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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第52話 激戦を終えてからの目覚め

 朝日が登り、ちゅんちゅんと小鳥達の囀りが聞こえる。Dランクに分類されているスモールバードという魔物だ。主に木の実を食べて生活している魔物であり、人類の脅威にはなり得ない為、Dランクに位置付けられている。


 そんな魔物が王都エウロアエの木に止まっていた。以前ならこんな光景は見られなかった現象だ。


 国を守る女神像が魔王らの手によって破壊され、結界が解かれた。その影響から国に度々魔物が押し寄せているのが現状である。


 アルバルトが目を覚ました時、見覚えのない天井が最初に目に入った。


「知らない天井だ。……あぐぅ!!」


 身体を起こそうとした時、全身から激しい痛みが走った。見てみれば体の至る所に包帯が巻かれている。


 大きな唸り声に反応したのか、バタバタと廊下を走る音がする。バァンとドアが勢いよく開くとそこには耳をピンと上に立てているミミちゃんとユラユラと尻尾が動くレティシアがいた。


「あっ、おはよう…御座います…?」


 彼が目を覚ました事を知って、じわりと涙を浮かべる2人の少女はアルバルトの近くへ一目散に駆け寄った。


「うわぁああん!アルお兄ちゃーん!!」


 ガバァとアルバルトに飛び掛かってくるミミがアルバルトの腹へ乗っかる。


「ぬわぁ!痛ってええええぇ!!!」


 痛みが残る身体にミミちゃんが身体を揺らして追撃する。やめてぇ!俺のライフはゼロよ。それ以上はヤバいんだよぉおお!!


