表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
89/148

第89話 本戦 ナセルvsユージーン

 本戦第一試合であるユージーンとナセル・キッソスの戦いがもうすぐ始まる。


「ねぇ、アルバルトさん。ユージは勝てるかしら」


「…ユージーンの相手は同じ槍使いのナセル・キッソス選手だ。ユージーンの戦闘スタイルは速く鋭く。相手の方は見る限りじゃ、距離を取って離れた所から大技を連発して来る。素直に近づけさせるとは思えない」


 ナセル・キッソス。予選第6試合で本戦へと上がって来た選手だ。両手に槍を持ち、槍の矛先から風を発射して近づいて来る選手と離れて戦っている選手を纏めて屠る。槍が2つ使用している為、片方を掃射している時にもう片方に風を充電。


 打ち終わったら今度は充電した方を放って来る。絶え間なく連発で大技を放って来るという対峙すればかなり面倒臭い相手になる。


 そんな相手をずっと観客席から見ていたミリアはユージーンが勝てるか不安なのだろう。


「大丈夫だって、ミリアの姉ちゃん!イケメンの兄ちゃんはすっごく強いんだろ?なら応援しようぜ!」


「…ふん!そんなの分かってたわ。全くこの生意気なお子様めぇ!」


「や、やめろー!?」


 トーマスが不安そうなミリアを大きな声で励ますが生意気だとまたわちゃわちゃしてた。


 あの顔は照れ隠しに違いない。


「ミリアさんも落ち着いて下さい。もう始まりそうですよ」


 レティシアの一声でミリアはトーマスを離すと姿勢を正す。見逃すものかと食い入る様に見ている。横で解放されたトーマスがぜいぜいと息を乱していた。


 こいつなりに励まそうとしたんだろう。


 丸くなっていた背中をポンと軽く叩いてやった。さてレティシアの言う通り、もうそろそろ始まりそうだ。会場には槍を持った男が2人。それから司会であるホレスが魔導具を持ちながら元気よく紹介していた。


「皆さん!長らくお待たせ致しました!迫り来る強者達をねじ伏せ、予選を見事突破した本戦の第一試合を飾るのはこの2人!ご紹介しましょう!」


 大袈裟に腕を振ってホレスは選手に手のひらを向ける。


「まずはこの人。固定砲台と異名を持つこの男!顔良し、金有り、腕が立つ!俺よりかっこいい奴はいない。ナセル・キッソス選手だー!!」


「ふっ、素敵な声援ありがとう、レディー達」


 声掛けに反応したのはユージーンの目の前に立つ男。艶やかで光沢のある青い前髪を手で軽く払いながらご満悦そうだ。


 確かにイケメンだけど俺の苦手のタイプだな。いちいち動きがキザっぽいのでイラッとくる。


「…なんか鼻に付くわね」


 ミリアがボソッと呟いた。全くの同意である。


「対するはこの男!予選では見事な槍捌きで勝ち抜いて来ましたユージーン選手です!本大会の二大イケメン同士の戦いと合って早くも女性陣からは黄色い声援が此処まで届いております。それでは、そろそろ始めて頂きましょう!」


 長かったホレスの紹介も終わり、いよいよ始まる。


「……試合、開始ぃいいい!!」


 高らかな叫びと共に片手を高く振り上げたホレスを皮切りにナセルとユージーンは動き出す。


 ◆


 試合が始まる前の話。ナセル・キッソスとユージーンは始まりの合図があるまで互いの些細な動作などを観察していた。


 周りの声援で身体が震える。だけど不思議な感覚だった。足や手に力を込めればいつも以上に力が溢れてくる。


 ミリアがいる方へチラッと視線を送れば、彼女は真剣な表情で応援してくれていた。


「ふっ、彼女に良いところ…見せないとな」


「おやおや、この私を相手に余裕の笑みとは恐れ入るね」


 ユージーンがふと笑みを見せたことからそれが気に食わないナセルは突っかかる。


「…そういうつもりは無かったんだけど…気に障ったならごめん。もうそろそろ始まりそうだし、胸を借りるつもりで行くよ」


「本当に気に食わないな。…決めた、調子に乗っている君にはぴったりの敗北をプレゼントしてあげよう!」


 両選手の紹介がされ、何時でも動ける様に構えを取るユージーンとナセル。そしてホレスから試合開始の宣言がされた。両者、槍を構えて向かい合う。


 先手を取ったのはナセルだった。


「さあ、受けてみよ。固定砲台と言われる我が槍を…!"風の(スパイラル・)螺旋(ディザスター)"!」


 開始宣言と同時にナセルから放たれる風の渦がユージーンを襲う。自分の背丈よりも巨大な風の渦を目の前にユージーンは落ち着いていた。


 恐らく躱した所で次々とこの風は襲って来るだろう。ならば、真正面から受け止めてみせようか。


「強引にでも突き進む!雷よ、大地を砕け!"電雷(でんらい)"!」 


 ユージーンの身体に貯蓄された魔力は雷となり、彼の身体を伝って周囲に雷を落とす。予選で使用した不特定多数を葬った技だが今回は防御として自分の前方にだけ雷を収束しながら落とす。

 激しい風と雷が衝突する。僅かの差だが、雷によって風は打ち消された。


(重い…風のぶつかった衝撃が手に伝わってくる)


