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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第58話 レティシア物語5

 孤児院、それもレティシアが居候している部屋のドアから小さな光が漏れていた。


「でねー、男の子達ったら酷いんだよ!ミミがやめてって言ってるのにやめないんだもん!」


「ふふ、年頃の男の子は好きな女の子をいじめてしまうことがあるそうですよ?お父さんが言ってました」


「えー、好きなのにいじめるなんて変なの〜!」


 あははと少女達の笑う声が部屋に木霊する。


 どうしてミミがレティシアの部屋にいるのか言えば、いざ寝ようと目を瞑れば今日の事を思い出してしまい、怖くなってしまった彼女は慌てて枕を持ってレティシアの元へ駆け込んだのが真相である。


 ちなみに大部屋で子供達と寝ているラーナにはレティシアの部屋で寝る許可は取っている。


「さて、今夜はもう遅いので寝てしまいましょうか」


 レティシアはふと時計を見る。この時間帯ならもう子供達は眠る時間だ。


「……ふぁい」


 急に眠気が襲って来たのかミミは大きなあくびをしながら布団に入る。レティシアも横になるとミミのお腹あたりを布団の上からポンポンと軽くリズム良く叩いた。


「ねえ、お姉ちゃん。…レティお姉ちゃんって呼んでもいい?」


 眠気と戦いながらもミミはレティシアに尋ねる。絶えもなくポンポンとミミのお腹を叩くレティシアは優しげな声色で囁いた。


「勿論です。私もなんだか妹が出来たみたいで嬉しいですから」


「ありがと、レティお姉ちゃん……それとおやふみなふぁい……」


「はい、おやすみなさい」


 ミミは心地よい感覚にうとうととし始め、安心した事で今まで気付かなかった疲れが出たのか、彼女は数秒で深い眠りに落ちていった。


 ミミの寝息を聞き、完全に寝ていると確信したレティシアはそっと布団から抜け出す。


「…さて、行きましょう」


 誰もいない廊下を慎重に歩きながら孤児院の院長室へ向かった。


「おっ、来たな。後数刻で例の貴族様があの小屋に受け取りに来るんだとよ。俺は行くが嬢ちゃんはどうする?寝ててもいいんだぞ」 


 ハルゲルの手にはダイノール伯爵家から届いた手紙が握られている。あの男達から聞き出した事に成功した様だ。


「勿論、私も行かせていただきます。あんな良い子を襲わせた犯人を許せませんから」


「決まりだな。なら行くぞ」


 ハルゲルとレティシアはこっそり孤児院を抜け出してダイノール伯爵らと合流した彼らは作戦を立てる。


 ◆


 ハルゲル達がミミ達を助けた日の深夜。カラカラとスラム街に似つかわしく無い大きな馬車が駆けていた。


「ウィヒッヒッ!あの下男どもに命令した引き渡しの日だ。楽しみだなぁ、帰ったら男か女どっちで遊んでやろうか」


 ぶくぶくと太っただらしない腹をしている男はダニとエルに命令して子供を攫わせた張本人、子爵家のミートリー・バーカスである。


 待ちに待った今日、うら若き少年少女を貪り尽くす日が来たと心を弾ませていた。


「もう領地にいる年増共は食い飽きたからな。今度は幼い果実でも齧ってやろうじゃないか!イヒッヒ!!」


 馬車がオンボロな小屋の前に止まると護衛を引き連れてバーカスはその小屋に入る。そして事前に分かっていた床下の扉を外した。


「わしも頭が良い。こうして地下で取引をすればバレやしないのだからな!さてお楽しみの時間といこうかのぅ!」


 地下に入り、薄暗い室内で自分が倒れないように注意しながら灯りがある部屋まで歩いていく。そして深くまで外套を被った2つの影を見つけた。


「ダニとエルだな。このわし、ミートリー・バーカス様がわざわざ来てやったぞ!さあ、早く子供を引き渡せ!!ウィヒヒヒ、お楽しみが待ちどうしい!」


 外套を深くまで被っているのと部屋が少し薄暗いせいなのか、顔まではよく分からない。まあ、そもそも下男の顔などよくも覚えてもないがとバーカスは思っていた。


「…こちらです」


 指差した先には鉄の檻がある。その中には狼獣人の少女がいた。ガタイのいい外套の男が檻の中に入って少女を連れてくる。鋭い眼差しでこちらを睨んでくる威勢の良さにバーカスは興奮した。


