第64話 Bランク昇格試験3
アルバルトとレティシアの心が一つになり、同時に叫ぶ。
アルバルトは鬼人の力を解放し、ユージーンに向かって突き進む。対してユージーンは槍の有利を活かす為、距離を取りながら突きを放ってアルバルトを牽制する。
そのアルバルトの勇姿にあてられたレティシアは狼獣人の力を限界以上に引き出して拘束を無理矢理力任せに破壊する。
「水よ、荒れ狂え!ウォータースプラッシュ!!」
ミリアはまさか拘束が破壊されるとは思っていなかったのか驚きの表情を見せる。しかし、それはほんの瞬きの間だけ。流石は熟練とも言われるBランク冒険者、すぐに体制を立て直してレティシアから距離を稼ぐ為に水魔法を自分の周囲に向けて放つ。
「このくらい!"疾風"」
レティシアは己のスキルを使って風の様に駆け回る。
(私が今、使えるのは自身のスキルと風魔法、それからあの日、目覚めた魔眼だけ。1秒先の未来が見える魔眼でしたが、その分の魔力消費早めに終わらせます!)
彼女が手にした新しい切り札。それは魔眼というあの強い魔王ヘリオスの攻撃を予測出来る強力な武器だ。
レティシアは己を近づけさせない様に水魔法を放つミリアから目を離さずに接近して隙を見て飛んでくる岩を躱す。
この魔眼は今の私じゃ10秒も使えば倒れるでしょう。でも万全を期すなら使うしかない。
(ーーーならここが勝負所です!)
「"黄金の眼"!」
レティシアの翡翠色の瞳が黄金へと塗り潰される。そして自分が進むであろう進路の地面から水の柱が出てくるのを予測すると、そこを縫う様にジグザグに動いて、ミリアへと接近する。
「…なっ!?私の魔法が見切られてる!」
「はぁあああああ…!!」
「ーーまずいっ、ロックウォール!!」
レティシアが再びミリアの行動を捕捉した。
ミリアの前方を守る様に展開されるロックウォールを予測した彼女は足首を回転させ、素早く遮蔽物のない真横へ飛び移る。
ガラ空きになっているミリアの横腹に全力で蹴りを叩き込んだ。
「……ッ!」
吹き飛ばされるミリアを確認したレティシアは魔眼の使用を止める。彼女の目は黄金から元の翡翠色の瞳に戻った。激しく肩で息をするレティシアはアルバルトとユージーンが戦っている方へ目を向ける。
(…8秒、何とか魔力がギリギリ持って良かった。向こうもキリがつきそうですね…)
そして吹き飛ぶミリアと衝突するのは相方のユージーンだった。
◆
アルバルトの次々来る攻撃に痺れを切らしたのかユージーンは勝負を決める為にスキルを再び発動して迎え撃った。
「"雷槍三連撃"!」
先程アルバルトが躱し切れずに剣で弾いて感電した恐ろしい技がまた彼に迫る。
俺は身体がどんどんと熱くなっていくのとは逆に頭は冷静になって考えていた。奴の攻撃は初動から早い。鬼人の力を使わなくても避けられるのが、二撃目がすぐに来る。
雷槍の初撃を身体を少し落とす事で躱す。そして視線は絶対に彼から目を外さない。もうユージーンは二撃目を出す体制に入っている。
「ーーハァ!!」
繰り出される槍の先端が視界に入る。
大丈夫、落ち着け。よく見れば、まだこれも躱せる。
首を横に倒して紙一重で回避した。その際バチっと電気が僅かに当たるが足を止めるほどでもない。
そして三撃目。躱した先、もう引き構えたユージーンの雷槍が来る。先程は防ぐ事で精一杯だった三撃目も鬼人の力を使えば何とか目で追える。
動きを捉え、魔力を身体に通すと此方も反撃に打って出た。
「"灼熱剣"!更に、"パリィ"!!」
