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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第46話 タイラVSヘリオス

タイラの過去をチラッと公開します〜

 僕、タイラの人生は過酷な運命だった。病気を持って生まれ、身体は成長期が来ていない事もあり、貧弱で病弱だった。それを理由に親から捨てられる所から自分の人生はスタートしたと言ってもいい。


「今日からそこが貴様の居場所だ。全く、こんな欠陥品が居なくなって清正するわい!」


「ふ、ふざけんな!…ゴホゴホ」


「ほら見ろ、その病弱で口を開けば汚い言葉を発する。家にはお前という存在はいない。我が家にいる息子はあの子1人だけだ。これ以上、私達に迷惑を掛けるのではないわ!」


 捨てられた…強い戦士が欲しかった両親からは愛想を尽かされた。そして俺には弟がいる。そいつは俺よりも天賦の才に恵まれて身体も立派だった。


 俺だって努力していない訳じゃない。親の愛が欲しくて血反吐を吐きながらも鍛錬に励んでいた。


 でも、結果は変わらない。俺が一歩前に進む度に弟は俺の十歩先を行く。それでいて弟は優しかった。あのクソみたいな両親から生まれたなんて信じられない程だ。


 病気でベッドで横になる俺に食事を持って来たり、酷い言葉で罵って突き放そうが次の日には笑顔で兄さんと鍛錬にも着いて来た。


 その優しさが辛かった。心の底から自分を心配している顔が憎かった。そんな事を思ってしまった自分に軽蔑した。


 ……せめて弟が両親と同じ性格だったらこんな罪悪感に蝕まれなかったのに。


 でも、こうして親から捨てられてホッとしている自分がいた。クズで弱い俺からアイツを解放してやれると思うと心が軽くなる。それだけはこのクソ親父に感謝した。


 その後、吹っ切れた俺は喧嘩屋として誰彼構わずに喧嘩を吹っかけてる。自分の身体が脆い事なんて知ってはいたがどうでも良くなった。


 帰る家がない。それだけで俺の生活は地獄だった。寝る場所もなく、今まで食べていた食事すらありつけない。親に捨てられた欠陥品の俺は毎日、血反吐を吐いて必死で生き抜いた。


 身体に効きそうな薬草を取っては食べ、肉が恋しくなったらその辺のチンピラから金を巻き上げる。意外にも俺はしぶとく生き抜いていた。そしてそんな生活を5年。転機が訪れる。


 身体が成長と共に大きくなり、病状も少しは良くなっていた俺はいつもの様に路地裏でチンピラから金を巻き上げていた時だった。


「おい!何しているんだ、アンタは!」


「誰に口聞いてんだ…ア゛?」


 丁度いい、金が足りなかった所だ。コイツからもぶん取ってやろう。そう思って襲い掛かったが返り討ちにあった。動きに無駄がない。まるで弟を相手にしている様だ。それが余計に俺を苛立たせる。


「クソッタレが、イテェ…」


「お前強いな!良かったら俺の仲間にならないか?」


「クソみてえな事抜かしてんじゃねぇぞ、コラッ!!」


 口の中に溜まる血を飲み込んで奴へ突っ込んだ。一体何分、何時間が経過した事だろうか。奴がまたおかしな事を言ってきた。


「なぁ、俺の仲間になれよ〜!」


「…頭のネジ外れてんじゃねえのか?こんなゴミ放っとけばいいのによ…馬鹿な奴だ」


 ボコボコだ。地面に倒れ伏す俺に奴は声を掛けてきた。奴も鼻血が止まらず、ボロボロのみっともない姿に可笑しくて笑った。


「かもな。でも俺はお前の拳に惚れた。力強くていい拳だったぜ。お前程の男がこんな所に居るのは勿体無い。だから、俺はお前を強引にでも連れて行く」


「…俺は悪い奴だぜ。いつか裏切るかも知れねえぞ?」 


 痛い身体を無理やり立たせる。俺も奴と大差ないぐらいみっともなかった。治っていた笑いがまた込み上げてくる。


「ならその時は止める。悪い事するならぶん殴るからそのつもりでいろよな!」


「…ほんと馬鹿だよ、お前は」


 歯止めが効かなくなった。今までにない大きな声でこれでもかと2人して大笑いした。必要とされている事実が俺の背中を押したのだ。


(そうだった…俺は俺を必要としてくれる事実が欲しくて仕方なかった…ただそれだけだったんだ)


