第68話 修羅場
飲み物を取って寛いでいたら横から知っている声が聞こえた。
「お久しぶりですね、アルバルト様。先程のダンス見事でしたよ!」
「うん?…って何だマリアか。隣にいる女性は?」
「マリア様の護衛をしているヴィーラと申します。私には敬語は不要ですので気安くヴィーラとお呼び下さい」
マリアは金髪が生える様な白いフリルがついたドレス。ヴィーラは紫の髪と同じ色の光沢があるドレスを着ている。どっちも似合っていて少しの間見惚れてしまった。
綺麗な衣装に身を包んだ淑女達に見惚れていた事がバレない様に澄まし顔で言葉を紡ぐ。
「ヴィーラか宜しくな。ドレス、2人とも良く似合っているよ」
「ふふっ、ありがとうございます。アルバルト様もよくお似合いですよ」
「顔に傷がある女には過ぎる言葉だ…だが礼は言っておこう」
照れ気味に目を閉じて仄かに頬を赤くさせるヴィーラをニヤニヤとマリアは見つめている。
…それにしても顔に傷か。確かに下顎から頬にかけてうっすらと線状みたいな跡が残っている。そこまで気にする必要あるか?俺は別に全然綺麗だと思うが。
「いや、それでも綺麗だって事だ。今のアンタはとても魅力的だ。自信持てよ」
「あ、ありがとう……殿方に面と向かって言われるのは初めてだからな」
自信を持って言える事だからな。彼女がブサイクなら美人なんてこの世から居なくなるだろうし。何で誰も言わないのか…俺には分からん。顔を真っ赤にして可愛い。
「ふふ、可愛いですよね。此処では何ですから外でお話ししませんか?きっと静かで涼しいですよ」
「そうだな。踊って身体が熱くなってたから丁度いいかも」
2人に案内をしてもらい、会場と隣接された人が踊れそうなぐらい広いベランダへ移動する。風が吹いていて熱くなっていた身体には丁度良くて気持ち良かった。
「お〜、涼しいな」
「風が少し吹いているみたいですね」
風に暫く当たっていると熱くなった身体が少し冷えてきた。そろそろパーティーに戻らなくては、レティシアがきっと探しているだろうからな。
「ヴィーラ、少し踊ります。それと例の物を持って来て下さい」
「御意」
ヴィーラはマリアの命令を聞くと先程入ってきた扉へ向かって会場に戻っていった。
「さて、アルバルト様。私と一緒に踊って頂けますか?」
カテーシーをするマリア。いつの間にか3曲目の始まりが聞こえて来るし、レティシアの姿も見えない。
「ほらほら、これで演奏が始まってますから一緒に踊りましょうよ!それとも…女性に恥かかせる気ですか?」
口に手を当ててうるうると目に涙を浮かべているマリアを見てため息を吐く。
「お前、流石にあざと過ぎだろ」
「もー、良いんですよ。たまにはこうして息抜きしないと聖女なんてやってられないんですよ!」
ぷりぷりと怒り出すマリアを見てクスッと笑った。いちいち反応が面白い聖女様だ。
「……聖女様ってのも大変そうだ。まあ、前みたいに転けたりしなきゃいいけどな?…ではレディ、お手をどうぞ」
「意地悪ですねぇ。はい、どうも」
先程と同じで腰に手を回して踊る。相変わらず力は強い様で俺がマリアにリードをされている感じになっている。考えてみれば、俺の周りって肉が好きで力がめちゃくちゃ強い女の子、多過ぎでは…?
