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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
グリーンフィールド 魅惑の森と最悪の魔獣編
136/148

第136話 エルフ族奪還作戦!

 アルバルト達が語り合い過ごした夜は過ぎ、日の出が登る。


 快晴の空の元、グリーンフィールドを束ねる王のミドルウッドによってこの国に住むエルフ族が広場に集められた。


 男性の姿が殆ど見えなく、辺りにはエルフ族の女性が今か今かとその時を待ち侘びる。


 男性の姿が少ない?

 それもその筈、古城に潜む魔族の手によってエルフ族の男性は支配、操られている状態なのだ。


 誰しも不安を抱える中、ミドルウッドは小鳥の囀りにも負けない程の美しい声色でゆっくりとだが、不思議と心に残る話し方で切り出していく。


「皆の物、此度はよく私の号令に足を運んでくれた。我々を苦しめてきた魔族の討伐の声を聞き、此度は聖女マリア・デーリア殿と勇者アルバルト殿、その頼もしい仲間が駆けつけてくれた」


「ご紹介に預かります。我々がこの地に訪ねたのは昨日の事です。急な訪問でしたが、皆様からの温かな歓迎を開いて頂き、誠にありがとうございました」


 ミドルウッドの演説によって一気に視線がアルバルト達へ向けられる。

 期待や不安、疑念を抱く者など様々な感情が見え隠れする中、聖女と名高いマリアが慣れた様子で一歩前へ進み、その身に視線を集めるとまずはエルフ族に対して感謝を述べてお礼を言う。


 目上の立場の人から頭を下げられた事に若干の優越感を感じている彼女達の心の隙間にマリアはスッと入り寄っていく。人心掌握に長けた彼女はこのくらいは朝飯前だった。


 これで出だしとしては上々だとマリアは細く微笑む。


 一方、大勢の視線によって多少たじろいだが、胸を張って虚勢を取っていたアルバルトは内心、冷や汗を流していた。

 聖女であるマリアはその立場から昔から身に付いてきた術を使い、頭の中を聖女モードへ切り替える事で上手くバランスを取っている。

 マリアに同行するヴィーラもまた澄まし顔で身の丈はある大楯を地面に突き刺して仁王立ちしていた。


 対するアルバルト達は民衆に注目されるなんて経験はない。彼らは彼らで冷や汗を流しながらもその身に降りかかる様々な感情を受け流す事で精一杯だった。


 マリアから堂々と「胸を張ってれば大丈夫ですよ〜!」という助言がなかったら顔を俯かせていたかも知れない。


 ただでさえ、不安や恐怖を感じている者が多くいるのに情けない姿など見せられるだろうか。

 そんな姿を見せてしまえば、士気が下がる。士気が下がれば身体を動かす時に判断が遅れ、充分に力を発揮出来ない可能性もあり得る。


 ならばと俺の勇姿をその目で焼き尽けろ!と虚勢を張り続ける事でひたすら我慢に徹していた。



「魔族に家族を奪われた貴方方にとって耐え難い苦痛を味わった事でしょう。ですがそれも今日で終わります!」


 マリアの発言に息を呑むエルフ族が数人。その他はまだ様子を見ている様だが、その目には期待という感情が浮き上がっている。


 マリアが腕を大きく広げるとその動作に釣られて更に注目が集まる。そこで彼女は若干顔に陰りを作り、弱々しくも気丈夫に振る舞うのだった。


「……その為には皆様のお力を借りなければいけません。我々1人1人の力は弱い。だけど力を合わせる事で何倍にも膨れ上がります。貴方達は決して1人ではありません!」


「あの…その本当に、私達がお役に立てるのでしょうか」


 1人のエルフ族の女性が恐る恐る手を挙げる。まだ不安なのだろう。

 その気持ちの表れから声が震えている。


 マリアがその女性の前に歩み寄ると女性もビビった様で挙げていた手を胸の前で組み、身体を小さく丸め、縮こまっている。


 震える手を壊れものを扱うが如く、マリアは手を取ると目線を合わせて口元を緩めた。


「そうですよね、怖いですよね。私もこう見えて実はかなり怖かったりします。これから激しい戦いとなるでしょう。傷付く人が出るかもしれません。愛する人と戦うかもしれない。ですが、私達は戦うしか道はありません」


 戦うしかない。

 その一言で彼女らの顔がグッと引き締まる。それは覚悟していた事だった。でも、口に出しても実行するとなると足がすくんでしまう。傷付くのは誰だって怖いのだ。


「自分の手で、大切な家族を取り戻したくはありませんか…?」


 その恐怖を感じている心の隙間にマリアは問う。恐怖を乗り越えて、覚悟を決めた者ほど強い者はいない。今この場ではその覚悟を持っている人物はまだ少ない。両手で足りるなんて思っちゃいけない。


 これは戦争だ。魔族か人族、エルフ族が生き残る為の戦いなのだ。そこに生半可な気持ちで挑んで味方を巻き込まれたんじゃ意味がない。やるからにはこの場にいる全員をその気にさせてやるとマリアは言葉に熱を込めていく。

 聖女からの熱いエールによって段々とエルフ族の伏せがちだった顔も上がっていく。その瞳には確固たる意志が宿り始めていた。






 もしも自信がないというのならば隣を見なさい。


 その隣には自分と同じ志を持つ仲間がいます。


 後ろが怖いならその背中は我々が守ります。


 前を見てご覧なさい。


 そこには誰がいますか?


