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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
閑話 土蜘蛛編
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第129話 エピソードオブ土蜘蛛5 つーちゃん

『  』は魔物特有の喋り声。

人族から聞くとフガフガとか言っているだけ。

今回はちょっと長くなりました。

 オレ様は土蜘蛛。

 強い奴と戦う事を生きがいとしている。あの硬い肉を打つ感覚はどんな褒美を積まれても心を動かす事はない。それ程までに気持ちがいい。


 そんなオレ様だが、アルバルトという鬼人族とその腰巾着の狼女に敗北し、おめおめとこの洞窟まで逃げ込んでいた。

 人目につかないこの洞窟で身を潜め、おびき寄せた馬鹿な奴らの肉を喰らって回復に専念していた。


 魔力が多い程、傷の治りは早い。そこら辺にいる魔物を大量に狩りまくって傷を一気に直したい所だが、身体が鉛の様に重く、身動きがなんだかぎこちない。


 ゆっくりと治療する毎日に飽き飽きしながらもある日、オレ様はあのイカれ女に出会っちまったんだ……。



「そう、ならつーちゃんね。私はツカハ。いい名前でしょ?」



 傲慢の塊であるこの女は最初こそビクビクと身体を震わせていたが、すぐに馴れ馴れしく渾名を呼んできやがった。生意気にも得意そうな顔で心底ムカつくぜェ。

 オレ様は土蜘蛛だァ……つーちゃんじゃねェ。


 このツカハという女は雑魚は雑魚だが、使い道はある。


 コイツの作る飯が美味い。

 獲物を生のままで喰う生活よりも焼いたり、煮たりすればここまで美味くなるなんてな…お礼にオレ様の非常食として飼ってやる事にする。


 オレ様が上でお前は下だ。立場ってもんを考えやがれ!だからいい加減その呼び方はやめろ!つーちゃんじゃねェっつってんだろ!


 毎回、つーちゃんと呼んでくる頭の悪い馬鹿女と過ごす。鍛錬に付き合ってやるが、暇つぶし程度にしかならねェ。だが、オレ様の力が戻ってきているのを感じる。いい気分だ。


「……そろそろ此処を離れるべきかもなァ」


「つーちゃん何か言った?特にないなら私は帰るわね」


「勝手に帰ってろ」


「……つれないわね。すぐそこでもいいから見送って。まさか断らないわよね?断るなら乙女心が分かってない証拠よ」


「グチグチうるせェッ!!見送りゃいいんだろ、見送れば!」


(チッ、面倒くせェ…オレ様は何でコイツに好き勝手させてんだァ…?ホントに調子が狂う奴だ)


 怠げな身体を起こし、洞窟から出る土蜘蛛にその後ろ姿を見てツカハは嬉しそうに軽い足取りで後ろを続いていく。


 じゃあ、その包帯、また明日取り替えるから外さないで!と言い残して元気よく走り去るツカハを土蜘蛛はウルセェと返した。


(たくっ、こちとらもう殆ど回復してんだよ。下手に拗ねられたら飯が食えなくなるのは困る。アイツの作った飯は美味ェからな。喰うよりも生かしておいた方がマシだが、調子に乗っているようなら一度自分の立場を分からせる必要がありそうだぜェ…)


「ゲヘヘ…そん時が楽しみだァ」


 あの太々しい顔を恐怖で歪ませるその時を考えたら口角が上がる。そうだ、その苦痛に歪む表情はオレ様が必ずしてやる。


 ………でも、アイツには似合わねェかもな。


 いや違う。そんな事はない。最近、ツカハの事となると土蜘蛛は頭を抱える事が多い。主にツカハの暴走で土蜘蛛が振り回されてしまうのだが、それも段々と日常の一部となってきており、そういう日がないと調子が狂うのだ。


