第8話 残酷な誕生日2
アルバルトとその母親のツナと別れたリサーナは森の入り口で自分と歳が近い子供達と一緒に集まっていた。男2、女3といった具合だ。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。センカの実がこの森にあるらしいんだ」
開口一番、リサーナの口から集まってくれたお礼とセンカの実があると聞いて子供達は盛り上がる。甘くて柔らかい美味しい果物は子供達の間では人気だった。
「そうだ!俺が親と狩りに出掛けた時に見つけたんだ。皆、感謝しろよな!」
大きな声で恩着せがましい物言いなのは先程のリサーナから紹介もあったキビトという少年だ。ガタイも子供達の中では大きく、まさにガキ大将って感じだった。
「さっすがキビト君!頼れる男は違うねぇ」
「そうだろう。俺、頼れる男だからな!」
キビトの事を持ち上げるのは彼と1番仲の良い狐目の少年だ。煽てられ、気を良くしたキビトは力瘤を作って女の子達に見せつける。
「キッモ。そのくらいにしといたら?ただでさえキモいのにそれ以上になってどうすんのよ」
「…あはは。リリーちゃんの気持ちもちょっと分かると思うの」
「な、なんだと!」
毒舌を吐くのは髪をツインテールにした少女、リリー。最後の語尾に思うのと口癖があるほんわか系のララと言う女の子だ。
キビトから場所を聞き出してリサーナと仲の良い女の子達だけで探索するつもりだったが良い所を見せたいと張り切ってしまったキビト達によって無理矢理同行する形になった。
村長の娘であるリサーナは人気が高い。困っている村人がいれば率先して手伝いに行く優しさがある。甘い物が大好きと堅苦しそうな感じからは想像できない女の子らしい可愛さも備えており、そのギャップに老若男女問わず、やられてしまう人は多発した。
キビトもその魅力にやられた口だ。喧嘩は子供達の中では2番目に強い。だが、1番はリサーナだ。意見の対立が多い彼らはよく喧嘩する。
キビトもいい線までは行くがリサーナの方が何枚も上手だ。キビトは考えなしだがリサーナは自分の身体の使い方を熟知している。ツナとの特訓の成果が彼らの差を明確に開けてしまっていた。
ボコボコにされる度にキビトは彼女を認め、好意を寄せる様になる。更に好きな女の子の可愛い一面を知ったとなればもうメロメロだ。
だからこそ、リサーナが1番仲良くしているアルバルトに対抗意識を燃やして彼によくちょっかいを掛けてくる。そのちょっかいによって女の子達からの好感度は低くなっているのだがキビトは気付いていない。
「まあまあ、そこら辺にしておけ。…でキビト、センカの実の場所を案内して貰っていいか?」
「おう!よし、お前ら着いてこい!ちょっとばかし歩くからよ」
「ちょっ、待ってよ。キビト君!」
キビトが先行して森の中へ入っていく。それに釣られる様にキツネ目の少年も続いていった。
「はぁ…行くわよ。ララ、リサーナ。アイツらどんどん先に進むからうかうかしてたら見失っちゃうわ」
「もうちょっと私達の歩幅に合わせてもいいと思うの」
リリーとララが2人の後を追って森の中へ入って行く。
「ふふっ、待っていろ。今からアルの喜ぶ姿を想像するだけで楽しいよ」
リサーナも彼らの後を追って森へ吸い込まれる様に入っていった。
歩き続ける事数分。目的の場所にはまだ着く様子もない。歩き疲れが出始めている子供もいたのでリサーナがキビトに質問する。
「まだかかりそうなのか?」
「あー、もうちょっと。…ほら、見えてきたぜ。あそこを超えたら走ってすぐだ!」
