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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第31話 タイラとレティシア

 アルバルトとの依頼を終えたレティシアは家に帰るとすぐ父親であるタイラを尋問した。


「お父さん、では聞きますが何故あんな馬鹿な事をしたんですか?」


「だって…突然、パーティーを組んだって言うんだから心配で。…それに僕としては見過ごす訳にはいかない事がある」


 レティシアは深く息を吐く。もうパーティーを組んだ時から分かりきっている事だ。


「アルバルトさんが()()だからですか?」


「そうだ…4年前に僕達を、家族を襲った男。アイツと同じ髪色を持った男が再び僕達の前に姿を現れて落ち着ける訳がないだろう!?」


 タイラは拳を強く握りしめてレティシアに訴えかける。


 娘が男といるというだけで許せないのに、危険な事をしでかそうとする娘を止めようとするのは親として当たり前の事だ。


 彼女は父親が心配してくれている事に少し罪悪感を覚えるが、レティシアは自分の考えを伝える事にした。


「お父さんの意見は分かりました。確かに危険な事を私はしでかそうとしているかも知れません」


「なら……!」


「でもこれはチャンスだと思うんです。私達が集めてきた情報の中には嘘が多く、信憑性なんてまるでありませんでした。しかし、今私達の手の届く範囲にあの男の手掛かりが見つかるかも知れないと思うと…」


 黒い髪を持つ少年、アルバルト。短い間だが、接してみて分かった事がある。


(穏やかな性格で気配りが上手。私やお父さんの事を心配してくれる優しさを持っている彼を信じてみたい自分がいる)


「……確かに黒い髪を持った人は珍しい。もしかしたら僕達が追いかける人物の手掛かりになるかも知れない。けどね、レティちゃんに何かあったら僕はもう耐えられないんだ」


 タイラは悲しそうに自分の足元へと視線を下げる。


「もう、家族を失いたくはないんだ…」


 その顔は失ってしまったものを悔いている様だった。

 そんな父親の様子にレティシアも口元を噛みながら感情を制して、強引に話を進める。


「私はこの機会を逃したくありません。折角4年もかけて見つかった手掛かりかも知れない人です。……幸いな事に彼とはパーティーを組む事が出来ました。旅に出るまでの間ですが、それまでに必ず情報を集めてみせます。」


「レティちゃん…本当にお母さんそっくりの強情っ張りになっちゃったなぁ……分かったよ、レティちゃんの好きな様にすると良い」


 母親譲りの言っても聞かない強情な所は本当に似ている。此処で否定すれば、きっと娘は更に深く首を突っ込んでいくのは目に見えていた。ならば、こちらが折れるしかないだろう。これ以上は拗れてしまう。それだけは避けなければいけない。


(…なら、自分も陰で支えよう。それも親としての役目だから…)


「お父さん…、ありがとう」


「でも、僕も体調が良い時は見張らせてもらうからね。こればかりは譲れないから」


 タイラは部屋の中でレティシアとは反対の壁に視線を向けて横になる。まるでこれ以上は聞きたく無いという様に。


 そんな父親を見てレティシアは相手から見えないのにも関わらず頭を下げた。


「ごめんね、お父さん」


 タイラからの返事はない。答えたくないのか寝ているのかはレティシアからは判断が出来なかった。


「……今からご飯作りますね。昨日貰ったホーンラビットのお肉がまだ残っているので今晩はシチューにしましょう。少し時間が掛かりますからそのまま寝ていて下さい」


 レティシアは夕飯を作る為にキッチンへ向かう。レティシアの姿が消えた部屋の中でタイラはまだ起きていた。


「レティちゃん…僕達の宝物。もし彼があの男と関係者だったらその時、僕は彼をどうするか分からない」


(積み木の崩落から助けて貰った恩はある。だが、レティちゃんに危害を加えようものなら容赦はしない)


 夕日が沈んで暗くなる部屋の中、タイラの瞳は怪しく煌めいていた。


 そうして黒い牙の活動中は度々、レティシアのお父さんが陰から見守るという事が多くなる。

 レティシアには勿論の事、アルバルトにさえ隠れているのが丸分かりである。


………身体隠して尻尾隠さずであったからだ。


 タイラのくたびれた尻尾が気付いた時にはいつも視界に入っていた。

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