 相手を徹底的に追い詰めてしまいたいという残虐な思想が土蜘蛛の中に渦巻いているが、それを理性で制す。奥底ではそうしたいと思うが、行動に移さないように自制をかける。


 以前までなら考えられなかった事だ。ただ己の欲望に忠実だった怪物は人との関わりを得て少しずつ変わっていった。


 アイツは非常食だから…機嫌を損ねたら面倒くさいと言い訳ばかりを自分自身にしまくり、なんだかんだツカハに甘くなってきた土蜘蛛は自身の変化に戸惑いを隠せない。


 仕方ない事だろうが、生まれた時から周りは敵だらけ。逃げて力をつけ、追いかけてきた敵を屠り、魔王によって魔族へと昇格を果たした土蜘蛛は話せる相手がいなかった。

 魔族になっても同胞達は目を決して合わせず、自分が強者だという奴は常に自分以下の存在。口先ばかりで大した事はない。

 だから話せなくてもいい。力でねじ伏せて言う事を聞かせればいい。


 そう思ってたのに…情が湧いてしまった。


 これじゃあ、魔族失格だと土蜘蛛は笑いそうになるが、何だか心は晴れた気がする。


 ツカハの見送りを終わらせた土蜘蛛が再び洞窟に入り、硬い地面に横たわってイビキをかき始める。

 腹も膨れ、暖かな気温が眠気を誘い、土蜘蛛は夢の中へと意識を沈ませる。


 土蜘蛛が寝ついてから数分。ドシドシとした音と入り口付近に仕掛けてあった蜘蛛の糸がポツリと切れた事で土蜘蛛が目を醒ました。気配の消し方がお粗末過ぎる。せっかく寝付けたのに起こされて最悪な気分だ。


『キングノイッテタ、ココ』

『ハヤクオンナ、ミツケル。オデタチモ、ムライク』


 洞窟に入って来たのは腰蓑を巻いたオーガが2体。誰かを探す様にキョロキョロと辺りを見回していた。


「何だァ…?此処はオレ様の縄張りだ。喰われたくなきゃさっさと此処から消えろ」


『アイツ、ナカマ?』

『ナカマジャナイ。アイツテキ!』


「おいおい、あまりオレ様を舐めんなよ」


 飛びかかってくるオーガ共を自慢の糸で絡め取って捕縛する。モゴモゴと必死に身体を動かしてはいるが、オレ様の糸だ。そう簡単に取れる訳がねェ。


 足元に転がっているオーガの頭を掴んで揺らす。


「はっ、クソ雑魚じゃねェか!……で、お前らに聞きてェ事があんだけどよォ。女がどうしたって…?」


『オ、オデ、シラナイ!キングタスケ…』


「ああ、そうかい。ならーーー死ね」


 一丁前にもオレ様相手に嘘とはいい度胸だ。オーガの一体を見せしめに頭をそのまま握り潰す。あちこちから汚ねェ体液が飛び散るが、そこの川で洗えばすぐ落ちる。

 焦る必要はねェ。まだコイツらには聞きてェ事を聞けてねェしな。


「はっ、雑魚がっ!………んで、お前はどうなんだァ?知ってんだろ、言えよ」


『イウ!イウカラタスケテ!』


 土蜘蛛はその必死な叫びを聞いてニンマリと笑う。その笑みを見て胸を撫で下ろしたオーガは自分達に与えられた命令等を土蜘蛛に伝えた。


『ワカイオンナ、ミツケテル。ムラオソッテミナゴロシ!コレシカシラナイ』


「ほぅ、成る程なァ…ありがとうよ。お陰でお前らの目的が分かったぜ」


 この言葉を最後にオーガの首に極太の糸が何重にも巻かれ、巨大なオーガの身体は宙吊りになった。踠けば踠く程、糸は細く凝縮されて鋼の硬度となる。


 首にその糸が巻かれたオーガは手足をバタバタと動かすが逆効果であった。そして数秒後にはだらんと力無く舌を出したまま絶命した。その顔は苦悶に満ちており、まさに鬼の形相だ。


