第133話 サキュバス3姉妹の末っ子 リリィの野望
なんか思ってたのとは違う展開となりそう。
アルバルト達がミドルウッドと話し合いをしている頃。
グリーンフィールドから少し離れた場所に位置している古びた古城。そこは20年前に魔物の行進によって滅びた種族の龍人族が住んでいたという。
古城の外見は長年放置されていた影響でツルに覆われ、あちこちには戦闘の後が見受けられる。激しい損傷と瓦礫の山で城の半分近くが埋め尽くされてはいるが、内装はここに住み始めた魔族が弄った影響で綺麗に整えられている。
そんな古城の玉座にはある男が艶かしい態度で脚を組んで腰を落とし込んでいる。
壁沿いにはには瞳の輝きを失って人形の様になっているエルフ族がズラリと配置されており、その中心には跪いて首を垂れる女が3人いた。
「………でぇ、エルフ族の国に勇者が入ったとの報告だったけどぉ…?」
手足が骨の様にほっそりとしており、顔も血行が悪いのか、青白くなっている男が野太い声ながらも女性の様な喋り方で目の前の顔を伏せている同胞3人に対して語りかける。
冷ややかな視線が突き刺さるというピリリとした空気の中、その声に反応したのは3姉妹の長女であるヨルである。
「確かな情報であります。末の妹のリリィが支配したエルフから食糧を補填する為にグリーンフィールドへ降りた際、ミドルウッドと同行する黒髪の男を目撃したとの事」
サキュバスと言われる彼女達は自分の上司であり、上下関係が上の魔族には逆らえない。
これはほぼ全てこ魔族に言われる事であるが、力関係が上の者が下の者に対して絶対的な命令を下せる。
この場では3姉妹以外にはこの魔族しかいない為、渋々ながらも仕えている様だ。
「やっとぉ〜、此処にも来てくれたのねぇ〜。これが終われば、ようやくこんな汚らしいお城から魔王城へ帰れるってもの」
ハァ…と息を吐いて頬に手を当てるが側から見て気持ち悪い。吐き気を催すが自分達の上司だ。耐えなければいけない。
「ふふふっ、この私が魔王様からの寵愛を受ける日も近いわ〜!今宵は気分が良いから久しぶりにこの子の血を少し戴くとしましょっ!」
玉座に座っていた男はルンルンとした弾む様な足取りでお気に入りのエルフ族の少年に近寄るとその白い首筋に牙を突き立てる。
チュゥチュゥと喉を鳴らし、イキ顔を披露する男を止める者は誰もこの場にはいない。
キュポンッと口を離すと血を吸われたエルフ族の少年は床に倒れた。
だが男は気にする素振りも見せずに城の窓へ歩み寄り、城から少し見えるエルフ族の暮らす国をうっとりとした様子で見つめている。
「うふん、ウフフ!美しい男に囲われながら、麗しい私が食事をするっ!!あぁ…なんて甘美な響きだろうか…!芳醇な香りと美しすぎるあまり窓ガラスに映らない私、そして……ほこ、り…?」
指で窓の淵をなぞり、その指先を見る。
埃だ。薄らとだが埃が指に付着している。
それを見た男は全身の毛を逆立て、ブチブチと血管を浮かび上がらせて発狂した。
「う、う、うう、美しくなぁいィィイいいッ!!?」
その叫び声に反応したのは魔族の3姉妹の末っ子であるリリィと呼ばれた少女だ。
肩を震わせ、ただ黙って下を見てやり過ごそうとしている。
(どうか、早くヴァンピス様の機嫌が良くなります様に…)
リリィが祈りを捧げるが、現実は薄情だ。
祈った所で発狂しているヴァンピスには効かず、むしろリリィが怒りの標的となった。
「リリィー!早く来い、このグズがァ!」
「は、はい!」
慌てて手足を動かし、額を床につけながらもヴァンピスの前に飛んでいった。
発狂する男は目の前で土下座をする少女の頭に足の裏を乗せる。
そしてその行動を皮切りにヴァンピスは容赦なく小さな頭のリリィを何度も何度も踏みつけて唾を吐く。
「お前達3人が、一緒にいられるのはっ!この美しい私が、取り計らったから、だ!」
「ヴァンピス様!お許しを…お許しください。お許しくださいお許しくださいお許しくださいお許しくださいお許しください」
