第80話 Aランクの魔物 ティタノスネーク
少年がブラックファングに仮メンバーに入って3日たった。トーマスにとって地獄の日々が慣れて来た頃、彼らは冒険者ギルドの依頼をこなす為に森へ向かっていた。
「なあ、姉ちゃん。今日は何すんだ?」
「今日の依頼はCランクのファイアボアの討伐と薬草採取です。ヒガリヤではメロウ草という風邪によく効く薬草が生えているらしいのでそれの採取ですよ」
トーマスが今日の予定は?と聞くとレティシアは答えた。そこへアルバルトが2人に声を掛ける。
「それが終わったら特訓開始だからな。それまでトーマスは周囲の警戒を頼む」
街から少し離れている森まで歩き、獲物を探す。薬草はすぐに見つける事が出来たが肝心のファイアボアが見当たらない。
「おかしいな。いつもならこの辺まで来れば結構居るのに…」
あまりの静けさにトーマスの独り言がポロッと溢れた。確かにここまで魔物の影すら見ていないのはおかしいと3人は警戒を強めた。
「やはり妙な感じですね。私の耳でも獣の呼吸が聞こえません。…何より静か過ぎます」
「取り敢えず、隊列に並んで何処から来ても対応出来る様に構えておこう。俺が先頭、レティシアが後方を、トーマスは真ん中で両サイドを警戒してくれ」
アルバルトが指示した通りに彼女らは隊列を作る。辺りを警戒しながら一歩一歩、草木を掻き分けて獣道を進んでいく。
「………っ!?止まって下さい!……何か聞こえます」
突然、叫び出したレティシアの言葉に止まる。俺も鬼人の力を使い、五感を鋭くさせた。あの冷静な彼女が取り乱すとはよっぽど事だと警戒レベルをまた一段上げる。
全員茂みに隠れる様に屈んで様子を伺った。
「ど、どうしたんだよ。俺には何も聞こえないぞ!」
トーマスは不安になりアルバルト達に少し大きな声で問いかける。俺は怯えるトーマスの目の前に手で静止すると人差し指を立てて口元へと持っていき、静かにというジェスチャーする。
耳がいいレティシアが目を瞑って周囲の音を探る。俺も息を殺して音を出さない様に探ってみた。
ーー聞こえた。
右奥からドドドドドッ!と地面を乱暴に蹴って走る音がする。その後からズルズルと地を這う様な音も聞こえた。
「アルバルトさん…、これは不味いかもしれません。此処は撤退しましょう!」
「ああ、これはヤバい!一旦、退くぞ!!」
右から何か大きな音がだんだんと迫って来た。
(不味い、嫌な予感がする)
慌てて立ち上がり、来た道を引き返そうと走り出そうとしたその時だった。咄嗟にまたしゃがんで茂みに隠れる。
「隠れろ!」
目の前で何頭か逃げていたファイアボアの一頭が転倒する。それを逃さないとばかりに後ろから追って来た化け物はファイアボアの行く手を遮る様にとぐろを巻き始める。
逃げ道を塞がれたファイアボアは鋭い牙を突き立てるがソイツは痛がる素振りすらしない。
毒々しい牙を突き立てるとファイアボアは悲鳴を上げた後、動かなくなった。目の前の壮絶な捕食に目を見開いて固あまった。
(…あんな化け物が何故ここにいるんだ)
ざっと見た所、9メートルはありそうな長い身体とファイアボアさえ飲み込んでしまうあの大きな口は危険だ。何かを探している様子でチロチロと覗く真っ赤な舌が不気味で怖い。
「うぁあああ!!」
トーマスが今起こった残酷な光景を見てしまい、尻餅を着いた。その僅かに小さな振動と音で気付いたのか大きな身体を持ち上げて茂みに隠れている俺達を認識する。
「やばい、気付かれた!ティタノスネーク、魔大陸にいる魔物が何でこんな所にいるんだ!」
魔大陸にいると言われている個体数が少なく、獰猛な毒蛇だった筈だ。まさか海を渡って来たとでもいうのだろうか…。
手に汗が滲む。これは…ヤバイ。
「っ!ごめん、兄ちゃん達」
「仕方ありません。私だってこうして立っているだけで恐ろしいですから。アレはAランク相当の魔物、いやAランクも捕食すると言われるほどの怪物だった筈です」
