第137話 エルフ族奪還作戦! ミドルウッドの戦い
イケメンイケボおじいちゃんの戦いが始まる。
空にけたたましい音と共に一筋の赤い閃光が迸る。
それを見つめるのはミドルウッド率いるエルフ族とは別行動を取っていたアルバルト達。アルバルト、レティシア、ユージーン、ミリアとマリアにヴィーラの合計6人。
「火魔法か……どうやら1人は釣れたらしいな」
「これで魔族は残り2人。それにしても合図を魔法の種類で分けるとは思いませんでした」
「流石は七英雄様って所だな。俺達は予定通り古城へ行こう」
ミドルウッドの案により火魔法、水魔法、土魔法といった3種類の魔法によってミドルウッド側へ引き寄せた魔族の人数をアルバルト達に伝える手筈だ。
もし2人ならばユージーンとミリア、ヴィーラが応援へ駆けつけ、3人なら全員といった感じで臨機応変に対策出来るようにしていた。
魔族の1人はミドルウッド率いるエルフ族達に引き寄せられており、情報通りによれば残りは2人。
当初の予定通り、アルバルト達は警備が薄くなった森の道を突っ切っていく。
◆
ミドルウッド・グリーンフィールドはエルフ族で戦える者を率いて古城へ続く森の開けた入り口に姿を見せていた。
突然現れたエルフの軍団に警備していたエルフ族の男性が気付き、指笛を鳴らす。その音を聞きつけて続々とエルフ族の屈強な戦士が集まってきた。
それらは全て魔族に操られたエルフだった。
目は虚でゆらゆらと身体が揺れており、口はぶつぶつと小さい声で何かを呟いている。
その尋常ない様子にミドルウッド側から悲鳴が上がった。恐らくはその者の親族、または恋人がいたのだろう。
悲しみと困惑が広まろうとする中、ミドルウッドは杖の矛先を向けて宣誓をする。
彼から飛び出した言葉は宣戦布告だ。
「聞けいっ!これより我々は君たちを拘束する。多少荒事になるが勘弁されよ!」
ミドルウッドが言い放つと同時に支配されたエルフ族が次々と魔法を繰り出す。
絶え間なく続く魔法の光景に背後から悲鳴が上がるがミドルウッドは極めて冷静に杖を振るうのだった。
「精霊様、我らの同胞を救う為に今一度、御身の力をお貸し願う!"樹木の守り"!」
地面からメキメキともの凄い速度で樹木が生え、一瞬のうちにミドルウッドを中心として分厚い木の守りが展開される。
その守りは数々の魔法を受けても少ししか削れなく、彼らに被弾する事はなかった。
ミドルウッドの後ろに控えていたエルフ族に安堵の表情が浮かぶ。だが、いつまでも安心しているわけにはいかない。
精霊の力が宿る守りは随分と頑丈な様でも少しずつ削られているのだ。
ミドルウッドの指示の元、彼女らは魔力切れを起こして身体の動きが鈍くなった者に狙いをつけ、殺傷能力の低い魔法攻撃を駆使して相手を気絶させていく。
徐々に数を減らしていき、入り口を警備していた最後の1人を倒して捕縛するとミドルウッド達は一息ついた。
今回、戦闘に慣れないエルフもいる中、攻撃を一身に引き受ける事となったミドルウッドにも魔力の摩耗によって疲れが出始めており、他のエルフ達も肩で息をする人も現れるぐらいだ。
(私もすっかり老いたな。前線から退いたツケが今に来ている…)
嘆いている暇なんてないのは分かっているが、久しぶりのこの緊張感、魔力が抜け落ちる感覚による身体の怠さは老体には酷というもの。
だが森の異変。空気が変わったのを肌で感じ取れたのは長年で培った経験からだろう。
「…………っ!?」
ミドルウッドが咄嗟に杖を構えて壁に使用していた樹木を自分の頭上へ操る。
その直後に響くのはバリバリと外から木を食い破る様な音。隙間から見えたのは皮膚が爛れている肥大化した顔だった。
「此奴は…っ!"森の尖兵"!」
「グギギギギ」
「捕縛したエルフと一緒に私の後ろへ!各々自分の身を第一に考えよっ!」
ミドルウッドは感じ取っていた。突如ミドルウッド目掛けて襲撃した者の強さを。先程のエルフ族の戦士とは比べ物にならないぐらいその身に覇気を纏っているのだ。
だが一つ気になる点がある。
この襲撃者の目もまた虚であった。
焦点の合わない瞳でこちらを殴りかかって来た。
ミドルウッドが咄嗟の判断で木を槍の様に尖らせて弾き飛ばしたが、大半の敵はこれで絶命する威力を有している。まだ気は抜けない。
即座に対応出来るようにミドルウッドは生やした木を自分の両側、そして他のエルフ達を守る為に展開する。これで視界は開けた上、何処から攻撃が来ても一瞬で対処できる。
更に負傷したエルフ達に攻撃が向かないように樹木で念入りに囲み、しっかりと防御を固める。
「なんとまだ動けるのか…」
「グギギギ、グィシャァアアアア!!」
「させぬっ!」
身体に大穴を開けながらも口を大きく開き、地面を這って突進してくる敵にミドルウッドは目の前を木で覆い尽くして相手からこちらの姿を隠す。
