表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
87/148

第87話 一時の休息

 トキとゼニスが舞台の裏側でその様なやり取りをしていたは微塵も思っていないアルバルト達は予選が終わり、本戦の組み分けが発表される時間まで1時間ほど猶予がある。


 この大会に合わせて会場の外に食べ物の出店が立ち所に並んでいる。

 この休憩時間は食事を取ろうと観客や選手らが押しかけている為、全部を回るのは一苦労だし、時間もない。


 俺ら男組は東側を回り、レティシア達女組は西側を別れて回る。各々が気に入った美味しそうな物を持ち寄って食べる事になった。

 そして出店で買ってきた食べ物を分けて談笑しながら食べていた。


「美味い!噛めば噛む程、肉汁が口の中一杯に広がって美味いな、これ」


「それはファイアボアとか色んな魔物の肉を混ぜて作った特製ソーセージだと言っていたよ」


 ユージーンが買ってきたこのソーセージ。

 肉がぎっしり詰まっている為、結構太い。

 その分、噛めば肉汁が出てきてとても美味かった。


 レティシアやミリアの女性陣も大きくて若干食べ辛いそうにしているが満足気な笑みを浮かべている。

 隣に座るレティシアの尻尾と耳がぴょこぴょこ動いて可愛い。なんだ…ただの可愛いかよ。


「俺はこれだ!」


 バーン!と俺が取り出したのは生地を丸く焼いて中に蛸が入っている食べ物だ。

 見たまんま、タコ焼きだったので懐かしくて買ってみた。


「これは何ですか?まん丸ですね」


 レティシアは初めて見たのか俺の手元にある食べ物を覗き込む。


「勇者が広めたっていう食べ物らしい。確かロシアンたこ焼きと言ってな?中にはデビルオクトパスが細かくなって入ってるんだ」


「げっ、デビルオクトパスってあのうにょうにょした奴でしょ。それ本当に食べられるの…?」


 デビルオクトパス。俺が王都エウロアエへ向かう船旅の時に遭遇したクラーケンと姿が似ている海の魔物だ。魔物のランクはBと一緒だが出会ってしまった時の厄介さはピカイチだ。


 蛸の足にはピッタリとくっ付く強力な吸盤が厄介で船に張り付かれるとなかなか外れない。無理に剥がそうとすれば船に穴が空いてしまう事もある。イカの方はくっ付くというよりは吸盤の中に鉤爪があり、それを獲物に引っ掛けるので蛸よりは剥がしやすい。


 墨を吐いてくる攻撃もあるが、そうなると今度はイカの方が厄介だ。タコはさらさらとして掃除しやすいが、イカの方はドロドロとしている為、その場に残りやすく掃除が面倒いと船員がぼやいていた。


 ちなみに奴らは魔物は魔物でも犬猿の仲らしく、出会ってしまったら相手を倒すまで戦いを止めないという。大怪獣バトルがたまに見られるとキャプテンは面白そうに語っていた。俺もその光景を見てみたい。


