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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第67話 王城の宴

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 王城でパーティーが開始される5分前、俺達冒険者は門の前に集合していた。


 事前に配られていた招待状を門番に提出し、中に入る。男女で別れ、武器がある人は執事さん達に預けてボディチェックを入念に行われる。


 それが済めば、今度は服装を王城で貸し出してくれるらしい。


 タキシードが所狭しと並べられ、色やサイズもかなり揃えられている。


 取り敢えず黒い髪と合わせる様に黒を選択して着替え、最終確認で軽いボディチェックを行う。それが済んだらようやくパーティーの会場へ足を踏み入れる事ができた。


 ちらほらと男性の冒険者はいるのだが女性の冒険者はまだ見えない。男と違って化粧や着替えに時間が掛かっているのだろう。


 キョロキョロと会場を見渡せば、ハルゲルとユージーンが話していた。しかも結構仲が良さそうに見える。


「お前、またよく知りもせずに突っかかったらしいじゃねえか」


「もうそういうのは辞めたよ。友人のお陰で僕はようやく目を覚ましたのさ」


「ほう、やっと聞かん坊だったお前が成長したんだな。で誰だそいつは?」


「ああ、えーと…そこにいる彼さ。おーい、アルバルト!こっちに来てくれ!」


 向かう途中でユージーンに手を振られたのでこっちも手を振りながら近づく。


「こいつの友人ってお前だったのか、アルバルト」


「彼を知っていたのかい…?」


「知ってるもなにも俺の所で世話してやってるんだ」


「そうだな、良くしてもらってるんだ。俺も驚いた。ハルゲルのおっさんとユージーンは知り合いだったのか?」


 まさか2人が知り合いだなんて思わなかったから意外だ。意外と世間は狭いなぁ。


「そうだ。こいつがまだCランクの時に世話を焼いてやったんだ。まさか最年少でBランクに上がるとは思ってなかったがな」


「…辞めてくれ。僕はもう最年少じゃないんだ。彼に抜かされてしまったからね」


 それもそうだとゲラゲラと笑うハルゲルに釣られて俺達も笑う。


「そういえばアンタらも呼ばれたんだな」


「おうよ、俺は冒険者ギルドの近くにいた魔族を倒してな。こいつも大量発生した魔物を住民の避難が終わるまで大立ち回りしていたらしいぜ」


 ハルゲルがユージーンの肩を組む。それを嫌そうにユージーンが顔を顰めていた。


「ハルゲル、暑苦しいから離れてくれ。…どうやらお姫様達のお出ましだ」


 ガタッと開かれる大きな扉から一斉に女性陣が出てくる。肌の露質が少ない物から大胆に胸元が開いた物まで様々だ。


 レティシアとミリアは仲良さげにこっちに歩いてきた。どうやらラーナさんは此処にはいないっぽいな。


「どうでしょうか。あまりこういうのは着た事が無かったので変、ではないですか?」


 上から下へよく観察する。腰まであった髪はアップにして纏めている為、白いうなじが見える。袖は長く、胸元には白い花があしらってある。そこから伸びる曲線は彼女のスラっとした体型を表しており、幼さを残しながらも大人としての妖美を感じる仕上がりだ。


