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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
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第70話 旅立ち、そして新たな出会い

ちょっと今回は長いです。

そして、新たな人物の登場です。

 早朝、人混みに紛れて進んでいく。門を通る人は少なくなってはいるがゼロではない。それに出る時は自由だ。

 目の前にいる商人が丁度、ヒガリヤ国へ行くと聞いたので俺達も同行させてくれと交渉する。


「あー、ちょっといいか?俺達もヒガリヤに行きたいんだ。勿論、護衛はするから乗せてはくれないか?」


「なんだね、君達は……ほう、Bランク冒険者か。ーーー良いだろう、だが金は出せん。こっちはもう冒険者に護衛を頼んでいるんでな」


「それでいい。乗せてくれるだけで充分だ。よろしく頼む」


「なら早く馬車に乗れ!此処からヒガリヤまでは案外遠いんだ。乗り心地は良くないが、それくらいは我慢しろよ」


 商人に促されて馬車の中に入れて貰う。中にはヒガリヤに卸すだろう商品が所狭しと並べられていた。そして護衛だと思われる冒険者が既に1人いる。取り敢えず、空いているスペースは狭いが中に入って座る。大剣も立てかけておく。


「乗ったな。よし行け!」


 バチンッと馬に鞭を入れて馬車は進んでいく。ガタゴトと馬車の中は揺れるが仕方ない我慢しよう。門を通り抜けて、街道を進んでいく景色を眺めて入れば目の前の冒険者から話しかけられた。


「なあ、そこのお兄さんと別嬪さん。お前さんらも剣舞祭に向けてヒガリヤに行くのかい…?」


 俺達にそう話し掛けて来たのは俺達よりも前にこの馬車に乗っていた人物だった。見たところ、獣人族の女性冒険者だ。

 虎の様な見た目と鍛え上げられた腹筋や腕回りが大変美しい。たしか、虎獣人って呼ばれていた気がする。


「そうです。貴方も大会に出るおつもりですか?」


「そうさ、なんてたって腕に自慢がある奴が集う年に一度の大会さ。久しぶりに顔を出すから血が騒いでいけねぇ。あたいはトキ。これでもAランクさ。お前さん達は…?」


 ーーーAランク。俺たちよりもランクが一つ上の冒険者だ。剣舞祭では強力な相手になる事は間違いない。


「私はレティシア、彼はアルバルトさんです。貴方はもしや虎獣人ですか?」


「お、よく気がついたねぇ。そういうおまえさんは狼獣人だろ?珍しい種族に会ったもんだよ」


 獣人族はとにかく種類が多い種族だ。大体が犬、猫、鳥のどれかに該当するが、レティシアやトキみたいな狼、虎などは個体数が少ないとされている。

 なので希少種という事もあり、金目当ての誘拐だったりと不埒な輩に狙われる事もしばしばあったりする為、警戒心が強いのだ。

 その筈なんだけどさ…自分の尻尾を俺の腰回りに回すレティシアを見て目を逸らす。目線を逸らした先にトキの武器が目に入った。


「トキの武器はそのデッカい斧か?」


 俺の大剣よりも少し大きな斧が目に入る。ダルタニアンは素手で斧を触っている。


「そうさ、あたいの相棒は一級品よ」


 どーんと自慢げな顔は自信の表れか。何というか頼もしい。

 その時だった。突然、ガタンッと馬車が急停止して荷台が揺れる。


「な、なんだ?」


「おっと…さて早速、あたいの出番が来た様だね」


「おーい!魔物が出た!早く来てくれぇ!」


 商人の声がする。すぐさま斧を担いで馬車から出ていくトキを追い、俺達も外へ出る。


「な、オーガが2体だと…!」


 ーーオーガ。全長3メートル、見た目が鬼と似ているのが特徴で力だけならAランク相当にも匹敵すると言われている為、Bランクの上位に位置する魔物だ。冒険者ギルドの資料でも要注意とされていた。

