第33話 ハルゲルの秘密2
「此処がハルゲルのおっさんが言っていた孤児院か…」
俺はあの後、ハルゲルのおっさんの後を追って歩いていた。歩き続けて暫く経った頃、白い家に巨大な十字架が付いている建物を発見した。
見るからに教会である。
見るからに頑丈そうな鉄の門と周りはセメントで固めた高い塀に囲まれており、門から見える家の中からと騒ぐ声と照明に照らされ、映し出される複数のシルエットが確認できる。ハルゲルは懐から鍵を出して門を開けて俺を中へ誘う。
「おーい、お前達!今帰ってきたぞー!!」
ハルゲルの声に反応して家の中からわらわらと子供がこちらに押し寄せてくる。見た感じ種族も年齢層もバラバラである。
「おかえりー!ハゲー!その子はあたらしいかぞくー?」
「おかえりなさい!……ところで後ろの怖かっこいいお兄さんを紹介して貰っても?」
ハルゲルの周りを飛び跳ねている人族の子供や俺を見て獲物を定めた様な目で見てくる猫の獣人の女の子、遅いと文句を言う男の子など様々だ。
「おらっ、離れろガキども!しっし!…たくよ、そういえばイク!おまえ俺の事を今、ハゲって言ったろ…!?」
「だってハゲてるもん!」
「ハゲじゃねぇよぉ?!何度も言うけどよ、俺はハ・ル・ゲ・ル!!…それとミミ、ガキの癖に男を誘惑してるんじゃねぇ!」
家の中から集まって来た子供達をかき分けて来たのはシスター服を身に纏う金髪のヤンキーみたいな女性が登場する。
神聖な服に身を包んだ柄の悪い女性…ギャップ最高じゃん…。
「やっと帰って来たのかい!アンタにしては遅かったね。で…?アンタが背負っている子供と後ろのお兄さんは誰だい?」
「おお、ただいま!紹介するぜ、2人とも。アイツは俺の妻でラーナって言うんだ。後ろの兄ちゃんはアルバルト。冒険者ギルドの期待の新人だな。…それでラーナ、こいつを頼む」
ハルゲルは背負っている子供を降ろしてラーナと言われた女性に渡す。
「成る程ね、また拾ってきたっていうわけか…はぁ、分かったよ。私は此処の子供達からラーナママって呼ばれてるんだ。お嬢ちゃんの名前…教えて貰っても?」
ラーナはハルゲルから渡された少女の頭を優しく撫でながら目線を合わせる。そして少女の震えが止まり、口を開いた。
「わ、わたしはリタです…」
「そうかい…リタか、いい名前だ。よし、リタ。まずはその泥だらけの身体を綺麗に洗ってからご飯にするよ。ほら、みんなもそんなハゲ馬鹿に引っ付いていないで水浴びしてきな!」
ラーナの掛け声でハルゲルの周りにいた子供達は次々と家の中へ入って行く。
「アンタ達、とりあえず家の中へ入りな。此処じゃ寒いからね」
ラーナもリタという少女の手を引いて家の中へ戻って行った。ハルゲルとアルバルトもその後へ続いていく。
◆
孤児院の中へ入ってみると案外、中は空洞で広かった。どうやら教会内を改造して使っている感じだ。
周りには風呂を終えてはしゃぐ子供らがいる。ハルゲルよりは多くないが俺の所にも少なからず来ている。
リタと呼ばれた少女は何処へと探してみれば、先程のおませな女の子や歳の近そうな子供に囲まれて笑顔が見て取れる。
外から来た新しい人に興味津々なのか、好奇心旺盛な子供達から質問がじゃんじゃん飛んで来た。
「お兄ちゃんも冒険者なの!?」
「ねえねえ、お兄さんはハゲよりもつよーい?」
「私はミミって言うの!アルお兄さんって呼んでもいーい?」
あちこちから質問が来るせいで大変だ。俺は聖徳太子じゃねえんだぞ…てかミミって子、さっきまでリタと一緒だったろ。
リタを探せばハルゲルにお礼を言っている様子だった。
成る程、邪魔は出来ないから俺の所へ来たのね。
「お兄さんは冒険者だけどハルゲルのおっさんよりまだまだ弱いよ。この前、戦ったけど負けたんだ…後、俺の事は好きな様に呼んでくれて構わない」
とりあえず、聞き取れる範囲の質問は全部答えを返した。これミミちゃん離れなさい。皆んな風呂上がりで引っ付かれて囲まれると暑いんだわ。
「子供達ー!飯の時間だ!!運ぶの手伝いなー!!」
この部屋とは別の恐らくキッチンがある所の部屋からラーナさんの声が響く。
年齢が高い子供はそれに反応して料理を受け取り、残った子供らはこの部屋に散らばっているおもちゃの片付けやテーブルを合体させて横長にしたりしている。
俺の隣に陣取っている子は動かない。
視線を横にやれば目が合った。
「私はいいの。ラーナママにアルお兄さんの相手をしてって言われているから!」
どんっと胸を張る。ニンマリと笑い、得意気な顔をしている。その様子が可愛らしかったので頭をぐりぐりと撫でてやった。薄いピンクの髪がサラサラしている。