「まあ…その、なんていうか…とても綺麗だ」


「ふふっ、ありがとうございます。アルバルトさんもかっこいいですよ」


 照れ臭くなってユージーンの方を見れば同じくミリアに感想を聞かれている様だった。ミリアは胸元を大きく開けたドレスにフリルがあしらってあり、大胆な格好をしている。


 おっふぅ、眼福です。ありがとうございます。


 バレない様に数秒、目を閉じてお礼を申し上げる。良いものを見せて貰った。


 馬鹿な事を考えているとユージーンは開け過ぎだと指摘している。


 デリカシーというものを知らないのかアイツは…ほら見ろ、ミリアも怒りで顔が真っ赤だぞ。


 案の定、ミリアのストレートでぶっ飛ばされたユージーンを見捨ててレティシアの方に歩み寄る。


「見たところ冒険者以外にも貴族様達がいるみたいですね。あちらにダイノール伯爵もいます」


「ダイノールってソラのお父さんだっけか?」


「そうだぜ。この前、俺と嬢ちゃんが偶々知り合ったんだ。それにしても嬢ちゃん…かなり化けたな。一瞬、何処ぞのご令嬢様かと思っちまったぜ」


 ハルゲルの言う事はよく分かる。俺だってかなりびっくりしている。彼女の良さを最大限に引き出してめちゃくちゃ綺麗に仕上がっている。他の冒険者の女性陣もそうだ。


 流石は王城で働く人達だ。その腕前に感激さえ覚えてしまう。


「やあ、ハルゲル殿にレティシア嬢。またお会いできて光栄だ。それと君は初めましてだな?私はダイノール伯爵家当主、ウレスト・ダイノールだ。宜しく頼むよ」


 先程話していたソラの父親が挨拶をして来たのでこちらも返すとしよう。


「初めてまして、俺はアルバルト。御子息様とは仲良くさせて頂いてます。こちらこそ宜しく」


 差し出された手を握って相手の目と目を合わせる。その目は此方を値踏みするかの様な印象さえ受ける。ずっと見てたら、その綺麗な瞳に吸い込まれそうだ。


 手を離して軽く話せば、意外と気さくな方だった。友人と接するみたいにしてくれと言われ、多少は警戒しながら話していた。


 人柄が良いのだろう。案外すぐに打ち解けてしまう。穏やかで話しやすく、ハルゲルやレティシアとも会話を楽しんでいる。


「此処には冒険者達しかいないと聞いたのですが、どうしてダイノール伯爵達が此処に…?」


「そうだな…何でもこの場に参加したい貴族が何人も声を上げたらしい。私もそれに便乗した内の1人さ、恐らくは私と同じ引き抜き目的だろう。女神様の加護もない今、自分の身は自分で守るしかないからね」


「成る程な、此処にいる連中は神が堕ちた日で戦い抜いた猛者が多い。そいつらが集まるこの宴はまさに絶好の機会という訳か…」


 確かに周りを見渡せば、明らかに冒険者だとは思えないほっそりした人からでっぷりとした御仁までいる。その人達は屈強な男性や美しい女性に声を掛けている。ユージーン達も声を掛けられている様だ。


「だからこうして私が近くにいる事で貴方方に話し掛けたい連中は近寄って来れないのさ。ここにはBランクの凄腕冒険者が3人もいる。私が離れたら恐らく声が掛かる事だろう」


「確かに私達を見る視線が多いですね…」


「あぁ、ったく嫌になるぜ」


「はははっ、こればかりは仕方ないさ。私だって逆の立場ならそうする。まあ、我欲が強い連中が多いから気をつける様に」


 ーー見られている。その顔は期待や驕りなど様々な感情が見て取れる程、散りばめられている。


 俺も気を引き締めていこう。いい様に利用されるのは御免だしな。


「それとコレは提案なんだが、もし君達が良ければ私の元へ仕えてくれはしないだろうか?」


 ウレスト・ダイノール伯爵の忠告はありがたい。だが、それはそれとちゃっかり交渉するあたり、流石は貴族様だ。


「俺は家の者と仲良くして貰っているからな。仕えるのは無理だが、協力ぐらいは出来る」


「俺達は近々、此処を発つつもりだからな…ハルゲルのおっさんと同じで協力する事なら出来るかもしれない」


「心遣い感謝する。ならこれからも仲良くして頂きたい。もし引き抜きでしつこく何か言われたなら、私の名前を出すと良い。それで追っ払える筈さ」


 互いに話し合いが終わった所で静かにするようにと兵士の大声が会場へ響き渡る。


「どうやらようやく始まるみたいだ」


 そう一言、ダイノール伯爵が呟いた時、扉から赤いマントを羽織り、手には青い宝玉が付いた杖を持つ長い髭を貯えた老人がこの会場へ入ってくる。


「こほん…儂はこの国を治めておるアーサー・フォン・エウロアエじゃ。皆の者、本日はよく集まってくれた!よくぞ我が国を救ってくれた事、王として礼を言う。感謝の意を込め、ささやかながらこの場を用意させて貰った!此度は大いに飲み、食べ、踊り、日頃の疲れを癒やして頂こうではないか!おぬしらの勇気に祝杯を上げよ!!」


「「「うおおおおおお!!!」」」


 その老人…アーサー・フォン・エウロアエ王の貫禄は凄い。会場は広いが、それでもよく通る声で聞きやすいし、会場からは興奮した冒険者達の大きな雄叫びが広い空間で木霊する。


