第84話 第4予選 アルバルト
舞台に一歩足を踏み入れれば、燦々とした陽光と周りから聞こえる声援が身体を包み込む。
ぞろぞろと舞台に上がる選手達。俺もやや中央寄りに配置に着く。これから先は全方向に注意を向けて行動しなければいけない。
「よしっ!」
パチンと頬を叩いて気合いを入れる。
今まさに俺の初試合が始まろうとしていた。
◆
「さぁ!いよいよ第4予選が始まります!いやぁ、先程の第3予選のユージーン選手は凄かったですね〜、あの槍捌きは会場の女性の心を鷲掴みにしてしまいました!私も一度で良いからそこまでモテたい物です。まあ、妻がいるのでそんな事言ってちゃ怒られますがね」
「うるせえー!惚気てんじゃねえよー!」
「早くしろー!」
司会のホレスのマイクパフォーマンスに周りから野次が飛ぶ。多分、モテない男の叫びなんだろうなぁ。俺も少しイラッとはしたが。
マイクパフォーマンスをホレスが繰り広げている。
そんな会場の上から見下ろすのはこの国の王。マーラット・アルバス・ヒガリヤだ。その隣には第3予選の選手の治療を終えた聖女、マリア・デーリアが座っている。背後にはヴィーラも佇んでいる。
「貴方も出なくて良かったのですか?ヴィーラ?」
「ご冗談を…私は聖女様の護衛としてここにおりますゆえ。…しかし強いて言うならば、かの者とはまた剣を交えてみたいものです」
目を閉じて思案するヴィーラ。その脳裏には暴走したアルバルトの姿が浮かび上がる。
(猛獣が可愛く見えるほどの凶悪な姿をしていた彼の攻撃は剛腕から繰り出される一撃一撃が鋭く、そして重たい。剣から伝わる手の震え、対峙した時の絶望感は一生忘れる事は無いだろう)
こうして生きているのが奇跡であるとヴィーラは思う。あのラグナロクの戦いは若くして聖騎士長に就任し、慢心していた私はまだまだ強くならなければと拳を固く握った。
(だからこそもう一度剣を合わせてみたい!あれだけの力を秘めた存在と死闘を繰り広げれ ば私は更に強くなれる!)
「…はぁ」
目を細め、口元を三日月状に歪めながらうっとりする乙女の顔をしたヴィーラ。
そんなヴィーラの豹変ぷりを彼女の前に座っているマリアからは見えておらず、マリアは指を軽く曲げ、その輪っかを唇に当てると小さく笑った。
「ふふっ、貴方らしい」
誰もが魅了される柔らかな笑顔は周りに花が咲いた様に明るく美しく見えた。
普段の冷静沈着なヴィーラを知っている者からは想像すら出来ない顔を近くにいたマーラットは目撃した。ぶるりと何処となく漂って来た寒気に身体を震わせる。
マーラットは自分の頭の中にある考えを整理をする。そして理解した。
(…やっぱ聖都の連中は癖が凄えな。神を崇める狂人者に腹の中が読めない聖女とその護衛。護衛の女も絶対、面倒くさい何かを拗らせていやがるな。はぁ…面倒くせぇ)
マーラットは考えるのをやめた。
「そういう聖女さんは誰に注目してんだ?やっぱりあの黒髪か?」
「ええ、あの人は鬼人族であり、私の勇者様です。…あの時は暴走していたとはいえ、凄腕のヴィーラを圧倒していたあの力は凄まじいものでした。彼は私達が魔王を倒すには必要な存在です。だから私が彼を導かなくてはなりません」
「俺はそいつの実力とやらを見た事はねえが聖女が言うんだ。俺も早く戦いてえな」