「バーカ。オレ様がいつ助けてやるなんて言ったよ。オレ様のモノにテェ出したんだ。生かしておく訳がねェだろ」


 長い舌と両手の中指だけを突き出して下へ向ける。その表情といい、態度は完全に相手を舐め腐っている。

 だが、そんな事をしている場合ではない。


「………アー、今日は久しぶりに戦ったがまだまだ暴れ足りねェなァ。雑魚狩りでもして気を紛らわすか…」


 今、洞窟内で生きているのは土蜘蛛だけ。特に話し掛ける相手もいないが、土蜘蛛は独り言を述べる。土蜘蛛は洞窟から出ると手から糸を出して目の前の木に付着させる。


 その手の平からはまだ糸が繋がっている為、クイッと糸を引っ張って身体を浮き上がらせるとその木に向かって突撃していく。身体がぶつかりそうなタイミングで更に糸を噴出、今度は違う木にべっとりと張り付かせて更に移動。その繰り返しにより土蜘蛛は空中移動を可能としていた。


 こうすれば己が走るよりも僅かに速い。なぜ自分がここまで急ぐのか、土蜘蛛自身も戸惑いながら先を行く。


 目指すはツカハの住む村。

 あの女の事など……どうでも良いが、キングと言われた奴は気になる。どんな実力者か、土蜘蛛は糸を引っ張る力を強めて更に加速。楽しみで楽しみで仕方ない有様だ。


 ◆


 土蜘蛛がツカハの住む村に着いたのはツカハが門の影から村の中を覗き見ようとしている時だった。ちなみに土蜘蛛は近くの高い木の上で様子を見守る。


 そこまで時間は経っていないが、様子を見る限りだとツカハでも勝てそうな相手だ。ただ炎を口から吐くだけで他はオーガと一緒。いや、あのでっぷりと出たお腹だけは同じではないが、問題はない。


「………なんだクソ雑魚じゃねェか」


 ただの雑魚だと知って土蜘蛛は愚痴る。

 途端に興味をなくした。あれならツカハでも大丈夫だろう。力の差を考えると時間は掛かりそうだが問題はない。オレ様を相手に一太刀入れたのだ。それが出来る女があんなデブに負ける筈がない。


 そう思っていた。思っていたが、人の、個人の考えとは複雑なものだ。

 ツカハと土蜘蛛は勝てると判断し、オーガの魔族も負ける気は皆無。


 だが、村人達は違った。誰しもがオーガとツカハの体格差を見て彼女は勝てないと思い込んだ。思い込んだ末に彼らは何とも安直な行動を取ったのだ。

 信じていた、守ろうとしていた人達に裏切られてツカハに戸惑いという隙が生まれた。そこをつけ込まれ、村の男数人に捕まってしまう。


 それを見た土蜘蛛の心は荒れていた。


(何でだ…何でアイツら、余計な事をしてんだァ?あんなのが怖ェのか…あんな雑魚の為にお前らの仲間を差し出そうとしてんのかよ)


「バカな奴らだ…せっかくの勝機を自分たちで逃しやがったぜ」


 ーーー何ともバカな連中だ。心底そう思う。その行動は愚かだと。


 あのまま戦っていれば、少なくともキングとか名乗る奴に少なくないダメージを負わせられるだろう。


 それを何だ?ビビって縮こまって他人に押し付けて自分達が傷付きたくねェからそいつを差し出すゥ?バカかっ、お前らの為に命張ってんだぞ。


 ……オレ様だって他人の為に命張るバカは嫌いだ。生き残る為に何でも喰らって来た自分だ。自分だけで精一杯のくせに他人にまで命張れるかってんだ。オレ様には考えられねェよ。


