第69話 孤児院のみんなとお別れ
いつでも動けるようにと昨日の内に纏めた荷物の最終確認を終える。
まさかマリアにバレていたとは…俺がいたら此処にも迷惑がかかるかも知れない。夜は遅くて暗い。移動するにしても魔物がうじゃうじゃいる夜は危険すぎる。ひとまずは寝て朝に出立しよう…人混みに紛れれば目立たなく行動出来る筈だ。
横になるが不思議と眠気は襲ってこない。緊張で目が覚めてしまっているからだ。
しばらく天井を眺めているとドアを開ける音が聞こえた。誰だと警戒すると枕を持ったミミちゃんとレティシアの姿があった。
お別れが早まると聞いたミミちゃんはうっすらと涙を浮かべながら近寄ってくる。
「夜分遅くにすみません。今日だけは一緒に寝て頂けませんか?ミミさんが泣いてしまって眠れないんです」
「あぁ、良いぞ。ほら、俺の布団に入って」
「うん……」
「レティシアも夜は冷え込むからさっさと入ってくれ」
「失礼します」
ズボッとミミちゃんが布団の中に入ると腹当たりに温かい体温が来る。決して泣き顔は見せたくないと我慢する強さがそこにはあった。
「ごめんな、思ったよりも早くお別れになっちまってよ」
「大丈夫、ミミはもう立派な大人だから。でも、たまには会いに来て」
「ああ、絶対にまた会いに来る…約束する。だから今はお休み」
「ゔん、おやずみ」
シクシクと布団の中から泣く声が聞こえる。レティシアも布団に入り、布団の上からポンポンと優しく叩いて落ち着かせる。数秒もあれば泣き声は聞こえなくなり、規則正しい息遣いが聞こえて来た。どうやら寝てくれたみたいで安心した。
ミミちゃんが寝た事でレティシアに相談する。
「悪かったな、俺のせいで慌ただしくなった」
「落ち込まないで下さい。仕方のない事です。生まれは…どうしようもないですから」
見間違いだったかも知れないが、レティシアの顔に少しだけ影が落ちていた気がする。まだ、俺に対して思う事もあるのかもしれない。
うつ伏せで枕に顔を埋めて考える。この王都でも、鬼人族がいると知られれば悪い考えを持つ奴もきっと必ず現れる。俺達の身体は凄い薬になるらしい。鬼ヶ島の村ではバレたら逃げろと口を酸っぱくして言われるのはその為だ。
力はあり、戦闘狂な所もあるが、悪意には弱い。基本脳筋だから知恵の回る奴に漬け込まれたら終わりだ。それは鬼人族の中では常識となっている。だからバレたら戦わずに逃げろなのだ。
「レティシア、ありがとうな。明日には此処を立つ。これ以上、此処に迷惑は掛けらない」
「…ですね。私はまだ寝れる気がしないので、子供達全員に手紙を書くとしましょう。紙とペンを持ってきます」
レティシアは一旦、布団から出ていく。確かに何もなく出ていくのは良くない。
ラーナさんとハルゲルにお詫びも込めて袋から金貨を1枚を取り出して部屋に置いていく。懐は結構寂しくなるが、それくらいのお詫びはさせて欲しい。
レティシアが持ってきた紙とペンを借りて眠れない夜を過ごしていく。書き終わったら睡魔が襲ってきたので少しだけ寝る。レティシアもいつの間にかすぅすぅと寝てしまっていた。
早朝、朝の日差しが顔を照らす。眩しさに目を覚ませば、ミミとレティシアの姿がない。
ひとまずは着替えてレティシアを探す。するとラーナさんの手伝いをしていた。
「おはようございます。アルバルトさんもご飯を食べてから行きますか?」
「折角作ってくれたんだ、頂こう」
俺も子供達の寝起きの顔に濡れたタオルで拭いていく。
朝から元気に駆け回る子供を見るのが日課になってしまった。この光景も暫く見れなくなると寂しく感じる。
こうして子供達に囲まれて食べる最後の朝食を充分に味わう。食べ終わり、荷物を纏めてみんながまだいるだろう部屋に向かう。そこに居たハルゲルのおっさんやラーナさん、それから子供達にお別れを言い放った。
「突然だが、俺達は今日から此処を立つことになった。散々迷惑かけていたのに申し訳ない。詳しくは言えないけどまた必ず寄るから許してほしい」