エンチャントで無理矢理火の魔法を剣に宿して槍に纏う電撃を相殺する。その際に持っていた剣が熱に耐え切れず、融解して折れるがユージーンの持っていた槍を僅かに弾き飛ばす事に成功する。槍が弾かれた反動で奴は体勢を崩している。
ーーー此処が勝負所だ。
「歯ァ食い縛れや。この馬鹿野郎がァァァ!!」
「しまっ!―――ガハッ…!?」
拳を握りしめてその顔面に思いっきりぶち込んだ。
一応、鬼人の力は当たる瞬間に切っていたので威力は激減しているが、それでも俺の素の力は人族の中では上位に入る。
その威力は凄まじくユージーンは地面に何度かバウンドしてやっと止まった。そこへレティシアが吹き飛ばしたミリアが追い打ちを掛ける様にぶつかる。
「そこまで!!!この勝負、アルバルト、レティシアの両名の勝ちとする。そして今ここにギルドマスターであるマルダの名を持って彼らにBランク昇格を言い渡す!!」
審判であるギルドマスターのマルダからジャッジが下された。それに呼応する様に見守っていた冒険者達から雄叫びが上がった。
それを尻目にレティシアの元へ行く。彼女の方もなかなか大変みたいだったからな。
「お疲れ様、なかなか強かったな」
「…ええ。お疲れ様です。ミリアさんの魔法には驚かされました。ユージーンさんも強い方ですね…」
「おっと、大丈夫か?」
「すみません…魔力がもう限界みたいで…少し休めば、回復しますから」
「……魔力欠乏か。なら、ちょっと失礼するぞ」
若干ふらつくレティシアの腰回りに腕を回して支える。恥ずかしそうにしながらもしっかりと俺の足に尻尾を巻き付けるのは流石だと俺は感じた…。
それを見た他の冒険者が冷やかして来るが無視だ無視。
(とはいえ、俺も気を抜いたら倒れそうだ)
そんなふらふらの俺達に近づいて来たのは審判をしてくれたギルドマスターだ。こうして見るのは初めてだが、ダンディな雰囲気の男性だ。
「君達の勇姿、解くと見せてもらったよ。私はマルダ。このギルドのマスターだ。何か困った事があったら遠慮なく頼るといい」
差し出された手をしっかりと握る。俺の手をガシリと握るとレティシアの手も握る。
「ああそうだ。貸し出した剣については壊れてしまったからな。後で罰金として銅貨50枚を受付嬢に納めるように…それとBランク昇格おめでとう…ではこれで失礼する」
そう言うとマルダは訓練場から出て行ってしまった。貸し出しは無料だが、壊したら罰金…まあ、Bランクに上がる為の必要経費だった、としておこう。
ギルドへと戻るマルダに引き摺られる様に見ていた冒険者達も引き上げていく。中には女性に頭部を叩かれ、頭を抱えている奴もいるが自業自得だと思う。
そして俺達に近づく影がもう一組、ミリアとユージーンだ。
「Bランク昇格おめでとう。流石に私達が負けるなんて思わなかったわ。この借りはいずれ返させて貰うから…覚悟しておいてね」
「ミリアさん…ありがとうございました。あの時は私が言い過ぎたと思います……すみません」
「いや、いいのよ。私もレティシアさんのお陰でちょっと考えてみようと思ったから…」
2人は微笑み握手を交わす。そんな彼女らを見ているとユージーンに声を掛けられた。
「その…すまなかった。僕は君達に色々と酷い事をしたと思う。君達のやり取りを見ていたら、君がとても悪い奴にはどうしても見えない」
ユージーンは膝を折り、地面に頭を擦り付ける。
「事情も深く知らないで君達に散々な事を言ってすまなかった!この通りだっ!!」
男のプライドを捨ててまで土下座をするユージーンを見て俺達は顔を見合わせた。
どうやら彼女はもう怒っていない。困った様にユージーンを見下ろして俺と目が合うとコクリと顔を縦に振った。