「グェ…やめ、ミミちゃん…!」


 飛び跳ねるミミにアルバルトは陸に打ち上げられた魚みたいにグッタリとしていた。レティシアも見ていられずにミミを引き離す。


「離してよぉ、レティお姉ちゃん!」


「駄目です。私も嬉しいですが、今は大人しくしましょうね?」


 仲の良い2人にアルバルトは思った。


 いつの間にか仲良くなってる。


 バチバチとしていた2人が和気藹々としている姿に目を白黒させる。一体、お前らの間に何があったんだよ…。


 興奮するミミちゃんを何とか落ち着かせたレティシアが喋り始める。


「ミミさん、アルバルトさんが起きた事をハルゲルさんに伝えて貰えますか?私は少し彼とお話しする事があるので…」


「はーい、抜け駆けはなしだからね!」


 ミミはバビューンという音が出そうな感じで颯爽と去っていった。まるで嵐が去った様な感覚だ。


「ふぅ、アルバルトさん。私が分かりますか?」


「あぁ、レティシアで良いんだよな…?ここは一体何処なんだ?」


 レティシアはベッドの脇にある椅子に座り備えてあった果物を剥き始める。


「此処はハルゲルさんが経営している孤児院です。無理を言ってアルバルトさんを治療して貰いました」


 成る程と納得する。さっきのミミちゃんを見てもしかしたらと思っていたが、彼女の口からハルゲルの名前が出た事で疑問が確信へと変わった。


「なあ、俺はどれくらい寝てたんだ?」


「そうですね、大体、半年程ですね。もう季節が変わり、秋になりました」


 自分がそれ程長く眠っていた事に驚いた。てっきり1日中寝ていたのかと思っていたからだ。


「マジかよ…だから身体がこんなに重いのか。レティシアは…その、成長したな」


 肩口まで整えられた髪は背中の方まで伸びている。身長もだいぶ伸び、以前と比べて女性らしい身体つきになっていた。


「そうですね…狼獣人は成人を迎えるとその一年で身体が大きく成長する特性があるんです。ここ最近は戦闘スタイルを何度も確認する必要もありました」


「記憶にあるレティシアがこんなに綺麗になって正直驚いてる。狼獣人スゲェ…」


 彼女の成長ぶりに驚いた。まさか、あのレティシアが此処まで大きくなるなんて誰が予測出来た事だろう。だが、それよりも俺が気になる事がもう一つある。


「……俺が此処にいるっていう事は俺の正体、分かっているんだよな?」


「ええ、ハルゲルさんも事情は話してあります。協力を仰ぐ上で必要でしたからね…はい、どうぞ」


 レティシアはシュルシュルと果物の皮を器用に剥き、細かく切った白い果実をアルバルトの口元へ運ぶ。


「んっ、ありがとう。美味いなこれ」


「水っぽくて甘いのが売りの果物でしたが買って来て正解でした。子供達にも結構人気だったんですよ」


 噛んだら口に広がる甘味がとても美味しい。確かに子供でも人気が出そうな感じがする。なんか前世で食べた梨を思い出す。


「……って違う違う!俺は鬼人族なんだぞ?お前は怖いとは思わないのか…!」


「確かに最初は驚きましたが、貴方は噂とは違う…そう確信しているので怖くはありません」


「いや、でも…さ、俺はあの男の息子なんだぞ!憎いとかあるだろう」


「……憎くないと言ったら嘘にはなります。私のお父さんとお母さんを奪ったあの男は絶対に許しません。ですがーーー」


 レティシアがアルバルトの顔へずいっと寄せる。彼女の髪が額に掛かり鼻先もくっつきそうだが彼女の底知れない濁りがありそうな翡翠色の瞳から目が離せなかった。


「ーーアルバルトさんはあの男とは違います。父を守り、私を助けようとしてくれました。私は嬉しかったですよ?傷付いても私を守ろうと必死になる貴方の姿が私に力をくれました」


「お、おい。レティシア…」


「私、分かったんですよ。今の私は弱い。家族を奪われるのはもう2度と経験したく無いんです…だから、もっと強くなります。アルバルトさんを…いえ、家族を守れるぐらい強くなって私が全部守ります、私が貴方の障害を取り除きますから、だから私から離れようとか考えないで下さいね」


 そしてと続けようとするレティシアの後ろからドタドタと音が聞こえる。レティシアは顔を離して何事もなかったかの様に元の位置へ移動すると汗をかいているハルゲルが姿を見せた。ミミちゃんの姿はない。