頭を下げる。手紙は先程ハルゲルとラーナさんに預けた。2人はもう行くのかと察していたが口には出さなかった。突然の宣言に子供達の中にはちらほらと泣いている子がいた。大きな子がまだ小さくて泣きじゃくる子をあやしている。
「次に行くところは決まっているのか?」
ハルゲルはラーナさんに子供達を任せて聞いてくる。レティシアは子供達に囲まれて一人一人にお別れを言っていた。
「ヒガリヤに行こうと思う」
「ヒガリヤか…あそこはいい武器や防具が揃っている。確かもうすぐ剣舞祭っていう武道大会が開かれる筈だぜ。詳しくは知らねぇが、優勝者にはタダで最高級の品を作ってくれるらしいから頑張れよ」
バシッと背中を叩いてくるハルゲル。やめろよ、おっさんなりの激励に涙がうるっときちゃうじゃないか。
「レティシア、そろそろ行こう」
「分かりました。じゃあ皆さん、次に会う時は立派な男の子と女の子になっているんですよ。お姉ちゃんからの約束です!」
わらわらと集まっていた子供達とレティシアは約束をしたようだ。朝日が登り始めて来てザワザワと街から音が聞こえ始める。
「では、色々とお世話になった!本当にありがとう!!」
大きな声で手を振って全員に伝わる様に声を掛ける。するとハルゲルが一歩前に出てきて手から此方に向かって何かを投げる。
くるくると飛んでくる物体を取り、手を開ければそこには置いてきた筈の金貨があった。
「ミミが見つけてくれたんだ。水臭い事するんじゃねえよ!俺達の方もガキ共の面倒見てくれて助かったんだ!それはそのお代だ、取っておけ!またな、アルバルトにレティシア!!」
「また来な!何時でも歓迎するからね!」
「はいっ!ハルゲルさん、ラーナさんお世話になりました!では、お元気で!」
ばいばーいと子供達も跳ね回る様に手を振ったりしている。心が温かくなる。
「お兄ちゃーん!!お姉ちゃーん!!私も大きくなったら冒険者になるぅぅう!!!だからそれまで元気でねー!!!」
ミミちゃんの必死な叫びに手を上げて返事をする。絶対振り向けない。振り向いたら涙が出てきてしまいそうだ。
「絶対また来ような」
「はい、可愛い妹分も出来ましたし、絶対にまた来ましょう」
「あぁ……クソ、涙が止まらねぇ…」
「全く、カッコつけるからですよ。このハンカチを使って下さい」
「…すまん、後で洗って返す」
レティシアから白いハンカチを受け取って目元を拭く。涙を流した事で気分も晴れたのか、少し清々しい気分になった。
「…よし、次の目的地はヒガリヤだ!」
2人はまだ寒い朝の空気に包まれながらヒガリヤを目指す。
彼らが立ち去った日、手紙を読んだ子供達はその日、大いに泣いた。ハルゲルは元気でなと心の中で呟くと泣いている子供達を慰める。レティシアと仲良くなったラーナも少し寂しそうだった。
ミミはハルゲルから渡された手紙を読んだ。仲良くなってありがとう。大切な妹が出来て嬉しかったと書いてある2人の言葉に目に涙が滲む。溢れ出しそうな感情を鎮める為に頬をバチンバチンと叩いて笑う。
「大丈夫、大丈夫!私も立派な冒険者になる。だから私がみんなを元気づけてあげなくちゃ!!」
そう言ったミミだが、彼女の通った道にはポツポツと水の跡が残っていた。
「…じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
今にも消えそうになりそうな声は誰にも聞かれずにし姿に消えていった。
第二章 神が堕ちた日は此処で終了となります。
魔王ヘリオスとの戦闘後、変わりゆく日常。彼らは王都から逃げる様に旅立ちを決意しました〜。更なる困難がアルバルトを襲う。
次回、第三章 ヒガリヤ編へ突入!引き続きお楽しみ下さい笑
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