第40話 悪夢のパレード
日食が始まる少し前、エウロアエ王国の王城ではアーサー・シャム・エウロアエとマリア・デーリアが謁見の間にて勇者召喚に取り掛かっていた。
2人の護衛であるヴィーラ・ランスは何人来ようが誰も謁見の間に通さないとばかりに扉の前に陣取り、守りを固めていた。
「もうすぐ月と太陽が重なり合う。伝承通りに事を進めよう…マリア殿、準備はよいか」
「大丈夫です。魔力をこの日の為に高めておきました。いつでも行けます」
そして月が太陽と重なる瞬間、マリアは高めていた莫大な魔力を用いて魔法陣に注ぎ込む。暗くなる部屋の中、魔法陣だけが高々と光り輝いて見るものを惹きつける。
「くぅぅ……!魔力が凄い勢いで吸い取られる!でもあと少しで行けそう…!」
マリアが力を振り絞って注ぎ込むと魔法陣は更に光を強くする。
しかし、それを遮る者がいた。
「それはやらせる訳には行かないなぁ」
マリアの腹に何者かの拳が入り、小さな身体がその威力に耐えきれず、浮かんで壁に激突する。魔法陣を展開していたマリアが消えた事でアーサーも焦りを隠せなかった。そして光がこの部屋を照らす時にその正体が判明する。
「まさか、こんなに早く来るとはのぉ。……久しぶりだな、我が友よ」
「おいおい、まさかジジイになって耄碌でもしたのかよ。久しぶりだなぁ、エウロアエ王。いや、賢者アーサーよ」
魔王と賢者が出会ってしまった。お互いの足元からバチバチと魔力が漏れ出す。
騒ぎを聞きつけて中に入った聖騎士長は一瞬驚くも聖女が何処にいるか確認しする。壁に激突した聖女に駆け寄り、容態を見れば頭から血を流して気絶する聖女がいた。
◆
同刻。女神像広場。
悲鳴を聞き、そちらに目を向ければ3mはあるだろう二足歩行の巨大なヘルハウンドがいた。そのヘルハウンドの周りには惨殺された死体が転がっている。
「見つけた、見つけた、見つけたぞぉ!我が憎悪の相手とその仲間共がぁ!」
ヘルハウンドは雄叫びを挙げた。耳がキーンとなる様な声だ。
「いやぁぁぁぁああ!!!!」
「に、逃げろ!!」
「押すな、押すんじゃねえ!アルバルト!レティシア!早く逃げろ!」
「ハルゲルのおっさん!ラーナさんや子供達を守ってやってくれ。此処は俺が引き受ける!」
ヘルハウンドの雄叫びに周りの人々は逃げ惑う。ヘルゲルのおっさんとラーナさん達も人々に押され、この場から徐々に離れていった。そんな彼らに聞こえる様に大きな声で言う。
聞こえたかは分からないが周りには何人かの冒険者だと思われる人達が武器を構えている。残りはこの場から逃げおおせた様だ。
「テメエだよ、俺達の家族の誇りを汚したテメエによぉお!!」
指を向けられた方向にいたのは俺だった。どうやら探していたのは俺らしい…と言ってもこんな化け物、見覚えなんかない。
「…お前は誰だ。何故、魔物が喋れる!」
「教えてやるよ。そこの女を狩ろうとした時にテメエが木に叩きつけたのが俺だ。そして俺は魔王様により魔物から進化した高い知能を持つ魔族へと生まれ変わった。それが俺、ケルベラル様だ!」
「ま、まさか…あの時のヘルハウンドだと言うのですか…!」
レティシアが戸惑いながら叫ぶ。それに気分をよくしたのかゲラゲラと下品な声でケルベラルは笑う。
「そうだァ!お前らがちゃんとトドメを刺しておけば犠牲も出さずに済んだのになァ!!」
惨殺された死体を指差しながら言う。
(俺がちゃんと仕留めていればこんな惨状は起きなかったのか)
目の前の光景に唖然とする。あの時は傷ついたレティシアを優先して、でも俺がちゃんとしていればこんな事にはならなかった?思考がぐるぐると頭の中を掻き乱す。
「しっかりしてください!敵は目の前に居るのですよ!!」
レティシアはいつの間にか両手に短剣を構えて戦闘態勢を取っている。彼女の声にハッとして俺も背負っている大剣を構えた。
確かに額に大きな傷がある。あれは前に倒した時にいたヘルハンウドと酷似している様に見える。
「……まァいい。テメェらはすぐにはヤらねェ、腕を研いで足を引きちぎって身体をズタズタにしてから喰ってやるからよォ!!」
だからとケルベラルは言い放つと姿がブレる。目を凝らせば地面を蹴り上げ、物凄いスピードで他の冒険者の目の前まで移動した。
