第6話 異世界転生
再び意識が覚醒する頃には自分が今どういう状況にいるかを確かめていた。
小さい手にもちもちの頬っぺた、寸胴な身体。そして窓の外から見える人には無い筈のツノ。
これが義妹から少しだけ借りて読んでいた異世界転生という物なんだろうか。まさか本当に自分がなるなんて思いもしなかった。
(ここは日本じゃないのか…)
自覚したら力が抜けてその場でへたり込んでしまう。
これからどうすればいいか。上手くやっていける自信はない。ボーとしていると気絶する前に一緒にいた白い髪の女性が近くにいる事に気が付いた。その人の近くにいると何故か安心できる気がして再び横になり目を閉じる。
それからその女性が母親と黒い髪の男性が父親だと判明し、親子仲良く過ごしていく時間がとても心地良かった。
酒を手に取り、豪快に笑う母に、そんな母を見つめて俺の頭を撫でくりまわす父。
そんな2人が俺はどんどん好きになっていった。
母は気分屋でいつも酒を飲んで笑っている人だ。そんなに飲んで大丈夫かと思う程、常に飲んでいる。
しかし、戦う時の手解きを教えてもらう時は酒を片手に笑わない。顔を顰めながら俺に手取り足取り教えるのだ。まさに鬼の形相である。
母からは大事な事を教わった。諦めない、前だけ見続ける為の魔法の言葉だって事を。
反対に父はといえば優しい人だ。怪我をすれば治るのにすぐに飛んでくるし、よく家事をする母を手伝っている。
そして母と喧嘩をした時は互角以上に渡り合える程強いのが不思議だ。人と鬼、身体能力も何もかも違うのに素手でやり合うのだ。優しい人ほど怒らせると怖いというのを初めて目の当たりにした。
そして月日は流れ、お隣の村長の家でも子供が産まれ、歳が近い為よく遊ぶ様になった。
前世の妹を相手にしている気持ちで接していたが、最初はあまり仲良くとは行かなかった。
リサーナは物心ついた時からお転婆で我が強い。喧嘩なんてしょっちゅうだ。俺は大人だから華麗に受け流していたけどな。
「アルバルト、あそーぼー!うりゃっ!」
「おいこら、いきなり殴りかかんじゃねぇよ。コブラツイストすんぞ、オラ!」
「…いぎゃあああ!!」
帆波とは違い、手の掛かる子供なので我儘を聞きながら駄目なことはダメ!と注意して根気よく接していた。
最初はツンケンしていたが次第にお互いに愛称で呼び合う様になり、リサも成長して自分で考える事が出来る様になるといつしか一緒にいる事が多くなっていた。
その後もリサはどんどんと可愛くなっていくのが楽しかったなぁ。自分の娘を持った気分になったものだ。
成長期に入ると母であるツナが特訓だ!と俺とリサを鍛えてくれるようになった。
正直、毎日がしんどい。子供とはいえ、鬼人族という馬鹿みたいに能力が高い種族に着いていくのはやっとだ。ぶっ倒れた事、数知れず。
朝からキツイ特訓、昼は自由タイム、夜は父か母と一緒に魔法の練習をしていた。特にこの魔法の練習は曲者だ。
自分に流れる魔力と言われる力を制御して行使する。魔力が無くなれば、意識が朦朧としてきてぶっ倒れる。
そして気が付いたら布団の中で眠っている状態が毎日続いている。その分、自分の中に蓄えられる魔力の量が少しずつ増えているのが分かって嬉しいが正直、もっと他に方法は無いのかと本を読んで調べるが良い方法はなかった。
「アルー、あそーぼー!くらえっ!」
「はいはい、コブラツイスト」
「ぐぇっ!?」
毎日、懲りない奴だ。お兄さんは優しいからヌルッと動いて此方に伸ばして来た腕を掴んでそのまま技を掛ける。
今日も一日、平和な日が続いていた。