第61話 冒険者ギルドでの騒動
ここまで見て頂きありがとうございます!
スランプ気味なのでちょっと気晴らしに他のも書いてみますかね…
引き続き宜しくお願いします
あれから数週間、俺は少しずつ筋トレをしながら体力、そして落ちてしまった筋肉を戻していた。
最初は普通に腕立てをしていたが、途中から負荷が欲しくなって、近くで遊んでいた子供に声を掛けた。背中に乗って欲しいと言ったら快く協力してくれて何よりだ。
だんだんと人数を増やしていたのだが、レティシアに見つかって怒られる。
それからというもの、彼女の監視は随時されていたし、孤児院の外へ行こうとすると遊んでいた子供達や何処からともなく現れるレティシア連れ戻される。
そしてゆっくりとだが怪我をする事なく、体力や筋肉もだいぶ戻ってきた。流石は鬼人族の血が流れているだけはある。こんなに早く回復するとは…今では子供達を肩に乗せて走り回る事も可能だ。
依頼から帰って来たハルゲルを捕まえて勘を取り戻す為に稽古をつけて貰っている。嫌な顔をせずに稽古に付き合ってくれるおっさんには感謝しかない。
でも、依頼を終えて帰ってきたレティシアに見つかれば引きずられて部屋に戻される。最近はその繰り返しだ。
(本当、最近はみんなが過保護過ぎる…)
きっとドナドナされる牛はこんな気持ちなのだろう…と勝手に想像した。
それならと魔力操作が鈍らないようにと座って瞑想をしてやっていれば、首にチクリと少し痛みが走る。
目を開けて横を向けば長い明るい茶色の髪が視界に入った。
「…なぁ、なんでまた首噛んでんだよ」
「………狼獣人は定期的に親しい人には甘噛みをする習慣があるんです。それに魔力が安定したとはいえ、まだ日もあまり経っていないんですから無茶はしないで下さい」
未婚の…それも若い狼獣人は首筋に甘噛みをする事は確かにある。これは私の人だとアピールする為であるからだ。ちなみにアルバルトはまだその事は知らない。
「はぁ…突然ガブるのはやめてくれ。俺の心臓に悪い。それと無茶はしてないからな。魔力ならもう大丈夫だろ」
肩をぐるぐる回してレティシアの噛みつきから逃げる。指で噛まれた所をなぞる。少し首がピリピリする感じでどうも落ち着かない。
本当に心臓に悪いからやめてほしい。ドキドキするし、最近は距離感が近いからいい匂いもする。噛まれると少し痛いし、なんだかいけない事をしているみたいで変な気持ちになってしまうから少しは遠慮して欲しいものだ。
といっても、これで3回目のやり取りだが止める気配はないだろう。…なんか過保護が更に進化している感じがする。
「その油断がいけないんです。後、まだ少しだけ噛み足りないんですよね……ガブり」
「いやお前、俺のお袋か!……ウワォ…」
今度は噛んでいない方にガブりとやられる。心なしか先程よりも痛い。コイツ、牙を突き立ててやがる。これ以上動くと俺の肉が裂けそうなので大人しくするしかなかった。
「では、私はラーナさんのお手伝いに行って来ますのでくれぐれも安静にお願いしますね」
「はいはい、分かってる。……行ったよな?なんか俺に対して遠慮がなくなってきた気が…いや、素直になるのは良い事だとは思う。こんな傷痕残すのはなぁ…まあ、すぐ治るだろう」
肩口を見れば両サイド赤く腫れている。どうせ1日経てばいつの間にか治っているしな。
「そうでした。アルバルトさんの荷物を私が宿から取って来ました。そこの箱の中に入ってますので確認を…ではまた後ほど」
ぴょいっと扉から顔を覗かせたのはレティシアだった。指で大きな箱を指差すとすぐにいなくなった。
「あれ…いま足音したか…?まあ気のせい…か。レティシアがわざわざ俺の荷物を取って来てくれたんだよな…後でお礼を言っておこう」
彼女は気付いたらそこにいる。時と場所次第ではリアルホラーだ。筋トレも隠れてやっていたらよく見つかっていたっけ…?