「お上手ですね。何かそう言う経験がお有りですか?」
「いや、単純にマリアが上手にリードしてくれるだけだろ」
「そうですか…やっぱり貴方はお優しい方ですね」
そう言うとグイッと更に身体が密着する。俺の胸に大きな柔らかい物が潰れる感触が…マリアが抱きついて来たのだと認識するのは一瞬だった。
「お、おい!?」
「…お静かに。ねえ、アルバルト様。私の質問に正直に答えて下さい」
マリアの身に纏っている雰囲気が変わる。その妖美な声は俺の脳を揺らしてくる。
「あの日、王都が魔王に襲撃を受けた日です。貴方は女神像の広場にいましたか?」
「あ、ああ。あの日は女神像の所にはいたが、他の冒険者達もいたぞ」
一体、何が始まっているんだ?さっきまでの明るく優しそうな彼女は居なく、そこには感情を殺し、淡々と質問をするマリアがいた。
「嘘は言ってないですよね…?私、魔王があの場所に出現した時、貴方のパーティーメンバーしか見ていないんですよ」
「……その前に犬の魔族がいた時はいたんだよ。その魔族との戦闘で負傷した人が多くてな、残っていた冒険者達に運んでもらっていたんだ」
「…まあいいでしょう。では次に、本当は私達の味方ですか?それとも敵ですか?」
俺とマリアの身長差は頭一つ分違うが真っ直ぐ此方を見上げる目を見ていると此方が見下ろされている感覚に陥る。この子の真意が分からない。
「本当にどうしたんだ…さっきから一体、マリアは何が言いたいんだ」
訳が分からず、マリアの肩を掴むと力を入れ過ぎたのか、彼女が眉を顰める。
「痛っ」
「あっ、悪りぃ…」
咄嗟に手を離すと腕の反動で後ろに体重がかかり、思わず身体が仰け反ってしまう。その隙を見逃さなかったマリアは体重を此方に掛けてきた。俺の身体は支えきれなくなり、床に押し倒される。
「私、知っているんですよ。貴方が魔王の息子であり鬼人族である。そして勇者様って事を…ね?あれに見覚えはありますよね?」
彼女の目線を追えばそこにはヴィーラが見覚えのある剣を両手で持って入り口前に佇んでいた。
「あれ、は…」
「そう、貴方がキドウという鬼人族から譲り受けた物でしょう?もう言い逃れは出来ませんよ?私は貴方の全てが知りたいんです」
鼻先と鼻先がくっつくほど近い。やばい、マリアは確信している。俺が鬼人族だという事を知っている。アホっぽい彼女だからと油断した。まさかこっちが本性なのか?
「俺は…」
証拠を握られている。彼女の目からは絶対に逃がさないという思惑が見て取れる。観念して続きを言おうとした時、俺達の頭上からゾッとする様な冷たく低い声がかかる。
「なにを、しているんですか?私に教えてくださいよ、ねぇ?」
その瞬間、体に張り巡らされた全神経が警戒を鳴らす。素早く鬼人の力を解放して腕の中にいるマリアを引き離し、後ろを振り向けばメラメラと怒りに燃えているレティシアさんがそこにはいた。まだ宴の曲は終わっていない。
「あ、あのレティシアさん?…これには事情があってだな」
「…少し黙ってくれませんか?私はこの人に話しかけているんですよ」
やばい、完全にブチギレてらっしゃる。耳と尻尾はピンと立っている。獲物を前にする狼みたいに恐ろしい。
だが、マリアも負けてなかった。レティシアに対抗する様に胸の下で腕を組んでレティシアを威圧する。
「あら?まだ質問に答えて頂けてないのですが、仕方ありませんね。貴方はあの時私達が助けた冒険者ですよね?鬼人族に連れ去られてから心配していたんですよ」
「…あの時は私も助けて頂いてありがとうございます。あの鬼人族は私を抱えてあの場から離れた後、蹲って動かなくなったので隙を見て逃げ出しました。ご心配をおかけしてすみませんでしたね」
バチバチと火花が彼女らから見えるのは現実かはたまた幻想か。
「それは運が良かったですね。ですが、嘘は良くありませんね?私とヴィーラはそこの彼が鬼人族だと確信しています。証拠もあるんですよ」
「証拠ですか?あそこにいる女性が持っている剣なら、確かに似たような物をアルバルトさんは使っていましたがそれだけで決めつけますか?」
マリアは言っていた。あれがキドウという鬼から譲り受けた剣だと。俺の事はもしかしたら徹底的に調べ上げられている可能性が高い。聖女という肩書きを持つ彼女を敵に回すとなれば、今俺の為に嘘をついているレティシアに罰を与えるかも知れない。
