第37話 プレゼント選びと女神像
マリアをどうにか落ち着かせて歩く。
両手には歩いている途中で売っていた魔物の肉の串がある。握っていた手を離してもらう代わりにアルバルトが買った物だ。握られた所は少し赤くなっている。
「……そういえば、お名前まだ聞いていませんでした」
今気付いたと言わんばかりにマリアがアルバルトへ呟く。
「俺の名前はアルバルトだ。マリアは王城に呼ばれているんだろう?早く行かなきゃいけないんじゃないか?」
「それは…まだ大丈夫です。私は夜までに着けば良いらしいのでお気になさらずに」
お気になさらずってこの女、送るだけならすぐに済むだろうと思ったのに。さっさと済ませて王城へ送り届けてレティシアのプレゼントを選びに行こう。
とんだお転婆娘と出会ってしまった。
「それでも少し食べ歩きしたら行くぞ、俺はこれでも忙しいんだ」
「ふふっ、分かりました。しかし、忙しいと言う割には先程、何かお悩みの様子でしたが?」
「……見ていたのか。俺の仲間がな、来週に誕生日があってそのプレゼントをどうするか悩んでいたんだ」
「へぇー、良いですね。そういうの!私も誕生日には沢山の贈り物を頂いているんですよ!お菓子とか宝石とか!毎年何が届くかドキドキしてます!」
マリアは両手をぶんぶんと振りながら前へ進む。先程のやり取りからかなり自己主張の強い子だなぁと思う。
「よしっ、決めました!私もそのプレゼント選び、協力します!」
ビシッと立ち止まると此方に指を差して
高らかに宣言した。
(何を言ってんだ、このお貴族様は…)
アルバルトは思う。面倒臭い奴に絡まれてしまった。こんな事なら手を差し伸べるのでは無かったのでは?そんな事、目をキラキラさせている少女にはとてもじゃないが言えない。
「いや、大丈夫だから。それよりほれ、ホーンラビットの串。早く食わないと冷めちゃうぞ」
差し出した串にマリアは素早く反応して食べる。ハムハムと小さな口で少しずつ食べている。アルバルトは豪快に肉にかぶりついた。
「はむっ!もぐもぐ、お屋敷で出されるお肉とはまた違くて美味しいです!」
その後もあちこち屋台へ連れて行かされ、時間が結構経ってしまった。
(…マジでどれだけ食うんだよ。胃にブラックボールでも飼ってんじゃねえか)
と思う程、目につく物を全て平らげた彼女は満足したのかお腹をポンポンと叩くと串を近くに置いてあるゴミ箱に投げ捨てて歩き出す。
「今度は何処へいくんだよ」
「此方です!いい予感がするので来てください!」
俺達は歩き出す。行き先は分からないがこの調子だと本当に夜までかかるかもと思うと気が参る。自由過ぎるお貴族様だよ、ホント。
案内される事数分、大きな女神像がある広場に到着した。その周りには色々な出店があり、人々で賑わっている。
「近くで見るとすごい迫力だよな」
女神像を見上げる。杖を持ち、ヒラヒラとしたドレスに身を纏って仁王立ちしている像だ。
「これは月の女神、セレーネ様です。このミストレア大陸に住む人々を魔物から守ってくれる有難い存在で、各国に設置されているんですよ」
「へー、この国以外にもあるのか…王都の周りで魔物が少ないのもその女神様が守ってくれてるからか?」
「そうなんですよ。セレーネ様がこの女神像に力を注いでいるお陰でこの像がある国は魔物からの侵攻を受けないのです」
「神様からの御加護って訳だな。だから安心してみんな暮らせるのか」
「素晴らしい事ですよね!………月影祭ではたまに魔物が侵入したりする様ですけどね…」
「…悪い、なんか最後言ったか?」
「いえ、気にしないで下さい!それよりもここなら沢山お店があるので良いものが手に入るかも知れませんよ!」
なんで王都の周りに魔物が少ない理由がわかって納得してたら最後の方聞き逃してしまった。気にしなくていいならそうしよう。
「かなり賑わっているな。もしかしたら掘り出し物も出てくるかも知れない」
「さあ、行きましょう!」