「ほお!これはなかなか美味そうではないか!イヒヒ、その顔、今晩にでも歪ませてやるからなぁ!お前らもいい仕事をするではないか。おい、こいつらに金を渡せ」


「はっ!」


 バーカスの護衛の1人が袋に入った大金を渡そうとガタイのいい外套の男に近づく。


「へへ、ありがとうございます。じゃあ、お返しますぜ、ゴラァ!!」


「へぶっ」


 外套を脱ぎ去って姿を見せたのはハルゲルだ。顔面に強烈なパンチを叩き込み、油断して近づいた護衛を一撃で意識を刈り取った。


「な、なんだ!おまえ、ダニか、エルか!」


「あん?自分の雇った奴の顔も碌に覚えてないのかよ。俺はハルゲル、Bランク冒険者だ」


「ぼ、冒険者だと!おい、アイツを殺せ!何をしておる?」


 ハルゲルの登場に驚いたバーカスが残った後1人の護衛に向かって指示を出すが返事がない。どうしたとばかりに振り返るとそこには先程捉えられていた少女が護衛の首を絞め、気絶させていた。


「な、何だと。貴様ら!こんな事して良いと思っているのか!わしは子爵のミートリー・バーカスだぞ!」


 興奮するミートリーとは反対に氷のような冷たい声が聞こえた。


「おやおや、これはこれはミートリー殿ではありませんか。こんな所でどうしているのですか?」


「お、お前はウレスト・ダイノール!お前こそ何で此処にいる…!」


 外套のフードだけを取ってバーカスと顔を合わせたのはダイノール伯爵当主ウレスト・ダイノールだ。


「今、人攫いがここ王都で出てましてね。私の息子も被害に遭ったんですよ。そして犯人達を拷問しましたら、今日が取引だという事を吐いたので変装して待っていたわけです」


「わしを疑っているのか!」


「この状況でよく言えたもんだな。貴族様はよ」


 慌てるバーカスにハルゲルは白い目を向ける。


「ミートリー・バーカス。王都で人身売買は重罪だ。2度と日を見られると思うなよ」


「くそが!捕まってたまるか!」


 分が悪いと判断したのかバーカスは元来た道を引き返す。立場が上のダイノール伯爵に睨まれた以上、下の階級貴族であるバーカスは最早、積みなのだがそんな事は考えていられなかった。


「逃亡か……捕まえろ」


 パチンと指をダイノール伯爵が鳴らすと暗影に黒い布を被り、隠れていた衛兵が一斉に姿を現してバーカスを掴まえる。


「離せ!離さんか!くそっ、クソがぁああ!!」


 バーカスらを捕まえた事を確認するとダイノール伯爵は協力してくれたハルゲルとレティシアに感謝を伝える。


「君たちの協力もあってミートリー・バーカス子爵を捕らえる事ができた。私はこれからこのミートリーを然るべき処分を下すの所へ運ぶ。貴方方には2度も助けられた…是非、今度お礼をさせて欲しい」


「なりゆきでご子息を保護したってだけだが貰える物は貰っておこう。うちにはガキが多いからな。何か食べ物を送ってくれればいい」


「私は特に何もいらないですが…そうですね、ミミさんはお魚が好きだと言っていたので美味しいお魚を頂けますか?」


「ふっ、あははは!あー、悪いね。普通ならこういう時は金品や宝石類を要求すると思ったんだがね。それに2人とも食べ物を所望するなんて変わってる。…では、後で家の者に持って行かせる。これにて失礼するよ」