戦闘態勢をとった俺達を威嚇するマダラ模様のティタノスネークの身体は太陽で照らされて鈍く光っていた。
「シャーーー!!」
予備動作も殆どなく頭から此方に突っ込んできたティタノスネークを大剣で受け止める。身体全身に力を込めて対抗するが剣から伝わる衝撃で身体が吹き飛ばされそうになる。
「くそっ、レティシア!トーマスを連れて森の外まで逃げろ!コイツは俺が引きつける。エンチャント"灼熱剣"」
剣に炎を纏わせて力任せに押し退ける。火を恐れたからか、身体に火傷を負ったからかティタノスネークは身体をくねらせながら此方の隙を伺っている。
「すぐに戻ります!トーマスさん、しっかり捕まっていて下さい!"疾風"!!」
「おわっ!?姉ちゃん!!」
レティシアに抱き抱えられて連れて行かれたトーマスを振り返らずに背中で送る。
「こっちだ、蛇野郎ッ!くらえ、ファイアボール!」
その大きな身体が再び炎に焼かれ、ティタノスネークの意識が此方を向いた。彼女達が逃げた方とは違う方へ走り出す。後ろからズルズルと音がする。誘導する事に成功した様だ。
「うおおおおおお!!」
「シャーッ!!!!」
ティタノスネークは逃げる獲物を仕留める為に口を大きく開けてまるで槍の様に一直線に身体を伸ばす。その延長上にいたアルバルトはタイミングを見計らい、食べられる既の所で前へと全力へ飛んで事なきを得た。
「あっぶねえ」
ゴロリと転がりながら剣を抜く。やっぱり対峙してみて怖いしデカい。
目の前のコイツに捕まってみろ。全身の骨を砕かれるか丸呑みにされて終わりだ。
大剣を両手で持って斜めに構える。見つめ合う事数秒、なかなか仕掛けて来ない俺に痺れを切らしたティタノスネーク大きな尻尾を横凪に払って来た。
俺は高く飛び上がって近くに生えている木に着地する。下を向けば口を開けて俺を飲み込もうとするティタノスネークがいた。
「喰われてたまるか、この野郎!!」
今度は地面に向かって飛んで躱すとティタノスネークの胴体に向かって大剣を振るった。
赤く輝く炎は魔を切り裂く刃だ。上から斜めに切り裂いた後、膝を僅かに曲げてそのままの勢いで回転、遠心力と鬼人の力を最大まで利用して奴にぶつける。
そしてアルバルトの連撃でティタノスネークの身体に×印に刻み込んだ。身体に傷をつけられて怒り狂う怪物は口から毒の塊を吐く。
直感でアレを喰らったら不味いと身体に信号を送り、咄嗟に転がってその場から何とか離れる。吐き出した塊がアルバルトのいた所に着弾するとそこに生えていた草がシュウシュウと煙を上げて溶かされていた。
「喰らったら一発アウトとかやば過ぎだろ」
毒蛇だとは知っていたが此処まで強力なんて予想外だ。
(どうする…相手はあの図体で速い。それに毒も厄介だ。もし剣で受け止めたら剣も溶かされてしまうのでは?と思う程、強力だ)
「どうりで魔石が見当たらないと思ったら身体の中に隠していたのか…」
ティタノスネークの胸元に刻んだ傷から見えるのは魔物の弱点である魔石だ。身体の中に隠しているのは確か高位の魔物に多いと本で読んだ事があった。
その点、すぐに見つけられたのは運が良かったな。こんな奴に出会った事態がもう運もクソもないのだがな。
シュルシュルと舌を出して威嚇をして来るティタノスネークはアルバルトを睨み付けると姿勢を低くして顔から突っ込んでくる。
大きな口を開けて此方を牙で突き刺そうとしているのか、それとも毒で仕留める為かは分からないがどちらにしても正面で受け止めるのは不味い。
「これでも食ってろ!ファイアボール!!」
「シャァァァアアア!!?」
口の中に直撃した火の球はティタノスネークの動きを止めるには十分だった。地面へ倒れてのたうち回るティタノスネークを視界に収めて奴の後ろに回り込む。
「今のうちにまずはその厄介な尻尾を切り落とす!」