指差す方向には木の杭が1メートル置きに地面に刺さっており、紐が括り付けられている。見るからにここから入っては行けないという警告だ。
「ねぇ、ここって村の掟で子供達だけで入っちゃいけない場所よね」
「そうだったと思うの」
「大丈夫だって!前は超えても何にも無かったし、魔物が出て来てもこの俺が全部ぶっ飛ばしてやるよ!」
流石に村の掟で定められている言いつけを破る事は出来ないと女の子達からキビトへ注意する。これには仲の良いキツネ目の少年も弱腰になっている。
「キ、キビト君。流石の君でも掟を破るのはダメだって!何かあったら怖いし…」
「そうだ。柵を越えて行くなんて言ってなかったじゃないか。この先は危ない。皆、一旦引き返そう」
リサーナがその場にいる全員に問い掛ける。賛成とリリーとララは真っ先に答え、キツネ目の少年も頷いた。ただ1人、キビトだけは違った。
「ちっ、何だよ皆。こんな人数もいて腰抜けとはなぁ!だったらお前らは此処で待ってろ。俺がお前らの分まで取って来てやるからよ」
「ま、待て!単独行動は危険だ!止まれ、キビトッ!」
癇癪を起こしたキビトはリサーナの静止も聞かずに地面を強く蹴り、高くジャンプして自分の身の丈はある柵を越えたキビトはそのまま森の奥へ消えていく。
「勝手な事を!…はぁ、済まないがリリー達はこの事を出来るだけ早く大人に知らせてくれ」
怒りで血が頭に溜まっていくのを感じたリサーナは心を一瞬で沈めて気持ちを落ち着かせて彼女らに向かって指示を出す。
「でも、リサーナはどうするのよ」
「私は…キビトの奴を追い掛ける。今ならまだ追い付けるはずだ。見失う前にもう後を追う。…頼んだぞ!」
「分かった。私達に任せてなの!」
ララが元気よく答える。後を追うためにリサーナも柵を飛び越えてキビトが向かった方向へ消えていく。
◆
リサーナとキビトが森の奥へと入って行った数分後の出来事。アルバルトは丘の上にある桜の木の下で本を読み耽っていた。
「へー、魔物を倒すには身体の何処かにある魔石ってのを壊せばいいのか。心臓の他にも弱点があるなんて案外、俺でも倒せるのかな?」
更に本を読もうと顔を本に近づけた時だった。突然、強い風がアルバルトの方へと吹いて来る。
「うわっ!?…凄い風だったな。…ってあーあ、本が散乱しちゃったよ」
しぶしぶ立ち上がって散らばってしまった本を集めようとした時だった。ふと、森の入り口近くでこの村の子供数人が言い争っているのを発見した。
「おーい!そこで何してんだ!」
本を後回しに急いで斜面を降って子供達の元へ辿り着く。言い争いの声がはっきりと聞こえた。男の子1人が道を通せんぼしており、抜けられない女の子2人が詰め寄っている。
「リサーナちゃんの言ってた通り、大人に伝えた方がいいと思うの」
「でもよぉ、そんなことしたらアイツらが怒られるだけだぜ?ならもう少しだけ様子を見てからの方が良くね?」
「勝手に森の奥へ行ったのはキビトの奴なんだし、追いかけて行ったリサーナまで危険な目にあったらどうするの!」
一触即発。まさに今、感情が爆発しそうな彼らの中へ入って仲裁する。
「お前ら落ち着け!何があったか俺に説明してくれないか?キビトとリサーナがどうしたって?」
「アルバルト…!実は…」
リサーナと仲のいい女の子達から状況を詳しく聞いたアルバルトは通せんぼしていた男の子へ向き直って諭す様に優しく言葉を紡ぐ。
「状況は分かった。森の奥は本当に危険な場所なんだ。アイツらに何かあってからじゃ遅い。キビトやリサーナがもし大怪我でもしていて動けなかったら命に関わる事になるかも知れない」