 エウロアエ王の挨拶が終わり、続々と料理が運ばれてくる。飲み物はメイドさんが歩いて回り、渡してくれた。


「さて、私はこれで失礼させて貰うとしよう。まだまだ声を掛ける冒険者は多いからね」


 そう言い残してダイノール伯爵は他の冒険者の所へ去っていった。


「俺達もせっかくだから食いに行くか…」


「はい、私はアレがいいと思います!」


 ビシィッと指で示した方を見れば、ローストビーフっぽい感じの肉があった。食べやすい様に肉が薄くスライスされている。


「おおぅ…また肉かぁ、タレが掛かってて美味そうだし、いいんじゃねぇか?」


 レティシアを連れ立ってそのローストビーフっぽい何かを貰う。他にも美味そうなものがあったので貰いに行き、俺達は席に座ってから食べ始める。


「もぐもぐ…美味い」


「流石は王城のシェフが作ったお料理ですね。口に入った瞬間、お肉が蕩けて美味しいです!」


 確かに美味い。過去で食べてきた中で3番目の美味しさかも知れない。


 ちなみに1番目はお袋の料理で2番目はあの日に食ったお粥だ。これだけは譲れない。


 食べては飲んでを繰り返していると顔も知らない人物から声を掛けられる。恐らくは貴族だろうと予測した。


「どうも、私はダレス・ハルバート。男爵家の当主ですが、お時間宜しいですかな?」


 レティシアと目を見合わせる。面倒だが、断る訳にもいかない。此処は話に乗ろうと頷いて改めてその人を見る。ダンディな男性だ。髪はオールバックにしていてカッコいい。


「勿論ですとも。俺の名前は…」


「ーーお待ちを!私は子爵のパレス・ユレスといいまして…」


「失礼する!我が名はケイワード・イリースと…」


 俺の肯定を皮切りにどんどんと周りに集まってくる貴族達に戸惑いながらもレティシアの手を握り、背中に彼女を隠して対応する。


 聞けば、ただ単純な話だ。誰も彼もが皆、領地に来ないかという誘い文句だった。正確には俺ではなくレティシアを誘いたいみたいだ。さっきから彼女の方ばかりに視線を向けているので分かる。


 彼らに大人気の彼女もだんだんと顔が無表情になって来ている。


 …これは不味いかも知れない。心なしか俺の手を握る力も強くなってきた。


「でして…是非一度、我が領地にお越しをっ!我が領地名産のハーブティーで歓迎致します!」


「いやいや、私の所は山の幸が豊富でしてな。今の季節はとても熟していて美味しいですぞ!」


「我が領地は綺麗な宝石類が取れると有名でして、きっと可愛いお嬢さんにもとてもお似合いだとこのケイワード確信しております。是非、お越し頂きたい」


 同時に三方から話しかけられてレティシアは最早、絶対零度の様な目をしている。まるで此処から早く抜け出したいというのが見て取れる。それに気付かないのが目の前の3人だ。


「……ふぅ、皆さんとてもありがたい話ですが俺達は先程、ダイノール伯爵様からお声を掛けてもらっている状態でして、申し訳ありませんがまた機会があれば是非とも足を運ばせて頂きたいと思います。では俺達はこれで…」