燃える大剣を掲げて暴れている尻尾に思いっきり振り下ろすが想定よりも早く回復したティタノスネークの尻尾が俺の胴体に当たり、木を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされた。
「カハッ……!?…ウェォォ、ゴホッゴホッ…!」
昼に食べた飯が真っ赤な血と一緒に吐き出される。身体がバラバラになりそうな程のダメージを受けてしまった。
「レティシアが選んでくれた防具で助かった。一撃でこれとかAランクの強さ、ヤバすぎんだろ…」
鬼人の生命力によって身体を修復する。動けるレベルまで回復し、顔を上げれば俺を飲み込む直前のティタノスネークが視界いっぱいに入った。
もう終わりかと思ったが、視界の端から明るい茶色の髪を見て安心した。
「やらせませんよ……!」
空から強襲したレティシアの一撃はティタノスネークの頭に深く刺さり、開いていた口を強引に閉じさせて地面へと縫い付ける。
「悪い、助かった」
「危ない所でした。まさかアルバルトさんが此処までボロボロになるなんて…」
ぴょんとこっちに飛んで並ぶレティシアに礼を言う。
「奴の毒には気をつけろ。毒の塊を吐いて飛ばして来るし、当たったらおそらく骨も残らない」
「そこまで強力な毒…私があの魔物を引き付けますのでアルバルトさんはあの胸の魔石を破壊して下さい」
レティシアが怒り狂うティタノスネークに向かってスキルを使って風を足に纏わせ、左右に動き奴を引き付ける。俺も大剣を握り直して駆け出した。
ティタノスネークは口から毒の塊をレティシアに向かって吐き出すが彼女は華麗に躱す。
毒が当たった草や木はそこだけ貫通したかの様に溶けていた。それを見たレティシアは冷や汗を流す。
「これは当たる訳にはいきませんね!」
彼女は狼獣人の高い身体能力で高く飛ぶと足元を巨大な尻尾が通過した。
空中で身動きが取れないレティシアをティタノスネークは口から毒を吐いて仕留めにかかる。
「ウィンドブレスッ!!」
手から凄まじい風を起こして自身の身体を毒の射程距離から外す。
レティシアに気を取られているティタノスネークに向かってアルバルトが下から飛びかかって斬りかかる。
自身の近くにいる熱源を感じたティタノスネークはグルグルととぐろを巻いて高速で回転するとレティシアとアルバルトを風圧で吹き飛ばした。
「大丈夫ですか、アルバルトさん」
「ああ、何とか。こちらを警戒して隙がなかなか生まれない。アイツを一撃で倒せれば楽なんだがな」
「一撃で倒せるだけの威力…アルバルトさん、この前の魔法ならいけるかもしれません」
「あの合体魔法か。問題は俺達が近くで合わせないと上手く行かない事だな」
ティタノスネークは身体が大きい。当てる分には問題はないだろうが分担で激しく動き回るのだ。隙を見つけ、タイミングを合わせて魔法を放つなんて難しい事この上ない。
「シャーーーー!!!!」
ティタノスネークは再び頭から突っ込んで来た。今度は俺を狙っている様だ。
「くそっ!ファイアボール!」
火魔法が当たり、爆煙が出るが煙の中から口を閉じて突っ込んでくる巨大な蛇は間近で見れば見る程怖い。剣を振るって攻撃するが傷などお構いなしに体当たりして来る。木の幹を足で蹴ってジグザグに逃げるが執拗に追って来きてウザ過ぎる。
レティシアはどうにか引き付けようと奴の身体を斬りつけるが意にも介さない。完全に俺をロックオンしていた。
走って逃げていると視界が晴れる。いつの間にか森の外まで追い込まれたらしい。足場が地面しかない。
(街へ行かれる前にコイツはここで仕留めるしかない)
覚悟を決めて大剣を構える。
「兄ちゃん!この、"残波"ァアアッ!!!」
森の外へと退避したトーマスは何が来てもいい様に魔力を自身の最大まで溜めていた。それが一気に解き放たれる。己の全てを込めた一撃は今までで1番の威力を誇っていた。それは音を切り裂き、巨大な化け物へと迫る。
ティタノスネークは予想外の所からの攻撃を躱し切れずに直撃、体勢が大きく崩れた所でレティシアが目を斬りつけてアルバルトの隣に立った。