 ウレスト・ダイノールはくつくつと笑いながら地下を後にする。


「俺達も帰るか」


「そうですね、帰りましょう」


 レティシア達も孤児院へと帰路に着く事にした。孤児院に着いたレティシアはハルゲルと別れて自分の与えられた部屋へ行く。


 自分の部屋に着いた彼女は腹を出して寝ているミミにそっと布団を掛け、自分の身を綺麗にする為に水を溜めた桶に手拭いを濡らして身体を拭く。


 今は秋の季節。夜になると気温が下がる為、冷たい水の感触に身体を震わせながらも丁寧に汚れを拭き取る。


「おやすみなさい」


 汚れを落としたレティシアは着替えを済ませて横になる。一つの布団に2人は少し狭いが子供特有の暖かい体温を感じると眠気が襲って来た。


(今日は色々と大変な1日でしたがミミさんと和解できて良かったです)


 レティシアは目を瞑る。そう時間もかからずに暗い狭い部屋にすうすうと寝息が2つ聞こえるようになった。


 翌日からレティシアとミミは一緒にアルバルトの世話をする事になる。


 互いの動きを見てレティシアが手足を持ち上げればミミが拭き、ミミがタオルを用意すればレティシアが桶に水を入れて運ぶと連携をみせている。


 たまにお手伝いに来るイクやリタにも協力を煽り、買い出しなどを一緒に行って手伝ってもらっている。


 人攫いの犯人が捕まり、スラム街も少しは治安が良くなった。貴族が介入したのが良い薬になった様だ。悪事を働けば次は自分に目をつけられるのではと怯えていると噂で知った。


 こうして冒険者でお金を稼ぎ、孤児院ではお世話やお手伝い、夜にはミミとお喋りをして寝るというサイクルが生まれた。


 後日、ダイノール伯爵の遣いの馬車が孤児院にやって来た。


「こちらにハルゲル様とレティシア様、ミミ様はいらっしゃいますでしょうか!私はダイノール伯爵様にお礼の品々を渡すようにと命を受けて来ました!」


 門の前で大声を上げる使者をハルゲル、ラーナが対応する。


「本当に来たか、それはご苦労様だな。俺がハルゲルだ。ちょっと待ってろ。おーい!ガキ共ー、食いもんが来たから運べ!」


「アンタねえ、私はレティシアとミミを呼んでくるから。きっと彼の所にいるだろうからねぇ」


 ラーナは彼女らを呼びに行った。入れ替わるようにハルゲルの周りには年齢層が違う子供達がわらわらと集まる。


「よし、待たせて悪いな。それじゃ遠慮なく頂こうか」


「分かりました。此方が野菜や肉類の物となります。日持ちしやすいように箱に魔法を付与してあり冷たいのでご注意下さい。それともう一つ、此方は子供達用にと旦那様から菓子類が入ってますので落とさない様に」


 ダイノールの使者から大きな箱を受け取り、ハルゲルは比較的に年齢が高い子供へ受け渡す。何人かで箱を持っていれば運べる重さだ。


 先程よりも少し小さな箱は集まってくれた他の子供達に渡す。つまみ食いはするなと釘を刺しておけば、ぎくりとする子供も居たのでハルゲルは失笑した。


 ラーナがレティシア達を呼びに行き、彼女達も門前に来た様だ。ラーナは箱を開け、中身を見て驚いている。


「ハルゲルさん、この馬車はあの貴族様の…?」


「ああ、そうだ。お前らにもお礼をくれるんだとよ」


 ハルゲルの言葉に2人は顔を合わせる。


「ソラ様。ミミ様がお見えですよ」


「分かった、今行く」


 馬車から出てきたのは昨日助けた貴族の息子であるソラだ。ボロ布みたいな衣服を身に纏い、髪もボサボサだったソラが、今は綺麗な服を纏い、髪もセットしていてカッコいい感じに仕上げている。


「き、昨日は助かった。ミミとお姉さんのお陰でこの通り、今は怪我もなく元気にしている。何か困った事があれば遠慮なく我らダイノール家に頼ってくれ。…それとこれを」


 使者に持たせていた大きな魚をレティシアに渡す。それは昨日、彼女が欲しい物として言っていた魚だ。自分と同じぐらいはありそうな魚を目の当たりにし、ミミはびっくりしていた。


