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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第ニ章 王都エウロアエ 神が堕ちた日編
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第24話 ハルゲルの実力

 地下へと続く階段を降りるとそこはただひたすら広い空間だった。何人か、他の冒険者が武器や魔法の訓練している。


「ここがギルドの地下にある訓練場だ!何か技や魔法でも練習したい時は此処で試してみるといい。俺もたまに使ったりするしな。武器は…剣でいいか?」


 空いているスペースを陣取るとハルゲルは箱の中に入っている刃引きされた剣を2本取り出す。


「ほれ、お前はそのでかい剣を降ろしてこれでも使え。基本的に武器はこの刃引きしたものを使って訓練するんだ。真剣だと危ないからな」


 背負っている大剣を降ろして投げ渡された剣を受け取ると少し軽い感じがする。適当に剣を振って感触を確かめる。ちょっと軽いがなんとなくしっくりくる。


「ハルゲルのおっさん、俺の方の準備は大丈夫だ。いつでも始めていいぜ」


「了解、最初は剣だけで戦ってくれ。その後は何でも有りの戦闘だ。ちゃんと寸止めで済ませてやるから安心しろ」


「……分かった。俺も自分の力がどれほど通じるのか見ておきたい」


 この世界に来て初めて人族との戦闘。村の鬼達の中では弱い方だとはいえ俺もずっと特訓して来たんだ。

 どれくらい高ランク冒険者に効くのか試してみたい。


「じゃあ、行くぞ!とぉりゃー!!」


 ハルゲルは前へ高く飛び、此方に突っ込んでくる。跳躍している間に剣を構えて振り下ろしてくる。俺はそれを後ろにステップで躱す。振り下ろしたままのハルゲルに俺は剣を構えて突き出した。


「…いい反応だ。だが、ただ突っ込んでくるだけではこの俺は倒せんぞ!」


 突き出した剣の先が当たる寸前、ハルゲルは巻き込む様に自分の獲物を下から上へ振り上げる。


「この技術は覚えておけよ!"パリィ"!!」


 剣を強く握っていた為、何とか手から離れずに済んだが、剣を持っている腕は上へと跳ね上がる。


(不味い、ガードが…間に合わねぇ!)


「ほらな、前がガラ空きだ」


 ガラ空きになってしまった上半身へハルゲルが迫る。慌てて上へと弾かれた剣を振り降ろすがギリギリ間に合わない。


「………ッ!?」


 ハルゲルの一閃が首辺りで停止した。


「へへ、俺の勝ちだな。いい動きだが、まだまだ経験が足りねえな。簡単にフェイントにも引っかかる。今度は何でも有りの勝負だ。期待してるぜ!」


 あっさりと負けてしまった。これがBランク冒険者の実力か。まだ終わった訳じゃない。今度は鬼人の力を少しだけ解放しよう。


「…今度は負けねえ」


 再びハルゲルから距離を取り構える。

 はじめ!という合図で今度は俺からハルゲルへと迫る。何度か斬り合いをするがハルゲルは俺の剣を全ていなしてくる。余裕の笑みを浮かべて遊んでいるみたいだ。

 何度か打ち合った後、ハルゲルは力任せに鍔迫り合っていた剣を押し込んで距離を開けると話し始めた。


「成る程な。剣の扱いはそこまでだが身体能力が高い。普通のやつなら俺が剣を振り下ろすタイミングで身体が付いていけずに終わりだが、お前は違う」


 やはりまだ剣の技術、武器の扱い方ではハルゲルの方が上だ。ならばと左右にステップを踏み、先程と同じく剣先を前へ突き出す。


「また同じ手か。それはもう見たぜ!」


 ハルゲルの剣で前へ真っ直ぐ進んでいた軌道をずらされた剣が地面へ向かう。そのまま剣を地面へと突き刺し、踏み台にして跳躍。そして空中で回転しそのまま踵落としをハルゲルへ叩き込んだ。


