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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第36話 マリア・デーリア

 レティシアの父親であるタイラさんから来週はレティシアの誕生日だと知らされ、お祝いする事になった。


 彼女のプレゼントは何にしようかと街を散策する。服やお菓子、ネックレスなどの装飾品から宝石まで様々なものが売っていた。


「やっぱり女の子だからこういったキラキラした物がいいのかね?うーん、リサだったら物じゃなくて1日一緒にいるだけでいいんだけでいいし、長年一緒にいたから悩まないんだけどな…」


 リサーナ。鬼人族が住んでいる島に置いてきた一つ下の幼馴染。


 彼女とは普段から一緒にいることが多いが、誕生日の時は必ず一緒にいたりする。


 人気者の彼女は毎年、たくさんの贈り物が届き、特に男性からの贈り物が多い。その為、彼女にプレゼントを渡す時は俺も一緒に出くわしたりしてしまうので気まずいし、睨まれる。


 その事があって余計に男連中から嫌われるっていう訳だ。


 まあ、力が全てという考え方が脳筋に近い鬼人族の男なんて、こちらから積極的に仲良くなりたいとは思わないから良いんだけどな。


 彼女が言うに誕生日は物はいらないから一緒にお祝いして欲しいとの事だ。それでも髪が長いリサの為に髪留めなどを贈ってみたりした。いつも縛っている髪留めは俺が送ったものを使ってくれてる。


 レティシアは綺麗な茶色の髪が肩口までで切り揃えられている。恐らく髪留めを贈ってもあまり使われないだろうと思う。


 ならば、宝石はどうか。パーティーを組んだとはいえ、まだ一ヶ月ぐらいしか経っていない。そんな異性から宝石は流石に重いか?


 どうすれば良いかと頭を悩ませる。すると目の前で転ける人がいた。見事に顔から地面へダイブしている。


「うべっ!?」


「おい、大丈夫か?手、貸すぞ」


 転けた女性に手を差し伸べて引っ張り上げる。顔を見れば若干、泣き顔で擦りむいていて痛そうだった。


「イタタッ、ご親切にありがとうございます」


「どういたしまして。てか大丈夫か?顔擦り抜いてるけど…」


「ええ、このくらいすぐに治せますので」


 金髪で後ろを三つ編みで固めている髪の長い女性だ。スタイルがリサーチ並みにいい。通りかかる人々が必ず2度見する程の美しさがある。


「さてと…"治療(ヒール)"」


 そんな女性は傷ついた顔に手をかざすと魔法を唱えた。手の平から溢れる緑の優しそうな光が顔を包む。その光が終わり、手を退かした時、擦りむいて痛そうだった顔は傷が無い一つない綺麗な顔になっていた。


「へぇ、魔法で傷まで治せるのか。ポーションも使わなくて便利だな」


「これは治癒魔法と言って限られた人物しか使えない凄いやつなんですよ!えっへん!」


 鬼人族も傷を治すのは十八番だが治り方が気持ち悪い。ぐじゅぐじゅと動いて治るから見ると気分が少し悪くなる。


 それに魔法で治すなんて初めて見た。あんな綺麗に傷が消えていくのは見ても気分が悪くならない。逆にスカッとしたかも知れない。


 目の前で胸を張って誇らしげな女性に目を向ける。


「それは凄い。お姉さんは冒険者なのか?」


「いいえ、私はマリア・デーリアって言うんですけど…実はお付きの人とはぐれてしまいまして…王城はどちらなのでしょうか?」


「ええと…デーリアさんはまさかお貴族様なのでしょうか?」


「いえいえ、そんな事は…私の事はマリアで良いです!敬語はおやめなさい。砕けた話し方が嬉しいですから!」


 デデーンと手を前に突き出して命令する様に言う。


「…分かった。マリアは王城に行きたいんだな。俺で良かったら案内するよ」


「わぁっ!ありがとうございます!では、よろしくお願いしますね!」


「なに、このくらい大した事ないし、それに王城はあそこに見えるからそこへ歩いていけば良いしな」


 視線を上に向ければ目の前に見える大きな城がある。これを見落とすか、普通。


「確かにそこに向かっていけば良いですね!なら早く行きましょう!」


 俺の手を引っ張る。その見た目からは想像もできない力強さと破天荒さに驚く。


 ちょ、痛い痛い。手が千切れそうだ。離せって…力つよいなぁ!


「…普通に痛いから離してくれ。それに何処に行くんだよ」


 ズンズンと王城から違う方へ向かって歩いていく。止めようとすれば手を更に強く握られる。鬼人の力を使っていないとはいえ、俺の力は人族の基準で言えば高い方だ。それなのに押し負けるなんて一体、この女はなんなんだ。


「早く行きましょう!まずは食べ歩きって奴ですね。楽しみです!」


「違うから。王城へ行くんだろう?だんだん離れているからっ!止まってくれ!」


「良いじゃありませんか。ちょっとだけ、少しだけ寄り道です!」


 情けない事に女性の手を振り解けない。力が強いのもあるがあんな笑みを浮かべられては断れそうにない。


 仕方なく引っ張られるまま流されよう。王城に呼ばれるほどの貴族。もし機嫌を損ね事にでもなったら大変だ。面倒事は増やしたくない。


「分かった、分かったから。取り敢えず女性が無闇に走るんじゃない!」


 若い男女は街を駆けていく。そんな2人を周りは微笑ましそうに見ていた。


 ただ、それを恨めしそうに見る人物が1人いた。


 路地の暗影から、物と物の隙間から暗く澱んだ翡翠の目は限界まで見開いている。


 そう誰一人として物影から見つめるレティシアに気付かないまま、彼らはその横を通り過ぎて行った。


「…私の相棒にあの女」


 無表情の顔でボソッと呟く。ハイライトの無い暗い瞳でアルバルトとその彼を引っ張る女を見つめていた。


 彼女が掴んでいた壁はそこだけひび割れてボロボロになっており、足元にはその壁を握り潰したであろう残骸が落ちていた。


「私から彼を奪うつもりなら………許さない」

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