第134話 リリィの独白
行間をある程度空かせると少し読みやすくなるんですね…もっと上手く書けるようになりたい。
ブックマークも少しずつ増えてきて嬉しいですね〜、モチベが上がったので、これからも頑張ります!
キュッ、キュッキュッ、キュキュキュキュ!
力いっぱいに布で何かを拭き取る音が聞こえてくる。リリィの手には使い古したであろう雑巾が握られていた。
物凄い顰めっ面は普段、小さくて可愛らしいと姉から大評判のリリィとは似ても似つかない。
「……いったぁい。アイツ本当にマジ最悪だし、何が美しいだ。見るからにキモいんだよ!この……クソッタレッ!!」
ベチンと薄汚れた雑巾が床に叩きつけられた。可哀想にまだ役目が残っている雑巾は無様な姿を晒している。
ヴァンピスという上司からの攻撃に耐えたリリィ。
ヴァンピスはリリィに部屋の掃除を命じた後、彼女の2人の姉を連れて玉座のある部屋から出て行ってしまった。
この部屋に残っているのはリリィの力によって意志を操られているエルフ族と自分自身だけだ。心なしか意志を封じられているエルフ達が憐んでいる様にリリィは感じた。
いや、そんな訳がない。
それはただの思い違いの筈…。
◆
窓、それからその他諸々まで念入りに拭き終わる頃には日も暮れて夜となった。
ぶつぶつと文句を言いながらもなんとかやり遂げたリリィは疲れに疲れていた。ほっそりと華奢な腕が少し重くて痛い。明日起きたら絶対に筋肉痛になっていると思い、気分が落ち込んだ。
こんな時は大好きな姉と戯れて今日の苛立ちや不満を解消するのだが、ヴァンピスの許可が無ければ姉達と戯れる事さえ出来ない。
「………首を洗って待ってなさいよ。この恨みは百倍以上にして返してあげるわよ」
打倒、ヴァンピス!と燃えるリリィ。
外にも内にも敵を作るヴァンピスはある意味大物かも知れない。
サキュバスの末っ子は頭の中で次はどういたぶってやろうかとギッタンギッタンにしていた。
自分に与えられた部屋へ向かうリリィは途中、自分が支配しているエルフ族達がグリーンフィールドで調達した食糧を確認する。
その中で木の実を一つだけ取り、残りは自分達で勝手に食べる様に指示を出してその実を齧りながら冷たい床を歩く。
疲れた身体をベットに投げ出し、今日のストレスを吐き出す様に枕を抱き締めて眠りにつく。最近だとこれが日課となりつつあるので姉に甘えられない怒りをヴァンピスへと更に募らせる事となっている。
「はぁ、いい加減この生活から抜け出したい…」
何処で間違えてしまったんだろうか…そう考えるのはこれで何度目だろう。
「なんで?私たちは静かに暮らしたいだけなのに……ほんと…もう、さいあ…くぅ…」
スゥスゥと眠りにつくリリィの目尻には透明な雫が溜まっていた。
身体に残っている疲れがベットに沈んでいく。ふんわりと柔らかな綿を詰め込んで手直ししたベットはリリィの身体を受け止めていく。
その感覚を僅かに感じながらリリィは夢の世界へと旅立った。
暗闇の世界にただ1人佇む私。
一切の光もなく、どこに行けばいいのか分からない。
(まるで私の心を表しているようね…)
コツコツと無限に広がる闇の中を歩く。
暗い所は案外好きだ。
何の障害もなく落ち着ける。
ただこの暗闇だけは好きになれなかった。ここは冷たくて怖い。心が凍える前にひたすら足を動かす。
何の当てもなく進む道の先は相変わらず何も見える事はなかった。時間が経つにつれて不安は大きくなり、リリィは発狂する。
「い、いや。怖い怖い怖いよぉ!お姉さまぁっ!どこにいるのぉ…私はここよ。ここにいるの…!」
……嫌だ。1人は嫌なの。誰か私を見つけて、抱きしめて!……ここは寒くて怖い。
リリィは大粒の涙を流しながら走り続けていくが、その先に希望はない。
その真実に少しずつ気付き始めたリリィの足取りはどんどんと重くなっていく。
「あっ」
小さな悲鳴と共に足がもつれたリリィは顔から倒れ伏す。
痛みがないのはいいけど、こんな格好をいつまでもしてはいられない。立ち上がろうと腕と足に力を入れようとすると私の両脇から見覚えのある人物が横切った。
それは私がずっと探し求めていたお姉様達だった。
「ま、待って、お姉様!リリィも一緒に…」
ズルンと何かに足を取られて滑る。前を蹴ろうとするが、蹴った箇所の暗闇の底が沈んだ。
何だと視線を下げれば、リリィの身体に暗闇が巻き付いている。
その情報を認識した彼女は恐怖で固まった。
(足が何かに絡まってる…!?)