ゆっくりと言い聞かせる様に喋る。キツネ目の少年が命に関わるかもと聞いて顔色がどんどん青褪めていく。ここで一気に畳み掛ける。
「君達3人は早くこの事を知らせてくるんだ。これはお前達にしか出来ない大事な役目だと思う。だからな、キツネ君。お前が2人を救え」
「キツネ君って俺の事か!?俺が2人を助けるか…ツノなし…分かった。直ぐに呼んでくる!」
「こらっ!ツノなしなんて言わないの!」
「ごめんね。ありがとう、アルバルト。…じゃあ、皆んな行くよ!」
この場から走り去る彼らが見えなくなったのを見てアルバルトは森の入り口を見つめる。そして一歩、また一歩と徐々に足を速めながら森の奥へ突き進んでいった。
◆
「待て、キビト!!引き返すんだ!」
「へっ、もうちょっとなんだよ。あの目印が証拠だ!」
リサーナが先に行ったキビトに追い付いた。だが、キビトは走って止まらまい。突っ走るキビトが言った目印とは木に大きな傷跡が付いている。それを横目に通り過ぎたリサーナの顔が強張る。それは3本の爪痕だった。
「よし、着いたぞ!」
「これは…」
リサーナの目の前に広がるのは一本の巨大な樹木だ。その木にはセンカの実がなっている。その樹木の周りには他の木が生えておらず、視界が開けている。
「どうだ、俺の言った通りあっただろう。ほら、やるよ」
「…取ったらすぐに戻る。約束しろ」
「いいぜ。約束だ」
キビトは地面に落ちている食べ頃のセンカの実をリサーナへ投げ渡す。その実をじっと見つめた彼女はアルバルトの喜ぶ顔を想像し葛藤した結果、キビトに合わせる事にした。
ポケットに入りきれる程、センカの実を詰め込んだ2人は帰ろうと来た道に戻ろうとした時だった。
「…何の音だ?」
「気をつけろ。…来るぞ!」
バキバキと草木を薙ぎ倒しながら姿を現したのはタイラントグリズリーと呼ばれる鋭く巨大な爪と牙を持つ熊の魔物だ。腹を空かせているのか口からは涎が滴っている。
「グォオオオオオオオオオオ!!!!」
涎を周囲に撒き散らしながらタイラントグリズリーは2人に襲い掛かった。
◆
アルバルトが森の奥へと侵入したその時、リサーナとキビトはセンカの実がなっている樹木の上に身を潜め、息を殺して魔物の様子を窺っていた。
巨大な熊の魔物と対峙したリサーナとキビトは咄嗟に手に持っていたセンカの実を魔物の鼻先へぶつけて視界を一瞬奪った後、持ち前の身体能力でセンカがなっている木へ飛び移って身を隠していた。
視界にはまだ魔物が近くを彷徨っている。時折、鼻をクンクンとして動かして匂いを嗅いで探している様だ。
「…リサーナ、この後どうするよ?」
「…大人を来るのを待つしかない。だが、このままじゃ私達が見つかるのも時間の問題だろう」
小声でヒソヒソと話しているとその僅かな声を聞き取ったのか魔物が身体の向きを彼らがいる方へ向けた。
「グオォオオオ!!!」
空気が揺れる程のけたたましい咆哮と共に彼らがいる木へその巨体をぶつけ始める。
「振り落とされるなっ!耐えるんだ!」
「んなもん、分かって…あっ!?」
バキリッと嫌な音と共にリサーナとキビトの身体は地面へ叩きつけられた。
どうやら枝が2人の体重と大きな衝動で支えきれなくなり折れてしまったらしい。そこへ待ってましたとばかりに魔物は四つん這いの身体を起き上がらせて2人に襲い掛かる。
振るわれた鋭い爪をリサーナはギリギリの距離で躱すと反撃とばかりに魔物の身体を蹴って僅かに引き離す事に成功した。
