第62話 Bランク昇格試験1
まず先手を取ったのはアルバルトだった。純粋な身体能力なら鬼人族の血を引いているアルバルトの方がこの4人の中では1番高い。
(まずはあの金髪に一発叩き込んでやる!)
刃引きされた剣を両手で握り締め、余裕のある笑みを浮かべているイケメンに力を込めた刃を振るう。
だが奴も冷静に攻撃を見極めていたようだ。俺の上段構えから振り下ろされる剣を一歩横へ移動して躱すとガラ空きになった俺の胴体へ短めに持った槍を突き出してきた。
咄嗟に身体を回転させて下から剣で槍を掬う様にして難を逃れる。息を入れる為に距離を取ると奴は話し掛けてきた。
「へぇ、なかなかやるね。今ので決めるつもりだったのに予想よりもかなり早く動けるんだね。流石、魔族と敵対して生き残っただけはあるかな」
「それはどうもありがとよ。腕も良くて顔も良いなんて反則だろ。まあ、性格は残念そうだがな」
「褒めてくれてありがとう。顔は生まれつきだけどね。腕もいいのは当たり前さ、なんせ物心ついた時から槍をずっと振るってきたんだ。そのお陰で18歳でBランク冒険者にもなれた優秀な男、だからね!」
唐突に槍が目の前に迫って来た。何とか身体を捻ってスレスレで躱す。
「くっ…!この距離ですら間合いに入るのか…!」
後ろへ飛んで距離を取るが、息を吐く暇がない。また槍が伸びてくる。剣で槍の側面を強く叩いて軌道をずらす。
「…成る程な。槍の柄の部分、石突きがある所まで持って更に距離を伸ばしたのか。器用な奴だな」
チラッと見えた槍が伸びるカラクリ。槍の柄を持って相手のギリギリまで突き出し、避けた所を素早く石突きまで持ち変え、一気に最大限まで突き出す。そうすればやられた方は槍が更に伸びてきたと錯覚するのだ。
「これも駄目か。僕のこの2段突きを初見で避けた奴はそうそういないよ」
「そうかい、それは何よりだ」
「ああ、誇ってもいい。この僕の攻撃を避けたのだからね。だからコレで終わらせる!」
バチバチと槍から電気が帯びきている。あれはやばそうだ。触れれば感電するかもしれない。
「ハンデとして教えてあげよう。僕のスキルは"帯電"と言ってね。身体に電気を溜め込む事が出来るのさ。ちなみにミリアは"思考加速"。同時に魔法が使えるかなり強いスキルだ。ほら見てご覧よ。今まさに彼女がレティシアさんを追い詰めているよ」
チラリとレティシアが戦っている方へ目を向ける。水の竜巻がミリアの前に出現していた。その周りには岩で出来た礫が浮いている。竜巻目掛けて岩が飛来し、その竜巻の中から何かを弾くような音がしていた。
(まさかあの中にレティシアがいるのか…)
「行くよ、"雷槍三連撃"!」
「チッ、ファイアボール!」
まずい、目の前の敵から目を背けてしまった。ただでさえ、初動が早い上、トリッキーな動きを仕掛けてくるこの男に視線を外すのは悪手しかなかったのに…!まさか思考を誘導されたのか。見え透いていた罠に嵌った自分を責める。
近付けさせない様に遠距離で戦おうと火魔法を放つがユージーンは全てを見切って自分の間合いまで距離を詰めて来る。
「甘いっ!一撃目!」
アルバルトが放った火魔法はユージーンが槍を振るうと爆発する。その爆発した煙の中から槍を構えたユージーンが彼に向けて突っ込んで来る。
「彼女に迷惑をかけていると自覚があるなら彼女を解放すべきだ!ニ撃!!」
「くそっ!」
速い。雷を纏ってくる恐るべき槍が迫る。先程から攻撃自体は見えている。レティシアやタイラさん、魔王の攻撃と比べれば遅い。だが身体が上手くついていかない。
足を使い、ユージーンとすれ違うようにして何とかニ撃目の槍は躱す事が出来た。