「何これ、動けない!……ヨルお姉様、ルイ姉様!」
まるで底なし沼の如く身体が沈んでいくリリィが必死に叫ぶが、ヨルとルイは彼女の方を見向きもしない。
冷たい態度にショックを受けるリリィだったが、何とかこの場を脱出しようと踠き続ける。
「たすけ…ぇ、たす………」
足の先から顔の半分まで沈んで視界が黒で染まるリリィは最後に声を振り絞った。
「……ぅぅ、おねえさま……置いてかないでぇっ!!」
◆
「おねえさまぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガバッと腕を突き出してベットから跳ね起きたリリィの額にはびっしりと汗をかいていた。日が登る前、まだ外は明け方で気温も低くて肌寒い。
「ハァハァ……いつもの夢……」
(大丈夫、落ち着け私。ここは夢の中じゃないわ)
怖い夢を見て目が覚めてしまったリリィは深いため息を吐いた後、規則正しく息をして何とか落ち着かせる。まだ眠さはあるが、もう一度、ベットへ倒れればあの恐怖が来るかも知れない。
それだけは嫌だと身体を起き上がらせ、部屋に置いてある水の張った桶で眠気を覚ます為に顔を洗う事にした。そこにはやつれ果て疲れが残っている自分が水面に映っていた。
「今日もリリィは頑張ります。今日のリリィは可愛い、リリィは強い、リリィは逞しい、リリィは平気。リリィは……」
思い出すのはいつだって自分の家族。
笑顔だったあの頃を思い出して顔の面を分厚く塗装していく。何重にも丁寧に塗りたくったそれをリリィは被っていく。鋼の様な硬さになるまでその作業は続いていくのだ。
弱い本当の自分を隠す為に嘘で塗り上げる。
作り上げなきゃダメなんだ。
リリィは可愛いんだ、強いんだ!
そうじゃなきゃいけない。
(だって私は………お姉様の妹なんだから)
「リリィは…リリィはお姉様の自慢の妹!だから大丈夫!今日もへっちゃらなの!……きゃはっ♡」
強固な自己暗示で作り上げる自分を見てお姉様達はどう思っているのだろう。きっと違和感を感じている筈、だけど口には出さない。出したら最後、この仮面は崩壊してリリィはリリィで居られなくなる。自分でもそんな予感がする。ヨルお姉様もルイ姉様もきっと同じ考えだ。
生きていた時も死んでしまってヴァンピスのクソ野郎に操られている時もずっと私を見てくれている。ずっと私の為を思っての行動、身を案じてくれている。そこに愛を感じて堪らなく嬉しくなる。
ーーーあぁ、自分はなんて駄目な妹なのかしら。
リリィが強ければお姉様達を解放してあげられる筈だった。
でもまだ力が足りないのが悔しい。私はサキュバスの能力で男を釣り、洗脳して自身の配下として手勢を集めている。
幸いな事にヴァンピスは男好きだった。それも美しいものほど熱も上がっていくみたい。リリィが顔の良いエルフ族を配下に集める度に喜ぶのだから嬉しい誤算だ。お陰で駒が集めやすくてやりやすい。
「さてと今日もお仕事、お仕事!」
そろそろ頭数は揃ってきた。エルフ族は魔法適性がとても高い事は彼らの記憶を少し見れば分かった。奴単体を倒す戦力としては十分だけど、まだ足りない。
叛逆する準備を進めても気付かない馬鹿なヴァンピスだけど、奴が持つ最悪な切り札を使われたら私やその他諸共全てが消し炭になってしまう。慎重に事を進めなきゃ。
「はいはーい、夜の見張りお疲れ〜。貴方達は他のお兄様達と交代したら休んでいいわよ」
ヴァンピスの切り札に対抗出来るのは恐らくエルフの長老であるミドルウッド・グリーンフィールドか、それに近い実力を持つ者だけ。あのお爺ちゃんは私の能力を解析したのだろう。誘き寄せる為に度々ちょっかいを出しているけど、なかなか尻尾を見せない。
私の持つサキュバスの能力で操られてしまうのを防ぐ為だろう。ミドルウッドが姿を見せないのならば、次の狙いは勇者だ。
魔王様と同じ黒髪を持つ男。
魔族には見つけたら生かして連れてこいとの命令が下っている。
魔王様に目を付けられる程の実力者…なら、私の復讐にはもってこいの最高の人材だと言える。
あと一ピース。
勇者が持つ規格外の強さ。
それさえ揃えば、私は反撃に打って出る。
必ず私達が苦しんだ痛みと嘆きを憎っくきヴァンピスにも味合わせてやる。
這いつくばって命乞いをしながら奴の足を舐めた屈辱は今でも忘れはしない。
お姉様達を解放する為だ。もう少しで、もう少しで蹴りがつく。もう奴の好き勝手にさせてはいけない…!差し違えてでも倒してみせる。
例えこの先、私1人生き残ったとしても大丈夫よ。
私もヴァンピスを地獄へ叩き落した後、すぐにお姉様の元へ行くから安心して…?
私達は仲良しサキュバス3姉妹。
お姉様といつまでも一緒にリリィはいるの。
「…………ヨルお姉様、ルイ姉様っ……!」
自分の肩を抱いて震える少女の目から一雫の涙が溢れ落ち、儚く消えていった。
魔族側の視点は一旦終了。
アルバルトパートへ移行します。
サキュバス3姉妹の一コマ (ヴァンピス襲来前)
「ヨルお姉様〜!」
「リリィ、重いわ。どいてちょうだい」
「わぁっ!リリィだけズルい…!私もっ!!」
「……ぅ、ルイまで…しょうがない子ね」
大きなソファーで引っ付いて眠る仲の良い3姉妹がいたのだとか。




