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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第39話 月影祭

 鋭い眼光で此方を睨むレティシアに事情を説明した。勿論、レティシアへのプレゼントという事は伏せてだ。


 歩いていたら女性が目の前で倒れた事、それを助けたらお礼として買い物を手伝って貰った事を話した。


 …何故か執拗にマリアとどんな関係なのか聞いて来たが他意は無いし、そもそも知り合ったばかりだと根気よく説明したら最終的に納得して貰えた。


(何で俺…こんなに責められてるんだろうか)


 気分はそう、浮気した夫を妻が追い詰める様な感じであった。


 まあ、結婚した事もないけどさ。


 何とか落ち着かせた彼女を家まで話し相手として送り届けた。タイラさんから聞いたレティシアの誕生日に送るプレゼントは達成した。


 その日以降はいつも通りに務め、冒険者ギルドで依頼を受けて金を稼いだり、両親の特徴言って心当たりは無いかと酒場で聞き込みをした。


 俺はどうやら鬼殺し以外の酒には強い耐性があるみたいで、酒場で定期的にやっていた酔っぱらい共の飲み比べ大会に飛び入り参加して見事勝ち残った。


 酒はやっぱり、鬼殺しが1番だったな。


 そして月日は流れ、レティシアの誕生日当日。この日は依頼を受けずにタイラさんと一緒にレティシアを祝う計画をしていた。


 まずはレティシアの誕生日が丁度、月影祭という祭りがある日だと分かると俺がレティシアを連れ出す。そして連れ出している内にタイラさんがサプライズとして家でパーティーの準備をするという内容だ。


 準備が終わり次第、合流してくれるそうなのでそれまでは彼女と祭りを楽しむ事にしよう。


 それにしても段取りを決めている時、タイラさんの顔が引き攣っていた気がするが何故だろうか。


 まあ、レティシアにまた何か言われたのだろうと予想はする。


 ……あの人は娘の事となると感情が爆発するし、それ以外だと意外と大人な対応をしてくれるからきっとレティシアとの間に何かあったのだろう。


 ちょっと気になったのが最後に何故かごめんとか俺に対して言ってた事だな。まさか、この誕生日サプライズがバレていないだろうな?