(レティシアが許すならいい…それにこいつなりに彼女を守ろうとしたんだよな)
悪い奴じゃない。ただ正義感が強かっただけの男だ。だからこうして悪い事は悪いと頭を下げる姿勢は好感が持てる。ただ、考えなしなのが傷だとは思うがな。
俺はユージーンの顔の前に手を差し伸べる。
「おい、立てるか?」
ユージーンは顔を上げて目をぱちくりさせている。おそるおそるだが、此方を窺っている様子は先程までの自信満々だった時とはかけ離れていて弱々しい。
「僕を、許してくれるのか…?」
だいぶ暴走していたが、コイツもレティシアを助けようと思ってやったのだ。赤の他人にここまで突っ込むのは尊敬の域に達するし、それに彼女が許すと言うのであれば俺がこれ以上責めるのはお門違いだ。
「迷惑かけたのは事実だから怒ってはいる。だけど、お前なりに彼女を守ろうとしてくれたんだろ?だから許す、それに彼女が許したならもう俺からは言う事は何もないさ」
彼の手をしっかりと握り、やや体重を後ろに傾けて起き上がらせる。
「ありがとう……アルバルトそれにレティシアさん、勝手な事をして本当にすまなかった」
「…はぁ、分かりました。二度とこういうことが無い様に今後はミリアさんと話し合って下さい。それが守れるのなら私からも言う事はありません」
「ありがとう、僕はこれから変わろうと思う」
「ああ、楽しみにしてる。それと顔殴って悪かったな。凄い腫れてるぞ」
「ははっ、いいんだ。これは戒めとして暫く治さないでおくよ」
「今度また手合わせしよう。次にやる時は手を抜くなよ?これからよろしくな、ユージーン!」
「そうか…バレていたのか」
ふっと互いに笑い合う。
(最初に受けた雷槍よりも威力も速度も一段階落ちていた気がしたが、やはり手を抜いてたんだな…道理でこんなに躱し易かった訳だ)
いててとユージーンが頬を押さえればミリアが馬鹿ねぇと笑った。それに釣られて俺達も笑う。
「さて、私達もそろそろここを離れましょうか。あそこにいるギルドの人達に怒られてしまいますからね」
レティシアが示した方へ顔を向ければ額に怒りマークがつきそうなお加減のギルド員がいた。
手には箒やら何やら持っているのでボコボコになった地面を整備する為に退くのを待っていてくれていたらしい。
ユージーンはミリアに連れられて訓練場から出て行く。俺もレティシアの腰をしっかりと支えながらゆっくりと歩いていく。
「大丈夫か?今日はもうゆっくりでいいから帰ろう」
「ありがとうございます。まだまだ使い方に気を付けないといけませんね」
アレがヤバかっただの、どうやって水の檻から抜け出しただのと先程の戦闘について歩きながら喋る。ゆっくりと彼女の歩幅を合わせる様に一歩一歩と踏み出しながらギルドを出た。
「…………」
「どうした急に立ち止まって、忘れ物か?」
「何でもありません。気のせいでした」
ふと立ち止まって後ろを見るレティシアに釣られて俺も振り向く。
(……特にないもないよな?)
疑問に思いながらも彼女が再び歩き始めたので俺も慌ててついて行く。
帰りの途中、盛大に2人のお腹が鳴った。思わず相手の顔を見合わせて顔を赤くしながら笑う。
道中、串焼きの屋台があったので購入し、適当に座って食べる。肉が少し硬く、噛む度に肉汁が出て来るから堪らない。
やはり肉は好きらしい。足に巻かれた尻尾の締めが強い。表情も柔らかくなっていて年相応の可愛らしさが出ている。
必死に口をモグモグと動かして前世にいたリスを思い出せた。果たしてこの世界にもリスはいるのだろうか?
