第65話 ギルドマスター マルダ
アルバルト達がギルドから出て帰路についている後ろ姿をギルドマスターのマルダはギルドの2階にある自室から見下ろしていた。
「……あれがエウロアエ王が言っていた黒髪の男か。あの程度の実力ならまだ私でも対応出来るが恐らく全力ではないだろう」
窓から目を離して革で作られた質の良い椅子に私は腰掛ける。
「あの時、感じた力の波動…僅かだが、あれは王都に現れた魔族と近しい感じだった。まさかこの元Aランクだった私まで気圧されるとは思わなんだがな」
目の前の大量の資料を整理し始めれば、最近話題に事欠かない黒い牙の情報が書かれた一枚の報告書が目に入った。
「幸いな事に性格は情に厚そうだ。それにあの演説を恥ずかしげもなく言ってのける胆力も素晴らしい」
堂々と、お前なんかにレティシアは渡さん!とユージーンに立ち向かうアルバルトの姿を思い浮かべ、くつくつと笑うマルダは報告書を読んで顔を引き締める。
「まあ、今日の事は上に報告するとして…問題はまだ残っている」
マルダが報告書を机の上に投げる。何処かで隠し撮りされたアルバルトとレティシアの写真が散らばった。
「ーーレティシアという狼獣人の女冒険者。奴と会う前まではいつも無表情で何を考えているか分からないと他の冒険者から苦情も聞いている。そして正式なパーティーを組めずにソロで活動、Cランク相当の実力しかなかったが成人した事で才能は開花。希少種の狼獣人とはいえあの身体能力は化け物だな。そして…」
一口、口を潤す為にコーヒーを飲む。
「私の監視に気付いたあの鋭さ、何よりあの眼。日頃から神経を尖らせている証拠だ。だが、パーティーメンバーの奴だけには心を開いている…か。全く可愛い顔して相当歪んでいるな」
マルダは更にもう一口、コーヒーを煽る。眠気が少し取れた気がした。
父親は神が堕ちた日で行方不明になったらしいが、その分の愛情がアルバルトへと向き、執着している様に見える。
パーティーを組んでそこまで日が経っていないのにも関わらず、半年以上も意識不明な男を看病するなど余程の覚悟がない限り出来る事じゃない。
「そして最後の一文。エレオニア国の女王、タマツキ・エレオニアと血縁関係の疑い有りか…」
明るい茶色の髪を持ち、同じ狼獣人の女。あの少女をもう少し成熟させらたまさに瓜二つかもしれないと思う程、容姿も似ている。
「まあ、確かに似てはいるが偶然の可能性も大いにあるだろう」
はぁとため息を吐いて部屋の天井を見上げる。
「なんでこうも面倒な事ばかり来るんだか」
とりあえず嫌な事は考えずにこの山の様に積まれている資料と報告書達を片付けるか。
マルダは完全に考えを放棄して目の前の作業に取り掛かる。そして今日起こった出来事を声を届ける魔導具で報告し備え付けられたソファーに横になる。
「明日、温かなスープでも食べに行こう…」
魔物や魔族、それから魔王に、鬼人族。聞きたくない言葉のオンパレードにマルダの胃は穴が開きそうだった。
ちなみにこの男、最近髪の毛がストレスで抜け、近いうちにハルゲルという冒険者と同じになるのではと密かに恐怖している。ハルゲルが聞いたら剃っているんだ!と猛烈に抗議しそうだが。
周りに悟らせないのは流石、元Aランク冒険者と言ったところだろう。
レティシア
見られてますね…分かってますよ?
マルダ
えっ?もしかしてバレてんの?
この距離で気付くとかやば過ぎだろ、あの狼獣人…。
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