トーマスが作ってくれた最大の好機。アルバルトは手を前に構えて魔法を発動する。レティシアもその仕草から彼の行動を予測して魔法を唱えた。
「行くぞ、レティシア!」
「はい!」
「「暴風熱波!」」
2つの魔法が混じり合い、炎の渦となってティタノスネークの身体を焼き尽くそうと牙を剥く。
「いっけぇえええ!!」
アルバルトが叫ぶ。これで決まってくれという思いを乗せた一撃はティタノスネークへと迫る。
体勢を立て直したティタノスネークは対抗する様に口から毒の塊を吐き出すがアルバルト達の合体魔法はそれすらを飲み込んでいく。そして勢いは衰えずに大火力の炎はティタノスネークの身体を覆い、焼き尽くす。
断末魔を上げるとその巨体を地面へと倒して動きを止めた。魔物に対しスキルを使い、最大の隙を作ったトーマスが彼らに走って近寄る。
「兄ちゃんと姉ちゃん、大丈夫!」
「トーマスありがとうな、お陰で助かったわ」
「恐ろしい敵でしたが何とかなりましたね。…アルバルトさん、先程受けた怪我は大丈夫ですか?」
トーマスにお礼を言うアルバルトにレティシアが耳元でボソッと呟く。アルバルトも褒められて照れているトーマスを見ながら彼に聞こえない大きさで返事を返す。
「問題ない、鬼人の力で完治した。それにこの防具のお陰で致命傷にならずに済んだ」
ティタノスネークの尻尾攻撃で直撃してしまった胸と腹辺りのチェーンが所々壊れてしまった。大会までもう時間が無いのにとアルバルトは息を吐く。帰りにこの防具を作ってくれた鍛冶屋へ行き、大会までに直して貰う事が出来るか聞きにいこうと決心した。
「無事で本当に良かったです。私はあの魔物から何か換金できる物が無いか見て来ますのでアルバルトさんは大事を取って休んでいて下さい。トーマスさんは私と一緒に来て解体を手伝って貰います」
レティシアはそう言い残すと黒焦げになったティタノスネークの元へ向かう。
あの真っ黒焦げになった魔物から一体何が取れるのか気にはなるが言われた通り、身体を休める事に専念する。力を使いまくって魔力も減って疲れたしな。
はぁと息を吐いてそこら辺の石に座り込んだ時だった。
「ギャアアアァァァ!」
「まだ動けるなんて!」
完全に動かなくなったと思われたティタノスネークが動き出したのだ。奴は最後の力を振り絞り、近づく彼女だけでも道連れにしようと口を今までで1番大きく開いて飲み込もうとする。
「くっ、しっかり捕まっていてください!」
いち早く気付いたレティシアはトーマスを抱えて後ろへ大きく跳躍、アルバルトも剣を構えた。
「ギャアアア、アアア!?」
ズドンッ、鈍い音が響き渡る。
自分よりも小さな存在を飲み込もうと彼らを睨み付けていたティタノスネークだったが突如、ヒガリヤ国から一本の全長5メートルはありそうな巨大な剣が襲来し、大きく口を開いていた魔物の頭に突き刺さり、地面に縫い付けた。
そしてティタノスネークは数秒間、辺りを暴れたが次第に動きは小さくなり、完全に動きを止めた。
「い、一体何処からこんな物が飛んで来たんだ…」
巨大な剣はティタノスネークを倒した後、役目を終えたとばかりに霧状になって消えていく。幻かと思い、魔物の頭を確認すればそこにはぽっかりと菱形の穴が空いていた。
こうして巨大な魔物との戦いを終えたブラックファング一同だがこの時もっと考えるべきだったかも知れない。
何故、魔大陸の魔物が此処にいるのかと奴も何かから逃げている最中だという事に彼らは気付かない。あの降って来た剣は何だったのか?それが判明したのは武道大会が始まってからであった。
アルバルト
鬼人族で良かったと本当に感謝した。あのままだったら動けず、食われていた事だろう。
レティシア
トーマスと一緒に解体作業へ。実は結構教え方が上手い。
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