くだらない事を考えていれば、手に持っていた肉がない。既に食べ終わっていた様だ。
彼女の方も丁度食べ終わっていたので、そろそろ話そうとこれからの事について話しを切り出す。
「なぁ、俺はそろそろこの国を出て次の国へ行こうと考えているんだ。強くなる為にはこの周辺にいる魔物じゃ足りない。だからもっと強い魔物が出る国へ行って自分を鍛えようと思っている」
じっと彼女の目を見つめて言葉を待つ。
「よいしょっと、なら明日は買い出しですね。次の行き先は決まってますか?」
口周りを拭って綺麗にした彼女はぴょいっと軽く飛んで両足を地面につき立ち上がると此方に振り返りながら返事をする。
「一応、ヒガリヤ国にしようとは思っているんだ。鍛治で有名な国だと聞いたし、武器と防具を新調しなきゃいけないからな」
今の俺には壊れた防具と武器となる物がない。まあよくそれで昇格試験なんかを受けようと思ったのか、考えなしの馬鹿は俺だった。
「今は涼しい季節ですから、少し暑い国へ行くのも良いですね」
「俺の都合に合わせて悪い……お前の生きる意味を見つけないといけないのにな」
「………ガブり」
ははと項垂れると頭を押さえつけられて、首筋に刺すような痛みが走る。驚いて顔を上げればちろっと赤い舌を出すレティシアが近くにいた。また噛みつかれた。手でその箇所を触れば少し腫れている感じがする。
「私はアルバルトさんとなら何処でも着いて行きます。貴方は私の相棒なんですから、私を置いていかないで下さいね?」
「…分かった。レティシアがそれを望むなら一緒に行こう。ただし、俺は魔王を倒せるぐらい強くなる必要がある。あの親父を止めるには今よりももっと力が必要だ。その為に各地を回って力を得る。そんな旅になるが本当に良いのか?」
あの時、最後に見た親父の表情が今も忘れられない。あの苦しんでもがいている様な顔で親父は俺を止めてくれと言っていた。まだ魔王に完全には乗っ取られていないかもしれない。なら、もしかしたら助けられるかもと胸に期待を秘めている。
「ふふ、そんなのは覚悟の上ですよ。一緒に強くなりましょう。私も借りがありますからね」
レティシアの目は一瞬だけ鋭さを増す。相手は魔王だが親父だ。確かにレティシアの両親を奪ったとヘリオスだが、少しだけ複雑な想いを胸に抱いた。
俺も立ち上がり、丁度良い位置にある頭にポスッと手を置く。
「決まりだな。これからハルゲルのおっさん達にお別れの挨拶を言いに行こう」
「ですね、ミミさんと折角仲良くなれたのにまた拗れそうで怖いですが…」
やだーと駄々を捏ねまくるミミちゃんの姿が目に浮かぶ。俺も最近、遊びに来るソラっていう男の子と仲良くなっていたので少し寂しさを感じる。
「確かに想像出来るな…まあ頑張ってくれ、レティシアお姉さん?」
「アルバルトさんも他人事ではないと思いますがね…」
まずは子供達の機嫌を取る為に何かちょっとした物でも買って行こう。お菓子とかが良いかも知れない。子供達の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
Bランク昇格試験は疲労困憊になったが、ハルゲルのおっさん以外のBランク冒険者との戦闘経験が出来たのは大きい。
槍持ちは距離を取られると懐に入るまでがなかなか大変だと学習出来たし、身のこなしなど参考に出来そうな事が沢山あって良かった。
強くなる為にはまだまだ学んで吸収していかなくてはいけない。
ギルドで壊してしまった剣の代金を支払い、串焼きを食べた帰り道、手土産を持ってお世話になりっぱなしの孤児院へと帰路に着く。
レティシアが思った通り、ミミが泣いてアルバルトから一段と離れなくなるのはまた別の話。
アルバルト
ミミちゃんがずっとくっ付いて来る…流石にトイレのドアの前に立たれたく無い…あっ、レティシア、見てないで助けてくれ!
行っちゃった…
レティシア
孤児院でアルバルトに助けを求められたが、お手伝いに忙しいのでと理由を付けて立ち去った。
ユージーン&ミリア
ちょっと考える事が出来て反省中
◆
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