 それが2体もいるとは…思わず身体に力が入る。


「レティシア、行くぞ!」


「はい!トキさん、私達も戦います!」


「……あー、いいのいいの。こんなのどうってことないからお前さんらはそこで待ってな」


 斧を担いで余った手をひらひらと振るトキが俺達の前に出る。そして肩から紐で吊るしている瓢箪を持って口に含んでゴクゴクと中身を飲んでいる。


「プッハー!いやぁ、何度飲んでも戦い前の酒は美味い!こればかりはこの()()に感謝だねぇ」


 オーガは目の前で呑気に酒を飲んで美味いと豪語する彼女の隙をつき、大きな拳を振りかざす。


「おい、トキ!来るぞ!」


 音を切り裂いていくその拳は当たればひとたまりもないと簡単に予測が出来る。その破壊力は凄まじいのだろう。だが、その拳をトキは自分の斧で受け止めた。


「ヒュー、やるねぇ。手にビリビリ来たわ。まあ、あたいの間合いに入ったんだ。これでお前さんは終わりだよ」


 受け止めたトキは攻撃を仕掛けて頭が下がったオーガの首に斧を振り落として一撃で刈り取った。

 仲間をやられたもう一体のオーガは怒り狂い、元凶のトキを仕留める為、手に持っていた棍棒で殴りかかる。


「あたいと力勝負とは上等。どちらが強いか勝負と行こうか…!"魔断烈(まだんれつ)"!!」


 トキの技が炸裂する。ぶつかり合う両者の武器。彼女の斧はオーガの棍棒を鋏で紙を切るかの様に縦に切り裂いていく。そしてバキッと棍棒が砕け散った。

 武器を失い、バランスを崩したオーガはそのままトキの追撃によって首を刈られた。


「まあ、準備運動って所か。おーい、商人のおやじー!終わったぜぇ」


 商人は馬車から出てきてオーガの売れる所を解体していく。顔がニヤけているとは現金な奴だ。


「馬車の中に戻ろうぜ。まだあたいはお前さん達と話したい事があるからさ」


 一足先に戻っていったトキを追って馬車に戻る最中、レティシアから耳元で声を掛けられた。


「なかなかお強いですね。それに気配察知が私達よりも早いなんて…」


「剣舞祭であたったら苦戦は免れそうにないだろうな」


 馬車に戻れば、彼女は先程まで使っていた斧を布で丁寧に拭っている。血や油で刃物の切れ味が落ちるので戦闘後は手入れをしているのだろう。


「悪いね、ちょっと場所取るけど許しておくれよ」


 まあ、押しかけたのはこっちだから別にいい。それにしてもそのドエロい格好は何とかならないのか…目のやり場に困る。ヘソだしは反則だと思うんだよな。


 べちっと背中を尻尾で叩かれた。どうやら隣の少女には考えがバレていたらしい…何で俺の頭の中を読めるんだ。


「カカカッ!お前さん達、仲良いね!そうだ、あたいにお前さん達の話聞かせておくれよ。えーとレティシアとアルバルトの出会いからでいいからさ!」


「俺とレティシアの出会いね。あれは森の中で出会ったんだが…」


 彼女の追求は意外としつこかった。


 やれ、付き合ってるんじゃないか、キスはしたのかとかとまるで飲んだくれのオヤジみたいな事を時折挟んでくる。

 だから付き合ってないのにするわけないだろう。


 疑い、いや揶揄いにくる彼女に向かって俺は根気強く教えこんだ。レティシアも説得するの手伝ってくれよ…だから言われるんだぞ。


 それから数日、馬車は夜になれば野営して明日に備える。

 途中、馬車が溝にはまって動けなくなったが、力は強い俺達3人組が重たい馬車を押してあげれば簡単に溝から脱出出来た。

 これには商人も驚いていた。男1人と女2人だけの力で進んだんだ、まあ驚くわな。


 野営の時、商人と俺達は別々に食事を取っていたのだが、温かいスープを作って渡すとお礼にとパンを分けてくれた。


 気難しいおっちゃんだと思っていたが、商人故の知識と経験は聞いていて面白かった。

 1番面白かったのは商人同士の読み合いだ。


 ここで値段を下げたら自分は赤字、だが恩は売れる。恩は売れないが高値で売りつければ儲けが出る、だが心象は悪くなるかもしれない。


 将来の為の手段を増やそうと赤字覚悟で恩を売りに行き、別の機会で今度は相手から安く仕入れる事が出来たと言っていた。それに友好はまだ続いていてその繋がりから商売が上手く軌道に乗れたらしい。


 だがなぁと手振りや口調を変えて喋るおっちゃんの武勇伝は面白い。俺の中の気難しいおっちゃんから陽気なおっちゃんへと早替わりした。


 トキはこの数日話し合ったが、面倒見のいいお姉さんという感じだ。戦闘スタイルが少し似ているという理由で俺と訓練をしてくれたり、レティシアも同じ獣人族ということもあってか、どんどん打ち解けていった。


