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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
グリーンフィールド 魅惑の森と最悪の魔獣編
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第144話 潜入

「むりむりむりむりむりですぅーーー!!」


「黙ってないと舌を噛みますよ」



 古城側の最北端にある険しい崖を登る女が2人。女神セレーネによって選ばれた聖女、その愛嬌から民衆から親しまれ、人気が高いマリアと希少種である狼獣人で、七英雄に数えられている父親を持つレティシア。


 彼女らは捕えられたエルフ族とアルバルトに掛けられた魅了を解く目的で古城へ潜入しようと警備がいないであろう崖側を登っていた。


 レティシアの背中に括り付けられているマリアが途中で下を見てしまい、そのあまりの高さから悲鳴を上げる事態もあったが、何とか登り切る事に成功した様だ。


「ハァ〜、フゥーフゥーフゥー」


「……何で貴方が疲れているんですか」


「恐怖に打ち勝った私を労ってくれても良いんですよ!すっごく怖かったんですからね!」


「まだ登りますけどね」


 私は貴方を背負って登っていたんですが…とマリアの言い分に呆れつつ、侵入経路を探して城を見上げたレティシアは呟く。


 その呟きを聞いてマリアの目は死んだ。

 ガックシと項垂れるマリアを背負い直してレティシアは城壁に手を掛ける。目指すはあの窓が空いている部屋だ。ここから少し遠いが、難易度はさっきの崖を登るのと比べるほどでもない。


「さぁ、あそこの隙間から侵入しますよ」


 自分の想い人が無事であります様にと願って彼女は指先に力を込める。背中に背負ったマリアが何やら叫んでいるが、狼耳を器用に折り畳んで雑音を排除する。

 しっかりと壁の隙間に手を差し込んで力強く身体を持ち上げた。


 古い建物なので脆くなっていた部分も多かったが、指先に感じた僅かな違和感を頼りにレティシアは目的の部屋まで登り切る事が出来た。彼女の背中では顔を青白くされて項垂れているマリアがいた。


「もう……むり……、私、聖女なのにこんな扱い…気持ち悪いですぅ」


「今、縄を解きますから私の背中で吐かないで下さいね」


 レティシアが身体を締め付けていた縄を解くと同時に高い崖や城壁を登った恐怖心から気持ち悪くなったマリアが先程登って来た窓へ向かって吐きにいった。


「オロロロロロロ」


「落ち着いたらゆっくり息を吸って吐きましょう。私の水筒があるのでこれで口直しして下さい」


「あ゛りがどゔ」


(少し…悪い事をしましたかね)


 胃の中の物を出して多少すっきりしたのか、先程よりも幾許かは気分が良くなった様だ。

 マリアを指名した自分にも責はあるとして罪滅ぼしも兼ねてレティシアはマリアの背中を優しく撫でる様に摩った。


(この部屋は……誰かが生活している痕跡があります。何か手掛かりになりそうな物はないでしょうか?)


「マリアさん、まずはこの部屋から調べてみましょう。何か気になる事があれば教えて下さい。なるべく音は立てずにお願いします。外に見張りがいるみたいなので」


「………分かりました」


 小声でひそひそと喋り、彼女らは机の引き出しなど音を立てない様に調べていく。

 レティシアが本棚を調べている時だった。難しそうな題名の本が沢山置かれている。その中で一つだけ無題の本がある。指を本の上部に置いて引き抜こうとした時だった。

 コツコツと足音がレティシアの耳に聞こえ、その音はこの部屋に迫っている。


「マリアさん、誰か来ます。ベットの下に隠れましょう」


 静かに元の場所へ物を戻していたマリアに声を掛けて2人はベットの下へ身を潜める。

 ベットは長いベットスカートが引かれており、捲り上げて下を覗かなければ姿がバレる事はないだろう。


 息を殺してレティシア達が音がする方へ耳を傾けていると部屋の扉が開く音がした。


「ここまで来れば聞こえないでしょう」


「リリィの部屋なんて久しぶりに来たわ〜。また難しそうな本が増えているみたいね」


「だってお姉様達との時間がないと暇なんだもん。全部は分からないけど気晴らしには丁度いいしね」


「うちの妹、かっしこい!」


 音の正体はアルバルトを攫っていったサキュバスの魔族の2人。

 この声はよく覚えている。

 甘ったるい喋り方とツンツンとした語らい。



(間違いありません。ルイとリリィと呼ばれていた魔族の2人ですね。まさかこの部屋の主はあの子だったとは…)



 レティシアとマリアが身を潜めているとは知らず、ルイとリリィは自分達の内情を話し始める。すると彼女達は気になる事を言っていた。


「それにしてもどうしよっか。勇者は手に入れたとしてもヴァンピス様に通用するかしら?」


「問題ないわ……あの勇者の力を見たでしょ?一瞬であの場を制圧してみせた力と私のお兄様達を合わせれば、ヴァンピスなんか目じゃないわ!」


「リリィ、ヴァンピス"様"って言わないと…」


「あんな奴、敬う相手じゃないもの。ヴァンピスで充分よ!それにしてもルイお姉さま。肝心の勇者はどうやってヴァンピスと対峙させるかを考えなきゃ」


「あのお兄さんが捕まっているのは地下の牢屋だっけ?あそこはヴァンピス様のお気に入りもいるから私達だけじゃどうしようも出来ないわ」


 気になる事。それはアルバルトが牢屋に連れて行かれたという事だった。監視はいるようだが、サキュバス達はそう簡単には入れない所だという事が聞き取れた。


(アルバルトさんが捕まっているのは地下の牢屋。この大きなお城から地下を見つけるには時間が掛かりそうです)


