第94話 準決勝戦 ゼニスvsユージーン
互いに勝つと信じて疑わない2人の男がぶつかり合うまで残り数分。会場にいる観客は早く始まってくれと誰もが心の中で思っていた。
それは選手にも当てはまっている。ドキドキとワクワクが止まらないユージーンは自分の心を落ち着かせる為に槍を強く握り締める。
相対するゼニスも腕を組んで目を瞑り、意識を研ぎ澄ましている。とても最初の試合で見せた相手を舐める様な感じではない。
その違いの変化にユージーンも何かを感じ取っていた。
「さあ、お待ちかね!両者準備は宜しいですね。ここから男性の部は本戦2回戦目となります。そして男性の部が終わった後、女性の部の決勝戦を行います。ではーーー試合開始っ!」
ホレスの合図で試合が始まった。ユージーンは槍を低く構えて自身が最も愛用している技を放つ。
「"雷槍三連撃"」
「……ああ、痺れたぜ。なぁ、おい」
一撃目、ニ撃目を装備していた分厚い小手で弾いたゼニスであったが、雷槍の三撃目は格段にスピードやパワーが上がっている。ガードが間に合わず、ゼニスの胸に槍がヒットする。
三撃目をまともに喰らい、思わず片膝を着いたゼニスだが不敵に笑って立ち上がる。
「…意外とタフなんだね。僕の槍を喰らっても倒れないなんて」
「熊獣人は身体が頑丈なのが特徴的だからな。これくらいならまだ耐えられるぜ」
「なかなか気が抜けないね…次、行くよ!」
「来いや、金髪っ!」
◆
再び槍を構えて突っ込むユージーンとそれを迎え撃つゼニス。激しい攻防が繰り広げられる。
控え室のモニターにてその戦いを見ているアルバルトは真剣な表情で各々の動きを見ている。
「あのユージーンの槍捌き、あの時よりも数段速くなってる…あの短期間で腕を上げてるな」
俺の目には煌びやかな金髪を靡かせて槍を猛然に振るうユージーンに驚愕する。特に彼の得意とする雷槍三連撃の三撃目はまだ俺の目に捉えきれていない。
ユージーンの手元が光ったと思ったら対戦相手のゼニスに直撃しているという光景だ。これにはゼニスも苦戦している様だ。
観客席にいるレティシアとトーマスはユージーンの戦いを見て自分達に活かせる所がないかなど話しながら応援している。
ちなみにミリアは興奮気味でハイテンションで声を張り上げて他の観客に負けじと熱狂していた。
「…ユージーンの兄ちゃん、スッゲェ。なんなんだあの動き…」
「ええ、特に戦い方が上手いですね。相手にダメージを与えたら深追いはせず、後ろに一歩下がって間合いを一定に保っていますね」
「一撃離脱って奴だっけ?兄ちゃんと手合わせの時に習った気がする」
「それです。しかも、ユージーンさんのスキルは雷を操る事が出来るらしいですから少ないダメージでも喰らい続ければ、体内に電気が蓄積されて動きが鈍って来る筈です」
レティシアの言う通り、最初こそは強引に距離を詰めて反撃していたゼニスだったが今は立ち止まって防戦一方であった。
「いけぇー!ユージー!!」
ユージーンが押していると分かれば此処ぞとばかりに口を大きく開けて応援するミリアは誰が見ても暴走していた。
耳がいいレティシアにはその金切り声にも近いミリアの声は近くで聞くとキツい。頭に生えている耳を手で押さえて耐えている彼女にトーマスは同情した。
◆
「ウラァッ!…チマチマとめんどくせぇな!前の試合でやったド派手な事でもして来いよ!」
「力比べで負ける相手にはこれが1番効いてくるのさ」
ゼニスはユージーンの槍を見切って弾き、一旦距離を置く。
「これだけ打ち込んでいるのにまだ動けるなんてどこまでタフなんだ。本当にアルバルトみたいだな、君は…」
ユージーンの攻撃を喰らいながらも平然としているゼニスに苦笑する。自信が無くなりそうだと言うユージーンだったが槍はしっかりと前に構えて相手の動きを注意深く観察する。
「へっ、よく言うぜ。こちとらだいぶ痺れて身体が思う様に動かせねえんだよ。正直お前の事、みくびってたぜ」
ゼニスは手をぶらぶらと振って笑みを浮かべる。
「僕も正直驚いているよ」
「あ?」