 レティシアの手を引っ張り、あの暑苦しい集団から抜け出す。


「先にもう手を付けられていたか…」


「伯爵が相手なら引くしかないな」


「ちっ、あの拷問卿相手だと仕方ない。他に行くとしよう」


 後ろで何やら物騒な言葉が聞こえるが気にしない。ダイノール伯爵の名前を盾にこの後も寄ってくる貴族を追い払う。まさにダイノール様々だ。


 ユージーン達が居たので、そのまま合流した。


「なぁ、大丈夫か?何か顔色悪いぞ」


「ユージったら貴族の奥方に愛人にならないかって話し掛けられたんだって。何とか切り抜けたらしいんだけど…」


「その時に嗅いだ香水が少々キツくてね。もう少しで鼻が治るから大丈夫さ。それよりも君達も大変そうだね。見ていたけどかなり声を掛けられていたじゃないか」


 話し掛けられる度に笑顔だったから顔が釣りそうである。ずっと笑顔でいるのも大変なんだよなぁ。


「ああ、それにはホント参った。これじゃあ疲れを癒すどころか疲れが増すだけだわ」


 ホント、何で貴族が此処にいるんだよ。アイツらの見る目、完全にいやらしい目でレティシアを見ていたぞ、許せん。


「全くです。ミリアさんも大変そうでしたね」


「……本当よ。いい歳した大人が鼻の下伸ばして近寄ってくるのよ。他の冒険者だってそう。ユージが側にいてホントよかったわ」


 どうやらユージーンがミリアを守っていたらしい。ハルゲルの姿は見えないがまあ何とかやっているだろう。


 話していると心地の良い音楽が流れて来る。どうやらダンスを踊ってもいい感じだな。他の冒険者達も相手に声を掛けて広い中央広場に集まって踊っている。中には男同士という異色の組み合わせで会場を盛り上げている様だ。


「ははっ、僕達も行こうか。ミリア、手を」


「全く、格好つけちゃって!宜しくユージ」


 2人は手を繋いで向こうに行ってしまった。視線を近くから感じる。見下ろせば、頬を少し赤らめ、期待した目で此方を見ている彼女がいた。


「ダンスは全然だが、それでもいいか?」


「ええ、他の方もああやって派手に踊ったりしていますし、構いませんよ。私も経験はないですから」


 はぁと息を吐いて気合いを入れる。綺麗な女性を誘うのにはかなり勇気がいるのだ。


 カッコつけて片膝を床について頭を彼女よりも低い位置に持っていき、俺が下から見上げて手を差し出す。


「お嬢さん、私と一緒に踊って頂けますか?」


 彼女はびっくりと一瞬目を見開いたが、くすりと笑って手を重ねてくれた。


「はい、喜んで」


 手を取って立ち上がり賑わいを見せている広場へ行く。そこはタップダンスや社交ダンス、激しくそして華麗な踊りを見せている男同士の姿もいた。


 互いに腰に手を回して余った手で相手の手を握り合う。俺は学生時代にやったこれしかダンスを知らない。


 ゆっくりと身体を傾けながら足を踏みだしてステップを踏む。軽く手を握っている方の腕を引けば彼女は妖精みたくクルクルと回る。曲に乗って踊れば何だか楽しくなってきた。曲もいよいよスパートに掛かってきており少し早い。恐らく曲終わりだと思われる演奏に合わせて最後は彼女の身体を倒しながら支えてフィニッシュする。


 1曲目が終わり、あちこちから拍手がしてきた。他の冒険者や踊っていた貴族達も恥ずかしそうにしていた。


 また演奏が始まってきており、2曲目も始まった。近くにいたユージーンが近寄って来る。


「2人ともいいダンスだったよ」


「ありがとうよ。ミリアはどうしたよ?」


「彼女はハルゲルと踊ってる。レティシアさん今度は僕と踊ってくれないか?」


 レティシアに手を差し伸べる。手を取らない彼女の背中を軽く押してやる。


「楽しんで来いよ。こんな機会滅多に無いんだ。それに顔見知りなら大丈夫だろ?」


「…分かりました。アルバルトさんは休んでいてくださいね」


「はいよ。じゃあ頼むぞ、ユージーン!」


「ありがとう。任せてくれ、ミリアに仕込まれた僕がエスコートさせて貰う」


 ユージーンに手を引かれて人混みの中へ入っていく。


 ーー()()()()()


 最近は彼女に依存されているかもと思っていた。それが本当なら良くない事だ。俺も同じで依存していたかも知れない。だからこれでいい。


 俺は少しレティシアから距離を取るべきなんだろう。彼女も俺以外と楽しそうに笑えれば、そのうち生きる意味を見出すかも知れない。


 取り敢えず動いて喉が乾いたので人集りから抜け出して飲み物を取りに行った。


 そこで久しぶりの再会を果たす事となる。

アルバルト

レティシア…なんなんだ、あの可愛くて綺麗な生き物はっ!いい加減にしろ!

可愛くて美人とか控えめにいって最高。

心の中で随分と荒れていた模様。


レティシア

王城のメイドさんが張り切って何回も着替えをさせられて少し疲れていた。

でも、アルバルトの照れた顔が見られてご満悦。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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