「目を覚ましたんだって!大丈夫か、アルバルトォオ!!」


 どデカい声が部屋に響き渡る。相当、焦って来たらしい。だがそのお陰で助かった…ベットに近付いて俺の顔を覗き込んでいたレティシアはいつの間にか離れている。


 あの眼をするレティシアはヤバそうな雰囲気だったからマジで助かった。ハルゲルのおっさん、マジで救世主。


「迷惑を掛けて済まな、ぃい!?」


 頭を下げると再び痛みが走った。まだ動くと少し痛むらしい。仕方なく俺は枕へ頭を落とした。


「まだ安静にしてろ。お前の身体はボロボロだ。魔力もまだ安定していないんだからな」


 通りで身体を治そうと魔力を流そうとしたが、なかなか乱れていて上手く使えない訳だ。


「アリーダの奴が魔力を回復させるポーションを作ってくれたから、起きたら飲ませろだとよ」


 ハルゲルは魔力回復のポーションをアルバルトに手渡した。アルバルトは瓶に入った青色の薬を一気に飲み干す。草の味が口いっぱいに広がって吐き気がするが我慢する。


「よし、飲んだな。今日1日はそこで寝ていろ。俺はやる事があるからまた夜にな」


「ありがとう、ハルゲルのおっさん。おっさんも知ってるんだよな」


「あー、別にお前がどうだろうと気にねえよ。お前が悪い奴じゃねえってことだけは分かっているからよ」


 ハルゲルは頭をかきながら照れ臭そうに出ていった。


「本当にありがとう。レティシアもごめんな」


 アルバルトは手を強く握り締めて視線を下にする。タイラさんが闇に飲み込まれた姿、泣き叫ぶレティシアと大勢の冒険者が倒れている所が次々と脳裏に浮かんでくる。


 …俺はまた救えなかった。力はあの時よりも強くなっていた筈なのに…親父、いや、ヘリオスには届かなかった。


 自己嫌悪に陥りそうなアルバルトを救ったのはレティシアだった。


 握り締めた手の上から彼女はシミ一つない綺麗で白い手を乗せる。アルバルトのゴツゴツとした手とは違い、柔らかくて温かい。その温かさにアルバルトは顔を上げた。


「貴方は本当に優しい人ですね。私はそんな貴方を許します。だからこれ以上、自分を責めないで下さい。貴方が傷ついている所なんて見ていられません」


「だが俺は、俺はっ!お前の父親を見捨てたんだ。鬼人族の力が覚醒したとはいえ、タイラさんを助ける事が出来なかった!」


 アルバルトの顔が険しくなり、眉を顰め、まるで自分自身を呪う様な顔付きになっていた。そんな彼を彼女はいつもの無表情で見返す。


「アルバルトさんだけの責任ではないです。私があの戦いで一番の足手纏いでした」


「そんな事はない!レティシアに俺はずっと助けられて来た!」


 その一言がレティシアの逆鱗に触れる。


「ならっ!ケルベラルの時やヘリオスの時もお父さんやアルバルトさんに守られていた私はっ!何も力になれなかった私は何ですか!貴方が自分を責めるという事は私を貶していると知りなさい!」


 レティシアは全身の手を逆立てて怒り出した。見た事もない彼女の姿にアルバルトは大きく目を見張る。これ以上は何も言わせない。アルバルトが自分自身を責めない様にする為、彼女は声を張る。


「今日はもう寝ましょう。アルバルトさんは疲れているんですよ」


「ごめん、俺が悪かった。だけど…俺はお前を守る事が出来たのか?」


(彼女の本気の怒りを見たのはこれが初めてだ。親を失って辛い筈の彼女の気持ちを考えずに自分が楽になりたいからと謝った。そして自分を責めた。はは…俺は最低だ)


 頭を下げて謝るアルバルトを見て彼女は冷静になり、自分の言わなければいけない大事な事を言う。


「いえ、私も熱くなり過ぎました。ですが、私はもう2度と足手纏いになるつもりはありません。貴方の隣で道を歩んでいきたいから、だからまずはこの言葉を送らせてください」


 胸に手を置いて一呼吸、心臓がバクバクと激しく動いているのを感じる。緊張と恥ずかしさでレティシアの顔にはうっすらと赤みが帯びていた。そして伝える。相手の目を見て自分の気持ちが伝わる様にと願いを込めながら彼女は言った。


「ーー私を守ってくれてありがとうございます」


 その瞬間、花の咲いたような笑みと目から溢れた雫に心が奪われた。


 心臓が一瞬、張り裂けたのではないかと思う程の高鳴ってしまう。身体中の体温が一気に上がった気がする。


「…今日はもう寝る。おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


 頭と身体を彼女と反対の方へ向けて目を瞑る。


 あんなの反則だろうが馬鹿野郎!寝れねえ。


 恥ずかしさで顔を思わず背けてしまった。あんな可愛くて美しい彼女は初めてだ。


 その後も悶えるアルバルトだったが薬を飲んだからかすぐに眠りについたのだが、そんな彼をレティシアはいつまでも見続けていた。


 深い眠りについたアルバルトの額にレティシアは軽く口づけをする。今のアルバルトの額にはツノが無い。それどころか長く白い髪は元の短髪の黒い髪に戻っていた。


「私を助けてくれてありがとう。絶対に逃しませんから覚悟してくださいね?」


 笑みを浮かべて彼女は言う。絶対に逃してなるものかという感情が見て取れた。


 狼は狙った獲物を離さない。奪われたら地の果てまで追いかけて取り返す。


 そう、レティシアはアルバルトを家族にしようと決心したのだった。


アルバルト

起きたら半年が経っていた…レティシアが少し怖い。


レティシア

今日から貴方も家族になりましょう。大丈夫です…貴方は私が守ってあげます。


ミミちゃん

やったー!アルお兄ちゃんが目を覚ましたよー!


ハルゲル

アルバルトが無事に起きてくれて良かった。目から溢れそうな涙を見せたくなくて部屋を出る。ラーナの前で盛大に泣いた。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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