「これで終わりだ、三撃!!」
回避した先にもう三撃目が来る。咄嗟に構えていた剣で奇跡的に弾くが、接触した際に感電してしまった。
「うぐぁあああああ?!!」
「これで分かっただろう。君は弱い。たまたま彼女のお陰で魔族に勝てただけなんだよ。だからこれからはこの強い僕が君の代わりに守ってあげるのさ」
勝ちを確信したのだろう。得意げになって俺を見下ろしてくる。だが、まだ審判からの合図はない。身体も動く。ならまだ戦える。
「…そこにレティシアの意思がなくてもか」
「君みたいな奴から助けるにはこうするしかないんだ!彼女もきっと分かってくれるさ」
堪忍袋の尾が切れる。いや、もう始まる前から切れていた。
「黙れよ、色男。あんな別嬪さん連れてるのに他の女を守るってか?お前が俺達の何を知っている。詳しく知りもしねぇ、そのやっすい正義感に付き合わされる身にもなってみろ!」
痺れる身体を気合いで動かす。足を地面に突き刺して身体に流れる電流を魔力で纏め、地面へと押し流す。
「……驚いた。まさかまだ立つなんて、何故そこまで頑張れるんだっ!」
ユージーンはアルバルトの尋常ではないタフさに驚愕する。アルバルトはユージーンを見つめて自分の中にある鬼人の力を解放した。
自分の身体に力が漲るのが分かる。以前よりも更に力が沸き上がってくる。
「ユージーンだったな。あの子はあの子の父親から託された大事な娘さんなんだよ」
そうだ。タイラさんが命を賭けて守った愛娘。彼女に目一杯の愛情を向けてくれる存在が出来たなら俺の役目は終わりだ。きっとタイラさんだって文句は言うが、最終的に納得はしてくれるだろう。
それまでは俺が、アイツの事を守ってやらなくちゃいけない。
「大切にしてくれる存在がアイツに出来たならそれで良い。だけどな、自分勝手な判断で周りを巻き込むお前みたいな奴に渡すのだけは、ごめんだ!覚悟しろ…今からお前をぶっ飛ばす!」
「それほどまで彼女の事を……どうやら僕は君を誤解していたのかも知れないな」
ユージーンは震える手で槍を強く握り締めてアルバルトに向かって槍の先端を前に構える。本当にやむを得ない事情があったのでは無いかと後悔がユージーンを襲うが、彼も今更後戻りは出来ない。
「前よりも力が漲ってくる…!」
鬼人の力を解放した事でその力に混じり合ったケルベラルの意志と呼べる物が俺の脳を刺激している。
ケルベラルの声は今のところ聞こえてこないが奴の相手を屠るという残虐な精神に僅かに引っ張られる気がする。ならあまり時間は掛けていられない。
鬼人の力を引き出したアルバルトを見て先程とは何かが違うとユージーンは感じ取った。
仮にも若くしてBランク冒険者になった逸材だ。ユージーンの中で警戒レベルが一段階上がる。
お互いを見据えて武器を構える両者。2人の気迫に飲まれたのか会場も静かになり、行く末を見守っている。その静寂さにユージーンはかつて経験した事のない恐れを感じていた。
そしてアルバルトがその静寂を破る様に言葉で切れ込みを入れる。
「こんな所で躓いてられねえ。勝つのはーーー」
アルバルトがそう言い切る前にどちらかの額から汗がこぼれ落ち、ピチョンと地面に跳ねる。
その瞬間、両者は同時に動き出した。
アルバルト
前よりも出力が上がっている…その力なら、アイツを倒せる!此処からが本番だ…!
ユージーン
もしや、僕の思い過ごしなのか…?レティシアさんは本当に困っていなかった?
…どうしよう、彼が悪い奴だとはもう思えない。
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