「チッ、やりやがる。クレイジーモンキーかテメェは!」


 ギリギリの所でハルゲルが剣の腹でアルバルトの攻撃を受け止める。

 力任せに剣を横に薙ぎ払うとアルバルトは空中で体制を直して地面に突き刺した剣を回収して離れる。


「……対応が早い。リサの技を真似てみたけど通じないか。これが熟練と言われる冒険者の実力…なら次はこれだ…!」


 剣を持ち、鬼人の力を解放する。瞳に薄らと宿る光は彼が鬼人の力を解放した証だ。全力を持ってアルバルトはハルゲルへ挑んでいく。


「行くぞ、ハルゲル…!」


「来い、アルバルト。お前の全力を見せてみろ!」


 まずは剣を持っていない手で火魔法を放つ。


 ハルゲルの足元に俺のファイアボールを叩き込んだ。ハルゲルは魔法を使って来た事に驚いている様子だったがすぐにその場を飛んで離れる。


 それでいい、ぶつけるのが目的ではないからだ。爆発で土埃が立ち込めると同時に俺の身体を隠す。


「成る程な、魔法で煙幕を作って目隠しか。考えたな、だがまだ爪が甘いぞ!!風魔法…ウィンドブレス!」


 ハルゲルの突き出した手から発生する凄まじい風。するとその風圧で目の前の土埃が消し飛んだ。


 …が、そこにアルバルトの姿はない。


「これで意味は…何っ!?どこにいきやがった!」


「此処だ、ハルゲル!」


 俺は土埃でハルゲルの目を欺いた後、すぐに鬼人の力で強化された足で天井まで思いっきり飛んだ。


 思った通り、これくらいの小手先は軽くあしらわれる様だ。そして天井まで飛んだ俺は天井の壁を蹴り、剣を前に構えてハルゲルへと突撃する。


 ハルゲルは声に反応するとすぐに防御の構えを取るが、此方の攻撃の威力は先程の踵落としとは比べ物にならない。


(このまま押し切ってやる!)


 俺とハルゲルは鍔迫り合いになり、ハルゲルの足が少しずつ地面を削りながら下がっていく。


 これならいける。熟練と言われるBランク冒険者にも通用出来る。


「うぉおおおおおお!!」


「くそっ、重い。…これだけは仕方ねえ!スキル"荒れ狂う衝撃(ヘビー・インパクト)"」


「なっ、俺が押し返されて……ガハッ!?」


 ハルゲルのスキルが発動する。多大な魔力で強化された技がアルバルトの一撃を押し返し始める。


 そして鍔迫り合いを制したのはハルゲルに軍配が上がった。アルバルトは押し負け、壁へ吹き飛ばされる。


「ハアハア…アルバルト。なかなかやるじゃねえか。この俺にスキルを出させるとはよ」


 ハルゲルは肩で息をする。魔力を使いすぎた様だった。アルバルトも荒い息を吐く。


「ぐっ、てぇ…今のがハルゲルのおっさんのスキルか。強え…よ」


「ああ、勝負有りだな。だがある程度、お前の実力は分かったぞ。これならすぐに俺と同じBランクぐらいなら行けるだろう」


 ハルゲルが此方に近づき、手を差し伸べる。俺はその手を握り、身体を起こした。


「これをやる、ポーションだ。冒険者なら分かるだろう?」


「ああ、知ってる。ありがとう、ありがたく頂くよ」


 ハルゲルが恐らく準備していたであろうポーションを貰う。グビッと飲むと身体が光り傷が治って行くのを感じた。


 これは便利だな。勿論、鬼人族ならこれ以上の速さと回復が出来る気はするが、魔力が少ない時は重宝しそうだ。


「よし、これで手合わせは終いだ。今度は互いにもっと強くなってから戦おう」


「ああ、次は負けない!」


 互いの右拳を軽くコツンと合わせる。冒険者になって初めての経験ばかりだがこういうのも悪くない。今日は興奮でなかなか寝る事ができなさそうだと思い、訓練場を後にする。


 訓練場にいた冒険者達はそんな2人の戦いを見て賞賛し、自分ももっと強くなると奮起していた。


 後で訓練場の様子を見に来た受付嬢のナタリーがあちこちボコボコになった訓練場を見て悲鳴を上げた。

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