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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
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第78話 戦闘そして会議

ブックマークありがとうございます!

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 アルバルトの合図で先手を仕掛けたのはトーマスだ。


 トーマスはレティシアと一度手合わせをしていた。そして先程のアルバルトとの戦いもよく観察したのだ。


 レティシアが得意とするのは素早い機動力で敵を撹乱し、ダメージを与えたら即座に引く。

 そして彼女は狼獣人としては力も強い。

 何より恐ろしいのは攻撃を予測するあの目だ。

 アルバルトの攻撃を幾度となく躱して懐へ入り込むレティシアは魔眼を使わなくても相当に強くなっていた。


 きっと先手を譲ったら最後、トーマスは何も出来ずに終わってしまうだろうと肌で感じていた。


(姉ちゃんが動き出す前にはやっぱりこれしかない…!)


「いくぞ、姉ちゃん!"残波(ざんぱ)"!」


 トーマスの振り下ろした剣先から空気を切り裂く衝撃波が生まれる。レティシアはそれを見て一瞬だけトーマスから目を離し、回避する。


「先程何回も見た技を……っ!?」


 再び目線を戻せば目の前には木剣を真っ直ぐと此方に突き出すトーマスがいた。


「成る程、良い動きです。なら、これはどうですかっ!」


 レティシアはトーマスの突き出した剣を掻い潜り、剣を持っている手に向けて蹴りを放つ。


「あっ!?」


 くるくると空中へ飛んでいく木剣をトーマスは目で追ってしまった。

 そんな隙を彼女が見逃す筈もなく、レティシアはそのまま足払いでトーマスをうつ伏せに倒すと足を背中に乗せ、空中から落ちて来た木剣をキャッチ、そのままトーマスの真横に突き刺した。


「ーーはい、一本です」


「くそぉ、強ぇえ!ていうか、重…いえ何でもありません!!」


 また重いと言おうとしたトーマスだったがその時、背筋が凍る様な感覚に陥ったので慌てて撤回する。

 言わずもがな、レティシアの目は完全にトーマスを睨んでいた。


「はいはい、レティシアの勝ち。惜しかったな、トーマス」


 地面をタップしたトーマスを見てアルバルトは試合終了と宣言した。レティシアをトーマスの上から退かし、彼の手を掴んで持ち上げる。


「ありがとう、兄ちゃん」


「おう、でもトーマス。木剣でもスキルは使えるんだな」


「うん。取り敢えず、武器と認識したら出来るっぽい?」


 成る程な、トーマスのスキルは武器と認識した物なら出来るのか。


「なら、無手だったらどうだ?こうして指を真っ直ぐ揃って伸ばして一気に振り落とすとか」


 アルバルトは指をピーンと伸ばしてトーマスの目の前で腕を振り下ろす仕草をした。


「うーん、やってみる。"残波(ざんぱ)"!」


 トーマスは誰もいない壁に向かって指を伸ばして勢いよく振り下ろす。すると僅かだが手から衝撃波が生まれる。壁に衝撃波が届く前に消えてしまう。


「出ましたが途中で消えてしまいましたね」


「やっぱり駄目だ。こんなのじゃ、何の役にも立たないよ…」


 落ち込むトーマスにレティシアが話し掛ける。


「なら腕に魔力をいつも以上に貯め、それを一気に放ってみては如何ですか?」


「分かった、やってみるよ…"残波(ざんぱ)"っ!!」


 トーマスは腕を高く掲げて手に魔力を集中させる。そして縦に振り下ろす。


 先程よりも太く、空気を切り裂いていくそれは武器を用いてスキルを使った時と同じぐらいの威力で壁へ飛んでいく。そして壁と衝突すると僅かだが壁に傷が付いた。


「お、おぉ…!凄い!溜めがいるけどこれなら武器が無くても使えるっ!!」


 わーいわーいと飛び跳ねて喜びを身体全体で表すトーマスにアルバルト達はクスッと笑う。こういう所も年相応らしい。


「良かったな。これを武器で持った時に応用できれば今よりも強くなれるぞ」


「ちょっ、いきなり…やめろぅ…!」


 がしがしとトーマスの頭を手で乱暴に撫でる。アルバルトに撫でられたトーマスは口ではやめろと言うが、抵抗はせずになすがままにされていた。


「じゃあ、次は俺の番だ。全力でいくから覚悟しろよ」


「ふっ、今の俺は姉ちゃんと戦った時の強さではない。俺が勝っちゃうかもね!」


「何だと生意気な!この野郎〜!?」


 ぐわんぐわんとさっきよりも体が揺れるぐらい撫で回す。そんな彼らを見てレティシアは呟いた。


「ふふっ、もうあんなに仲良くなって妬けてしまいます。さて、トーマスさん。アルバルトさんと戦う時は気をつけた方が良いですよ。プレッシャーが凄いですから、気を引き締めないと雰囲気に飲まれてしまいます」