「させるかっ!…こうなったら仕方ない。私がコイツの相手をする。その間にキビトは森の外へ出て大人にこの場所を案内してくれ!」
「お、お前を置いてけってか!出来るかよ、そんな事!俺も戦う。俺だって村の中じゃ強いんだぜ?」
機を伺っていた魔物は今だとばかりに2人に突進する。当たる寸前で彼らは二手に分かれて難を逃れたが分断された。
「馬鹿かっ!それは子供達の中でだろ!いいから早く逃げるんだ!」
リサーナよりも動きが鈍いキビトに標的を定めた様だ。
「お、俺だってぇ!うぉおおおお!!」
震えながらも放ったパンチは魔物に当たる。だが、腰の入っていないパンチなど全く効かないとばかりに凶悪な腕を魔物は振り抜いた。
「ガハッ!?」
「キビトッ!…お前の相手はこの私だ!!」
モロに攻撃を受けたキビトの額から血が流れる。幾ら頑丈な鬼人族でも彼らはまだまだ子供であり、大人になる途中でまだ身体が出来上がりは不完全と言って良い。
キビトが頭を少し切って血で流す程度で収まっているのは運も良かった。ターゲットにされた時に震えて一歩後ろへ下がっていたのが幸運であった。普通の人族であれをまともに受けたなら頭が抉れていたに違いない。子供の鬼人族でも大怪我だっただろう。
キビトは同時に軽い脳震盪を起こして少しその場で動けなかったが何とか自力で動けるまで回復していた。
「キビト!無事で良かった!」
キビトが動けると認識したリサーナは注意をこちらに向ける為、魔物の猛攻を掻い潜って掌底を叩き込む。
「グオォォォ!!?」
「ハァハァ…今のうちに此処から離脱しろ」
「…女1人置いて逃げた日にはいい笑いものだ。俺が奴を引き付ける…その間に行け!」
「止まれ、キビトッ!」
リサーナの静止を振り切って立ち向かっていくキビト。リサーナの攻撃を受けた熊の魔物は4本の足で地面を抉って突進を仕掛けて来た。
「うぉおおおおお!!!」
横に飛び、魔物の攻撃を躱す。そしてそのガラ空きになった胴体に己の渾身の一撃を叩き込んだ。彼の全力の攻撃に魔物もたまらず地面へ倒れる。
「は、はは…どうだ!見たかよ今のパンチ!スッゲェだろ!」
倒したと言って勘違いしたキビトは大はしゃぎでリサーナに自慢する為に目を離してしまった。
「馬鹿者が!…後ろだッ!!」
「グォオオオオオ!!!!」
キビトの背後に立つ魔物を見て駆け出したリサーナは魔物の攻撃からキビトを守る為に飛びついて地面に押し倒した。
「グッ…」
「お前血が…!?」
「今は命のやり取りをしているんだぞ!!気を抜くなんて馬鹿はさっさと此処から去れ!」
リサーナの頬と背中には魔物の爪痕が刻まれており、真っ赤な血が流れる。それを見て動揺するキビトにリサーナが叱りつけた。
「クソッ、此処までか…」
膝を着いて自分の背丈の倍もある熊の魔物を見上げる。口を大きく開いて頭から齧りつこうと涎を垂らしながら襲い掛かる魔物に2人は死を覚悟した、その時だ。
突如発生した火の球が魔物の横顔にぶつかる。驚きと火の恐怖から魔物は思わず仰け反り、後ろへ後退する。
キビト達と魔物の間に人がいつの間にか立っていた。それは子供達の説明を聞き、急いで駆け付けたアルバルトだ。
「間に合って良かった。馬鹿デカい雄叫びが聞こえる方へ来てみたが正解だった様だな」
「ツノなし…!?」
頭に付いた葉っぱを軽く払ったアルバルトは視界に魔物の姿を捉えつつ、背後にいるキビトとリサーナに話し掛ける。
「おう、いじめっ子。時間が無いから手短に言うがお前は此処からリサを連れて逃げろ。振り返らずにただひたすら走るんだ」