 その後は奴の旅に着いていき、様々な人達と交流を深めていった。俺はいつしか鋭くなっていた心の牙も溶かされて丸くなっていたのを感じた。


 今まで仲間なんていなかった俺は背中を預けられる存在に恵まれた。誰かに必要とされる、信頼出来る存在は俺の中の心が変わっていくのを実感し、嬉しくも楽しくもなっていた。


 小さくて可愛い自分の娘が出来てからは強い口調を直して俺から僕へと言葉を変えた。


「お前が僕を変えてくれたんだ!思い出せ、ミナト!!」


「叫ぶな、タイラ…もう手遅れよ!」


 俺は…僕は愛する妻、タマツキと出会い、可愛い子供を授かった。今までに体験した事がない程の幸福を感じた。だが、それと同時に不安も押し寄せる事となる。


「守る。絶対に…!」


 親から捨てられ、親の愛情を知らない僕は果たしてあの子に目一杯の愛を注げるのだろうか?いつしかあの子を傷つけてしまう。そんな未来に僕は恐怖した。


 でもあの子の笑顔を見た瞬間、そんな気持ちは掻き消される。可愛い僕達の娘レティシア。お母さん似のあの子も成長すれば、タマツキと同じ、いやそれ以上に美しくなるだろう。


 賢くて可愛い子だ。きっと良い男を捕まえて家庭を作って幸せに暮らす事も出来る筈だ。それを邪魔する存在は僕が許さない。


 あの子の為なら、どんな事だって、何だって出来る。例えそれが、自分を変えてくれた仲間でも容赦しない。あの子の将来を…その未来を絶対に奪わせてたまるものか!


 アルバルト君を救出する為、彼らを此処から遠ざける時間を稼ぐ為に僕は立ち向かう。この数秒の間に何十と攻防を繰り広げているが手応えが少ない。遊ばれている様だ。なら僕に取ってもそれは都合が良い。


「"我狼(がろう)"!」


「ほぅ…呪いに蝕まれてもなお、速度を上げるか!!」


 奴に勝てる手段といえば、この足だ。速さで撹乱して倒す事、それが僕に出来る唯一の手段となっている。


 昔はもう少し速く動けたが、今の僕は掛けられた呪いのせいで力が出しづらい。ただでさえ、病弱な身体を酷使していてガタが来ているのだ。全く老体に響いて仕方ない。


「お陰様でな!グッ、ゴホゴホ。…身体を動かすとこれだ。嫌になっちゃうよねッ!!」


「俺の力をその身に封印するということはそういうことよ。力を使えば使うだけ、苦しみも増えていく。だが、そのおかげで貴様らは死にはしなくなったであろう?」


 そう、魔王の力を僕達の身体の中へと封印した。当時の魔王はとてつもない強さで軽く腕を振れば大地が割れる程だ。僕達はパーティー全員で挑んだがそれでも魔王とは互角を繰り広げていた。


 僕達はどうすれば魔王を完全に倒せるか話し合ったが解決策は見つからない。ならば封印してしまえば良いのではと問題を先送りにするがその間にまた考える時間を作るということになった。


 僕達は死力を出し切って魔王の隙を作り出し、ミナトのスキルを使った。そして僕も含めて9人の魂と魔王の力を結びつけることによって魔王を封印出来たのだ。


「そうだね。僕は歳も止まったけど、皆んな死にはしなくなったと聞いている」


「感謝してほしいぐらいだ。ならば分かるだろう。お前では俺には勝てない。あの時、9人がかりでようやくこの俺を封印したお前らにはな」


 タイラとヘリオスが一旦距離を取る。タイラはアルバルトとレティシアの様子をチラリと見た。


 目を覚ましたアルバルトが起き上がってレティシアと逃げていくのを確認する。ならば、もう少し話して時間稼ぎに務めるとしよう。


「僕だって考えたさ。どうすれば魔王を倒せるかとね。それがスキルだったんだよ。女神様から賜ったこの力がお前を滅ぼす唯一の手段だったんだ」


 そう、コイツを倒す手段は剣でも魔法でもない。誰しも持っている超常的な力、スキルだった。僕は魔王の力をその身に宿してから身体が更に弱くなっていた。最初は身体を動かす事もやっとで立ち上がるのにも時間が掛かった程だ。