「多分、美味いと思うぞ。前に同じ様なのを食べた事あるし」


「そうなの?じゃあ、折角だから頂くわね」


「私も頂きます」


「はいはい、どうぞ」


 タコ焼きを1人一つずつ配り終えた。上手く事が運んだという事実に思わず少しだけ口が緩む。


 何も疑いもせずに全員取ったな。何故これがロシアンたこ焼きと言われているか。この後、誰が悲鳴を上げるかを想像するとワクワクしてすっごく楽しみだ。


「みんな行き渡ったな。頂く前に俺から一言だけ。どれか一つは激辛ソースが中に入ってるから気をつけてな」


「聞いてないぜ、兄ちゃん!」


「激辛…」


「えー!いやでも…うにょうにょを食べるよりかは…」


「僕、辛いのは苦手なんだけどなぁ」


「まあまあ、これもお祭の醍醐味って事で…じゃあ、合図するから皆んなで一斉に行こうか。…では、頂きます」


 不満を垂れながらも俺の掛け声に合わせてロシアンたこ焼きを皆んなは口の中に放り込んだ。


 奥歯で丸い生地を噛んで潰すと、熱々の中身が口に広がる。

 そう、激辛スパイスをふんだんに使ったタレが俺の口に広がった。


「ぁァアアアッ!かっらぁあああ!!」


 急いで魔法袋の中にある水筒を出して舌の上に載っている辛味を水で流し込む。


「だ、大丈夫ですか!?」


 アルバルトは肩を上下させて咳き込んでいたのを見てレティシアは心配で声を掛ける。咽せるアルバルトの背中をレティシアが優しく擦っていた。


「…っ!ゴホッゴホッ、……大丈夫、何とかな」


「あはは!自分で言っといて引っ掛かるとか面白いわね〜。うん、あのうにょうにょも結構いけるじゃない!」


「美味しかったよ、アルバルト。次はトーマス君の番だね」


「俺はこれ!ヒガリヤといえば、このヒガリヤ饅頭さ!手掴みで食べられるから食べてみて!」


 ユージーンに促されてトーマスが袋から取り出したのはホカホカの肉まんによく似たものだった。辛さを忘れようと渡されたこの饅頭を誰よりも早く一口食べてみる。


 この懐かしい感覚。前世でよく食べていた肉まんを思い出す。いや、あれよりも肉汁が溢れ、味も深いコクがある。


 これはマ…どっかの聖女様が気に入りそうな美味さだな。前にもお饅頭は別腹とか言ってめっちゃ食ってたし。


 そんな事を思いながらも口はもぐもぐと饅頭を食べている。手元にあった饅頭が無くなるとお腹もそこそこ埋まって来た。この分なら今後の戦いも充分動けるだろう。


 ぺろりと食べ終えた俺達は最後に女性陣が選んできた食べ物で締めとする。


「私達は〜」


「これです!」


 そう言って彼女達が取り出したのはパイ生地の中にごろっとセンカの実が入ったデザートだった。好きな果実のお菓子とあって思わず笑みが溢れる。


「おぉ!美味そうだな!」


「アルバルトさんがセンカの実を好きだってレティシアさんが教えてくれたから2人で選んだの。感謝しなさいよね」


「…甘い物ですが、良かったら…」


「ありがとう2人とも。じゃあ、遠慮なく頂きます!」


 噛めば、サクサクっとしたパイの中に熱でさらに柔らかく、甘みが出たセンカの実が口の中に混じり合って美味い。やる気と元気が身体の奥から湧き上がって来る。

 あぁ、最高のデザートだった。


 俺がそう感じた様にユージーン達も顔を綻ばせて幸せそうに頬張っている。


 俺の好みを覚えてくれたのも嬉しいが、今までで食べたセンカの実のどれよりも美味しかった。また賞味したい物である。


 試合が始まるまで後もう少し、気合いを入れて手をゴキリと鳴らす。身体の調子は最高潮だった。


 ◆


「うーん!このお饅頭美味しいですねぇー!幾らでもいけちゃいますぅ〜!」


「聖女様、もうそこまでにしては如何ですか?」


「力を使ってお腹が減ってるんですぅ。それにこの後は本戦でしょう?なら今のうちに食べておかなくては…予選よりも戦いが激化するとヒガリヤ王から聞いてますし」


「いや、流石に食い過ぎだろ。もう10個目だぞ」


「お饅頭は別腹です!」


「…この饅頭女が」


 聖女マリアは力を使うとお腹が減る。それは知っているのだが、問題は彼女が大食いだという事。純粋に金が掛かる。護衛のヴィーラも止めているのだが聞く耳を持たない。