「姉ちゃんと比べれば俺は遅いけど、兄ちゃんよりも俺の方が小さいし、すばしっこいから大丈夫!上手くやってみせるよ!」


「……やってみれば分かりますよ」


 トーマスはレティシアが立ち去るのを眺めて思う。


 姉ちゃんはスピード系、兄ちゃんはパワー系だ。あの反射速度は要注意だけど姉ちゃんに比べれば遅い。なら何処かに付け入る隙がある筈だ。


 レティシアが先程アルバルトが立っていた所に足を進める。それを届けたアルバルトとトーマスは自然と互いに距離を離して対峙する。


「両者、準備はいいですか?」


「ああ、いつでも大丈夫だ。トーマスはもう少し休むか?」


「大丈夫、姉ちゃんにすぐに負けたから体力は減ってない。俺もいつでもいいよ」


 2人の返事を聞いたレティシアがコクンと一回頷くと手を高く掲げる。


「では、合図します」


 アルバルトとトーマスはお互いに構えて相手を見据える。

 周りの騒がしい音が耳から消えていく。目の前の敵を倒す為に不必要な情報など要らないからだ。



「始めっ!!」


 互いの集中力が高まった所でレティシアの掲げた手が勢いよく振り落とされた。


 レティシアの合図でトーマスは飛び出すかと思いきや、どっしりと武器を前に構えて動かない。アルバルトもただひたすらトーマスの出方を伺っている。対峙する両者には酷く違いが見られた。


 アルバルトはトーマスを睨みつけたまま微動だにしない。対するトーマスは身体全身が震えており、身体中から汗が滲み出ている。


 トーマスの額から伝う汗が地面へと落下して跡を残す。いつでもスキルを放てる様に魔力を手に集中させる。


(対峙してみて分かった。姉ちゃんが言っていたことを……まるで人の皮を被った化け物を相手にしている感覚だ)


 足が震える。聞いていたプレッシャーに押し潰されそうだ。思わず片手で膝を叩いて息を大きく飲み込む。そしてゆっくりと吐き出して深呼吸をする。


 その隙をアルバルトは見逃さない。震える足を叩いたトーマスに向けて一歩大きく踏み出すと一気に近づいた。


 魔法も禁止で無手であるアルバルトが取れる手段は接近戦でしかない。それはトーマスも分かっている為、状況だけ見れば些か威力は低いが遠距離でも使えるスキルに木剣のリーチがあるトーマスが有利だ。


 だが経験の差、そして力の差や体格が大きく違うアルバルトとの対決はトーマスにとってとても脅威になる。口ではああ言ったもののいざ実践とでは勝てるビジョンが見えない。


 それでもとトーマスは近づいてくるアルバルトに向かって先程まで手に溜めていた魔力を木剣に這わせて一閃する。


「"残波(ざんぱ)"」


「そんなもの…!」


 縦に伸びていく斬撃にアルバルトは敢えて両手に魔力を這わせて受け止める。溜めた分の魔力も相まってか、アルバルトはトーマスの攻撃を受け止めたまま、後ろへと吹き飛ばされた。


