第91話 本戦 アルバルトvsディフェンド
第4試合が始まる少し前。
冷め止まぬ会場の熱気が肌にバンバン伝わってくる。緊張からか手足は少し震えているし、汗も滲んできた。もう脇なんて洪水みたいにビチョビチョになってて気持ち悪い。
そして今、相対するのは俺の対戦相手であるディフェンドという全身を防具で覆っているおっさんだ。自身よりも大きな両盾を携えている。
「ふぉっほほほ!なかなか体格の良い兄ちゃんじゃのう。こんなしょぼくれた老いぼれ相手だが手加減なく頼むぞ」
見た感じだと声を上げて笑っているが兜の隙間から覗く目は笑っていない。
(これは油断出来そうにないな…いや、するつもりは毛頭ないが…)
俺はしっかり相手の目を合わせて軽い口調で返事を返す。
「爺さんに言われなくてもそうするよ。だって手抜きなんてしたらその盾でぶん殴って来そうで怖い」
「そうか、そうか。老いた見た目に騙されなくて一安心じゃわい。…さて、そろそろかのう」
爺さん…いや、ディフェンド選手の言う通り、司会者であるホレスが姿を見せる。彼は舞台に上がると挨拶もそこそこに俺達の紹介をする。
「ご紹介します!鉄壁の守りは最強の矛でもあるとその言葉を言わしめ、広めた人物!要塞のディフェンドだぁあああ!!」
叫び声に呼応するかの様に両盾をガンッとぶつけて合わせてパフォーマンスをするディフェンド。
「続きましては、凶悪な魔族を倒して僅か15歳でBランクになった本大会のダークホース!アルバルトォォオ!!」
取り敢えず、ファイティングポーズを取る。向こうのお相手も既に盾を前に突き出して準備は満タンの様だ。
「両者の気合いも充分ですね!では、始めて頂きましょう!」
ホレスのその一言で騒ついていた会場が静まり返る。誰しもが息を飲んで見守る中、ホレスは堂々と高らかに宣言した。
「試合、開始ぃいいいい!!!」
試合開始の合図で両者動き出すかと思ったが大盾を巧みに操るディフェンドと火魔法と鬼人族の力を駆使して戦うアルバルトの両名は未だに動きを見せなかった。
ディフェンドはその大盾を前に構えて身体全体をすっぽりと覆い、アルバルトの動きを観察している。
まずは相手の出方を伺っている様だ。そんな冷静な彼とは反対にアルバルトの内心は焦っていた。
心臓の音がうるさく聞こえる。予選では感じなかったこの圧迫感。目を合わせるだけで此方が気圧されそうになるこの感覚は久しぶりだ。あの小さな身体が今じゃ俺よりも大きく見える。
俺が出来る事と言えば、鬼人族の力で身体能力の向上と回復。それに物を言わせた大剣捌き。それと火魔法だ。
最近は実力の近いレティシアとの手合わせで剣も魔法も実力が上がった気がする。火魔法は魔力のイメージと練り方で様々な使い道が増えた。
やっぱり様子を見るなら遠距離でも攻撃出来る魔法からにしよう。
「何時までもこうしちゃいられないよな。なら、まずは…ファイアボールッ!」
俺の掛け声と共に手から打ち出される火球は真っ直ぐディフェンドへと向かっていく。
「成る程のう、小手調べという訳か。だが、それだけではこのジジイは倒せんぞ?」
迫る火球を自らぶつかる様に盾を構えて走るディフェンドは自分の持つスキルを発動する。
「我が守りは一切の攻撃も通さん!"鉄要塞"!」
ディフェンドの盾が膜を覆う様に薄らと光る。その直後にアルバルトが放った火魔法が襲来した。
「ぬぅん!甘いわぁ!」
俺の火魔法がディフェンドの構えた盾で容易に打ち破られる。
速度は少しだけ落としたがそれがなんのその。突進する猪の如く、此方へ真っ直ぐ突き進む気迫は凄まじい。
あの爺さん…やっぱり只者じゃない。盾や鎧で身を固めている為、あそこまでガチガチに装備していると重さは相当の筈なのだがそれを感じさせない足運びをしている。
だったら、力調べと行こうじゃないか。
俺も壊れてしまった大剣の代わりとして渡された新たな大剣を両手で構えながら突っ込んでいく。