 打ち消せはするものの、槍から手に伝わる振動に驚いた。


「…このまま何度も受けてたら槍が折れてしまう。なら、こっちも仕掛けるしかない」


「成る程、よく耐えた。褒めてやろう。だがそれもいつまで持つかなっ!」


 しかし、ナセルは想定内だと2発目、3発目と次々に風の渦を繰り出し、ユージーンを狙う。荒れ狂う風が猛威を振るう。


「"雷槍三連撃(らいそうさんれんげき)"ッ!」


「"風の(スパイラル・)螺旋(ディザスター)"ッ!」


 雷と風の衝突で会場内には激しい突風が吹き荒れる。


 ナセルの攻撃に対して槍を突き出して暴風を掻き消し、着々と近づいて来るユージーンはようやく自分の射程圏内にナセルを入れる事が出来た。

 反撃開始だと言わんばかりの力強いその瞳にナセルは僅かな恐怖と焦りを覚え、後ろに下がる。


「どうして止まらないっ!ユージーン!」


「無駄だ!君の攻撃は僕には届かない…!」


「と、止まれぇえ!!!」


 ナセル・キッソスにとってここまで手こずる相手は初めての経験だった。自分は誰よりも優れている。生まれは貴族で家は金持ち。両親から受け継がれた美貌とこの派手なスキルは周りからも認められる自慢の武器だった。


 何かをやらせればそつなくこなす彼は、世界は自分を中心に回っていると信じているし、それだけ自信があった。


(初めは宣言通りに即興で終わらせる予定だった。なのにこの男は何故倒れない…!)


 ナセルは試合開始前にスキルを発動させて魔力を槍に溜めていた。特に外見からでは普通に槍を持っていると変わらない様に魔力を調節していたし、開始宣言と同時に放てば勝てると信じていた。だが、現実は違う。


 何故かこちらが押され始めているとナセルは思った。ならば、決勝まで取っておくつもりだった技を放つ。


「奥手だ…我が槍は嵐の始まり、敵を屠れ!"嵐の(スパイラル・)螺旋(テンペスト)"」


 地道に近づいたユージーンは自分の射程圏内に近づいた事もあって勢いよくナセルへと駆け出す。ナセルはこれ以上近づかれてはなるものかと自分に残っている大半の魔力を両槍に込めて自身の持つ最高の技を放った。


 今までより2倍程の巨大で激しさを増す風の螺旋を前にユージーンは槍を持ち直すと構えた。


 迫り来る脅威を前にユージーンは落ち着いていた。

 後ろから聞こえる彼を応援する声が槍を持つ手に力を与えていた。


(僕は僕を応援してくれる人の為にも負けられない!)


「全ての雷をここに!"雷槍一閃(らいそういっせん)"ッ!!!」


 全てを飲み込まんとする螺旋に一本の雷を纏う槍が飛んでいく。バチバチと青白く輝く雷は圧倒的な嵐を前に突き進む。巨大な嵐を前に槍は弾かれると一見すると無謀な行動に固唾を呑む観客の誰しもが思った。


 だが予想を裏切る事になる。投げられた槍は止まらずに風を切り裂きながら前進する。ナセルの横を通過して彼の後ろにある壁に勢いよく突き刺さった。


「何、だと…!私の奥の手が…くっ!」


 そして散開する風の中から姿を現したのは槍も持たないユージーンだ。ナセルは咄嗟に右手に持つ槍を突き出すがユージーンは身体を捻って避ける。


「ハァッ!…ここだァ!!!」


 そして彼はナセルが突き出した槍を奪い取るとナセルに向かって追撃で槍を薙ぎ払う。


 ユージーンの攻撃をまともに受け、後ろへ崩れ落ちるナセルを抱き止めた。


「……ハァハァ」


「………」


 息が乱れ、見つめ合う男達。互いの額から汗がかなりの量、流れているが気にはならなかった。気にする余裕が無いほど、ユージーンもナセルも疲労していた。


「僕の勝ちだ」


「…ああ、私の負けだ」


 ナセルがもう片方に握っていた槍を手放して降参を示したのを離れて見ていたホレスが試合終了!と宣言する。


「立てるかい?」


「すまない。そうか…私は生まれて初めて負けたのか。…だが、何だろうか。それも悪く無い」


 差し出された手を取って立ち上がるナセルの顔は負けたのに晴れやかな気持ちで一杯だった。


 自分は負けたのだと。周囲の期待という圧を背負い、それに応えるの繰り返しがいつの間にか当たり前になっていた。


(全てをこなせる自分は特別。勝てるものなどいないと驕り、プライドだけが高くなっていた。それを正面から打ち壊した彼に敬意を表する)


 自分の中で何かが砕けた様な気がした。それがプライドなのかどうかはナセルしか分からない。


(目の前の私より…いや、私と同じぐらいに顔の良い彼を見ていたら今の自分は滑稽だ)


「踏み台とか言って悪かった。君は充分強い」


「そのくらい良いさ。ナセル選手もとても強かったよ。同じ槍使いとして今度、また会えたら話そう」


「…君は優しいんだな。私もこれからは他人に優しくあろうと努めるよ。次も頑張ってくれ!応援してる」


「ああ、ありがとう!その気持ちだけで頑張れるよ」


 ナセル選手には悪いけど何だかまるで僕とアルバルトが戦い、そして自分勝手の考えを改めたあの日を思い出してクスリと笑ってしまう。


 心の中であの日の自分を見ている様だと感じながらもしっかりと握手を交わした。


 互いに認め合い、握手を交わすイケメンズを見て会場は大いに沸き立った。主に女性陣からの声援が凄い。


 途中ハラハラとする展開もあったが無事にユージーンが勝ち上がった事でミリア達も声を大にして良くやったと彼を褒め称えていた。


 そんな彼らを見つけて照れ臭そうにユージーンは舞台から降りるのであった。

ユージーン

流石に最後の攻撃は焦った。自分の最大限を出し切って勝利を掴む。


ナセル・キッソス

ユージーンとの戦いで自分を見つめ直す機会を得て人間的に成長を遂げる。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