第32話 ハルゲルの秘密1
俺の名前はハルゲル。王都に拠点を置くBランクの熟練冒険者だ。こだわりのスキンヘッドがチャームポイントのナイスガイである。
俺の必殺技、ヘビーインパクトは相手を叩き潰す最強の技だ。いつの間にか冒険者の中で潰し屋と呼ばれる様になったのは誤算だった。
今日は依頼を無事に達成、報告が終わりギルドから帰る途中だ。
スラムと呼ばれる廃墟みたいな建物が多く、治安もあまり良くないが、俺はそこで孤児院をラーナという妻と一緒にやっている。
正直、此処から引っ越して冒険者ギルドに近い所で住居を構えたいと思ったりはするが、此処は税が他と比べて圧倒的に安い。
とにかく生活する上で金が掛かりすぎる。だから此処からは動けないのが現状だ。
俺が真っ直ぐ家に帰っている途中、路地裏の壁沿いに蹲っている子供を発見する。
「はぁ〜、またラーナの奴に怒られそうだ」
昔から何事にもお節介を焼いてしまうタチだ。目の前の弱りきった子供を放って置ける程、性根は腐ってねぇ。
俺はその子供の側へ寄り、笑顔と優しい声で喋り掛ける。
「お嬢〜ちゃん!親はいないのかい?」
その子供と目線が合う様に屈んで声を掛けるが、何故かその子は震える。
上手く笑顔が作れなかったのだろうか?
「ひっ!」
ニンマリと笑みを深めてみたが駄目だった。
先程よりも更に怯えながらもちゃんと返事を返してくれた。
「お、お母さん、男の人と一緒に何処か行っちゃった。行かないでって言ったのに、もう何日も帰ってこない……っ……うぅ……!」
悲しいという感情が涙となって静かに涙を流して、ハルゲルに訴え掛ける。
(可哀想に…やっぱり、親に捨てられたのか。全くこんな事を平気でする母親なんざ、俺が顔を拝んで殴り飛ばしたい気分だ。でも此処じゃ、こんな横暴が日常茶飯事だ。それが余計に腹立たしい)
心の中で熱くなる怒りの感情を抑え込んだハルゲルはまだ泣いている子に問い掛ける。
「…おじさんの所に来るか?お嬢ちゃんの様な歳の近い子が沢山いる。それでも良いなら、お友達が出来て楽しい所におじさんが連れて行ってあげよう」
「……うん……行く」
まだ怖がっている子供の緊張を溶かす為、出来るだけ優しく言い聞かせる様に喋ると俺の手を取ってくれた。
了解が取れたので俺はコイツを自分が暮らす孤児院へ連れて行こうと決心した時、後ろから何処かで聞いた事のある声が聞こえた。
「…ハルゲルのおっさん。アンタ何やって……本当に何しているんだ!?」
振り返るとそこには俺を見つめる瞳が4つ。
アルバルトとその隣にいる背の小さな女。アルバルトは何処か引き攣った様な顔をしており、背の小さな女に至っては目線で凍りつく様な冷たい目で見られる始末だ。
何故そんな顔で俺を見る?
アルバルト達の目線から考えるとする。
夕暮れに路地裏、しかもスキンヘッドのナイスガイが小さな子供に何やら声を掛けている。誘拐…若しくはそれに近い事に間違われたかも知れん。
(泣いている幼女と男が路地裏で2人きり…あれ?これって怪しい現場に勘違いされてもおかしくないんじゃないか?)
「こ、これは誤解だー!!!」
自分が今どういう目で見られているか予想は出来た。誤解を解く為、俺は必死に状況を説明した。
◆
レティシアを家に送り届けようとスラムと呼ばれる所に来ている。
レティシアとパーティーを組んでからもう3週間が経過した。
その間、俺はついにCランクに昇格したのだ。昇格試験はギルドで試験管を用意してくれて実力を測るというものだった。
さあ、好きな所に打ち込みなさいと言われたので貸し出された刃引きされた剣で何度か打ち合い、押し勝てた。
レティシアは足捌きが前よりも上手く運べる様になり、此方の死角から攻撃して来る事が多くなり、更に強さに磨きが掛かっている。
俺達はなかなかの連携が出来る様になったと思う。今日はタイラさんが見張ってなかったので心置きなくクエストに集中する事が出来た気がする。
(あの人、ときどき物陰に隠れて俺達を見てくるがアレで隠れているつもりなのだろうか?)