ずんずんと人混みの中を入っていくマリアに呆れながらもついて行く。逸れたりしたら大変だ。
マリアと2人で回って行く。美味そうな食べ物など見つけるとマリアは買って食べている。
よくそんなに入る物だ…さっきまで串焼きとか食ってたんだぞお前。
「え…?お饅頭は別腹ですよ?」
「んな訳ないだろ、食い過ぎだ」
珍しい骨董品や装飾品などを見て行く。見るからに凄そうな物からへんな物まで沢山あるが一つのペンダントに目が止まった。
羽根を模したやつで中央には青い宝石が埋まっている。金額は銀貨2枚となかなか高いがどうするか。マリアがひょっこりと横から顔を覗かせる。
「うわぁ、可愛いですね!それにするんですか?」
「そうしようかな。デザインもいいし、きっと彼女も気に入ってくれる」
「良いですね〜、女の子は宝石とか綺麗な物が好きですから喜びますよ!」
俺はお店の人に代金を渡してそのペンダントを貰う。手に持ってみると細かい所まで掘ってありなかなか凝ってるデザインだ。
俺達は無事にレティシアのプレゼントを選ぶ事が出来た。マリアがかなり寄り道ばかりしていたがお陰でいい物が手に入った。
「……ッ!……なんだ今の」
「どうかなされました?」
ふと感じた誰かの視線。ペンダントを買った瞬間、殺気の様なものを感じた気がする。誰かが俺達を見ていたのかもな。
「いや、何でもない。さあ、行くぞ」
その後は寄り道はせずに真っ直ぐ王城がある方へ歩いて行く。近くまで来るとマリアは立ち止まった。
「ここまでで大丈夫です。アルバルトさん、本日はありがとうございました。お礼なんですが先程のペンダントを貸してもらえますか?」
いきなりで戸惑いながらも先程買ったばかりのペンダントを渡す。するとマリアはそのペンダントを両手で握りこみ魔法を唱える。
「この者に祝福の加護を…"回復付与"」
手から光がわずかに漏れ出す。光が見えなくなるとその手には先程と変わらないペンダントが見える。
「返しますね。はい、どうぞ!」
返されたペンダントを手に取る。近くで見ても変わらない。
「そのペンダントに回復魔法を付与しておきました。その宝石が割れた時に自動で回復が掛かりますので」
「わざわざエンチャントしてくれたのか。これなら彼女も喜ぶと思うよ。ありがとうな」
ペンダントを落とさない様に丁寧に魔法袋へ仕舞う。
「喜んでもらえたなら何よりです!さてと、そろそろ私はここら辺で。お付きの人も待っているみたいなので」
チラリと王城の方を見れば20代ぐらいだろうか。甲冑を身に纏い、見るからに騎士って感じの女性が門の前に立っていた。目線に気づいたのか手を振っている。
「そうか、今日はまあ振り回されたけど楽しかったよ。色々ありがとう、また会えたらいいな」
「ええ、此方こそ楽しかったですよ。機会があれば、また会いましょうね」
ひらひらと手を振って彼女は走り去っていった。遠目からでもお付きの人に怒られている。
タイラさんとは違う意味で嵐の様な人だった。俺は元来た道を戻ろうと後ろを振り向けば、目の前にはレティシアがいた。俯いているから様子がよく分からない。
「奇遇ですね、これから何処かに行かれるのですか?」
少し驚く。誰だって後ろを向いたら寝る為に帰ったはずの彼女がいたのだからびっくりする筈だ。
「い、いや、これから宿へ帰ろうとしていた所だ。それよりも何でここに居るんだ?帰ったんじゃ…」
「帰ろうとしたらお父さんと会いまして。話していくと眠気が晴れたので買い物をと思いここまで来たんですよ」
「買い物って…ここ、王城の門だから何もない……」
「それよりも……ねぇ?」
ばっと顔を勢いよく上げる。その目は見開かれており、彼女の瞳はどんな闇よりも暗く、ドロドロと濁っていた。
「ヒェッ」
「あの、女の人は、誰ですか?」
嫉妬と怒りに満ち溢れたその目に俺は腰を抜かした。
今ここにブラックレティシアさんが降臨された瞬間である。




