第45話 魔王ヘリオス現る
強敵ケルベラルを何とか倒し、まだ街にいる敵を倒そうと話し合った。そしていざ行こうとした時、俺が長年探し求めていた人物が空から降ってきた。
目の前で大きな声で笑っている中年の男。安そうな着物を身に纏った黒い髪の間違いない…アイツは俺の親父だ。あの日から見た目が変わっていないのですぐに気がついた。
「親父……今まで何処に行っていた。それにあの日の事、ちゃんと話して貰うぞ!」
「大きくなったな〜、アルバルト。ええ?俺と同じぐらい身長伸びたんじゃないか?はは全く、子供の成長は早いのな」
「…ッ!俺の質問に答えろ!」
俺の質問を無視するかの様に振る舞う様子を見て頭に血が上る。思わず、強い口調になってしまったがそれだけ不満と怒りが溜まっていた。
「どうどう、そうかっかするんじゃねえよ。久しぶりの再会なんだぜ…とその前に」
アルバルトが男に向けて怒りを露わにするがそんな事は気にも留めずに男は女神像まで近寄る。そして女神像に手を付くと男は魔法を行使した。
「言いつけすら碌に出来なかったのか、あの駄犬め…まあいい。闇魔法、黒焔」
男の手から放たれる黒い炎の龍が女神像を貫いて焼き尽くしていく。女神像は内部の支柱を破壊され、バラバラに崩れ落ちていくが黒い炎の龍が大きな破片を飲み込み、それすら消滅さていった。
「…間違いない、見間違える筈がない!」
タイラが男の姿を見て叫ぶ。タイラの言葉に反応して男はチラリと顔を向けた。
(…アイツだ。僕達の探し求めていた奴が此処に姿を見せた)
偶然にもアルバルトが探していた父親とレティシア達、親子が探し求めていた人物は同一人物であった。
タイラが叫び、レティシアが無表情から顔を顰め、憎悪に塗れた顔を作り出す。アルバルトはその異常な光景に目を見開いて戸惑いを隠せない。
「目的は果たした。はははっ!これで俺の夢がようやく叶う!」
「ヘリオスッ!ようやく会えたな!」
先程まで神々しく立っていた女神像が跡形もなく破壊された。それを見て男は不敵に笑う。そして再びアルバルト達に向き直り、言葉を発した。
「全く、お前らはもう少し静かに出来ないのか。なあ我が友よ」
「その顔で、その口で僕の友を語るな!お前など友でも何でもない。僕の妻を返して貰うぞ、ヘリオスッ!!」
いつの間にかタイラの姿はアルバルト達から離れ、ヘリオスと呼ばれた男に刃を向けていた。それを男は虚空から取り出した剣で受け止める。
「確かタマツキだったかな?ちゃんと生かしておいてやっただろう。お前も、お前の妻も昔は俺と一緒に冒険していた大切な仲間だったんだからなぁ!」
「くっ…!?」
タイラは鍔迫り合いをしていたが力の差で吹き飛ばされる。上手く足から着地して身体にかかる勢いを相殺した。そこへアルバルトとレティシアが駆け寄る。
「タイラさん!」
「お父さん!」
「タイラ。お前、弱くなってんな。以前のお前ならあの程度の攻撃なんて見切って俺の懐に入り込めただろうに…行動が遅い上にイマイチ身体にキレが感じられない」
「グッ…ハァハァ、誰のせいだと思っているんだ」
グッと唾を飲み込み、タイラは武器を構え直す。殺伐とした雰囲気の中、アルバルトは状況をまずは理解しようと父親に質問した。
「親父ッ!ヘリオスとか返せとかどういう事だ!俺にはもう何が何だか、理由がわかんねえよ!!」
次々と語られる言葉に理解出来なかったアルバルトは悲痛の叫びで嘆く。ヘリオスは面倒くせえなぁと頭をかきながらアルバルトへ説明をした。
「はぁー、仕方ねぇ説明してやるか。ざっくり言うと俺はお前の親父であり、勇者ミナトであり、そしてそこの親子から絆を奪った魔王ヘリオスである」
説明されたアルバルトの頭にはハテナが出ていた。訳がわからないだろう。父親で?勇者で魔王?突然の意味不明な単語のオンパレードにアルバルトは混乱した。
「うーむ、そうだな…お前の父、ミナトに封印されていた魔王とお前の父親の意識が混じり合い、誕生した存在と言えば分かりやすいか?」
「……親父が魔王と混ざった?」
「そうだ。お前の父親を取り込んだ俺はヘリオスと名乗り、ある目的の為、結界が機能しなくなる今日、この日を待った。結界の中にいる奴らは女神の力が働いていて手が出せなかったが、1番の障害は排除できた事だろう…これでかなりやり易くなった」
「そんな馬鹿な…お袋は、お袋は何処に居るんだ、答えてくれ!」
