第43話 ケルベラル討伐戦2
ケルベラルとアルバルト達の間で激しい攻防が繰り広げられていた。
ケルベラルが再び鋭い爪と血の剣を振り回してアルバルトを狙う。対抗する様にアルバルトは大剣をケルベラルの魔石に向かって横凪に振るう。
半人半鬼であるアルバルトは力が凄まじい。ケルベラルは両腕を使ってアルバルトの攻撃を受け止める。
そこへレティシアが隙間を縫う様に小柄な身を潜め、ケルベラルの損傷が少ない背中や足を短剣で抉り取る。
「クソッ、ウザってェ…!」
だがケルベラルも負けてはなかった。負傷する度にどんどんと血で出来る棘がケルベラルを守る装甲としてアルバルト達の攻撃から身を守る役目を果たしていく。
ケルベラルが嵐の様に身体を回転させて近づくレティシアとアルバルトを弾き飛ばし、身体中に傷をつける。2人の防具はボロボロになっており、あと数発も受ければ壊れるだろうと予測が出来る程だ。
「ハァハァ、これはマジでやばくなってきたぞ…」
「くっ、何か奴に決定打を与える程の力が私にあれば…!」
アルバルトは思考する。
鬼人族特有の再生能力を使えばまだ戦えるが長い戦いで魔力が大量に消費したせいで心許ない。
これ以上の戦闘は不味い。ならばどうする?奴の魔石付近の守りが硬く、幾度となく攻撃するも防がれる。そしてケルベラルはどんどんスキルによって強くなっていく。
このままじゃ勝てない。まだ何も旅の目的を果たせていないのに俺はまだこんな所で終われない!終わる訳にはいかないんだ。
ツーッと汗が額から溢れ落ちる。ケルベラルを見据え、どうすればと考えるアルバルトに声が掛かった。
「…アルバルトさん、私が囮になります。アレはまだ私達では勝てません。…だから私が合図したら此処から離脱してください」
「何を言ってるんだ……そんなこと、出来る訳が無いだろう!!」
何を馬鹿な事を言っているんだと顔をレティシアに向けて見れば、彼女も此方を見て優しく微笑んでいた。今まで彼女とパーティーを組んできた中で初めて見た表情だった。
「オイオイ、この俺を前によそ見とはいい度胸じゃねぇかァ!」
「早く行って下さい!"疾風"!」
ケルベラルはレティシアの頭上に向けて血で凝縮された剣を振り落とす。手元にある短剣でガードをすれば、自分の身体が真っ二つになる事は予測が出来た。レティシアは残りの力を振り絞り、スキルを使用して避け続ける。
それは愛してしまった彼を逃す為にレティシアが取った決死の選択だった。
「ハァハァハァ、うっ…ぐ…!早く、早く逃げてください。アルバルトさんが逃げたら私も逃げますから…お願い、早く逃げて…!」
レティシアは最早、限界だった。立っているのもやっとの状態、度重なる戦闘で刃こぼれをした短剣を構える。それを見たアルバルトは初めてレティシアに怒りを覚えた。
「馬鹿な事言ってんじゃねえ!お前を置いていけるわけないだろうがッ!!」
「こんな所でアルバルトさんの旅が終わってもいいのですか!?ご両親を探すのでしょう!!」
レティシアがケルベラルを警戒して今度は振り向かずにアルバルトへ話し掛ける。
「…あの夜、私は何かあればアルバルトさんを始末しようとしてました。貴方は私達が復讐したい人物によく似ていました。だから情報を聞き出す為に近付いて、もし関わっていたのなら、私は貴方を手を掛けていたでしょう。……私はそういう女なんです」
レティシアがアルバルトへ告げた正直の気持ちだった。アルバルトの話を聞き、改めて彼を意識し始めたレティシアの心は変化が生まれた。
(ーーー私は彼の容姿に憎しみを抱いていた。強がろうとする彼を見て憎しみが何か別の物に変わった気がします)