 まずは予定通り、レティシアを月影祭に連れて行こうと思う。


 レティシアの家へ朝早くから足を運んだ。到着する頃には丁度、彼女が外へ出て歩いていた。


「あれ…?いつもより朝早いですね。どうしましたか、アルバルトさん?」


 彼女は首を傾げて此方を見てくる。


「今日はお祭りだからな。依頼は受けないという事を伝えに来たんだよ。だからさ、俺と一緒に…お祭りを回らないか?」


「良いですよ。今日はお祭り、楽しみですね。アルバルトさんからリードして頂けますか…?」


「おう、俺に任せとけ!良い思い出にするよ、お姫様?」


 俺が手を差し出すとレティシアがその手を取る。離れないようにしっかりと握り込んだ。


 レティシアの握力だったらマリアとは違い、そこまで力は強くないのでやろうと思えば振り解ける。今日の主役は彼女だし、そんな無粋な事はしないがな。


 マリアは別だ。あれは馬鹿力過ぎて痛かった。振り解こうにも振り解けなかった。


 レティシアと俺は屋台が沢山出ている女神像がある広場へ向かう。不意に尻尾までが腕に巻き付いて来たが気にしない。そのまま成すがまま、されるがままに歩いて行った。


 正直、レティシアとの距離はだいぶ縮まった気がする。あの湖で一晩過ごした時からだと思う。


 あの日以来、彼女は俺が他の女性と話そうとすると遮ってくる様になった。ナタリーさんとは最近話せてすらいない。


 好意を向けられている。そう勘違いしてしまいそうになるが、後一ヶ月後ぐらいで俺は旅に出ようと思っている。


 そろそろBランクに昇格する為に強い魔物がいる所に行きたいと思っているからだ。金も貯まって来たし、このままだとずっとは居られない。


 そろそろ行動しないとここにずっと居てしまいそうになる。彼女には悪いが元々パーティーを組む時に言ってあった筈だ。


 …どのタイミングで言うか考えなくてはいけないな。


「凄い人の量ですね。それに見た事ない料理が沢山あって美味しいそうです!」


 前にこの広場へ来た時には無かった料理の出店がある。美味そうだったので二つ購入して彼女にも渡す。


 パクパクと食べている姿は見るものを癒してくれるだろう。尻尾は巻き付いて揺れる事は無いが耳はぴこぴこ動いている。


 俺も食べてみると甘くて美味かった。前世で食べたチェロスによく似ている。サクサクもちもちしていて美味い。


 食べながら歩けば、何やら人集りが出来ている所を発見した。


 人混みをかき分け進むと屈強な男達が腕相撲で対決をしていた。


 すぐに決着が着く。勝った男は筋肉を周りに見せつけ、負けた男は腕を庇いながら人混みの中へ入り消えていく。その背中は哀愁が漂っていた。


 この対決の仕組みは参加費を払い、勝ったら賞金を手に入れられるという物だ。参加費は銀貨1枚、なかなか高いがこれもお祭りだ。高くても挑戦する人は多いだろう。


 それに賞金総額はなんと銀貨10枚だ。


 勝てば、参加費を引いても銀貨9枚と物凄く魅力的な謳い文句だった。


 さっきの男は凄いが、よく見れば今度の相手はハルゲルのおっさんだ。周りには小さな子供達とラーナさんの姿がある。ミミちゃんが居たので手を振れば、彼女も俺に気付いて近くに寄って来た。


「アルお兄さん、久しぶり!また来るって行ったのに何で来てくれなかったの!ミミ寂しかったんだから!」


 ミミちゃんはそう言ってぎゅぅーと足にまとわりついて来た。隣にいるレティシアの顔が少し怖い。


「ミミちゃん、久しぶり。ごめんよ、最近色々と立て込んでたんだ。今度また必ず行くよ」


 足に頭をぐりぐりと押し付けて来たので、俺も手で頭を乱暴に撫でる。髪を抑えて嫌がる素振りは見せるが、振り払おうとはしない。


「やめっ、もう、今度は絶対だよ!」


 そうこうしている内にハルゲルのおっさんの腕相撲対決が始まった。


「…アルバルトさん、この子は誰ですか?」


 隣から聞こえる少し低い声。耳が前に伏せている。これは少し苛ついている合図だ。


 ミミちゃんも声が聞こえたレティシアの方へ顔を向く。心なしか此方は耳が後ろに倒れている。こっちも怒っている様子だった。


「アルお兄さん、この雌はなんですか?」


 バチバチとミミちゃんとレティシアの間に火花が見えた。両手に花というよりは両手に猛獣と言って良いだろう。その背後に狼と猫が幻覚で見えた気がする。


 わー、ハルゲル頑張れー。いけー。


 現実逃避を始めたがレティシアとミミちゃんに腕を引かれ戻されてしまった。


「レティシア、ハルゲルのおっさんが孤児院を経営しているって前に言ったよな。そこで暮らしているミミちゃんだ。そんでこっちの狼獣人のお姉さんは俺とパーティーを組んでいる冒険者仲間だ」


 出来るだけ分かりやすく伝える。そうする事しか俺には出来ない。


「へえー、レティシアお姉さんですか。()()アルお兄さんの()()()()()なんですね」


「そうですよ、ミミさん。大切な()()相棒なんですよ」


 ふふふ、あははと笑っているが目が笑っていなかった。ハルゲルのおっさんが頑張っている所を俺はただひたすら見る。どうやら無事に勝てたみたいでラーナさんと子供達、それから周りのみんなから拍手を貰っていた。


 凄いなー、ほら君達もそんな笑ってないでハルゲルをほめなきゃな?口が笑っているけど目が笑ってないよ、お前ら…女って怖い。


 ミミちゃんがその場に居ない事をハルゲルが気付いた様で、それを知っていた子供達が此方を指差すと向こうも驚いた顔をして近づいて来た。


「よぉ!何だよ、見てたのかよ。……ってか、うちのミミが世話になったみたいだな。お前はこっちに来い」


「いやぁー!アルお兄さん助けてー!」


 ジタバタと足を地面に叩きつける。ハルゲルはそんなのお構いなしにヒョイっと肩車した。


「また迷惑かけてすまねえな。レティシアちゃんだっけか?俺はハルゲルって言うんだ。宜しくな!」


 差し出された手をレティシアも手を伸ばして握る。


「ええ、ハルゲルさんですね。こちらこそ宜しくお願いします」


 ぶーぶーとハルゲルのツルツルの頭をペチペチと叩いているミミちゃんだったがふと何かに気付き、顔を空へ向けた。


 釣られて空を見てみれば、月が太陽と被さろうとする所だった。


 周りの人々もこの珍しい現象を見逃せないとみんなが空を見上げた。


 そして月が太陽と重なり合った時、周りは完全に暗くなり、闇に包まれて見えなくなる。


 体感で恐らく10秒くらいだろうか。


 太陽が月から移動して交わらなくなった時、俺達は目の前の光景に驚愕する事になる。


 太陽により周りが明るく照らさせた瞬間、各地で甲高い悲鳴が上がった。後に人々はこの日の出来事をこう伝える。



 ーー神が堕ちた日(ラグナロク)と。

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