 貴方の愛しい人が助けを求めて必死に抗っている筈です。


 皆さんのお力を合わせれば、どんな困難だって立ち向かえる。


 ーーーー私はそう信じているのです。






 透き通る声によって響き渡る想いはこの場にいる全員の心を一つにする。大切な人を取り返す為に何を恐れる必要があったのか。

 ただの怖気で最後の一歩が踏み出せない情けない自分達をここまで鼓舞してくれるなんてなんと心の深い聖女様だ。


 私達は取り戻す。あの平穏だった日常を、語らい、笑い合い、一生を誓ったその人は今苦しんでいる。

 ならば立ちあがろうとも、怖くて仕方なくても志しが同じ仲間がいる。非力でもエルフ族には魔法を長けた者が多い。長年の積み重なった経験で手足の様に扱える。これは最大の武器じゃないか!


「聖女様…!私は夫を取り返したい…っ!」

「私は恋人を…!」

「兄を…」

「お父さんと一緒にご飯をまた食べたい!」


 エルフ族が各々、心に秘めていた叫びが静かな広場に飛び交っている。今まで咳止めていた想いは治る気配などあるはずも無く、濁流の様に声を張り上げていく。


「……静まれぃ!!!」


 そこへ一括したのは、ミドルウッドだった。彼は聖女マリア・デーリアの演説を聞き、これは荒れるぞと思っていたが、案の定、いやそれ以上の雄叫びにも似た叫び声が飛び交っていた。

 これはマズイ。魔族へ仕掛ける前に勘付かれてしまっては作戦も台無しになってしまうと低く威圧感のある声で一喝した。初めて聞く王の声色にビクッとしたエルフ達は姿勢を正して静かに口を結ぶ。


「作戦を忘れたか。ここで感情的になって大きな声を出して敵に気付かれたらどうする?私にも痛い程、君達のその気持ちを理解しているつもりだ。我々が声を張るのはここではない筈だ」


「ミドルウッド王…どうかその辺で…彼女達も反省している様子ですし、作戦通り、日が落ちる前に仕掛けましょう」


「ああ、すまない。作戦をおさらいしておくとしよう……」


 ミドルウッドもつい熱くなってしまった頭を冷やし、作戦決行前の最終確認としてマリアやアルバルト達と話し合う。


 その内容は至ってシンプルだ。


 古城に続く森の入り口で操られ、森の番人をしているエルフ達にミドルウッドが率いる精鋭で注意を引く。大きめな騒動を起こし、古城の周りを巡回している兵などをこちらに引き寄せるのが狙いだ。

 その隙に別動体であるアルバルト達が手薄になった所から古城へ侵入。そして魔族共を一網打尽とする算段だ。一応、下調べで警備が薄くなりそうな所はわかっている。


 ミドルウッドの情報によれば、サキュバスの魔族が3人いるという。森の入り口で騒ぎを起こせば、必ずその中の1人は釣れる筈だ。


 アルバルト達6人は少数ながらも1人1人の戦闘能力は高い。魔族1人に対して3人で当たられば勝機は十分にある。

 彼らは魔族を討伐後、残り1人を挟み撃ちで倒すというのがこの作戦だった。


 ただこの作戦の1番の懸念といえば、魅了による支配だろう。男を支配するその力は強大だ。この中の1人でも操られてしまえば、それだけで終わりだ。

 だが、こちらには聖女マリアが付いている。彼女が昨日一晩寝ないで作成したお守りを首に掛けておけば大丈夫だろう。

 そのお守りはミドルウッド、アルバルト、ユージーンに手渡された。


(これがマリアが作ってくれたお守りか…)


 紐を首に掛けてお守りを胸の前に吊るす。

 特に何の変化は見られないが、一応聖女からの贈り物だ。魅了なんて弾き飛ばすに違いない。

 きっと勇者と聖女がこの国に訪れた事など魔族にバレるのも時間の問題だろう。ならば、こっちから仕掛けるのだ。敵の意表を突いて物事を有利に運ぶ。

 先手必勝とはこの事かとアルバルトは思った。



「ミドルウッド・グリーンフィールドの名において宣言しよう。この日、今この時を持ってエルフ族奪還作戦を実行する!」


 ーーーー決戦の火蓋は切って落とされた。

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