敵が見えなくなったにも関わらず、お構いなしに突っ込んでは引き、また突っ込んで来る怪物はなかなか前へ進めないもどかしさからか、低くてけたましい雄叫びと共に苛烈さを増していった。
「狩らせて貰うぞ、化け物めっ!我らが精霊よ、我が敵を一掃たもう!」
これ以上好き勝手にさせてはいけないとミドルウッドは魔力を込めた杖を手元で回転させると力強く地面を叩く。
「"樹縛葬送"」
周りにある木の根っこが四方八方から敵に襲い掛かっていく。その異常事態に気付いた敵もその場から逃げ出そうと踠くが、ミドルウッドは杖から手を離さない。
腕に巻き付かれた根っこを乱暴に払うと次は足に巻き付き、その次は胴体、腕などに絡みついていく。
一度捕まったが最後、ミドルウッドが技を解かない限りは相手を拘束しつつ、身体中を締め上げて屠るという凶悪なコンボ。それはあの敵も例外ではない。
「グ……ガギィ……………っ」
「この技を受けてなお、立っていた者など魔王、それからキドウ以外にはおらぬ」
ミドルウッドを襲撃して来た敵は身体を地面に縫い付けられた後、その太い首筋に木の根を巻き付かれ、抵抗虚しく首の骨を折られた。
ゴキッという鈍い音と共に首が力無く折れ、身動き一つ取らなくなったのを確認したミドルウッドは技を解く。
嫌な予感がしてまだ警戒が解く事が出来ないミドルウッドは辺りを見渡す。
(……土の精霊ノーム様が怯えている。ならばまだ敵はいる筈だ。敵は一体、何処に…)
土の精霊であるノームは酷く臆病で恥ずかしがり屋な性格の持ち主だ。長年この地で土の精霊を信仰していたエルフ族ならば、まだ姿を現すのは我慢出来る。
ミリアがノームと契約を結ぼうとした時は他の種族であるアルバルト達がいた為、姿を見せる事はしなかった。
ミリアだけだったら何とかきっと姿を見せたのだろう。敵味方問わず、臆病な性格のノームがまだ怯えているという事はエルフ族以外の侵入者がいる筈だ。それをミドルウッドは五感を使って探し出すのを試みる。
「木の葉の落ちる音……風の流れ……仄かに香る血の匂い……………そこかっ!」
「……あらやだ。バレちゃった!私、あまり陽の光って苦手なのよね」
「この肌に感じる緊迫感、そしてこちらを嘲笑う者。我々エルフ族を苦しめてきた張本人……君は魔族だな」
「ご明察〜っ!私の名前はヴァンピス。あそこの古城を主人をしてるのよ!負けてしまった私の可愛いエルフ族ちゃん達を取り返しに来たの」
「生憎だがこの子達は私の大切な家族だ。その要求を通す訳にはいかないな」
骨の様な手足と同じく顔も身体も細く、痩せこけている男がいる。コイツが報告にあった3人の魔族うちの1人か。
向こうの戦力は目の前にいる敵と先程から木陰に隠れているエルフの戦士達が数名。
こちらは私と10人程のエルフ精鋭部隊。
その他は国の守りと先程捕縛した同胞をこの場から避難させる為に人員を割いたが、まだ戦力なら此方が上だ。私が魔族を抑え、敵に操られているエルフを仲間が捕縛する。
取り敢えず、目的は上手く達成出来そうだ。
私の後ろに控えているエルフに後ろに回した手で合図を送る。
「……1だ」
「分かりました」
短いやり取りで意図を組んだエルフの女性がてから火の玉を空へ打ち上げる。そして上空へ赤い閃光が描いた後、火の玉は弾け飛び爆発音を鳴らした。
そして仲間達に敵の数と場所を教え、この場から離れる様にと言い聞かせて向かわせる。
ミドルウッドの話を聞いた精鋭部隊がその場所へ奇襲、そして何名か行動不能にした後、この場から逃げる様に離れ、戦う場所を移していく。
その間もミドルウッドは魔族から目を離さず、魔族側もまたミドルウッドから目を離さなかった。ヴァンピスは口元に指を当てる。
「あらぁ、何をしているのかしら。無駄な力を使うなんて美しくないわぁ」
「……はははっ、綺麗な花火だったろう?さぁ、君の相手はこの私だ。今まで良いように扱われて来た同胞の怒りをその身に知るが良い」
「あらあら〜?ざんねーん!私の相手?いいえ、私達よ。さぁおねんねはもうお終い、起きなさい。"屍操士"」
「グギギギ、ギィィイヤガィアアアア!!」
ヴァンピスがニンマリと嫌な笑顔を浮かべ、指を一つ折り曲げると先程、ミドルウッドが首を折り倒した筈の敵がむくりと起き上がり、首を無理矢理嵌めた後、咆哮を上げる。
まさか死んだと思っていた敵が蘇り、ミドルウッドの表情は焦りが見え始めていた。
「ば、馬鹿な…死者蘇生は大量の魔力と代償が必要の筈!それに魔族1人が補える訳が……いや、まさかこれはアンデットか!」
「ウフフ、これは最近魔王様に頂いた新しい玩具なの。どうぞ、貴方も遊んであげてねぇっ!!!」
「例え何が来ようとも、我らエルフ族は必ず報いを受けさせる!このミドルウッド・グリーンフィールドを舐めないで貰おう!」
襲い掛かってくるアンデットとヴァンピス。
それを迎え撃つのはエルフ族きっての偉大な魔法使いミドルウッド・グリーンフィールド。
彼らの命懸けの戦いは今、幕を上げる。




