第75話 トーマス
草木が生えていない岩がゴロゴロしている平地に10歳ぐらいだろう幼い少年が1人でいた。
「叔父さんめ、何が望んでないだよ。俺の事なんて本当はどうでも良いと思ってるくせに…!父ちゃんや母ちゃんを助けてくれなかったのに!なんで構ってくるんだよ!くそっ!くそぉっ!」
トーマスは足元にある石を思いっきり蹴り飛ばす。
弧を描いて飛んでいく石はファイアボアの身体にコツンと当たった。
「あっ、やば…」
「ブモォオオオオ!!!」
此方に向かって突進してくる3体の魔物はトーマスを撥ねようと物凄い勢いで進んで来る。
「うわぁ!?スキル!"残波"ッ!!」
トーマスが剣を一振りすれば、その剣圧が空気を切り裂き、ファイアボアの額にある魔石を上手く打ち砕いた。
「ど、どうだ!俺だってやれるんだ!」
仲間を殺されたファイアボアは怒りの声を上げて鋭い牙の先端をトーマスに見せつけながら突進する。
「ひっ!ざ、"残波"!"残波"!"残波ァアアア"!当たれ、当たれ、当たれよぉぉお!!」
縦に空気を切り裂いて迫る剣圧はファイアボアが少し横にそれるだけで最も容易に躱してしまう。
最初の一頭は油断して食らってしまったが、残りの二頭は学習して横へ飛び、トーマスの攻撃を掻い潜る。
「「ブモォオオオオオ!!!!!」
目の前に迫った獲物に己の牙を突き立てるべくファイアボアは顎をかちあげる体制になった。
その鋭く尖った牙は簡単に幼い少年の柔肌に穴を開けるだろう。その脅威にトーマスは叫び声を上げてしまう。
「助けて!父ちゃん、母ちゃん!」
トーマスが今は亡き両親に祈りを捧げれば、その少年の頬に一筋の風が撫でた。
「はぁあああああ!!」
明るい茶色の長い髪を靡かせ、先頭のファイアボアの足元に短剣を投げて動きを止める女。そしてその後ろから走ってくるファイアボアに向かって走っていく。
先頭にいたファイアボアは短剣の投擲により足を止めていたが再度、トーマスに向かって走る事を選択したようだ。だが僅かに稼いだ数秒で後から現れた男がそのファイアボアの前に躍り出る。
「オラァッ!!」
自分の背丈ぐらいはありそうな大剣でファイアボアの牙を粉々に砕いてそのまま顔面に一撃を入れる男と軽やかなステップを踏んでファイアボアの突進を躱し、すれ違いに魔石を砕く女。
「凄え…」
それを見てトーマスは目の前の戦闘に目を奪われた。
あのファイアボアの強烈な突進を正面から受け止めてもなお打ち勝つパワー。それと目にも止まらぬスピードで相手を翻弄した冒険者達。
それは昨日、自分を止めに入った連中だった。
「なんで、助けてくれたんだ」
トーマスの方を振り返って手を差し伸べながらアルバルトとレティシアは答える。
「お前の叔父さんに宜しくって頭下げられてんだ、間に合ってよかった」
「それに助けてと言われたら放っておく訳ないじゃないですか」
日差しで照らされる彼らの姿にトーマスの胸はドキドキと高鳴りを鳴らし始めていた。
その強さに憧れを抱いた少年はある提案を彼らに申し出る。
◆
数刻前、アルバルト達は昨日鍛冶屋に預けた武器を取りに向かっていた。
そして目的地に到着した彼らは鍛治師から武器を受け取る。
「おらよ。この大剣、なかなか磨くのに苦労したぜ。なにせ数時間、砥石で磨いてやっと終わった。なんて硬さしてんだってな」
鍛冶屋のおっさんに文句を言われながらも受け取った。
「凄いな、まるで剣そのものが光っているみたいだ」
「私の短剣も以前より切れ味が良さそうです」
渡された大剣を少し傾ければまるで鏡みたいに光っている。流石、職人の国と言われるだけある。腕が良い職人に当たって良かった。
「気に入ってくれたなら何よりだ。用が済んだのならさっさと出てってくれ。こっちはまだまだ忙しいんだ」
カツーン、カツーンと熱した鉄をハンマーで打ち始めた鍛治師。その光景を少し見てみたい気もするが邪魔になるので退散する。
街の人に冒険者ギルドの行き先を聞いて移動した。ギルドに着いて中に入れば王都のギルドとさほど変わらない様に見受けられる。
依頼が貼ってある掲示板へ歩いて行き、何枚か貼ってある依頼書を品定めしてレティシアと話し合う。
「薬草採取にファイアボアの皮や肉、護衛に鉱石掘りの手伝い…どれにするか」
残念ながら良さそうな討伐系は殆ど取られてしまった後のようだ。