最初に裏切っていたのは自分だ。彼の優しさを利用した最低の自分。それが今の私だった。
(だけど今なら分かる。彼の笑顔を惚れ、手を握ってドキドキしていた事、お互いの夢を語り合ったあの夜に全て分かってしまった。彼の優しさに触れて気付いた私の気持ち、そんな資格などないのは分かっている。それでも…私は彼の事を愛している)
「これは私の償い。だから貴方は私が全力で守ります!」
あの夜から彼女はアルバルトに対して後ろめたい気持ちであった。彼女はずっと胸の内に秘めたまま罪悪感に駆られていた。
そして今が償いの時、魔力はもう使い果たして身体がなかなか自由に動かない。だが彼を逃す一瞬なら時間を稼げるかも知れない。ならやるしか無い、それしか私には出来ないのだから。
「うるせえなァ、テメエはもう黙れよ」
ケルベラルは喋るレティシアに向けて血の剣で突き刺そうとした。防御も躱すことも難しいレティシアにはそれが自分の最後になると予想する。
「行ってください!生きて下さい!」
「レティシアッ!待て、待ってくれ!俺はまだお前と…!」
一緒に居たいと言葉に出すよりも先に足が動く。
レティシアへと駆け出す足が遅い。手を伸ばすが、もう間に合わない。
(くそ、くそくそ。なんでこんなに足が重たいんだ。行かないでくれ。止まってくれ、レティシアッ!)
諦めかけたその時、ケルベラルとレティシアの間に一陣の風が舞い込んだ。
「よお、僕のレティちゃんに何してくれんだ犬っころ」
ケルベラルの攻撃が地面へ激突し、いつの間にかレティシアを抱えたタイラが血を吐きながらそこにいた。
◆
王城、謁見の間にて。
魔王の魔法。ダークバインドによって拘束された聖女マリアは魔力を全身に纏わせ、一気に使う事で何とか自力で拘束を解いた。
「ふんっ、せい!…よし、外れました。エウロアエ王、ヴィーラ!ご無事ですか!?」
マリアは倒れているアーサーとヴィーラに話しかけながら回復した魔力で回復魔法を掛けて傷を癒していく。
「何とか儂達は無事よ。しかし、事態は一刻を争う。街にも被害が出てきておる。聖女マリアと聖騎士長ヴィーラよ、まだ脅威は去っておらん。どうか力を貸してはくれまいか」
王が嘆願する。人々の頂点に立つ者としての責務を果たそうと横になりながらも今動ける戦力へお願いをする。命令ではなくお願いだ。その瞳に宿った民を守るという意思の炎は聖女達の心に火を付けた。
「お任せを。私達がこの戦いを終わらせます。王はそのままお休みください」
「頼む。それとこれをーー」
「……これはエウロアエ王の杖」
それは先程まで魔王と戦っていた時に使っていた杖だ。杖の持ち手には青い宝玉が付いている。
「今の儂からはこんな事しか出来そうにない。魔力を増幅してくれる杖じゃ。きっと役に立つじゃろう」
「分かりました。有り難く使わせて頂きます」
エウロアエ王は聖女へ希望を託す。聖女はそれを受け取る。マリアが杖を胸に抱き止めるとそこへヴィーラが声を掛けた。
「さあ行きましょう。聖女様」
「ええ、魔王が向かった先は女神像がある広場の方でしたね…では、エウロアエ王。私達は行きます」
「ああ、武運を祈っておる。儂も回復次第すぐに動く」
聖女と聖騎士長は王に別れを告げて王城を抜け出して魔王が向かった所に向かって走り出す。
女神像が見下ろす広場にはケルベラルと激闘を繰り広げているアルバルト、レティシア、タイラがいる。そこへ向かう魔王とそれを追うマリアとヴィーラ。
今まさにこの戦いの終盤へと突入する。
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