戦いたくてウズウズする足を手で数回叩いて収める。そうしないと今にも飛び出して行きそうになるからだ。
「そうなんですよ。彼はまさに私の運命の人ですから。もぐもぐ…それにしてもこのポップコーンとやらいけますね」
「運命ねぇ、やっぱお前ら変な奴らだわ。てかもういい加減食うの止めろよ。もうそれ5個目だろ」
マリアの隣には空になったポップコーンの箱が積み上がっている。それをチラッと確認したマリアは次の様に言い訳をするのであった。
「回復魔法を使うとお腹が減りますから。これは仕方ない事なんです。ええ、仕方ない。あ、もう一個持って来て下さい」
「おい、デブ女様。太るぞ」
「…我らが聖女様を侮辱するのはやめて頂こうか!」
「急に真面目になんなよな。…聖女じゃなかったら今頃摘み出してやるのに…ホント疲れるわ」
現実へ復帰したヴィーラがマーラットに苦言をする。そしてマリアの手は止まらない。
マーラットは頭に手を置き、溜息を漏らす。彼は疲れて果てていた。
◆
そんなやり取りをしている彼らがアルバルトに注目を集める中、ホレスの紹介がようやく終わり、第4予選の開始が宣言された。
「オホン、少々熱くなってしまいましたが…さあさあ、皆様お待ちかね!力と力がぶつかり合う本大会の予選、第4予選の開始を此処に宣言致します!…では、始めっ!!」
魔導具からホレスの声が会場へ拡散される。その合図と同時にアルバルトがいる第4予選の選手らが各々動き出す。
そこかしこで乱闘が起きて脱落者が増えていく。アルバルトもひっきりなしに来る奴らの対応に追われていた。
先程、控え室にいた暗殺者っぽい格好の相手に終始狙われている。なかなかトリッキーな動きで此方を翻弄してくる。右に一歩進んだと思ったら左に動いていたりと目で追うと面倒臭い。
ならば相手の攻撃が当たる寸前に捉れば良い。レティシアとの手合わせの経験が此処で生きてくる。
奴がまた仕掛けてくるがまだ俺は動かない。
タッタッタという足音と相手の息遣いで大体の位置は把握した。
(あと少し、まだ、今だ!)
「…そこだァ!!」
後ろの首筋目掛けて飛んで来た攻撃をお辞儀をする様に身体を倒して躱す。背後に蹴りを繰り出して襲い掛かって来た敵に喰らわせる。
俺の足には確かな感触があり、振り返ればソイツは場外へ叩き込まれていた。
「よしっ、次だ!」
ひっきりなしに来る相手を投げ飛ばしたりしていると少し疲れが出てくる。
(何でこんなに俺、狙われてるんだ…?)
「くそっ、こいつら!何で俺の所ばっかり…ってあっぶねぇな…!?」
飛んで来た魔法を半身になりながらギリギリで避ける。魔法が飛んで来た方へ視線を送れば、煌びやかな服を纏い、剣を構えた前髪パッツン男と同じく、煌びやかなマントを羽織った魔法使いっぽい男がいた。
どちらも金持ちっぽい格好である。
「ハハハッ!教えてやるよ。それはなぁ!魔族を倒したお前を倒せば、王様に顔を覚えて貰えるかも知れねえからなぁ!」
「そう言う事だ!諦めて僕ちん達の踏み台になれ!ロックバレッド!」
「やっぱ、そういう事かよ!!」
迷わずその場をステップで離れると元いた場所には岩が通り過ぎる。
確かにそんな噂が広まっているから俺を狙ってくるのは分かる。
けど、正確に言えば俺は倒していない。タイラさんがケルベラルを倒した後に俺が奴のトドメを刺しただけだ。