(お姉様、お姉様、お姉様、お姉様ぁ!リリィは頑張るから大丈夫。もう少しの辛抱、だから、我慢しなくちゃ…)
こんな目に妹が合っているというのに2人の姉はその場から身動き一つ出来ずにいた。
本当なら今すぐにでもあの場へ行って今もなお、ボコボコにされている妹を抱き締めてやりたい。代わりに私がその痛みを受けてやりたい。
だが、それは出来ないのだ。
あまりの悔しさと怒りで拳を握りしめる。
……だってヴァンピスの能力なしでは満足に動く事さえ自分達には出来ないのだから。
「ハァハァハァ……此処にこんなに埃を残すなんてアンタって本当にダメな子。間違った事をしたら…どう言うのだったっけ?」
「ごほっ、ごほゴホッ、………だ、誰よりも美しく気高きヴァンピス様をご不快に感じさせてしまい、私の未熟が招いた結果です。本当に申し訳ありません」
「そうそう、素直にならなくちゃ!私の機嫌を損ねたらどうなるか……この言葉の意味、忘れてはいないわよねぇ?」
髪もボロボロの状態となったリリィの顎をそっと指で支えて顔を覗き込むヴァンピス。
涙目になっているリリィを見て機嫌が直ったが、反逆はさせない様に心を潰す必要がある。
その為、弱っている所に更に追い打ちをかけた。
息を飲むリリィはその言葉の意味を充分に理解出来ている。
自分の何よりも大切な家族である2人の姉。
ヴァンピスがこの城へ来る前はよく3人でお喋りや太陽に当たってポカポカとした日常を過ごしていたのに…。
アイツが来てからだ。
アイツが来てから全てが変わってしまった。
お姉様達はヴァンピスの持つスキルによって人質に取られている。
何もかも自分のせい。
サキュバスという種の性質である魅了の力がお姉様達よりも色濃く、魔王様から与えられたスキルは凡庸性が利いて非常に役に立つものだった。
だからだろうか。数多くの同胞達の中から選ばれ、そして魔族となった自分達が人族共を襲わずに平和に暮らしていた。
それを気付かれたのだろう。この男が送り込まれてきた。
今まであった自由が奪われ、リリィが持つ力に目をつけられてしまった。
姉達もリリィを守る為に戦ったが、あの男が持つ切り札に敗北し、姉達は生きる屍となってしまった。
ヴァンピスのスキルは"死霊使い"。
死者を傀儡の様に操る事が出来るという厄介な能力持ちだ。
死者の身体に魂を吹き込む事で命令を下せるヴァンピスはリリィの姉達を殺し、身体が消滅し始める前にまだその場に漂っていた姉達の魂を捕まえ、再度身体に魂を入れる事で自分の操り人形へと仕立て上げた。
リリィが反旗を翻せば姉達の魂を容赦なく引き抜くだろう。
姉を心から慕っているリリィにとってそれは最悪の事。だからヴァンピスに脅されてしまえば従いざる負えない。
そうヴァンピスは思い込んでいる。
ただ一つだけヴァンピスに誤算があるとするならば、それはリリィが復讐心を抱いている事だろう。
ヴァンピスは敬愛する姉を殺した張本人だ。
だから、魔族らしくしっかりと仇は取らせてもらうとしよう。
お姉様達と言葉を交わせるこの状況は嬉しいものだ。
だから諦めて服従しようと思っていた。
でも、姉達はそれを止めた。リリィが逆らえば殺されている自分達は2度と会えないかもしれない。
ーーーだけど、可愛い末っ子の苦痛に満ちた表情など誰が見たいものかっ!
リリィの姉である長女ヨルと次女ルイは瞳の奥で燃え上がる。
2人がかりでリリィを納得させて常々、奴を倒す計画を3姉妹で練り上げている。
だから今は耐える。
何度、髪を引っ張られようとも。
何度、頭を蹴られようとも。
お姉様達は私以上に苦しい思いをしたのだ。
もうすぐ乗り込んでくるだろう勇者を使って、絶対にこの男を倒す。
お姉様達をこの呪縛から解き放つ為に…!
表面では従順になりながらも裏では姉妹でヴァンピスを倒す計画を練る。
虎視眈々とその機会をサキュバスの末っ子であるリリィは狙っていた。
次回もリリィ視点。
12時から投稿予定です!
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