「はっ、え?」
ケルベラルはそのまますれ違う。襲われた冒険者は何が起きたか理解が追いつかなかった。いきなり目の前に現れ、通り過ぎていく魔族に戸惑いが隠せない。
しかし、ケルベラルの口には人の腕らしき物が生えていた。否、その冒険者の右腕であった。腕を喰いちぎられた。その事態に今更気が付いた冒険者は悲鳴を上げる。
「イギィィイヤァア!俺の、俺の腕が…アアアァアァァァァァ!!」
あまりの痛みに膝をついてのたうち回る。その情けない姿にケルベラルはニンマリと顔を歪ませ、のたうち回る男にトドメを刺すと他の冒険者も襲い始めた。
ある者はその鋭い爪で身体を切り裂かれ、ある者は蹴りやパンチを食らい吹っ飛んでいく。その残虐性と強さから自然と汗が滲み出る。本気でかからないと相手にすら出来そうにない。今もケルベラルの攻撃を弾き、傷を多少負いながら戦っている冒険者も見渡せば何人かいるが戦況はあまり良くない。
「レティシア、俺がアイツを惹きつける。隙を見て援護を頼む!」
「分かりました。気をつけてください。ヘルハウンドの時よりも大幅に強くなってます」
鬼の力を今使える最大限まで解放する。鬼人族と感づかれる可能性は否めないがこれ以上、犠牲者を増やす訳にはいかないし、見過ごせない。
大剣を肩に乗せ、体勢を低くしてケルベラルに突っ込む。鬼人の力で強化された身体能力から生まれる速度はケルベラルに迫る勢いだ。
大剣でケルベラルを押し潰す勢いで振るう。俺の接近に気付いたケルベラルは咄嗟に腕でガードする。
「ぶった斬ってやる……!!」
「グゥウッ…!テッメェェェエ!!」
ケルベラルの肉厚な腕に大剣がだんだん深くまで食い込んでいく。全身の力を使い、更に力を込めて振り切る。
「はぁああああああッ!!!」
グチャリと嫌な音が鳴った後、ケルベラルの片腕が切り落とされる。ケルベラルは先程の雄叫びよりも大きな声で悲鳴を上げた。
「俺の腕をよくもよくもヨクモォオオ!やっぱりテメエから八つ裂きにしてくれる!」
「"疾風"!」
アルバルトに飛びかかろうとしたケルベラルにレティシアが魔力で強化した足を行使して追い付く。
ケルベラルの背後に移動し、持っている短剣で切り付けると素早くケルベラルから離れてアルバルトの側へ戻る。その直後、周りの冒険者の魔法がケルベラルを襲った。
「ガァアアアッ?!」
魔法の連撃に想像以上のダメージをケルベラルに負わせる事に成功した。あのケルベラルもこれは効いたみたいで膝を着き、苦しげに唸っている。
片腕は切り落とされ、鋭かった爪は欠け、体毛は散り散りに焼けている。体毛が焼けて魔物の弱点である魔石がケルベラルの胸に見え隠れしている。ケルベラルは先程の姿とは打って変わり、ボロボロになって見た目は弱っている様な感じだ。
「いける、倒せるぞ!よし…俺がトドメを刺してやる!!」
「ま、待て!不用意に近づくな!!」
弱っていそうなケルベラルに武器を手に取り駆け寄る1人の冒険者。近くにいた他の冒険者が静止を促すも止まらなかった。
「この魔族め!俺の仲間を殺しやがって!」
ケルベラルの魔石を破壊する為、男は剣を突きつける。魔石へと迫る剣はケルベラルの胸に刺さる事はなかった。ケルベラルがまだ残っている腕で止めたのだ。
「調子に乗るなよ、雑魚共が…!スキル"血の牙"」
ケルベラルの無くなった腕から血で出来た剣が生える。どす黒い真っ赤な剣はトドメを刺そうとした男を斬りつけながら吹き飛ばす。
「おいおい、一体、なんの冗談だ…?魔物が、いや魔族がスキルを使うなんて…」
目の前の光景にみんなが驚愕する。魔族がスキルを使う。歴史上、魔族がスキルを使うなんて記されてはいない。あの英雄の足跡に出てきた魔族も人族を凌駕する圧倒的な身体能力は持ち合わせていたものの、スキルを使用して来るとは記されていない。
「ゲヘヘへ、さあ、2回戦と行こうじゃねえか!」
ケルベラルは傷付いた身体を血で固めて体勢を整える。みんなの心の中に恐怖と不安を抱えたまま、第二ラウンドが始まろうとしていた。
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