腕立てを止めて背筋を伸ばした時、目の前の柱の影にいたのは怖かった。ジッといつまでも此方を見つめる翡翠の瞳と目が合い、思わず悲鳴を上げたのはいい思い出だ。
部屋の脇にある大きな箱を開けてみれば、見覚えのある金の入った袋に幾つかの黒いインナー。後はあの戦いで破損した防具が入っている。防具の方はもう使えそうにないな。
しかし、底の方を漁っても出てこない物がある。
「あれ?キドウさんから貰った剣がない…」
おかしいと思いながらも、もう一度探すが何処にも無い。とりあえず俺の武器は何処に置いてあるのか。その答えを聞きにハルゲルのおっさんやレティシアに尋ねたが何も分からないという事しか分からなかった。
レティシアは俺を運んだ後、俺の武器が無いことに気づいてあの広場まで行ったが見つからなかったという。
(……大事な物だったんだけどな)
あの激戦で落としてしまった。次にキドウさんと顔を合わせる時、申し訳ない気持ちで顔が見れないぞ、これ。
◆
そして目覚めて一ヶ月が経過した所、ようやく外へ出て良いと許しを得た。
まずは武器と防具を揃えたい。それから…レティシアのプレゼントも選び直さなきゃな。
それはそうとまずは冒険者ギルドに顔を出す事ですレティシアから言われた。何でも俺達に大事な用件があるらしい。一体何があるんだろうか?
「久しぶりの冒険者ギルドだからなんか緊張するな。……よし、行こうか」
バチンと頬を手で叩いて気合いを入れる。レティシアも連れて久しぶりに冒険者ギルドの中へ足を踏み出した。
ざわざわとするギルド内、前よりも活気に溢れている。見ない顔も多いが此方を睨みつける人もいる。俺はあの金髪のお兄さんに睨まれる様な事したっけか?接点が無いと思うんだけど…。
面倒事はごめんだと受付に並ぶ。その隙に彼女の尻尾がまた腕に絡みつくがもう諦めた。
ようやく前が空いたので、見知った受付嬢の元へ行く。
「お久しぶりです、目を覚まされたのですね!」
「はい、ご心配をお掛けしたようですみません。それでギルドから何か大切な事があると言うのは…?」
久しぶりのナタリーさん。ホッと胸を撫で下ろしている様子だ。本当にご心配をおかけしました。
話を要約するとあの最悪の日、通称神が堕ちた日で活躍した人達を王様が集めて宴を開くというものだ。開催場所は王城、そして明後日の午後7時から始まるそうだ。
そんなパーティーに俺とレティシアは参加出来るらしい。他にもハルゲルやアリーダさんも参加するようだ。何故今になってやるのか、気になって尋ねると半年掛かってようやく崩れた王城の修繕作業が終わったからと聞かされた。
「それでお2人には絶対に来て欲しいと上から言われてまして…」
ナタリーさんが困ったような表情で言う。確かにそうだ。俺が目覚めたのはついこの間、ナタリーさんは今初めて俺の無事を確認したんだから困るのも無理はない。
「王城でパーティーか…どうするレティシア?俺は別に行ってもいいと思うんだが…」
「私も良いと思いますよ?お城へ行く前にちゃんとした正装の服を買わないとですね……王城に行くにはそれ相応の服装ではないといけないですよね?」
「服装についてでしたら王城で貸出がなされるみたいですよ。なんでも此方が招くのだからその負担ぐらいはさせてほしいとの事です」
「分かりました。それでは参加させて頂きます」
レティシアは口ではそう言ったものの本心では行きたくはないと思っている。その証拠に腕に巻き付けている尻尾の力がまた強くなった。
(アリーダさんに顔を合わせづらいのと絶対に参加しろとの上からの命令。その2つだけでも断りたいですが、断ったらどうなるか…何か怪しげな臭いがプンプン漂って来ますね…)
とりあえず、その日は警戒だけはしておこうと心に誓うレティシア。それを知らず、呑気に美味い飯出るかなと考えているアルバルトはナタリーからもう一つ大事な事を知らされる。
「それからアルバルト様、レティシア様。Bランクに昇格出来る試験があるのですが受けられますか?」
「え?俺達がBランク昇格試験を受けられる…?」
「はい。お2人共、あの神が堕ちた日で魔族を討ち取ったという話を他の冒険者様方から沢山お伺いしております。そんな人材をCランクのままで良いのかと協議があった様で……特別にBランク昇格試験を実施出来る。そういう手配になりました」
「アルバルトさんが眠っている間、そういう話が出てたのは間違いないですよ」
「どうでしょうか、今日は受けていかれますか?」
Bランク。ハルゲルのおっさんと同じ階級だ。昇格すれば、通行料がタダになる特典は正直嬉しい。これから旅を続けていく身として絶対に欲しい階級だ。
……そろそろこの国を出て違う国に行くのも良いかもしれない。まだ見ぬ世界を見る為、レティシアの生きる意味を探す為、それから魔王ヘリオスの居場所を探す為、やる事が多い俺には必要だ。
「俺は大丈夫。レティシアはどうだ?」