 だが、強い奴は好ましい。そして誰かのためと、そういう奴は総じて強い。絶対に守り抜くと覚悟を決めた瞳はオレ様をゾクゾクとさせる。その強さの秘密が知りたい。


 ………アイツらはそれ以下だ。雑魚どころじゃねェ、ただの魔物にも劣る。


 戦えよ。戦わねェくせに強い奴の芽を摘もうとする虫はオレ様の視界に入るな。みっともない。意地汚い。足を引っ張るどころじゃねェだろ。



 土蜘蛛は失望し、唖然とし、怒りに満ち溢れていく。誰しもがツカハの成長を拒もうとするその愚行を見て土蜘蛛は歯をギシギシと鳴らす。


「なぁ、アイツらはお前にとって守る価値のある奴らなのか…?」


 ポツリと溢した言葉はツカハには届かない。それもそのはず、土蜘蛛が考えを巡らせている中、ツカハの側にやって来たキングが彼女の腕を曲げるとその痛みで声が上がる。

 ツカハの叫び声が土蜘蛛の言葉をかき乱す。


「違う…違う違う。あの女の事なんてオレ様にとってはどうでも良かった筈だ!なんで、アイツにそこまでこだわる?どうでもいい。オレ様にとって、オレ様にとって………!!」


 土蜘蛛の中で何かが戦っている。その正体は分からない。





「たすけて……つーちゃん……」




 身体が自然と飛び出していった。ツカハの声を聞いた訳じゃない。だが彼女が初めて見せた涙が地面へ落ちた時、土蜘蛛は自分の居た木から飛び去り、近くにいたオーガの首に糸を巻きつける。その糸を縦横無尽に振り回して他のオーガ諸共絡め取り、キングのいる場所へ振り落とした。


 側から見るとハンマーの様な繭だが、土蜘蛛の糸は強度だ。ちょっとやそっとの衝撃では外れないし、弛まない。そして脳天から地面へ振り下ろされたオーガ達の意識は刈り取られ、冥府の道へ彷徨う事となった。


「よォ……」


「遅い、じゃない…」


「へっ、腕折れてんのに余裕だなァ。そんな口が聞けるなら問題ねェな」


 土蜘蛛は手から出した糸で晒し出されたツカハの胸周りと折れた腕を隠す様に巻きつけた。締め付けすぎないように身体に巻かれた糸を見てツカハは不器用な優しさを再確認する。


 そこへ怒り狂った表情を浮かべているのはオーガの魔族、キングだ。仲間を殺された恨みとせっかく手に入った若い女を横取りされそうになっていて気が立っている。


「こんのぅ、ダラズガァァァアア!!!このキングの嫁となる女に何してやがる!絶対に許さねぇからなぁ!!!!!」


「許さねェだと…?許さねェのはこっちのセリフだァ。オレ様の非常食をこうも汚しやがって……お前の魔石はこのオレ様がぜってェに喰ってやるぜ」


 向かい合う両者の表情はまるで修羅だ。気に入ったもんに手を出されたと怒り狂う魔族達は戦闘態勢を取る。


「これでも喰らってろ!"火炎地獄(かえんじごく)"」


 相手を確実に殺すと決めたキングは先制で口に溜め込んでいた炎を土蜘蛛に向かって放った。そこかしこで悲鳴が上がるが土蜘蛛はその場から動かない。別に村人を庇っている訳ではない。今この場から動けば確実にツカハに火が襲い掛かる。それを危惧して土蜘蛛は敢えてその炎を喰らった。動くのは相手が油断した時、その時が来るのをひたすら耐えて待つ。


