第2話 リサーナという鬼
俺の自信作である今日のベーコン目玉焼きと買ってきたパンに牛乳、きのみを添えて〜のメニューを見て驚くが良い!と言っても簡単な料理ではあるが。
「ふーん、まあまあだ。それじゃ戴くとしよう!」
くそ、言いたい放題いいやがって。毎日食べに来る癖に!
「ああ、じゃあ食べるとしますか!」
頂きますと言って食べ始める。パンを片手にベーコン目玉焼きに齧り付く。卵は半熟ぐらいに焼いてあるのでとろっとしており、ベーコンも肉厚で噛めば肉汁が出てきて美味しい。
「…美味しいな。やっぱりアルの料理はいくらでも食べられる気がするよ」
そう言うとバクバクとさっきよりもハイペースで食べ始めた。パンのなくなるペースが早い。
「と言ってもなぁ。ただ焼いただけなんだよな」
ちらりと手元にある自分の料理を見る。自信作だが所詮は焼いただけで誰にでも出来るしな。
「違うよ。私は君が私の為に作ってくれたこの料理が好きなんだ。だから幾らでも食べられるんだ!」
「全く、お前はホントいい女だよ」
「でしょ?」
お互いに目線が合うと同時にニカッと笑顔になる。その後も何とない話をしながら食事をしていく。
改めてこの幼馴染を改めて観察してみる。
彼女は名前はリサーナ。俺の1つ年下で親しい人だとリサと愛称で呼ぶ。
見ての通り男勝りな性格で男共や女共に好かれる人気者だ。俺にとっては村の中で唯一の友達と言ってもいい。白い肌に髪は銀髪、ポニテールがよく似合う。目はまるで宝石の様なルビーの瞳で美しく、額には立派な角が2本生えている。鬼の典型的な見た目をしている。
こいつのせいで揺れる胸に視線がどうしても行ってしまう。前世はこんなんじゃなかったのに!全部こいつが悪い、悪いったら悪いんだ。
そして俺はアルバルト。この世界で人と鬼の間に生まれたハーフらしい。鬼に似てるかというとそうでもない。
母親譲りの雪の様に白い肌と鋭い目付き、父親からは黒い髪と青い瞳を受け継いだ。ツノはいまだ生えておらず、ぱっと見、人と言ってもバレはしないだろうと思う。お陰で友達もなかなか出来ず、ツノ無しと陰で馬鹿にされている。
その点、リサが仲良くしてくれるのはありがたい。あいつのお陰である程度は嫌がらせも減っていた。やっぱり、村の人気者にみんな嫌われたくはないからだ。
「ふぅ、今日もご馳走様。食器は私が洗うから置いておいてくれ」
「はいはい、お口にあったのなら良かったですよっと」
もう食べ切ってしまったのか。あれだけあった食材がもう無くなっている。あの小さな身体の何処に消えていくのか不思議である。
俺も食べ終わった後の食器を流し台に置く。洗い物をやってくれてるリサを手伝う為に横に並んで洗い物をする事にした。
「私に任せてくれれば良いのに」
「良いじゃないか、2人でやった方が早いだろ?」
リサが皿やフライパンを洗い、俺が拭く。役割分担をすればすぐに終わった。
「この後は空いてるか?空いてるなら'特訓'に行かないか!」
少し考える。今日は別にこの後も特に予定はないし、行ってみるか。
「了解。今度はどんなやつなんだ?この間みたいな日が暮れるまで無限組み手みたいなのは嫌だぞ?」
「今日は違うよ。何とキャッチボールだ!」
今度の特訓はキャッチボールか。ならこの間の様に身体中がボロボロなる事はないだろう。
「おっ、いいぜ!キャッチボールやろうか!」
「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいよ。少し休憩したら行こうか!」
「おう!でも、肝心のボールはどうする?俺持ってないぞ…?」
「私に任せておけ。そう言うと思って昨日から密かに準備したんだ!」
ドンッと胸を叩き、誇らしげにしている。なかなか準備がいいようだ。後、ちょっと可愛かった。
◆
休憩と言われたので家の庭に足を運ぶ。リサは朝は弱いので食べた後すぐにソファーで寝てしまった。
大体、リサが特訓前に休憩しようと言い出すのは自分が一眠りしたいが為である。何年も一緒にいるとそういった経験が沢山あった。
こうなると2時間程度は揺すっても起きないので自分の魔法を鍛える時間である。
魔法というのは魔力を流して発動する。ただ魔力を流せばいいかと言われると少し違う。自分の中でイメージを明確にして魔力で形を作り、ゲートと呼ばれる体内の魔力機関を通して体外へと放出する。
