第92話 本戦 アイネvsレティシア
本大会の第一ブロックの男性の部が終わり、続いては女性の部に移っていく。心なしか会場には野郎どもの野太い声があちこちからよく聞こえ、会場を盛り上げていた。
「えー、続きましてはー、鞭を自在に操るアイネ選手と小さな身体に凄いパワーを秘めたレティシア選手の入場です!」
「はっ、その可愛い顔に傷付けられたくなきゃ降参する事だね」
「ご心配ありがとうございます。ですが、その鞭で私を捉えられますかね?」
「……へぇ、言ってくれんじゃないの」
鞭を手に取り、挑発的な態度で対戦相手であるレティシアを見下すが、レティシアも負けじと強気な態度で応戦した。
「両者、準備は良いですね?それではーーー始めっ!!」
ホレスの開始合図と共にレティシアはアイネに駆け出す。風を切って真っ直ぐと突き進む姿はまさに弾丸だ。
「ハハハッ!そう簡単に近づけさせないよ!"大蛇斬連撃"ッ!」
アイネは手に持っていた鞭で自身の周りを激しく叩き付ける。叩きつける度にどんどんとスピードが増していき、アイネの周りは鞭で守られた壁に早変わりした。
レティシアは走りを一時中断し、突破口がないか様子を伺う。
「さっきまでの勢いは如何したのさ!そっちが来ないならこっちから行かせてもらうよ!」
「速いっ…!!」
一瞬の出来事だった。アイネの叫び声と共に防御に徹していた鞭がレティシアを目掛けて襲い掛かる。
「"疾風"!」
足に魔力を通して素早く身を捻った。奇跡的に上手く躱す事が出来たが、鞭が触れた舞台の床を見てみると少し抉れている。それを見て彼女は汗が額から溢れる。
「上手く避けたねぇ。でも、この鉄壁をアンタに崩せるかなぁ!」
「速さなら私も負けません!」
「言うじゃない、かっ!!」
アイネの鞭が再びレティシアへ迫るが、しゃがんで鞭をやり過ごす。レティシアはアイネの周りを回って鞭の間に入り込めないかと探っていく。
「……どうしましょう。あれだけ振り回していたら大きな隙があると思ったんですが…見当たらないですね」
その間にも鞭が飛んで来るが彼女は頬や腕に擦り傷を付けながらも何とか躱していた。
「もしや一瞬だけ、防御に回している鞭が揺らいでいる?」
少しの違和感に気付いた彼女は鞭の動きを観察する。攻撃の仕掛ける時と仕掛け終わった時を注視した。そしてアイネの弱点を発見する。
「成る程、よく分かりました……これで決めます!」
頭を低く下げて前傾姿勢で突っ込んでいく彼女は手に持つナイフで鞭の軌道をずらして突き進む。
「ちょこざいな!だけどこの鉄壁は崩せないよ!」
「いいえ、そこです!!!」
レティシアに放たれた鞭がアイネの元へ帰ってくる時、一瞬だけ鞭の動きが鈍くなる。その隙を注意深く観察していたレティシアは見逃さない。
「ウィンドブレスッ!!!」
「なっ!?」
アイネの鞭が手元に帰って来た瞬間、レティシアはタイミングを合わせて風魔法を放つ。
彼女の手から発生した突風はアイネの攻撃と防御を中断させて無防備な状態を作り出した。
アイネは自分の守りが突破された事に驚愕していた。まさか破られるなんてと心の中で愚痴る。アイネの目の前に影が落ちる。目をギラギラとさせるレティシアと目が合った。
「くっ……!」
アイネに肩からぶつかってタックルを仕掛けたレティシアは吹き飛ばされたアイネの首に短剣を添えた。
「ははは…降参だよ。私の負けだ」
降参宣言と共にホレスが試合終了と宣言する。健闘をした両者に会場からはパチパチと拍手が降り注いだ。
レティシアは倒れているアイネに手を出す。その手を掴んでアイネは身体を起こした。
「良い試合をありがとうございました」
「悪いねぇ、アンタも結構強いじゃん。こっちこそ楽しかったよ」
「私に勝ったんだ。次も気張っていきな」
「ええ…勿論です!」
戦い抜いた女達は握手を交わす。レティシアの表情にも笑みが溢れた。レティシアの強気な発言にアイネもくすりと笑う。
女性の部、決勝戦にレティシアが駒を進めた。
アイネ
扱いが難しいとされている鞭を使いこなす女冒険者。怖そうな見た目とは裏腹に、面倒見が良く、姉御とパーティーメンバーから慕われている。
実は可愛い物好きで、依頼で得た報酬は大半をぬいぐるみに注ぎ込んでいる。
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