精々Cランクぐらいの奴しかない。
「そうですねぇ。研いでもらった武器を試してみたいですし、これにしましょう」
レティシアの手に1枚の依頼書が握られる。
断る理由が無いのでレティシアの言う通り、ファイアボアの依頼書をこのギルドにいる受付の人に渡す。受理してもらったらいよいよクエスト開始だ。
「受付で聞いたがファイアボアの生息地は此処から歩いてすぐの荒野地帯にいるらしい。以前よりも気性が荒くて群れでいるから注意するようにだとさ」
「やはり魔王が活動し始めてから魔物の脅威も上がった気がしますね。ファイアボアの皮と肉は5頭分で2枚、魔石を別に買い取って貰えば良い値段にはなりそうです」
フンスと気合を入れるレティシアを横目で眺めながら俺も気合を入れる。
ヒガリヤを出て情報通りに荒野へと足を進めればすぐに見つかった。黒い毛皮に身を包んで鋭い牙を生やしている。
「丁度2体だ。俺は右、レティシアは左を頼む」
「分かりました」
まだ此方に気付いていないファイアボアの背後に忍び寄って隙を窺う。
足元にあった石を拾い、ファイアボアの進行方向に山なりに投げる。当然、ファイアボアの正面に石が降って来るのでファイアボアも何だと2体揃って前を警戒した。
「レティシア、今だ」
小さな声で合図して飛び出す。後ろの物音に気付いたのか此方を振り返るがもう遅い。
「遅ぇ!!」
俺の大剣は奴らが振り返った時にはもう頭上を剣が捉えている。そのまま振り抜いて叩き落とせば脳天に直撃、一頭はそのまま倒れた。
レティシアも新しく新調した短剣で敵の急所を刺して鮮やかに倒していく。
「お疲れ様です。あの鍛冶屋さんは腕がいいですね。まさか分厚いファイアボアの肉をこんなにあっさりと引き裂く事ができるなんて…」
「気難しそうな人だったけど当たりを引けたのは良かったな。依頼だと後3体か」
「はい、その前に解体といきましょう」
血に濡れたファイアボアを剥ぎ取り用のナイフで解体していく。魔石と皮を剥いだ後は肉を骨ごと切り分けて魔法袋にしまった。
「アルバルトさん、見てください!」
「うん?どうしたってあれは…」
レティシアが何かに気付いて声を上げたのでそちらを見る。
3体のファイアボアが店主が言っていたトーマスという男の子に向かって襲い掛かっている様子だった。
「ーー助けるぞ!」
「私が先に行きます!"疾風"」
レティシアがスキルを使い、風の様に走り去っていく。
「前より早くなってる気がする。なら俺も!」
鬼人の力を解放する。
あの日の様に全解放と行きたいところだが、ストッパーが掛かっているのか出力を最大まで出せない。それでも前よりかは力が引き出せる。
レティシアみたいに風の様にとはいかないが大地を抉って加速する。
レティシアは前のファイアボアの動きを止めて奥にいる獲物に向かって行った。なら俺は手前にいるファイアボア目掛けて大剣を横凪に振るう。
硬い牙を砕き、それでもなお勢いの止まる事のない剣は相手の顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。
僅かに悲鳴を上げて倒れるファイアボアにトドメを刺すと尻餅を着いて驚いている少年に手を差し伸べる。
「怪我はないか?」
「…なんで、助けてくれたんだよ」
なんでってそりゃあな。目の前で殺されそうな子供を見ていたら助けるだろうし、ほっとけなかった。
固まるトーマスにアルバルトは肩をすくめて戯けた様に言う。
「お前の叔父さんによろしくしてくれって頭下げられてんだ、無事でよかったわ」
同じく戦闘を終えたレティシアが近づいてトーマスに話し掛ける。
「それに助けてと言われたら放っておく訳ないじゃないですか」
少年は顔を頬を赤らめてアルバルトから差し伸ばされた手を強く握り、立ち上がった。
「なぁ、兄ちゃん達。俺とーー」
そして少年の口から予想もしなかった言葉が飛び出した。
トーマス
強い…その強さの秘密が知りたい…。
◆
最後まで読んでくださりありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。
モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!