「お前の母親なら今は俺の中に居るさ」
ヘリオスは自分の身体を指差す。それはアルバルトを動揺させるには充分だった。そして瞬時に考えついた最悪の答え。
「まさか、お袋もお前に取り込まれたとでも言うのか…?」
「さあ?どうだかな。お楽しみは取っておこうか」
手足が震える。実に5年ぶりに再開した父親から語られたのは己が魔王である事、レティシア達の大切な存在を奪った最悪の存在だと判明してしまった。父親の皮を被ったこの畜生をアルバルトは許せない。握り込む拳に力が入る。
「お、おまえぇ!俺の親父とお袋を返せぇぇえ!!!」
「待つんだ!アルバルト君!」
「アルバルトさん!!」
タイラとレティシアが今にも殴りかかりそうなアルバルトを止める為、手を伸ばすがアルバルトは残っている全ての力を総動員してヘリオスへと飛び掛かる。
怒りに身を任せたアルバルトを見てヘリオスはくすりと笑う。
「遅いなぁ、アルバルト」
ヘリオスと殴り掛かったアルバルトだったが目の前にいたヘリオスの姿が消えた。何処に行ったと探そうとした次の瞬間、ヘリオスの手のひらがアルバルトの顔を背後から掴む。そのままヘリオスは地面へアルバルトを押し込む様にして叩きつけた。
「……ァ」
「あの頃から本当に変わってないな?まだまだこんなに弱いとは…」
「アルバルト君ッ!レティちゃん、僕がアイツを惹きつけているうちに彼を連れて此処から離れるんだ!」
タイラがレティシアに叫ぶ中、アルバルトがヘリオスによって地面に何度も何度も叩きつけられ、彼の意識はすでに飛んでいた。それでもヘリオスは片手で彼の顔を鷲掴みにして持ち上げると地面へ叩きつける。
この行動を繰り返すヘリオスの手は頭や口から吹き出したアルバルトの血で染まりきっていた。
「私は…」
「僕は大丈夫だから。後で合流しよう。出来るね、レティシア」
はっと目が合えばタイラがしている目はこれから死地に行く戦士がする覚悟を決めた目だ。レティシアは父親の普段見ない勇ましい姿を目に焼き付くして涙を堪える。
「はい、任せて、ください…」
「なら、早く行くんだ。決して後ろは振り返るな。僕との約束だ」
レティシアに別れを告げ、タイラが持ち前のスピードでヘリオスへと突撃する。それに気付いたヘリオスも迎え撃つ為に虚空から取り出した剣で応戦した。
◆
女神広場に幾たびも響き渡る金属がぶつかり合う音を尻目にレティシアは地面に叩きつけられ、気を失ったアルバルトを起こそうと躍起になっていた。
「起きて!起きてください!」
声を掛けても反応がない彼を見てレティシアは手を振り上げてアルバルトの頬をビンタする。一度で起きないならもう一度!と何度も彼の頬に張り手を打つ。
「…レティシア」
「良かった。目が覚めたんですね。急いで此処から一旦離れましょう」
「イッ、テェ…タイラさんは…」
何処に行ったのかと思い、ぐわんぐわんする頭を抑えて立ち上がる。外部からの痛みでアルバルトの意識が完全に覚醒した。
「父なら大丈夫です。さあ早く…!」
レティシアに手を引っ張られて俺達はこの場から逃げ出す。レティシアは今まで貯めていた涙を零して前だけを見て突き進む。
これが恐らく父を見る最後になるかも知れないと思いながらも彼女は懸命に生き延びようと行動に移した。
アルバルトも身体を無理矢理に動かしてレティシアから離れない様に注意して走る。今もなお、後ろで戦っているタイラさんを残して逃げる事や自分の前で泣いている女の子を見ても何も出来ない自分に心底嫌になった。
「………ッ、下がって下さい!?」
逃げだした彼らの前に空から何か大きな塊が降ってきたのだ。アルバルト達は警戒して止まり、落ちて来た塊を見る。それは自分達を逃す為に魔王へと立ち向かったタイラの姿だった。
「お父さん…!」
「タイラさんが負けた…という事は!!」
身体のあちこちに裂傷があり、力なく倒れるタイラにレティシアは駆け寄って呼び掛ける。アルバルトはその光景を見て血溜まりに沈む母の姿が脳裏に浮かび上がっていた。
そんな彼らを嘲笑うかの様に先程までタイラと戦闘していた魔王が、ヘリオスが目の前に姿を見せる。
「おいおい、何処へ行くんだ。まだお楽しみはこれからだぜ?」
魔王からは逃げられない。
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