剣を鷲掴みにした。そしてゼニスは手が傷つく事なんて恐れずにそのまま握り潰す。アルバルトは咄嗟の事で対応が遅れてしまった。
「なっーーー!?」
握り潰した後、そのまま間抜け面を晒しているアルバルトへ裏拳を食い込ませる。鼻血を出して回転しながら飛んで行く彼を見てゼニスは大きく口を開けて笑った。
「わーっはっはっは!!頼みの綱が破壊されてどんな気持ちだぁ?此処から先はただの蹂躙、さっさとくたばれやァアァア!!!」
ゼニスがトドメを刺そうとアルバルトへ突進する。顔が腫れ上がり、血だらけのアルバルトは誰が見てもボロボロだ。これ以上はヤバいとホレスも止めようとした。
「試合しゅうーー」
ガンッ!!と叩きつける音が会場に響く。
アルバルトの足はしっかりと大地を踏み締めて立っている。彼は両手の拳をぶつけて炎を身に纏った。
まだやれる。その姿勢にホレスは口をつぐむしかない。
「すぅ…はぁー。ようやく身体が温まって来たところだ」
剣もなければ魔力もだいぶ消費してしまった。だがまだこの手と足は残っている。拳を握れる力があれば戦える。
俺の右手が熱くなり、3本の線が薄らと刻まれる。不思議とその紋章から力が溢れてくる。
身体の奥底で眠る力を引き出す様な感覚で右手を前に突き出した。
「いい加減、くたばれやァー!"爪研ぎ"!」
「ファイヤー、ハンドォォオ!!」
獣の手と火の拳が衝突する。
「……テメェ」
「成る程な、分かって来たぞ。相手の力を自分の力にするってこういう事か…」
先程まで少なかった魔力が僅かだが回復した感覚がする。多分、拳をぶつけたゼニスから吸収したのだろう。傷付いた手を治して拳を握る。
「ーーーまだ戦える」
◆
ゼニスとアルバルトの両名がぶつかり合っている頃、ヒガリヤ国から外へ出たトキはある人物と相対していた。
「カカカッ!よぉ、お前さん。何百年振りだろうね、久しぶりじゃないか!」
「そうだね。トキも相変わらず元気そうで何よりだよ」
トキが笑う一方、対する男は口が少しだけ笑っているが目はトキを射抜く様に睨み付けている。
トキは瓢箪に入っている酒を飲んで口元を拭った後、こう続けた。
「…プハァ!此処の酒はやっぱり辛くて美味い!どうだい、お前さんも飲むかい?」
「遠慮しておくよ。この後、娘に会う用事があるからね。酔ってしまっては申し訳ない。だからトキ、そこを通してくれると嬉しいな」
「……そうかい、そうかい、悪かったねぇ。久しぶりに懐かしい気配がして来てみれば喧嘩屋に会えるとは思わなんだ!…つい、嬉しくなちゃってねぇ」
「僕も嬉しいよ。また今度会ったら娘も交えてお酒でも飲もうか。娘も成人して飲めると思うし…」
「カカカッ!そりゃぁ、楽しみだねぇ…」
片手を上げて此方に近づく男を酒を飲んで観察する。すれ違い様、とある質問を投げかけた。
「…お前さん"匂う"ぞ?」
「やっぱり気付いちゃうか……」
ガキンッと金属がぶつかり合う音が辺りに響く。両者の手には斧と短剣、各々の獲物が握られていた。
「喧嘩屋タイラも堕ちたもんだよ、本当に…今は弟子1号と弟子2号が戦ってんだ。今のお前さんが行ったら全てがめちゃくちゃになる。それは許されねぇってもんよ!」
「…よく気付けたね。これでも魔力は抑えていたんだけどなぁ。予定変更だ…久しぶりに君と少し遊んで上げよう!」
衝突。再び斧と短剣がぶつかり合い、大地が割れ、空気が歪む。
悪意ある魔の手が着々と迫っていた。剣舞祭に夢中な彼らはまだ気付かない。
アルバルト
相手の力を自分の物とする。成る程、こういう事か…。
ゼニス
近距離や遠距離でも戦える熊獣人。
頑丈な身体にスピード、スタミナ、パワーが獣人族でも高い水準に達している怪物。
トキ
レティシアと別れて1人、国の外へ。気配を元に探ってみれば、様子がおかしい喧嘩屋タイラと鉢合わせる。
現在、タイラと交戦中。
◆
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