「アルバルトさんが受けるなら私も受けます。この歳で受けられる事というのは滅多にない事ですからね」
「ありがとうございます。では地下の訓練場でお待ちください。これから試験管を務めて下さるBランク冒険者様にお声を掛けてみますので」
「分かった。……あっ、でも俺、今武器持ってなかったわ」
「確かギルドの方で刃引きされた剣を貸し出している筈です。取り敢えず、それを借りてみるのはどうでしょうか?」
確かにハルゲルと一度手合わせをした時は刃引き済みの剣を使っていた。それにCランク昇格試験の時もそうだった。
「そうだな。じゃあ、さっさと選んで身体を温めておかないとな」
「ええ、行きましょう。私も準備運動はしたいので」
いざ行こうとギルドの地下に足を運んでいれば俺達の前を遮る人影があった。
先程、俺を睨んでいた金髪イケメンお兄さんだ。後ろには魔女っぽい格好をした赤毛の女がいる。その女は手を合わせてぺこぺこと此方に何度も頭を下げていた。
「君達、ちょっと待ってくれ!よければその試験管、僕達がやろう!これでも僕は最年少でBランクになった冒険者なんだ。僕の名前はユージーン、彼女はミリア。良かったら僕達に任せてくれないか…!」
金髪のお兄さんは俺に手を差し伸べてきた。
おお、睨んでいた時は関わり合いたくなかったが、話してみれば人の良さそうな感じだ。
差し出された右手に俺も右手で握手を交わす。
「ああ、こちらこそ頼む。意外と早く見つかって良かったよ」
「はは、礼には及ばないさ。それに僕は君が本当に強いのか疑問に思っているんだ。そこにいる彼女だけを働かせていた悪党をこの手で叩きのめしてやりたいと思っていた所だからさ!……僕が勝ったら彼女は僕達のパーティー白い稲妻に入ってもらう!」
「…………………はっ?」
やっぱりこいつはヤバいわ。初対面でこうもボロクソに言われて反応に困ってしまった。あのキビトでさえ、こんな失礼な事は…いや、するな。うん、するわ。
「ユージーンさん…!何を勝手な事を言っているのですか!」
「そうだよ、ユージ。いい加減にしなよ!謝る為にこうして待ってたんでしょ!」
「ミリア…止めないでくれ。確かにこの数週間、なかなか会えずにいたが彼女を苦しめている原因がいるなら話は別だ。例え嫌われようと僕が助けてあげなくちゃいけない」
グッと握手している手に強い力が込められているのが分かった。それだけ本気でコイツは俺をぶちのめしたいと思っている。
訂正しよう。やっぱり関わりたくなかったわ。
「誤解があるようだが確かに俺はレティシアの世話にずっとなっていたさ。寝たきりの俺を諦めずに支えてくれたのは感謝してもしきれない。だが、俺もパーティーメンバーを引き抜かれたら困るんだよ」
俺も対抗するように少しずつ力を込めていく。相手の手を潰さないように加減する。
「ほぅ、成る程。言うだけはありそうだね」
「ああ、お前の顔面に一発入れてやるから覚悟しておけよ。この金髪イケメン野郎」
ふふふ、あははと手を握り笑い合う男達を見て彼女達は2人を引き離す。外野もその言い合いを聞いていたのか何だが盛り上がっていた。
俺達は受付に報告してくると言って彼らは去っていく。普段は売られた喧嘩などいらないのだが今回ばかりは腹が立った。
俺の事は別に事実だからいいがレティシアは別だ。彼女の意思を尊重しないあの正義面イケメンに一発顔にぶち込んでやらなければと心に決めた。
とりあえずはここにいても盛り上がっている冒険者に絡まれるのも面倒なので地下の訓練場へ行く。レティシアも腹が立っていたのかプンスカと怒りながら刃引きされた武器を選んでいた。
柔軟など準備運動をして身体を温めておく。まだ少し動きが鈍いがほんの少しだ。相手の実力もわからないので注意しておこう。待っていると続々と人が集まってきた。どうやらあの言い合いを聞いていた冒険者が広めたらしい。どちらが勝つかなど賭け事もあっているようだ。
そして審判だと思われる筋肉ムキムキのダンディな人物が先程の金髪と赤毛を連れてくる。
「これよりBランク昇格試験を行う。私、王都ギルドのギルド長。マルダが審判を務めさせてもらう。私がやめと言ったら試験は終わりだ。正々堂々戦うように!」
俺とレティシアは武器を構えて今か今かと待ち侘びる。それは相手も同じだ。
「よし、双方準備はよろしいな!では…始め!!」
力強いマルダの声に反応するように地面を強く蹴って相手に近づく。
Bランク昇格試験が今始まった。
アルバルト
いい人だと思ったのに…!もうぷっつんしちゃったぜ…。
レティシア
またこの人達…、いい加減私に絡むのはやめて欲しい。それにアルバルトさんを馬鹿にした事は許しません。
ユージーン
ついに現れたな女の敵!無理矢理働かされている彼女は僕に助けを求めている。僕には分かるんだ!
ミリア
もう最悪…本当にこの馬鹿がごめんなさい。
◆
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