アルバルトの空気を切り裂きながら振り下ろした剣とディフェンドの強固な守りを宿した盾がぶつかり合う。
「うぉおおおお!!!」
「はぁああああ!!!」
くっ、不味い。盾が大き過ぎてこれ以上攻めきれない。この爺さん何処にこんな力があるんだ。
「爺さん、結構強いなっ…!」
「お前さんもなかなかやるのぅ、若いの。だが、わしの盾はもう片方あるんじゃよ…!」
アルバルトの攻撃を片手に持つ大盾で受け止めていたディフェンドはもう片方の盾で殴りかかった。
「"鉄要塞"」
光り輝く盾がアルバルトの顔目掛けて迫る。ディフェンドは剣と抑えていた方の盾を持つ力を少しだけ抜いた。
突然、力の均衡が解けた状態にアルバルトの身体は一歩前へ踏み出す。慌てて姿勢を整えようとしたが目の前には光り輝く盾があった。
気付いた時にはもう遅い。次の瞬間、車に衝突された様な衝撃が身体全体に駆け巡る。
「……あがっ!?」
ディフェンドの渾身の一撃。腰の入った一撃にくるくると回転しながら身体ごとぶっ飛ばされたアルバルトは何とか膝立ちまで身体を起こす事に成功したが脳を揺さぶられて直ぐには立ち上がれないのか未だに下を見て動かない。
「ふぉっほほほ、立ち上がれまい。さぁ、これでトドメじゃ!"鉄要塞"ッ!」
ディフェンドの盾がアルバルトにトドメを刺そうと再び接近する。そして、ディフェンドの盾がアルバルトに当たる寸前で彼は行動に移す。
「…まだだ、まだ俺は諦めない!ファイヤーハンドォオ!」
溜めていた魔力をふんだんに使った炎を纏った拳を思いっきり、舞台に叩きつける。激しい爆風と共に俺の身体は上へと舞い上がった。
空中でバランスを取り、頭から落ちていく。
落ちていく中で精度と威力は落ちるが質より量という具合にファイアボールを幾つか手元に生み出しておく。
そしてそれを同時に爺さんの周りにばら撒いた。上から攻撃が来る事を悟ると爺さんは盾を構える。
「何度やっても効かんよ!」
そう言って盾を俺に構えるが狙いはそこじゃない。確かに正面からの耐性は凄まじい。だが、左右や後ろからの攻撃は如何だろうか。
「ぬぅっ!?まさか……!」
ディフェンドの後ろや足元へ着弾したファイアボールが彼の構えていた体勢を揺さぶり、崩す。
流石に踏ん張りの効かない盾なんて怖いものなんて一切ない。ならば、そのまま突撃するだけだ。
「うぉおおおおお!!!」
盾に落下の時の威力と体重の乗った大剣の一撃はディフェンドの守りを突破する。そして上手く着地し、足を強く蹴り出してディフェンドへと追撃する。
「ぬぉっ!?わしの守りを…!」
「終わりだ……ファイヤーハンドッ!!!」
ガラ空きになったディフェンドの胸に掌底を当てて吹き飛ばす。壁に向かって一直線に飛んで行き、身体が壁にめり込んだ。
この瞬間、ディフェンドの場外負けが確定した事でホレスが試合終了の合図をする。
その合図を聞き、緊張が解けてドッと身体の力が抜けた。全身に痛みが走る身体を引きずって舞台会場を後にする。
ええと、怪我をしたら医療室へ行けば良いんだったよな。自分でも治す事は出来るが今後の為にも魔力は出来るだけ温存しておきたい。
俺はこの会場に備え付けられている医療室へと足を運んだ。
「…っ、痛ってぇ。回復が間に合わなかったら危ない所だったかもな」
盾だからか、守りがとにかく堅くて突破するのに苦労した。盾で殴られた時の傷が痛み、苦悶の表情ながらもとにかく前へと足を進めた。
アルバルトvsディフェンド。
勝者はアルバルトで幕を閉じた。
アルバルト
盾だけでこれだけやられるとは…なかなか強い相手だったぜ…。
ディフェンド
両手に盾を装備する戦闘スタイルのお爺さん。昔はタンクとして名を馳せた猛者である。
最近は孫に盾を勧めているが、剣の方がいいと言われて落ち込んでいる事も。
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