「ゲハハハ!野郎、丸焦げになりやがった!これがキングに楯突く愚か者の末路だぁぁぁぁ!!」


 キングが汚い声で高らかに叫ぶ。炎のうねりが終わる頃、土蜘蛛の身体は丸焦げとなった。プスプスと煙が身体から出るが土蜘蛛はピンピンとしていた。


「こんなものが炎か?オレ様が知っている炎はこんなもんじゃねェよ。アルバルトの炎はもっと熱かったぜ。それに比べたらお前の技、ただの燃えカスにしか思えねェよ」


 思い出されるのはアルバルトとの戦いにて何度もその身に喰らった真っ赤な炎。

 灼熱とも言えるそれは己の分厚い外皮を突き破り、中身を焼き尽くしていた。

 それに比べればキングの炎なんて大したことはない。


 そして、土蜘蛛は反撃を開始した。


「まずはお前の動きを封じるっ"粘糸(きんし)"!」


「こんのォォォォォォオオ!!」


 土蜘蛛があらかじめ地面へ巻いていた糸を操り、キングの身体を拘束する。この糸は土蜘蛛が木から飛び降りた際、空中で大きくばら撒いていたものだ。


 糸を焼き払おうにも自分に炎が当たってしまうと考えれば、その行動に制限がつく。ぐるぐる巻きにされて身動きが取れないキングを土蜘蛛は見下ろす。


「おいっ!なんで魔族が人族の味方をする!奴らは俺たちの敵だぞ!」


「何を言うかと思えば……オレ様は強い奴が好きなんだよ。あの女は雑魚だが、まだまだ強くなる。オレ様の楽しみを奪おうなんざ、誰が相手でもオレ様が許さねェ」


「魔王様に叛逆する愚か者がァァァァ!!」


 激昂する再びキングが土蜘蛛目掛けて炎を吐こうとしたが、土蜘蛛は足でキングの顎を蹴って口を閉じさせる。

 行き場のなくなった炎がその場で暴発し、今度はキングの口から黒い煙が上がった。


「大した実力もねェ奴が粋がるんじゃねェよ。お前の魔石は………ここら辺だな」


「ゲフゴフ、ゴフッ、何で魔石の場所が…」


「なに、思い出しただけよ。お前が魔王城で作られた時、オレ様もその場にいたからなァ。お前の魔石を埋め込まれた位置ぐらいは分かるんだぜェ…?」


 魔石を埋められている場所を当てられて震えているキングに土蜘蛛は更なる追い討ちをかける。


「聞いた事ぐらいはあンだろゥ?土蜘蛛ってなァッ!!」


「土蜘蛛………ど、どう、同胞喰い…っ!!」


(やるなら徹底的に痛めてつける。オレ様のもんに手ェ出したんだ…そのぐらいはいいよなァ」


「"魔石喰い(ませきぐい)"」


 グギャィアアアアア!!!