近付こうとした魔物の足元に火魔法で牽制する。爆発する威力は少ないが奴は火を恐れて近づいて来ないのでまだこれで足止め出来そうだ。
「ざけんなっ!いきなり来やがっだと思ったら偉そうに…ツノなし、お前はどうするつもりだ」
「コイツを今、足止め出来るのは火を使える俺しか居ない。それに大人がもうすぐ此処へやってくるはずだ。それまでは俺が持ち堪えてみせるさ」
「待て!アル…お前を1人にはさせない」
アルバルトが足止めをすると提案し、大怪我を負ったリサーナが止めようと立ち上がろうとするが膝に力が入らなくて崩れ落ちる。地面に頭から落ちそうな彼女を支えたのはキビトはそのまま彼女を肩で抱え込む。
「グォオオオオゥウウウッ!!!!!」
自分の獲物が逃げようと察した熊の魔物は一際、大きな咆哮を上げるとアルバルト達の方へ物凄い勢いで突っ込んでくる。
「行け!リサを頼んだぞ!!」
そう言うと口を固く結んで目を鋭くさせる。いつにも増して真剣なアルバルトの顔を見て何かを感じたキビトは彼の声と同時にリサーナを連れて走り出す。
「…っ!死ぬんじゃねぇぞ!」
「キビト離せ!アルが…っ!!」
足止め…つまりは囮になる為にその場へ留まったアルバルトは目眩しの為にひたすら火魔法で魔物の顔を狙い続ける。
一緒に戦おうとキビトの腕の中でもがくリサーナと絶対に離さないと強く力を入れて彼女を抱えて走るキビトは森の中へ姿を消した。
顔ばかりに魔法を当てられて視界が狭まった魔物は手当たり次第に暴れ回る。
「見境ねぇな」
暴れ回った影響で木が此方に向かって倒れて来る。前転で身体を丸めてギリギリで避けられた。顔を上げればそこには大きな熊の魔物が両手を大きく広げて立っている。
「やべぇ!ファイアボールッ!!」
魔物が振り下ろした腕を避ける為に地面へ火魔法を飛ばす。その爆風で身体が後ろへ叩き付けられるがあんなのを喰らうよりはマシだ。
「ハァハァ…カッコつけたけどよぉ。これは…キツいな」
身体が重たくなっている。打ち付けられた所が悪かったのか、どうも上手く動かせそうにない。
好機と見たのか、魔物は四つん這いになるとその凶悪な手足で地面を削りながら突進して来やがった。
なら、また魔法で迎撃してやる。
「くらえ!ファイアボールッ!」
俺の手から発射される筈だった火球はロウソクの火ぐらいしかなく、手から離れるとポスッという音と共に空中で消える。ここにきて魔力切れが起きてしまった。
「えっ…まさか嘘だろ!?………ガァッ!!?」
驚いているアルバルトに隙が生まれる。その隙を魔物は見逃さなかった。その巨体は彼の小さな身体を吹き飛ばした。
ボールみたいにバウンドしながら彼の身体は1本目の木をへし折った後、2本目の木にぶつかってようやく止まった。全身が赤く腫れ上がり、腕や足がへんな方向へ曲がっており血塗れだった。
もう虫の息だと判断した魔物はのっそりとアルバルトに近付いていく。
「……ァ」
不幸か否か僅かな意識があったアルバルトは薄らと目を開けて此方に近づいて来る魔物を見つめていた。涎を地面にぼたぼた晒して近づく様はまさに捕食者だ。
喰われる。身体を起き上がらせようと必死に動かそうとするが動かない。意識もどんどんと掠れて来る。
「…まだ、じねない」
死にたくなかった。最早、痛みも感じてはなかった。頭から血が垂れ流れ、目の前が真っ赤に染まる。
肉を裂こうと鋭い爪が振り下ろされる。そんな光景を走馬灯の様に見ていたアルバルトは強く、強く、願った。
ーーーグシャリと頭の中で何かが潰れた様な音がした。