「お、おお!行ける、行けるぞっ!もう一回…」


 追撃をしようとしたトーマスだがアルバルトが再び前から近づいてくるのが目に入る。

 トーマスを睨みつけて迫ってくる姿はまさに鬼の形相であり、恐怖で足が一歩下がってしまった。

 はっと気を取り直したトーマスは縦に剣を振り、スキルを連続で使用する。


 スキルの連射が速い。だがその分、威力は低くなっている様だ。その証拠にアルバルトが拳を振るえば斬撃は掻き消えてしまう。


「しゃらくせぇえ……!!」


 俺は迫り来るトーマスの攻撃を躱すと更に加速した。

 避けきれない斬撃は両手を前にクロスして身体の重心を深く落として受け止め、強引に打ち消す。


「くっ、なら!?」


 トーマスは持っている剣を振り回してアルバルトを牽制し、一旦距離を取ると素早くアルバルトに向かって剣を投げ付ける。


 剣は真っ直ぐ前に伸びてアルバルトに近づいていく。彼は落ち着いて見極め、剣が飛んで来るであろう軌道を読む。


「やるな。だが、まだまだだ!!」


 指で剣先を挟んで相手に投げ返す。目標を変えた剣はトーマスの横を過ぎて壁に突き刺さた。


 尻餅を着いたトーマスにアルバルトは近づき、拳を振り上げて彼の顔に目掛けて振り抜いた。

 トーマスが思わず目を瞑るとレティシアからそれまでと止められた。固く握った拳はトーマスの顔の既の所で止まった。凄まじい風圧が彼の髪を撫で、思わず冷や汗をかく。

 もしあのまま当たっていたらと考えるだけで背中の汗が凄い。


 握った拳を解いたアルバルトはトーマスの手を掴むと引っ張って小さな身体を持ち上げる。


「お疲れさん、頑張ったな」


「姉ちゃんが言ってた事分かった気がする。兄ちゃん容赦ねぇ…化け物相手にしてるみたいだった」


「2人ともお疲れ様でした。トーマスさん、私が言った意味、分かりましたよね」


「姉ちゃんの言う通りでした…」


「お前らなぁ、流石に傷つくぞ」


 人を化け物扱いとか散々な事言いやがる。レティシアだって化け物染みた動きするのに。俺の心は硝子みたい脆いんだから泣くぞ。


「はぁ、まあ良い。これからさっきの戦いを忘れない内に話し合いするぞ」


「ふふっ、冗談ですよ。早速やりましょうか」


 お茶目な感じで舌をチョロっと出すレティシア。感情が出る様になってお兄さん嬉しいよ。後、可愛い。


「なぁ、兄ちゃん。それって意味あるのか?そんな事するよりももっと鍛錬した方がいい気がするんだけど…」


 トーマスの呟きが聞こえたので返事を返した。


「確かにそれも大事だと思うが、相手の動きの良い所、逆に相手から自分の悪い所を上げてもらって互いに擦り合わせる。そうして悪い所を潰す事でより洗練された動きが出来る様になれば一段と強くなれるからな」


「ただ鍛錬で力ばかり付けても力の使い方を知らなければあまり意味がありません。戦闘では当たらない必殺技よりも当たる小細工の方が有用ですからね」


「成る程、なんとなく分かったかも?強くなる為にはそういう地道な事も必要って事だろ?」


 トーマスはアルバルト達の説明になんとなくではあるが理解した。


「負けた事を気にしている暇が有るなら次はどう動こうかって考えた方がいい。まあ、話し合いなんて必要ない、感覚だけでどんどん強くなる天才っていうのはいるがな」


 リサーナとかリサとかリサーナとか…全部同じ奴だったわ。今はどうしているのだろうか?きっと更に強さに磨きが掛かっているんだろうな。


 遠い目をするアルバルトにレティシアは何かを察したのか服の袖を引っ張ってアルバルトの意識を自分へと向ける様に仕向ける。


「アルバルトさん、早くトーマスさんにも分かって頂けるように実践しましょう」


 彼女に服を引っ張られたアルバルトはトーマスを連れて訓練場の端まで歩き、座って話し合いを開始した。


「まず俺からだな。レティシアは相変わらず早くて強い。正直悪い所は見当たらないが予測し過ぎるのもアレだな。フェイントの視線にも無視できなくて視線が釣られちゃうだろ?」


 思い浮かべるのは戦闘中、わざと俺が視線を外した所だ。彼女は一瞬だけだが視界から俺を外した。1秒も満たない間だが戦闘中はそれが命取りになる。


「確かにそうですね。相手をよく見てるからこそ、フェイントに引っ掛かりやすいかも知れないです」


 指で顎を支えて先程の戦闘を思い出したレティシアはうんうんと頷く。


「そしてトーマスだが、剣を投げるアレは驚いたぞ。やれる事が今は少ないからその後が続かなかったが…惜しかったな」


「へへっ、早く俺も兄ちゃん達みたく色々とできる様になりたいよ!次は姉ちゃんの番だ」


 指で自分の鼻下を摩りながら笑みを見せるトーマスがレティシアを見た。


「アルバルトさんは攻撃を貰い過ぎると思います。身体が大きいアルバルトさんに無理に躱せとは言いませんが、もう少し上体を捻ったりするのはどうですか?戦っている時、手と足で捌いているんですが身体は動いていなかったので…」