ユージーンの発言にゼニスは顔を顰める。彼は動じずに続けた。
「君が一回戦目みたいに無防備のまま来るんじゃないかと期待していたんだけどね」
無防備のままで来ていたら早々にこの戦いは終わっていただろうとユージーンは思う。
雷槍三連撃は初撃、ニ撃、三撃と威力と速さが増していく。強者相手だと初撃は躱される事が多く、ニ撃と三撃目で当たるかどうかである。
だが、内包している雷の魔力は当たった瞬間に相手の身体に蓄積していき、初撃で相手の足を止め、ニ撃で身体を固定し、三撃目で技の威力と内包した魔力をぶつけて相手を一気に感電させ、倒す。そういう技である。
ゼニスとの戦いでは三撃目しか基本当たらない。雷が蓄積するとはいえ、時間を置けば身体に走る電流は地面へ逃げて無くなる。だから、動きは鈍くする事はできるが勝負がなかなか決まらない。
(雷槍一閃を当てられればきっと倒せる…だけど全く隙が無い。もっと動きを鈍らせて確実に当てるしかないな)
ユージーンの言葉にゼニスは小馬鹿にした様に笑った。
「弱ぇ奴をぶっ倒すのにいちいち本気になるかよ。お前は強ぇ…あの試合を見て実感した。根性ある奴は全力で捻り潰す。さっきのガキみたいにな」
「ありがとう。君程の強者に認められるなんて光栄だよ。次は倒す」
「ハッ、良いねぇ!そうこなくちゃ面白くない。ーーーなら、此処からは本当に本気だ」
ゼニスが右手を前に突き出して構える。今までとは違った動きにユージーンは警戒する。
「…知ってるか?何故、獣人族が人族よりも身体的に優れているのか。俺達、獣人族の身体に流れている血は半分が魔物の血で出来ているからよ」
ゼニスの突き出した右手に変化が起こり始める。
「魔物と人の混血。そうして生まれたのが獣人族だ。魔物の血は強く受け継がれ、例え他種族と混じり合ったとしても耳や尻尾が生えちまう」
指先から肩まで大量の毛で覆われる。その手は正に魔物の腕と言って良いだろう。
「それだけ強く受け継がれれば、俺達は人族よりも優れた存在になる。そしてそこに俺のスキル"獣化"が加われば…」
「な、何だ。その腕は…!」
「さぁ、行くぜぇ。"熊手"、お前はこれで潰す」
ゼニスの右手は巨大な魔物の腕へと変貌を遂げる。自分の足元まで伸び切った腕はゼニスの体型と比べてアンバランスで気味が悪かった。
ユージーンは近づかせては不味いと足元に槍を突き立てて電流を流し込む。
「"電雷"!」
「喰らうかよ、そんな技!」
ゼニスはユージーンの攻撃を避ける為に大きくジャンプをする。身体能力も上がっているのか、ユージーンの頭よりも高く飛んだ。
「身体能力まで上がっているのか!」
「ご明察!"爪研ぎ"」
空から熊手をユージーンに向けて振り落とす。ユージーンはその場から飛び退いて紙一重で躱した。
舞台には5本の爪痕が深く刻み込まれた。余りの威力にユージーンは顔を引き攣らせる。
(あんなの当たったら怪我で済むだろうか…)
「…ふぅ、今度はこっちの番だ!"雷槍三連撃"」
ユージーンの三撃がゼニスを襲う。ゼニスは巨大な腕を盾にしてユージーンの技を全て受け切った。
「熊手でガードしてもダメージが残るか…流石だぜ」
「そんな涼しい顔で言われても困るよ。…自信が無くなりそうだ」
「ハッ、言ってろ。"爪研ぎ"」
ユージーンに迫る熊手は彼が逃げられないと錯覚する程に存在が大きくなっていた。ユージーンは覚悟を決めて最後の一撃に全てを込める。
「負けられない!全ての雷をここに!"雷槍一閃"!」
勝つのは魔物の腕か、雷を纏った一閃か。強者同士の激突に会場は揺れた。
ユージーン
電気を体内に蓄積出来る。正義感が強くてよくトラブルに自分から突っ込んでしまうが、持ち前の高い能力で幾つも解決してきた。
アルバルトとの戦いで自分を見つめ直し、本当に助けが必要かどうかを見極める事にしている。
ゼニス
この大会が始まって初めて見せたスキル。腕を魔物の腕へと変化をさせてユージーンを追い詰めていく。
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