「俺もあの後、自分のやりたい事を家族と話し合ったんだ。それで敏腕の冒険者の元でなら修行しても良いって許可は得た!まあ、勉強もかなり追加されたが、だからこれからたまに世話になるから……またな!」


 ソラは顔を真っ赤にさせ、言いたいことだけ言って馬車へ引っ込んでしまった。殆ど魚に夢中になっているミミの頭の中にはたまに来る事だけしか入っていない。そんな少年の淡い気持ちをレティシアは感じ取った。


(ああ、これはミミさんに惚れてしまいましたね。でも彼女はどうやら気付いていない様ですが…)


 魚に夢中で全く相手にされなかったソラを少し可哀想に思いながらお別れをする。


 流石にお別れはちゃんと手を振っていたみたいだがすぐに視線はレティシアの腕の中に抱かれている魚へと戻る。


(ミミさんは手強そうですから頑張って下さい、ソラさん)


 ミミのピコピコと動く耳を見てレティシアはため息を吐き、ラーナに魚を預けるために中へ引っ込んだ。いつになったら少年の気持ちはこの幼い少女に届くのかと思ってしまうレティシアなのであった。


 そしてその日から数日、いつも通りにレティシアは起床し、隣に寝ているミミの身体を揺さぶって起こす。


「起きて下さい。もう朝ですよ」


「むにゃむにゃ、おはぉう…レティお姉ちゃん……ふぁ〜あ」


 大きなあくびをして目をゴシゴシと掻くミミにため息を吐きながらも濡れたタオルを顔に押し付ける。


 ミミが顔を拭いている間に尻尾の毛繕いを素早く済ませると2人は朝ご飯を食べる為に部屋を出る。途中、アルバルトの部屋を覗いていくのが日課だ。


 彼女達が廊下を歩いていると2人の耳が僅かに痛みに耐える声を捉えた。


 この声はまさか、まさかまさか……!


 彼女達は互いに目を合わせる。そしてラーナに禁止されているが廊下を駆け足で走る。ドアを勢いよく開けるとそこにはこの半年間ずっと眠りについていた相棒が起きてそこにいた。


 じわりと目に涙が溜まる。尻尾と耳も無意識に動いてしまうぐらいレティシアの心の中は歓喜で満ち溢れていた。


 傍にいたミミがアルバルトに突っ込んで余程嬉しいのか跳ね回る。苦しそうな彼を見たレティシアはミミを止める為に部屋の中へ一歩踏み出す。


(おかえりなさい、アルバルトさん。もう2度と離れませんよ?)


 心の中でおかえりと呟く。渦巻く感情が抑えきれそうになかった。


 ◆


 彼女の心は壊れかけていた。最愛の母を魔王によって奪われた。そんな魔王と関係者だと思われる男を長い年月を掛けてようやく見つける事に成功したのだ。その男も被害者だと解れば、何とも言えない感情が彼女を覆う。


 最初は同情心が強かった。しかし、パーティーを組み、今まで隣で見てきた男の優しさを感じ取った。その優しさに触れているうちに彼女の中で愛という感情が生まれる。だが運命は残酷だ。


 魔王が再び彼女の前に現れ、今度は父を奪われた。そして好意を寄せていた男はボロボロになりながら彼女を守り抜き、倒れ、長い眠りへ誘われる。


 もうボロボロだった。壊れかけていた。暗い闇の中に1人佇む感覚に精神が麻痺してしまいそうになるぐらいに…だが彼女は耐えて、耐えて、耐え抜いた。その先に希望があると信じて耐え抜いてしまった。


 今度は運命が彼女に味方する。彼が目覚め、彼女の心に一筋の光が彼女を照らす。闇の中に光り輝くその光に縋りつきたくて手を伸ばした。


 ……それがレティシアを歪めてしまうの原因になるとは、本人も気づけなかった。


レティシア

私の光…私だけの相棒、もう離さない。


ソラ・ダイノール

また会いに来るって言ったから来てやった!

また来るからなっ!


ミミ

お魚…お魚…


最後まで読んでくださりありがとうございます。


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モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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