 べちゃ、ぴちゃ、ビチビチ。


 目を背けなくなる様な聞くも無惨な叫びと血が飛び交う音。その音は段々と小さくなり、やがては消えていった。

 土蜘蛛とキングの戦いはあっという間に終わった。土蜘蛛が糸で捕縛、その後は……言うまでもないだろう。


 辺りにはくちゃくちゃと咀嚼音だけが響き渡る。そのグロテスクな光景を見てしまった村人は胃から上がってくるものを押さえてきれずに吐く者が多くいた。


 地獄の様な光景を作り出した土蜘蛛の元によっていくのはただ1人だけ。


 腕をだらんと伸ばしながらよろよろとする足を懸命に動かして土蜘蛛の元へ行く。その痛々しい姿を見て引き留めようとする者はいなかった。


 いや、出来なかったのだ。何と言って彼女を止めるのだろう。

 他でもない村の一員であった、我々の為に戦ってくれた彼女を裏切り、押さえつけてあんな目に遭わせたのは自分達じゃないか。


 その負い目がある彼らはツカハの弱々しい姿を直視することは叶わず、ただ黙って下を向くしか出来なかった。


「………まっず」


「つーちゃん。貴方ってやっぱり優しい人ね」


「うるせェ…つーちゃんじゃねェってんだろ!オレ様はただなっさけねェ面を晒したお前が気に食わなかっただけだ…」


「それでもいいの…だからこれだけは言っておくわ。助けてくれてありが、と……う…」


「おいっ!ツカハッ!!」


 張り詰めていた緊張が解けたのと身体中に走る痛みで意識を飛ばしたツカハ。彼女が地面に倒れる前に土蜘蛛が腹を腕で押さえて地面との衝突を防ぐ。


「………むにゃむにゃ。つーちゃん、ダメよ。まだポイントが足んないわぁ………」


「夢の中まで呪いはやめろよなァ…」


 そのまま腕の中へツカハを引き込むと土蜘蛛は立ち上がり、こちらの様子を伺って震えている村人達へ視線を向ける。


 恐ろしい瞳に見つけられた彼らは竦み上がるが、1人だけプルプルと震える足で土蜘蛛の前へと歩み寄って来た。

 そう、この村の1番偉い奴。ツカハを魔族に捧げると決断した村長であった。


 ツカハとこの魔族が仲の良い事を察した村長は土下座する勢いで頭を地面へ擦り付けた。

 ただそれを黙って見つけるのはツカハを落とさない様に腕に抱いた土蜘蛛だ。

 その瞳からはキングの炎にも劣らない感情がゆらゆらと燃え上がっている。


 その瞳を見てしまった彼らは跪き、命乞いを始めたが、土蜘蛛の心には何も刺さらない。


「コイツはオレ様が貰っていく。こんなクソ溜めに置いていたらツカハが汚れちまうからなァ」


「おっ、お待ちください!ツカハは我々にとって必要な人ざ………ヒィッ!?」


 村長の必死な叫びは届かない。その行為は今の土蜘蛛にとって火に油を注いでしまう行動だ。怒りのボルテージは先程のキングよりも噴き上がり、土蜘蛛が一歩踏み出せば地面がそこだけ陥没した。

 恐ろしいまでの怒りである。


「オイ、お前らが先に捨てたんだろゥ?それを返せだァ…?ふざけてんじゃネェェェェエエエ!!!!!」


 土蜘蛛の怒りは最もである。ツカハを裏切り酷い目を合わせてなお、縋ろうとする浅ましさ。


 そうだ、これが人族だ。弱々しい雑魚共特有の習性。だから弱ェ奴は嫌いだ。強ェ奴ならそんな行動さえしない。同じ種族なのかと疑いたくなる様な雑魚、それがコイツらの正体なんだ。


「オレ様もコイツを利用する。コイツがいねェと美味い飯が食えねェし、その対価として鍛錬ぐらいは付き合ってやるさ、暇になるからなァ。でもお前らは違ェだろ?利用するだけ利用して骨までしゃぶるみっともねェ雑魚だ。そんな雑魚共に裏切られたコイツの気持ち、考えた事はあンのかよォ……?」


「そ、れは……」


「なら黙ってろ。お前らが捨てたコイツを今度はオレ様が使う。これ以上止めるってンなら……容赦はできねェなァ…」


「ぐぅ………何卒、ツカハをお願いします」


「チッ、まあいい。とりあえず、そいつは返して貰うぜェ」


 手先から糸を出し、ツカハの刀をぶん取ってからその場を後にする。

 次にコイツが起きた時がうるせェし、黙らせる為だ。コイツの為じゃねェ…自分の為にした、ただそれだけだ。


 土蜘蛛が刀を取り返すとそれを落とさない様に胸元にいるツカハの上に置く。

 両腕が折れたツカハが抵抗しようにも出来ないと知っているから。


 右手は移動用に糸を出している為、残った左腕でツカハを抱えなくてはいけない。だから強く彼女の身体を抱きしめた。

 折角手に入れたモノを落としてはいけないから。


「オレ様の事は今度から土蜘蛛って呼べよなァ…?」


 土蜘蛛が眠っているツカハに声をかける。これはそう、彼女に土蜘蛛と呼ばせる為の刷り込みだ。


 ………決して少女の涙を見たからでは、ない。

土蜘蛛編はこれでとりあえず終わりとなります。

ツカハを抱えて土蜘蛛は何処へ行くのか。彼らの旅路は気が向いたらまた別の機会にしておこうと思います。


次回、本編。「グリーンフィールド 魅惑の森と最悪の魔獣編」


引き続き、皆様のご声援等をお待ちしております。

彼らの旅路の終着点。それまでお付き合い頂けたら嬉しいです。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】を★〜★★★★★で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションに繋がりますので皆様のご感想等もよかったら聞かせて下さい!

誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


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