「よーしよし、偉い偉い。ミミちゃんは猫獣人で良いのか?」
「あはは、もう、やめてよぉ。……もうっ!私は可愛い猫獣人!9歳なのですっ!好きな物はお魚と日向ぼっこ。嫌いな物は爪切りと私の日向ぼっこを邪魔する事!」
猫獣人ねえ…前世の猫みたいな感じだな。ミミちゃんはニャーと言いながら尖った爪を見せて来る。指が小さくて可愛い。
彼女と会話して楽しんでいると料理が運ばれて来る。
大きな器に盛られた野菜炒めにこんがりと焼けているでっかい魚の丸焼き、みんなの分のお米などなど。
どうやらみんなで突っついて食べる感じらしい。そういえば、お米はこの国じゃ庶民が食べる物とされており、パンに比べて価値は安い。
…俺もこの王都へ来てお米を出された時は驚いた。うちの村じゃ肉、肉、肉!ちょっとパンって感じだったから感動した。
旅に出る時には保存も効いて良さそうだし、この国を出て行く時は必ず買っておこう。
料理も並べ終わり、奥からラーナさんが来た。子供らは自由な席へ座り、ラーナさんが来るのを大人しく待っている。
彼女が席に座るとその横にリアが座る。ちなみにそんな彼女らと対面する様に俺から見て左に俺、ハルゲル、ミミちゃんの順だ。
「ラーナさん、ハルゲルのおっさん。俺もご飯に誘って貰ってなんだか済みません」
「良いんだよ、今更ね。1人2人増えた所で対して変わりはしないよ」
「そうだぜ、遠慮するな!ミミだってお前の事を気に入ったって言ってたからな!」
「それは言わないでって言ったでしょー!」
ぷりぷりとミミちゃんが驚きの声を上げながら怒り出す。そんな彼女を見てみんな笑っていた。
「ではみんな、我らが神に祈りましょう。女神セレーネ様、我らをいつまでも見守っていて下さい。いつまでも女神の御加護があらん事を…」
ご飯を食べる前にラーナさんは目を瞑り、シスターらしく女神様にお祈りを捧げていた。
それに釣られてハルゲルと子供達も目を瞑り、祈りを捧げているので俺も内心慌てて祈りを捧げる。
ふとこれは前世でいう頂きますと一緒なのかなと思う。女神様といえば、この国の中心に大きな銅像が建っていた。あの銅像名前はセレーネと言い、このミストレア大陸の信仰する神様だった筈だ。
俺は心の中で頂きますと言う。
「さて、じゃあ、女神様にお祈りが済んだって言う事で…食べるぞー!みんなー!」
「「「はーい!」」」
ラーナさんの掛け声で黙祷を止めて俺達は目の前の料理を食べる事に集中する。
◆
料理を食べ終わり、そろそろ帰ろうかと思った時、ふと思った。
ハルゲルのおっさんの怪しげな現場を目撃してから始まったが、予想の斜め上を言って楽しかった。
まさか、あの出立ちで孤児院をやっているとは思わなかったのだ。笑顔がキモ過ぎたと思い出してちょっと吹き出す。
「ふう、ご馳走様でしたと。ラーナさんとハルゲルのおっさん!今日はありがとう。そろそろ帰るわ」
「あん?どうせなら泊まっていけばいいだろ?あたりも暗くなって来たしよ」
「いや、それはまた今度…宿にお金とか色々と置いて来たからな」
「そうかい、じゃあ、またおいで。ほれ、みんなもお兄さんとお別れの挨拶だ」
わーと子供達が俺を取り囲む。ミミちゃんに至っては背中に張り付いたままだ。
「おにいちゃん!また来てねー!」
「ばいばーい!」
「おう、また来させて貰うよ」
集まって来た子供達をかき分けて進む。丁度手が頭の位置に来る子には頭を撫でたりしながら前へ歩いた。さて後ろのこれはどう離そうか。
「ミミちゃんよ、そろそろ離して欲しいなーなんて思うんだけど」
「いやー!ミミもお家に連れてってー!」
グリグリと頭を押し付けてくる。細かくて柔らかい髪が背中をくすぐってむず痒い。
「離してくれたら今度、何かお土産買って来るからさ、なっ?」
「うー、本当?…また来てくれる?」
身体を少し捻って背中に取り憑いている彼女のピンク色の髪に手を入れてガシガシと頭を撫でる。
「ああ、絶対に。だからまたな」
「ニャー、分かった。また今度ね、お兄さん」
最後にぎゅっと抱きしめられて離れる。何故か名残惜しい気もしたが気のせいだと思い、宿屋に向けて孤児院を出る。
久しぶりに見る夜の空はキラキラと浮かぶ星が綺麗に輝いていた。
(…リサもこの空を見ているだろうか)
ハルゲル
何とか誤解が解けて良かった…
リタ
最初は怖かったけど、お友達沢山できて嬉しい!
ミミ
なんか、ハゲがイケてる男連れて来た。良くやった!猛アタック開始。
アルバルト
子供達の元気な姿に癒された…リサも元気でやっているかな…