「倒した、のは、俺じゃねぇよ!」
いつの間にか双方に挟まれてしまった。2人がかりで襲ってくる為、避けるのに集中する。
「ええいっ、ちょこまかと!このゴージャス兄弟から逃げられると思うなよ!」
「ゴージャスって…いや、ゴージャスだわな」
うん、格好がね?とても眩しいのよ。
剣を操る男の攻撃を捌いて行くと僅かな隙が生まれた。その隙を突く様に剣の側面をぶん殴って強引に距離を取らせる。
「これでも喰らっとけ!ファイヤーボール!…からのフルスイング!!」
あの岩の礫が魔法使いの男の手から広範囲に拡散され、近くにいた選手の身体に当たって場外へ飛んだり、頭に当たって気絶する光景が見られた。
俺は火魔法を放って魔法使いの男を牽制すると同時に背後から斬りかかってきたもう1人の男の剣を身体を捻って躱す。躱した勢いのまま、横へ回り込んで思いっきり脇腹に回転切りを叩き込んだ。
くの字に飛んで壁にめり込むのを確認。鬼の力で強化された聴力で此方に迫る岩を後ろに数歩飛んで避ける。
「避けるなっ!この僕ちんの美しい髪が焦げてしまったんだぞ!死んで償えぇぇぇ!!」
「いや、落ち着けよ。前髪が若干焦げただけだろ。死んで償えとか大袈裟な」
「うるさい、うるさい、うるさぁい!踏み台の癖に僕ちんを馬鹿にするなぁあああ!!」
「うぉっ!見境無しかよ」
地団駄を踏み、両手をぶんぶんと振り回して先程よりもあちこちに岩が飛んで行く。その分、自分に岩が飛んでくるのも少なくなった。チャンスだと思い、大剣の側面を縦に構え、身を隠しながら突撃する。
「うぉおおおおお!!!」
「く、来るなぁ!?ロッククラッシュ!」
強引に近づいて来るアルバルトに恐れたのか土魔法の下級である岩の礫を止めて、中級魔法のロッククラッシュをアルバルトへ放つ。
「エンチャント"灼熱剣"ッ!砕けろぉぉお!!」
目の前に迫る巨大な岩の塊を炎を宿した大剣で縦に一閃。岩はその軌道に沿って真っ二つに割れた。そして貸し出された剣も熱と衝撃に耐えきれなくなって砕け散る。
刀身が砕け、使えなくなった剣を御坊ちゃまっぽい奴の顔面スレスレにぶん投げて注意を其方に向ける様に誘導する。案の定、意識が其方に向いてくれた。
「ひっ!?僕ちんに手を出すとママが黙ってないぞ!」
「ならこんな所に来んじゃねぇよ!御坊ちゃまっ!」
「ぶべらっ!?」
奴の懐に飛び込み、やや右肩を前のめりにして溜めを作る。そして腕を全身のバネを使って下から跳ね上げるとその綺麗な顔面に拳を叩き込んだ。
ズザザッと身体を舞台に擦り付けながら白目で気絶するのを見届け、辺りを見回す。
あらかた片付けだと思うが誰も立っている選手がいない。だけど何故か終了の合図が一向に無い。
何故だ?と首を傾げていると腰と尻の中間あたりに何やら硬い物の感触があった。
「…はい、動かないで。少しでも動けば私のコレが火を吹くわ」
「…まさか背後を取られるなんてな」
「この乱戦だしぃ、私のスキルは気配を薄くする事が出来るの、仕方ないわ。それに…ずっとこの時を狙っていたのだから」
(…油断した。どうやってこの状況を打破する?尻に当たるコレはナイフか、それとも剣か?当たる感触はあるのだが接触面積が少なくてよく分からない。どう切り抜ける?考えろ、俺!)