「ヴァンピスと戦う時、お姉様達はその場所から出来るだけ離れて貰わなきゃダメ。ヴァンピスの声が届かない所でないとまたお姉様達が操られちゃう」


「リリィにだけ負担を掛けてごめんなさい。せめて私も戦えれば良かったのに…っ!」


 ぐっと唇を噛むルイを見てリリィは姉の手にそっと自分の手を重ねる。

 大丈夫、私に任せて!という妹にルイは我慢の限界が来てギュッとリリィを抱きしめて泣いた。

 少し時間が過ぎて落ち着きを取り戻したルイはリリィを胸の中から解放して頬を僅かに赤らめる。


「ごめんなさい。また私ったら…」


「いいの、リリィも元気貰ったしぃっ!」


 リリィの満面の笑みを見て釣られて笑うルイが目尻に残った涙を指で拭っていたその時だった。


「な、なにっ!?」


「リリィッ!私について来て!!」


「何でっ、こんな時に限って…ッ!!」


 ドゴーンとけたたましい音が響いたと思えば、今度は城がグラグラと揺れている。明らかに敵からの攻撃だという事は明白だった。

 ルイの大声と共にリリィを引き連れて部屋から出て行った2人。過ぎ去っていく足音を聞き取ってレティシアとマリアはベットの下から飛び出した。


「あの音はきっと外に待機しているミドルウッド様の攻撃だと思います。早く私達もアルバルト様を助けに行かなくては!」


 マリアも先程の会話を聞いていた様で、アルバルトが牢屋に囚われていると知って焦りの表情を見せている。それとは裏腹に何か考え込んでいるレティシアの手には一冊の本が握られていた。


「それは……?」


「あの揺れで落ちて来たんですが、どうやらあの子の日記らしいですね」


 落ちて来たのはリリィ達がこの部屋へ戻ってくる前、レティシアの指が引っ掛けていた本だった。


 彼女達が過ぎ去ってから手にとって見たが中身はまだ見ていない。時間がない事はよく分かってはいるが、レティシアはその本から目が何故か離せなかった。


(私の前に薬草を置いていったリリィという少女の日記。とても気になります)


 ぺらぺらと流し読みではあるが、ページを巡っていく。ページを捲るたびに不穏な言葉ばかりが綴られている。最後のページまで軽く目を通したレティシアはパタンと本を閉じた。


「………成る程、これがあの子の願い。だからアルバルトさんを攫ったんですね」


 本を元の場所へと戻し、レティシアはマリアに向き直る。




「分かりました。アルバルトさんがいる所が」



 ◆



 同時刻。


 ミドルウッドとユージーン、ミリア、ヴィーラ率いるエルフ族の軍団が古城の周りを包囲していた。


 魔族による支配を受けて操られていたエルフの男達はマリアの治療によって魅了が解かれ、自分達も一緒に戦うと志願し、彼らの戦力は当初よりも更に上がっていた。


「皆の者、心してかかれ!我々の同胞をこの手に取り戻そうぞ!」


 予定通り隊を3つに編成し、古城を囲む様にそれぞれ持ち場に配置するとミドルウッドは暫しの時間を置き、日の傾き具合を見て頃合いだと攻撃の合図をする。


「撃てぇー!!!」


 ミドルウッドの合図と共に次々と魔法が古城へ向かっていく。固く閉じられた門が破壊されるとワラワラと中から魅了されたエルフ族が出てくるが、ユージーン率いるエルフ族の精鋭が突撃していき、操られて動きが鈍いエルフ族を峰打ちで倒していく。


 倒したエルフと負傷した者はミリアが作った作成した木の檻の中へ運ばれていき、拘束と簡易的な治療を施していく。


 ある程度のエルフ族の捕縛が終わった頃、一旦攻撃をやめ、拘束したエルフ達をグリーンウッドへ運ぶ為の編成を行い、様子を伺う事にした。


「これだけ魔法を撃ち込んでもなお、魔族の姿は何処にもない。せめて1人ぐらいは出て来てはいいものの…中で聖女様とレティシア殿に何かあったのではないであろうか」


 ヴァーラの心配する声が漏れる。確かにおかしい。これ程の魔法を放たれて城も一部崩壊しているというのに、出てくるのはエルフ族のみ。


 中で何かあったのではないかと不安が伝染する。


「皆の者、落ち着け。まだそうと決まった訳ではない。ノームから聖女様方の魔力が伝わってくるという事は彼女達は無事という証。我々の役目を忘れるでは、ない…!?」


「ミドルウッド様っ、大きな揺れがッ!」


「ノームが怯えている…?!」


 縦横に揺れていく大地に足を取られてその場に座り込む人が続出する中、ミドルウッドは上手くバランスを取り、震源の方を見つめる。


 その視線の先はレティシア達が今、潜入している古城だ。その中心から激しいエネルギー量がノームから伝わってくる。


 そのエネルギーの源が大地を引き裂き、低い唸り声を上げて這い出てくるではないか。

 七英雄に数えられるミドルウッドですら、口がパクパクとしか動かない。


 他のエルフ、ユージーンやミリア、ヴィーラは声を失い、ただ黙ってそれを見つめている。


 見上げていたミドルウッドがポツリと一言。



「最悪の五獣……雷獣ベビーモスが何故…」


「グゥゥォォォォォォオオオオ!!!!!」


 かつて勇者ミナトによって討伐されたと言われた雷獣ベビーモスの姿が彼らの前に今一度、姿を現した。

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