それだけはダメだ。
「レティシア、一旦落ち着こう。…もうマリアは全部分かっている。俺達が嘘を重ねた所で罰せられるかも知れない」
「ですが!」
レティシアの肩に両手を置いて耳元で冷静になれと小声で喋る。怒りが収まるように頭を撫でてこれ以上何も言わない様に黙らせた。
「ーー我々は全部分かっています。だからこそ、敢えてアルバルト殿の口から聞きたいと思っております」
マリアのそばにいつの間にかヴィーラがいる。持っていた剣は預けてきた様だ。足掻いた所で事態は好転なんかしない。ならば、俺の知っている事を話そう。まだ彼女達を俺は信じたい。
「俺は人と鬼との間に生まれた鬼人族の落ちこぼれ、所謂半端者だ。で、お前らはこれから俺をどうしたい?」
「先程から申し上げている通りですよ。貴方は私達の敵ですか、味方ですか?それだけが知りたいんです」
敵か味方か。その為に人が少ないこの場所へ案内したのか。…まさかこの宴も俺達を誘き寄せるための罠じゃないだろうな。
考えが顔に出ていたのだろうか、マリアは俺の思っている事について答える。
「そうです。思っている通り、これは貴方を誘き寄せる為の罠。あの貴族達はアルバルト様とそのお仲間を引き離す布石そのもの。まあ、私1人だけ参加するなれば、他の貴族達が五月蝿そうでしたしね?此方もまさかつい最近まで貴方が意識不明だったなんて思いもしませんでしたが…唯の宴にならずに済んで良かったですよ」
ニコッと笑う。こいつ、やっぱりとんでもない腹してやがる。隣にいるヴィーラは申し訳なさそうにしているのが印象に残った。
「つまりはノコノコとやってきた俺が馬鹿だった訳だ…なら答えてやるよ。俺はお前達に敵対するつもりもないし、魔王を倒す力を付ける為に旅を続けていくつもりだ。どうだ、信じるか?」
「ええ、信じます。だってこの指輪が光っていないんですから」
「指輪…?」
マリアが右手に付けているのは蒼い宝石が埋め込まれている指輪だ。あれが何だと言うんだ。
「この指輪は真実を見抜く魔導具でして本当の事なら光りませんが嘘だったら少しだけ光るんですよ」
まさか嘘発見器まであったなんて、どれだけ用意周到なんだ。思わず戦慄する。
「ふふっ、そんなに怖がらないでくださいよ。私達の仲ではありませんか?でも、これでいい報告が出来そうで良かったです。ではまた、お会いしましょうね!」
「こんな騙す様な事をして済まない!彼女も本心ではない筈なんだ。武器はあそこで警備をしている兵士に言ってあるから帰りに取って行くといい」
そう言い残してヴィーラはマリアを追って出て行く。彼女らが去っていくのを見届けるとレティシアが伝えたい事があるとアルバルトに向き直る。
「アルバルトさん、ひとまず帰りましょう。ここに長居するのは危険です」
危険…マリア達の事を言っているのか?
そう聞けば、レティシアは首を横に振る。
「噂です。アルバルトさんが見えなくなってから私は会場を探し回りました。その時、噂を耳にしたんです」
「う、噂…?」
「あの会場にいた貴族達がコソコソと何人か集まって話していたんですが、少し聞き取る事が出来ました。それは魔王を退けた鬼人族がその会場にいるのでは?という話でした」
心臓がドクンッと音を立てた気がした。いや、きっと今自分の心臓は激しく動いているのだろう。嫌な汗が止まらない。
「そしてアルバルトさんの名前も…噂されている容姿が全く似てないとはいえ、先程の聖女様が接触した事で此方を伺っている視線もあります」
視線…確かに此方を探る様な、値踏みする様な視線が感じられる。目が合えば、そっと目を逸らされた。
「…今は何も無いですが、彼らから接触して来るのは時間の問題です。可能なら荷物を纏めて此処を出来るだけ早く出立しましょう」
「そう、だな。ハルゲル達には悪いが予定よりも早く出よう」
降り注がれる視線を張り切って俺とレティシアは会場をすぐに後にする。話し掛けて来たユージーン達に断りを入れ、剣を回収して急いで孤児院に帰っていった。
レティシア
何処ぞの雌が私の男に手を出している…牽制しなきゃ(使命感)
マリア
味方か、敵か…
良かった、少なくても敵じゃない!
面白そうだし、ちょっとからかってみよう。
◆
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