 …2人がかりでも簡単にあしらわれたあの屈辱は忘れない。次は倒す、絶対に。


 おっさんが歩き疲れた馬を休めている時の話だ。幾許かの時間が出来たので俺はレティシアと手合わせをしていた。


「フッ!」


「ーーっ!そこだッ!」


「おーおー、よくやってるねぇ!お前さんら、あたいも混ぜちゃくれんか?ここら辺は見晴らしも良いし、魔物が来てもすぐに対処出来るしねぇ」


 いきなりやって来ては混ぜろと言う彼女を前にレティシアとどうするか話し合う。

 勿論、トキの気配察知や戦闘能力が高いのはこの数日の間、一緒にいて分かっている。

 実力がある彼女が参加してくれるだけでありがたいっちゃありがたいが、護衛をしているのに守りが手薄になるのはどうかなのか。


 商人のおっさんに目を向ければ、此方に手を向けてひらひらと上下に動かした。成る程、これはやっても良いらしい。レティシアも賛成の様だし、胸を借りる事にしよう。


「分かった。トキが相手してくれるのはありがたい。1人ずつの方が良いよな?」


「いいや、2人まとめてかかってきな。あたいはおまえ達が今どこまでやれるかを見たい」


「本当に宜しいので…?」


 不敵な笑みを浮かべて斧を肩に乗せるトキを見てレティシアも覚悟を決めた様だ。


「…ではお言葉に甘えましょう。胸を借りるつもりでいきます」


「はいよ。こんな胸ぐらい何時でも貸してやるさ。カカカッ!…あっ、悪かったね」


「ーー?何を見て……ああ、そうですか。そういうことですか。ふふっ、その無駄にでかい肉、削ぎ落としますよ?」


(やめてくれぇー!)


 それはレティシアに効く。それ以上、見せつける様に胸を張って彼女を挑発するとマジで死ぬぞ…俺が。


(…あぁ、後になったら憂さ晴らしにガブガブされる未来が見えて来た)


「へぇ、あたい相手によく言うねぇ。悪気は無かったんだが、それぐらい啖呵切ったんだ。まずはお前さんの実力見せてもらおうか…!」


 憎い相手を見つけたと言いたげな鋭くなった眼光のレティシアに対して挑発的に更に胸を前へと張るトキ。彼女達から鬼、いや虎と狼が背後で睨み合っている様に見えた気がした。


「……削ぎ落とす!"疾風(アクセル)"!」


「いいねぇ、かかってきなァ!!」


 やべぇ、間に入りたく無くて遠巻き見ていたら出遅れた。俺は魔力で強化した足を動かす事で爆発的な速さを得たレティシアの後を追う。


「はぁぁぁぁあ!!」


「おっと、なかなか速いじゃないか!ならあたいも少し本気で行こう。スキル…"闘気(オーラ)"」


 キーンッ!ブン、カッ!ガキンッ!


 金属と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。その正体はレティシアの短剣とトキの斧がぶつかり合った時の音であった。

 トキは全身に仄かに紅のオーラを身に纏うと鍔迫り合っていたレティシアを力で強引に弾き飛ばす。


 今度は俺の番だ。トキに向けて上段から大剣を振り下ろすが、彼女は斧を回転させて剣と自分の間に斧を滑り込ませた。


 だが力任せなら鬼の力を解放している俺の方が上の筈だ。その証拠に俺の大剣は彼女の斧を押し返している。

 これなら足止めぐらいなら出来ると判断して更に力を入れる。俺の背中に隠れたレティシアが音も立てずに忍び寄る。


「今度はお前さんか!こっちもなかなかのパワーを持っているねぇ。少しだけとはいえ、あたい相手に此処までやるとは…だけどこういう技術は知っているかい?」


「なっ…!押し返される!?」


 トキが斧を自分の胸の辺りにまで一瞬で肘を曲げて近づけるとその空いた隙間を埋める様に足を一歩踏み出す。それと同時に腰を入れ、身体全体の力を使って斧を前へと押し込んだ。