 しかし、ある日。来るべき日に向けて自分を鍛え直そうとした時、気づいたんだ。最初はスキルを使ってすぐに倒れた。次にスキルを使った時、倒れずに立っていられた。またスキルを使うと身体がまだ動かせる事が出来た。


 スキルを使う度にどんどんと身体が動かせる様になっていく。その度に血反吐を吐いて寝込んだりなんてしょっちゅうだったが。


 最初は偶然だと思った。それが確信に変わったのは自分の中に眠る魔王の力が少しずつ弱まっていくのを感じた時だった。それからは体調の良い時にはスキルを使い、寝込み、治ったらまた使って寝込むという繰り返しだった。


 今では薬で体調が良くなる様になってきており、魔王の力は最初に比べたらだいぶ削られただろう。いつも寝込んでばかりだったのでレティちゃんには迷惑かけっぱなしだったのは良くなかったと反省している。


「…スキルか。成る程、確かに女神の力であれば、俺の力は削られる。それでもお前らはこの俺を倒すまでには至らなかった。何故だと思う?所詮、分かったところでどうしようも無い。俺の力はそれ程までに強い!」


 僕が考えた魔王を倒せる手段を聞いた魔王はくつくつと笑う。


「そうさ、あの頃の僕らはまだ弱かった。だが長い年月をかけ、技を磨き、高めた事で僕はお前を倒せる技を編み出したのさ」


 魔王が笑いを止め、タイラへ向き直る。


「この俺を倒せる技だと?くだらんな、スキルは女神がお前ら弱者に与えた救済装置にしか過ぎない。それを幾ら磨き上げた所で高が知れている」


「ならば、受けてみるがいい!我が魂の一撃を…!」


 タイラとヘリオスの間に緊張が走る。2人から溢れんばかりの闘志と殺気に空間が歪む。


「これが僕の新しい奥義"狼牙月下斬(ろうがげっかざん)"!!」


 タイラが持つ短剣に紫のオーラが纏わり付く。そして我狼と同じ速度で魔王へと迫っていく。


「ふん、結局変わりないではないか。いい加減我が元へ降れ。"暗黒剣 絶(あんこくけん ゼツ)"」


 迎え撃つ為、ヘリオスは魔法をその手に握り締めている剣に纏わせて応戦する。そして両者がぶつかり合った時、魔王は驚愕した。


「なん、だと…?俺の身体に傷を付けただと」


 タイラの持つ短剣が魔王の剣を粉砕し、その身体にバツ印を刻み込んだ。ヘリオスの身体の傷口から黒い瘴気が吹き出す。


「ぐぬぅ、まさか俺の身体に傷を付けただけでなく、我が力まで削られるとは…」


「ハァハァ、だから、言った、だろう。編み出したって…努力が結んだ奇跡って奴だ、な…」


 新しいスキルを解放してタイラはぶっ倒れた。今まで身体の弱いタイラがケルベラルや魔王にスキルを酷使して動き回っていたのだ。本来であれば立っている事さえ、奇跡だっただろう。


 タイラは子供達を助ける事に命を燃やした。そこへ更に全身全霊の一撃という負荷が大きい技を使う選択をしたタイラは膝から崩れ落ちたのだった。


(レティちゃん達は…まだ遠くへ逃げていない。まだ時間を稼がなきゃいけないのに身体が全く言う事を聞いてくれない…!)


 倒れる寸前、横目で彼らを見たタイラは思う。逃げろ、どこまでも遠く、あの男の手が届がない所まで逃げてくれと願う。


「タイラ。お前は少しでしゃばり過ぎた。だからこれはお仕置きだ」


 倒れ伏すタイラへ魔王は足を高く振り上げるとそのままタイラの横腹を蹴り上げる。


 そしてタイラはアルバルト達の目の前に勢いよく飛ばされた。そして魔王は彼らの前に姿を現すとこう言った。


「何処へ行くんだ。まだお楽しみはこれからだぜ?」

最後まで読んでくださりありがとうございます。


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モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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