「わたしぃ、貴方のその強い所に惚れちゃったの。一目惚れよぉん?」
俺の両肩に手を置いて俺の顔を後ろから覗き込んで来る。横目で確認すれば前髪を片側だけ伸ばしており、顔半分を隠す様な髪型をしている女性の顔があった。
「…何かおかしくね?」
「何がぁ?」
そう、おかしいのである。この大会は予選中、それも男性のブロックの第4予選だ。まだ女性の方はやっていない。それに俺の両肩に相手の両手が置かれているこの状況。
冷や汗がたらりと背中を伝う。
「なぁ、もしかしてさ…この今、腰辺りに当たっているのって…」
もし俺の予想通りだったらと身体がブルっと震える。この振動が相手に伝わったのか、小さなよがり声が耳元で囁かれた。
「いやん、動くと火を吹くって言ったのに…そうよ、当・て・て・ん・の・よ!」
恍惚の様子で更に密着されてムニッと硬くて若干、柔らかい物が押し付けられる。
深呼吸、すーはーすーはぁ…。心を落ち着かせろ。落ち着くんだ、落ち着け、落ち着けぇ。素数を数えよう。…駄目だ、思い出せねえ。
荒ぶる感情を必死に抑え、横を向いて相手の顔を確認する。目と目が合い、お互いにニコッと笑い合う。
(うふふ、あはは!…もう駄目だ)
「ち」
「ち?」
「近づくんじゃねええええ!?う、うわあああああ!!ファイアボールゥッ!ルルルルルルルルルッル!!!」
「いやぁあん!暴力的ぃ!でもそれもいい!グベッ、ゴホッ、スギィイイ!」
俺の両肩に置かれている相手の手を掴んで強引に引き離す。そのまま足を一歩踏み出して重心を置き、大きく腕を前へ振ってそのオカマを投げ飛ばす!
空中に投げ出されたオカマに向かって追撃で火魔法を3発、いや数えきれない程の量を奴の身体にぶち込む。接触した際に出る爆風で奴は場外へ押し出されていった。火傷が無い様に魔力を少し抑え気味で発動したから火傷は大丈夫の筈だ。いや、大丈夫だよな?
(……悪は滅びた)
「決まったー!ベベール選手場外!火魔法を巧みに使うアルバルト選手が第4予選を通過しました!激戦を制したアルバルト選手に大きな拍手をっ!」
ホレスの終了宣言。パチパチと手を叩く音があちこちから聞こえた。何だかやり切れない気持ちがあるが手を上げて観客に応える。
何かもう凄い疲れたんだが。肉体的もそうだけど精神的に凄い来たわ。
「この国来てからオカマに縁あり過ぎだろ…俺ェ」
オカマと言えば宿屋の主人に第2予選のカーマン、そして今担架に乗せられているべべールと言った選手。もう3人も会ってるよ…トホホ。
舞台の脇を通って担架で運ばれていく先程のべべールに一言、言っておく。
「すまん。俺、男は恋愛の対象外なんだ」
「そ、そんなぁ〜」
告白の返事を返されたべべールはガックシと項垂れて会場から連れ出された。
会場を肩を落とし、疲れた顔で出て行くアルバルト。その一連の流れを見ていたマーラット・アルバス・ヒガリヤは同じ男としてその恐怖に震えながらも戦い抜いた彼に敬意を表し、敬礼を何となくしてしまった。
「…まさに恐怖に打ち勝つ者だったな」
マーラットの呟きは自分以外誰にも聞こえない。
何故なら聖女と護衛のヴィーラはあの御坊ちゃまが無差別に岩をばら撒いた際、打ち所が悪かった選手の容態を見る為に途中から席を外していたのだ。幸いにもあの惨状を見ていない。
「急患で途中から抜けていった聖女達には見せられない光景だったな」
見なくて良かったと思う。オカマに捕まって取り乱す勇者なんて彼女達が見たら幻滅するかも知れない。綺麗な思い出が穢されそうだった所なんて知らなくていいのだとマーラットは自己完結した。
アルバルト
予選が思ったよりも大変だった。肉体的よりも精神的に疲れてしまった。
レティシアの尻尾に頭を巻かれ、癒され中。
ベベール
気配が薄くなるスキルでアルバルトの背後を取ったオカマ。情熱的な攻撃に心身共にボロボロな状態。
◆
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