言えば簡単だと思ってしまうがこれが意外と難しい。特にイメージが難しいのだ。
例えば水魔法を使う時。水を入れた桶を用意する。その桶に上から水滴を垂らすと落下した水と水が張った桶がぶつかり波紋が広がるのだが、その波紋を魔法が発動するまで頭の中で繰り返しイメージを続けなければ行けないという感じである。失敗すると魔法が暴走したり発動しない事がある。
ただでさえイメージがしにくいのにこれを動きながらやったりする訳だから難易度は高い。俺は前世で火が付く仕組みなどを学生時代の授業でやっていた為かイメージすることはそんなに苦ではなかった。最後に魔力を体外に出す作業は声に出してやると上手く行きやすい。
俺は今のところ火魔法を使える。使えると言っても上手く発動するのは本に書いてあった初級魔法ぐらいだが。
手のひらに先程言った方法の応用で魔力を込める。イメージは燃える火が球体になって手のひらの上で留まる感じだ。
「ファイアボール!」
ぼんっという音が鳴れば手のひらの上で火の玉が燃えている。これをそのまま庭に立ててある胴体に木で出来た的が付いた人形にぶつける。
的を目掛けて放った火の玉は真っ直ぐ飛んでいくと人形の頭にぶつかり爆発する。調整がまだ少し上手くいかない様だ。
人形は対魔法用に出来ているため、焦げ目が少し付いているだけで済んでいる。長年使っている為、経年劣化が激しいが。
「我が手に宿れ!ファイヤーハンド!!」
今度は手のひらの上で留めてみる。球体をそのまま腕まで引き伸ばして覆う。こうすれば、炎の腕が完成した。
何回かこうして思考を重ねているうちに火魔法と一緒に魔力を薄く腕に纏わせて、爆発した際に此方にくるであろう衝撃を軽減してやれば良いという考えに至った。これは本にも載っていなかった俺のオリジナル魔法だ。
そのまま火の玉を手に持ち、人形に近づく。そのままぶつければ持っていた手と一緒に爆発する。
反動で手と一緒に身体も仰け反るが威力は高い。放つよりも直接ぶつけると同じ魔法でも威力が違うのは魔法を鍛えていて得た知識だ。何故威力が変わるのかはよく分かっていない。
ぶつけられた人形を見ると的を貫いて人形に焦げ目が付いている。的が壊れたので変わりの的を補充する。
やっぱり魔法が使えるのはいいが直接ぶつけるぐらいしか狙った所に当たらない。遠距離の攻撃も欲しいので引き続き、ファイアボールを打ち続けた。
暫くして日も少し傾いてきたのでリサを起こしに向かう。大体、この時間ぐらいならすぐに起きるから丁度よかった。
「ほら、キャッチボールするんだろ?起きろよ」
「…むにゃぁ、うん?うーん、おはよう…今すぐ行く」
起き上がり手を上で組んで伸ばしている。それやると身体がほぐれて起きやすいんだよなぁとちょっと思う。
「はいよ、戸締りするから外へ先に出てくれ」
「はぁーい、外で待っているから」
リサを外へ追いやり、家の戸締りをして彼女と合流する。
「キャッチボールは何処でやるんだ?今思ったんだが庭も広いから出来なくはないけどよ」
「もっと広い所でやるんだ。さっさと広場に行こう!」
リサが俺の手を引いて走り出す。俺も負けじと足を動かすがリサの方が早い。
「ちょ、ちょっと待って!早い早い。せめて俺のペースに合わせてくれぇー!」
「ふふっ、早く着いてくるんだ!…あぁ、楽しみだ。早くアルと思いっきり遊びたい」
あれ?リサの目がギラギラと鈍く輝いている様な。ここからじゃ横顔しか見れないのでなんとも言えないが。
そして俺は後悔するのであった。リサが目をギラギラさせる意味を。用意していると言ったのになんで何も持たずに村の外でやるのか。その意味を考えればこの後にやるキャッチボールが地獄だというのが分かった筈だったんだ…。
村の中を駆ける2人の影が村の外へと消えていった。
アルバルト
魔法が使える事に感動すら覚え、毎日修行していた。
お陰で火魔法が少しずつ上手くなっていった。
リサーナ
ご飯美味しい…だと。
女として何だか負けた様な気がするのは気のせいか…。
キャッチボールにうきうきである。
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