「俺も見てたけど姉ちゃんの言う通りだった気がする」


「成る程な、次から意識してみるよ」


「では次にトーマスさんは…ピンチになるとスキルを使い過ぎてしまう癖がありますよね?縦しか来ない攻撃は避けやすいです。使うならもっと相手を引きつけてからか、それとも色々な角度に変えて放つのが効果的でしょう」


 レティシアの言葉にトーマスが静かに頷く。


 トーマスのスキルは一発一発が軽い代わりに発動回数が多い。レティシアと同じ魔力の消費が少なく済んで小回りがきくタイプだ。


「俺のスキルって縦に振る方が威力高くなるし、早く発動出来るんだ。横とかやってみたけど威力弱いし、縦以外だと放った後、身体がくるくる回っちゃうんだ」


「それならば先程やった魔力を溜めて放ってみたりが良いかも知れませんね。訓練して素早く魔力を溜められる様にしましょう。それと今度から身体が崩れない程度に足腰を重点的に鍛えて貰いますよ」


 トーマスがくるくると回ってしまうのは足腰の筋肉がまだ足りていない為だ。

 剣を振れば、その重さと振った後の遠心力で身体が持っていかれる。

 確かに縦に振れば剣は真下へ向かい、若干身体は浮くがバランスは取れやすいのだろう。


「トーマスは取り敢えず、レティシアが言った事と反射神経を鍛えようか。そうすればそこら辺の冒険者よりも強くなれるかもな」


 足腰が強いという事は、色々な場面で有利に働く事が多い。

 土台がちゃんとしていれば咄嗟の行動を起こす時にも素早く動ける。

 トーマスのスキルも早く打てる様になり、威力が高いとなれば劇的な強さが手に入るだろう。敵に回せば厄介な存在になれる筈だ。


 動く砲台とかめちゃくちゃ強そうだし…。


「…分かった。俺からは正直に言って兄ちゃんと姉ちゃんの悪い所なんて分からない。だからもっと相手をよく見て学んでいくよ」


「これからの1週間はきっとトーマスさんにとって辛い時間になるでしょう。それでもやる覚悟はありますか?」


 レティシアがトーマスに向かって最終確認を取る。その覚悟はあるのかと、それを確かめる。トーマスもそれに応える様に彼女と目を合わせて高らかに宣言した。


「勿論!これは俺にとってきっと人生の分岐点だと思うんだ。ここで断ってちゃったら一生後悔すると思う。だからお願い、俺を鍛えてくれ!」


 トーマスが拳を強く握り締めて真剣な目で2人を見つめる。彼に向かって俺とレティシアはタイミングを合わせたわけでもなかったが同時に手を差し伸べた。

 トーマスが若干、遠慮気味に伸ばしてきた手を掴んでこちら側に引き寄せて手を重ねる。


「俺達はまだまだ強くなる為の旅の途中だ。短い間だが一緒に強くなろう」


 レティシアが更に俺の上から手を重ねる。


「トーマスさんの覚悟は分かりました。短時間で成果が出るように厳しく行きます。根を上げている時間さえ無いですからね」


「望む頃だ…!これから宜しく!」


 トーマスがニコッと笑う。今日一番の笑顔にレティシアやアルバルトも釣られて笑った。


「よし、じゃあ気合いを入れるか。自分の目標を言って終わりにしようか」


「はい、分かりました」


「了解!」


 アルバルトのやりたい事が分かった2人は頷いてアルバルトの掛け声を待つ。


「俺は誰よりも強くなる為に旅をする」


「私は自分の大切な物を守る為に強くなる」


「父さんや母さんみたいに強くなって誰かを助けたい」


 重なり合う手に3人とも力が入る。


 それぞれの想いを口に出して、自分の中の目標を再確認した。

 きっと困難な壁にぶち当たってもこの想いがあれば、乗り越えていける筈だ。


 互いに頑張る事を心に誓ってこの日は幕を閉じた。

レティシア

最近、甘い物の食べ過ぎでふと…身体が成長してきた。


アルバルト

トーマス…禁句を口にしやがって…



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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