 それから繰り出される力の増加はアルバルトの力を一瞬だけ上回り、押し返す事に成功する。

 体勢を崩した彼の腹目掛けてトキの容赦ない足蹴りが突き刺さった。


 巨大な斧をあれだけ簡単に振り回せる持ち主の足腰は強靭であり、人を吹き飛ばすのは訳がないほどの力が秘められているだろう。

 その蹴りをモロに受けたアルバルトの身体は吹き飛び、彼の背中に隠れる様に移動していたレティシアを巻き添えにする。


「カカカッ!ほらほら早く立ちなっ!」


 ゴロゴロと転がる2人は素早く顔を上げて立ち上がった。視線はトキから外さない。目を逸らした瞬間にやられると肌で感じる。


「わりぃ、怪我してないか」


「私は大丈夫です。まさかアルバルトさんが力負けするなんて思いもしませんでした」


「俺もさ。今度は2人同時で行くぞ!」


 はい!と元気よく返事をしたレティシアの横を並列して全力で走る。そしてトキに向かって左右に別れて同時に攻撃を仕掛けた。


「まだまだそんなんじゃあたいは止められないよ」


 時は手に持っていた斧を空高くぶん投げる。素手でアルバルトとレティシアを迎え撃つ体制を取った彼女は口元がニヤリと緩んでいて楽しそうであった。


 そんな彼女にアルバルト達は襲いかかる。彼らの息の合った猛攻は息つく暇を与えんとばかりに次々と繰り出されるが、トキは丁寧にその全ての攻撃を捌いて反撃する。


「ほら、どうした?あたいに掠りもしないじゃないか!」


「後ろに目でもあんのかよ。なんで見てないのに避けられるんだ!」


「あたいのスキルは"闘気"。このオーラを身に纏えば纏う程、感覚が研ぎ澄まされて能力が格段に上がっていくんだ。まあ、この程度の攻撃なら見なくても避けられる」


 トキは落ちて来た斧を見ずに片手で回収すると右から来るレティシアの攻撃を斧で止め、チラッとアルバルトの方を見る。

 アルバルトの拳がトキに当たる前、彼女は彼の顔面に裏拳、正拳突きを数発、リズムよくカウンターを入れていた。


「ーーそこです!」


「カカカッ!甘い…!」


 レティシアは自分を視界から外したトキを見て好機と判断し、短剣の刀身を滑らせて力を受け流す。そのまま回転し、回し蹴りを放つがトキは半身で避け、片足立ちのレティシアの足を払って転ばす。


 カウンターで仰け反ったアルバルトの襟首を素早く掴むと背負い投げを決め、体制が立て直せないでいるレティシアへとぶつけた。アルバルトの大きな身体に彼女は再び押し潰される。


「さあ、これで終いだ。"天地両断斬(てんちりょうだんざん)"ッ!!」


 後ろに大きく移動する様に高く跳び上がり、地面に向かって斧を投げ飛ばす。その接触地点から地面へ亀裂が入り、アルバルト達の方へ次々と盛り上がる岩や土が襲い掛かった。


「やべぇっ!ファイアボール!」


 アルバルトの火球が岩へと激突するも威力は衰えずに彼らに向かってくる。レティシアは離脱しようと咄嗟にアルバルトを片手で抱き抱えながら魔法を唱えた。


「風よ、ウィンドブレス!」


 突風の勢いで強引にその場から離れる事に成功した彼らだったが、その目の前にはいつの間にか移動していたトキが斧を振りかぶっていた。

 その瞬間、ゾワリと頭に冷たい水をぶっ掛けられた様な感覚に陥る。

 頭から足の爪先まで冷たく、目の前が一瞬だが暗くなった。


(ガードが間に合わない…!)


 やられると身が硬直するアルバルトの目と鼻の先スレスレに斧は停止した。


「ハァハァハァ……ふぅ、久しぶりに心臓が止まったかと思った」


「この感覚はあの日以来ですね…」


「カカカッ!ちっと驚かせ過ぎてしまったねぇ」


 呼吸を整え、ホッと息を吐く。トキは斧を地面に突き刺して両手を此方に差し出した。

 どうやら起こしてくれるらしい。


「これで終い、2人ともいい動きだったよ。まあ、あたいに言わせりゃまだまだ詰めが甘いけどね!」


 カカカッ!愉快そうに笑うトキの手を取り、身体を起き上がらせる。

 後から物凄くどっと疲れが出て来た。流石にこれ以上やるのは護衛に支障が出るとまだ笑う彼女に進言され、その日は大人しく馬車へと戻った。


 流石に疲れちまったよ…。


 ◆


 その翌日、朝起きて顔を洗っていると水を張っている桶の中を覗き込む。そこに映し出されていたのは自分の首回りに腕。

 そう、そこには自分の首筋辺りに噛み跡があった。それも3箇所も。持ち前の生命力で血は止まっており、塞がり掛けてはいるがまだ跡が残っている。


(…1人しかいねぇ)