耳が見えていたり、尻尾がはみ出していたりとかなり杜撰な隠れ方だ。これにはレティシアも頭を抱えていた。
それが今日は姿が見えなかったのでレティシアもお怒りにならなかった。心なしか、ルンルンと軽やかな足取りだったかも知れない。
タイラさんが尾行している時のレティシアを見ていると後でアリーダさんの所にいって頭痛薬でも作ってもらおうかと思ったぐらいである。
そんな彼女と一緒に歩いていたら路地裏から聞いた事のある声が聞こえた。
「おじさん……お嬢ちゃ…の…友達…連れて…」
なにやら犯罪臭が漂ってくる感じがする。レティシアも声が聞こえた方へ耳を向けていた。
「あそこに行ってみよう。もしかしたらやばい事かもしれない」
「ええ、賛成です。私も行きます!」
俺達は声がした方へ足を進めて止まる。声の主だと思われる人物を見つけたからだ。
俺が声を掛けるとそいつはゆっくりと此方に振り返った。
その瞬間、思わず顔が引き攣った気がする。
なんかニコニコと気持ち悪い顔をしていた。目もヤバいし、口元もニヤケすぎててヤバい。
…子供に話しかけていた怪しいハゲの正体はハルゲルだったのだ。
どうりで聞いた事のある声だと思った。隣のレティシアの視線は冷たい。変態を見る目をしている。これは放置しているとやばそうだ。
「これは誤解だ!俺は決してやましい気持ちで話しかけたんじゃない。俺は孤児院をやっているからこうして親に捨てられた子供を保護しているだけなんだ!嘘だと思うならついて来てくれ!!」
必死に身振り手振りで語りかけてくる。ハルゲルの突然の行動にレティシアは驚いていた。
ちなみにハルゲルの後ろにいる子供も目をパチパチとさせていた。
「分かったから落ち着けって、ちゃんとついて行くから!」
しまった…咄嗟に口が滑った。まだ俺もやる事あったのに。
送り届ける途中のレティシアをチラリと見る。彼女も俺の目線の意味が分かったみたいだ。
「私はこの後、ご飯を作らなきゃなのでついて行けないですが…アルバルトさん、この変た…いえ、ハルゲルさん達を送ってあげて下さい」
「あ、ああ…分かった。そういう訳だからハルゲルのおっさん。一応、ついて行くけどいいか?」
「勿論だ…!俺はこの子を運ぶから俺の後ろについて来てくれ!」
ハルゲルはそういうと小さな子供を背負う。その見た目とは裏腹に壊れ物を触る様に優しく持ち上げていた。レティシアもそんな様子を見てひとまずは安心した感じだ。
「私は此処で大丈夫ですので行ってください。ではまた明日もお願いしますね」
「おう、悪い。今日もありがとうな!…じゃあ、また明日!」
手を振り、彼女とお別れする。この辺は彼女の家も近いから大丈夫だろう。
多分、その辺の奴らじゃ相手にならないだろう。そのぐらい彼女は強い。
「なんか悪いな、アルバルト。折角のデートを邪魔したみたいでよ」
このおっさんは一体、何を勘違いしているんだ…だからレティシアに変態を見る目で見られるんだよ。
そう思っていると前の方からグゥという音が鳴った。正確に言えばハルゲルの背負っている子供からだ。
「レティシアとはそんな関係じゃない。それよりも早くその子を連れて行こう。腹も空かせているみたいだしな」
腹を空かせて顔を赤くしている。ハルゲルと顔を合わせて笑い合う。変な流れを変えて来れたこの子には感謝だ。
「……それもそうだな。アルバルトこっちだ!」
「おい、俺を置いて行かないでくれ!」
若干、駆け足気味にで歩き始めたハルゲルを追う。
スラムと言われる場所に似つかわしくない笑い声が木霊していた。