 もう好きな様に食ってくれと呆れたマーラット・アルバス・ヒガリヤは今後の事を相談する事にした。


「聖女さんよぉ、約束忘れてないだろうな?」


「分かってますよ。精霊様に力を貸して貰えないかと話をするのでしょう?」


「そうだ。分かってるなら良い」


 最後の一個を口に押し込んだマリアはヴィーラから紅茶を受け取る。紅茶を優雅に飲む彼女は口の中の甘い感覚をリセットさせるとマーラットにある疑問をぶつけた。


「しかし、不思議ですね。どうしてこの国の精霊様は我々に姿も見せず、加護を与えては下さらないんでしょうか?グリーンフィールドの精霊様は現存だというのに…」


 そう、エルフ族のミドルウッド・グリーンフィールド王が治めるグリーン・フィールド国では土の精霊だけが現状、姿を見せる事がある精霊だ。


 原因は不明だが他の火、水、風、雷の精霊はもう500年ほど姿を人類に見せていない。それがマリアには引っ掛かっていた。


 厄災などの不幸から人類を守護してくれる彼らを崇めるのは皆やっている事だ。


 昼間の12時を示した時、巨大な時計塔の鐘が鳴り響く。それを皮切りに精霊様への信仰として多くの人間が手を組み合わせ、祈っていたのをマリアはこの数日、何回も目撃していた。


 それでも尚、姿を一時も見せないとなると何か裏があるのでは無いかと勘繰るには充分な理由になった。ラグナロクの時でさえ、一度も顕現しなかった徹底ぶりだ。


 うぬぬぬと唸っていたマリアを見てマーラットは自身の考えを伝える。


「精霊は気まぐれだって言うしな。代々うちの家系は王族だが勇者と魔王の戦い後、姿を消してから見たもんは1人もいねえって話だ」


「戦いの影響で姿を保てない程、力を失ってしまった。…いえ、それはあり得ませんね。私から見てもこの国は活気に溢れ、国民の多くは精霊様に毎日祈りを捧げています。精霊は人々の祈りによって力を蓄える事が出来ると言いますし…」


「まあ案外、俺の祖先が何かやらかしちまったって可能性もあるし、単純に気に入らないから姿を見せないかも知れねえ。女神の使徒である聖女相手なら話ぐらいは出来んじゃねえかと俺は睨んでいるが…」


 聖女は女神の使徒である。500年前に存在していたが魔王との戦い後は消息不明になっており、次の聖女として選ばれたのがマリアだった。


 500年ぶりの聖女とあって手に紋章が浮かんだ時はそれはそれは大変な騒ぎであったとマーラット達は記憶している。


「可能性はありそうですがその時にならないと分かりませんね。この大会の後に私が話し掛けるって事で宜しいのでしたね?」


「ああ、元々この大会も火の精霊イフリートに捧げる見せ物だからな。どっかでこっそりと此方を見ているかもしれねえし、接触出来る確率は少しでも上げておいた方がいい」


「他の国に存在する精霊の協力を取り付けられないかとエウロアエ王やジャスティ王にも言われているので機嫌を取る意味でもこの大会は私としては有り難い話です」


 カップに残った紅茶を全部飲み干した彼女はお腹に手を置いてこう言った。


「それにアルバルトさんにこうして早く出会えたのは嬉しい事です。これもセレーネ様のお導きですね!……成功の為にも、もっと力を蓄えなくてはっ!」


 この日の為に特別に作らせたメニュー表を凝視したマリアは指で後ろに控えているヴィーラに指示を出す。


「ヴィーラ、私このソーセージなる物が食べたいです!」


「結局それか!まあ、選手の手当てもしてくれているし文句は言わないけどな!…全く、目の前の問題よりも食欲が優先ってか」


「本当に申し訳ありません。ヒガリヤ王、ちゃんと食べた分は聖女様の財布からお支払いさせますので…!」


「…そうか、お前も苦労してんだなぁ。ここは俺の国だ。支払いはこの俺に任せろ」 


「恩に来ます…」


 椅子に深く腰掛けたマーラットは視界の隅にある巨大な時計塔を見て呟く。


「はぁ…早く試合始まんねえかな」


 それからあれもこれも食べたいと言うマリアに甲斐甲斐しく働くヴィーラを見て若干涙を浮かべたマーラットだったが、後日、マーラット宛に届いた請求書の山を見て今度は男泣きした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