 もうこの犯人は分かっている…()しかいない。


「おい、レティシア。夜噛みやがったな!見ろ、この首と腕を!いくら何でも噛みすぎだろ」


「…………何を言っているのか、私には分かりませんね。顔洗ってきます!」


「おぉい!逃げるな……って足速ぇ!」


 俺の脇を縫う様に通り抜けて馬車から降りる彼女を恨めしそうに見る。そんな俺達の様子にトキとおっさんは腹を抱えて爆笑していた。


「カカカッ!本当にお前さんら付き合ってないんよな。狼獣人の噛み跡なんて相当なもんなのにねぇ!カーカッカッカッ!!」


「仲良いなお前ら、おっさんも若い頃はそんな青春したかった…早く嫁見つけよ…」


「笑うな!後、おっさんは頑張れ!」


 こうしてゆらゆらと馬車に揺れながらの旅は続く。その後、そろりそろりと帰って来たレティシアの頭をぐりぐりといじり倒して不貞寝してやった。


 ◆


 もう何度目かの朝日を浴びて川で顔を洗っていると背中に俺を呼ぶトキの声が刺さる。


「いよいよ、もうすぐヒガリヤに着く頃合いだねぇ。別れは寂しいがなかなか楽しかったよ」


「そうか、もう着くんだったな。トキもレティシアと仲良くしてくれてありがとう」


「あの子がなんだか可愛くてねぇ…あたいは可愛い子は好きなんだ。お前さんみたいに強い男も好きだけどね?また今度、手合わせ出来るならお互い全力で戦おうか。その時は私の本気、見せてやるよ」


「えぇ、マジかよ。あれで本気じゃあ…ないよな、余裕そうだったもんなぁ。アハハハ…まあ、次は俺が勝つ」


 目を合わせれば強者との闘争に心が躍る自分がいる。目の前にいる爛々と瞳を輝かせている彼女も飢えた獣の目をしていた。


「約束だよ。勇者の息子はこの後どんな成長をしていくか気になるしねぇ」


「勇者の息子…?」


「誤魔化さなくてもその顔を見ればわかるよ。ミナトとツナにお前さんそっくりだからね!カカカッ!」


 彼女はそう言い残すとレティシアの元へ行ってしまった。

 親父とお袋を知っている?俺の親父とお袋の名前は島を出てから人に喋った事なんてない。それは仲間のレティシアにもだ。


(トキ、アンタは一体何者だ…?)


 疑問を残したまま、俺達はヒガリヤへ到着した。道中、顔を合わせる機会など沢山あったが質問してもはぐらかされてしまった。


「じゃあ、あたいは此処で!次会った時を楽しみにしている」


「ええ、トキさんもお元気で。今度は必ず私が勝ちますから」


「嬉しいねえ。さてとアルバルト!あの事を教えて欲しかったらあたいに勝ってみろ。あたいを認めさせたら教えてやる。じゃあ、お前さんら達者でな!」


 トキは斧を担いで人混みに消えた。商人のおっちゃんもまた会ったら声を掛けてくれと言って別れる。


 何だか一緒に共にした仲間と言える存在がいなくなった様で少し悲しい。

 最後の最後まで彼女は教えてくれなかったが…勝ってみろか。手合わせでも遊ばれてた気がしたが恐らく今戦っても負けるという事は確信出来る。


 何回ぶちのめされた事か…。


 ウジウジ考えても仕方ない事だ。俺らしくもない。考える必要がないまで俺が強くなれば良い話だしな。

 意識を切り替えて今自分が出来る事をこなそう。色んな発見が出来るかも知れないと自分の目で今いる光景を眺める。


 山を切り取って出来た国らしく、鉱石も沢山取れるらしい。あちこちからカンカンと鉄を打つ音が聞こえてくる。職人が多い国だとおっさんが教えてくれた。

 そして此処からでも見える大きな時計塔がある。時計のすぐ下には大きな金色の鐘が付いていた。


「ここがヒガリヤか、思ったより結構暑いな」


「私の予想よりもずっと暑いですよ」


「それな。今って秋から冬に変わっている筈だけど、全然寒さ感じないわ」


「…取り敢えず、最初は宿を確保しに行きましょう。もうすぐ剣舞祭があるそうですので空きがあると良いですね」


「そうだな、まずは宿を探そう。それからこの国を見て回ろうぜ!」


 俺達は宿を探すために人に聞き込みをしながら探していく。

 人がこの時期は多い事もありなかなか空いている宿が見つからない。


 宿がようやく取れた頃には身体がクタクタになっていた。



アルバルト

ドエレェ姉ちゃんがいたもんだ。あの腹筋…憧れるぜ。


レティシア

ガブりストの達人。

人を起こさずにガブれる才能を持つ女。

アルバルトからは畏怖の念を送られている。


トキ

褐色肌の虎獣人。お酒が大好きでいつも腰には酒の入った瓢箪をぶら下げている。

可愛い物好き。


商人のおっさん

この道、30年。そろそろ嫁が欲しいとぼやく事も…。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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