第128話 エピソードオブ土蜘蛛4 オーガ襲撃
「………っ、いたた……つーちゃんめ〜、か弱い乙女をぶん殴るなんてどうかしてるわ。後で女性の扱い方ってものを教えてあげないとね…」
歩くと身体のあちこちが痛みが来る。手加減してくれたのは分かるけど、もうちょっと違う優しさが欲しかった。
(寸止めとかで良かったのに…!こんな美少女にグーパンってないんじゃない!?)
いくら自分の容姿に自信を持っているとはいえ、自分の事を美少女といい、土蜘蛛に対して文句を言う。まだまだ元気が有り余っている様だ。
土蜘蛛との手合わせはツカハが意識を飛ばした事で終了となり、いまの今まで眠っていたのだ。お日様も少し傾き始めており、今日は早いけどそのまま帰って寝ようとツカハは土蜘蛛に別れを告げて村へ足を運ぶ。
道中、魔物が出くわさなかったので痛む身体を引きずりながらも予定より早く村へ到着した。
(あれ…?村がなんだか騒がしいわね)
人のざわめきと悲鳴、そして汚らしい笑い声がツカハの耳に入り、彼女は自然と刀に手を伸ばす。
村の入り口にはどうやら人が集まっている様子だ。いつもなら人がまだ働いていたりしているのに…と首を傾げる。
「…………えっ」
ツカハが門のそばに近寄って中を覗き見るとそこには荒れ果てた家屋に焦げた地面、中央広場で顔を伏せながら必死に声を抑えて耐える村人達の姿がある。
更にその周りには魔物であるオーガが村人を囲う様に立っており、恐怖ですくみ上がっている村人達を威圧していた。
そんな中、一際大きく、でっぷりとした身体のオーガが村長と話し込んでいる。いや、話し合いですらない。人の言葉を喋る知性を持ったオーガが一方的に村長へ命令しているだけであった。
「このぉ、キング様の言う事が聞けんと言うのかっ!!!このあほんだらガァァア!!」
「ひぃぃいい!!」
「このキングの慈悲によって貴様らは生かされているのが、まだわからねぇって言うんだよなぁ…?もう一度だけ言うぞ。食料とこの村で1番の女を全てこの俺、キング様に献上しろ!……それとも皆殺しがお望みかぁ?」
巨漢のオーガの魔族は村長である老人に向かって2つの選択肢を迫る。
全て食料と女を引き渡すか、常人よりも力が強いオーガの群れがこの場を蹂躙するか。戦いの術を持たない村人達では歯が立たないのは目に見えている。やろうと思えば、オーガ達は村人を1人残らず根絶やしにするだろう。
だが敢えて選択肢を迫った。これは人族の戸惑いや葛藤、絶望を見るために遊び始めただけ。本当は献上品を貰った後に全部ぶっ壊してその顔をぐちゃぐちゃにしてやるとオーガの魔族は心の中で嘲笑う。
「村長…それにみんな……私が今、助けるわ!」
(もう見てられない。こんな酷い事があってたまるものかっ!)
ツカハは加速する。まず第一の標的は村人に手を伸ばそうとしているオーガ達だ。奴らはあの魔族以外知性を感じられない。
ただニタニタと本能の、快楽のままに人を屠ろうとしている。そんな事許されてはいけない!
全速力で掛け、村人とオーガの間に飛び込んだツカハは抜刀する。冷気を纏った刀が抜かれてその刀身がキラキラと輝きを放つ。
「"一天流 氷天一刀"!」
刀が一瞬のうちに振り抜かれ、オーガの首元を一閃する。そのまま、近くにいたオーガに切り掛かって2体の魔物を氷漬けにして討伐した。
「…ツカハだ、ツカハが来たぞォォォ!!」
うわあああとツカハの背後から歓声が飛ぶ。恐怖で極限にまで張り詰めていた緊張が解かれ、次第にその声は大きくなっていった。
「……おおっ、いい女がいんじゃんか。このキング様の嫁にしてやろう。お前が倒したオーガ以上に俺の子供を産ませてやるぜぇ…」
「貴方、下衆ね…ツカハポイントが千足りないわ。魔族は魔族でもまだつーちゃんの方がマシってものよ。私が欲しいならまずはその太った身体をなんとかする事ね。私、筋肉質な人が好きなの。例えば、貴方の隣にいるオーガなんて結構好みよ」
「アァ…!?」
ツカハが自分の事をキングと呼ぶ魔族に対して毒舌を吐き、更にその魔族の隣に移動して来たオーガに指を差す。
女の好みだと言われたオーガは何がなんだか分からない表情をしていたが、次の瞬間、キングの持つ棍棒によって頭を叩き潰された。
「俺の女に色目使ってんじゃねぇわ、このクソボケがぁ!!!」
念入りに倒れた後も頭を潰す様に何回も棍棒を叩きつけるキングを見て村人や仲間である他のオーガ達もドン引きしていた。
「いや、貴方の女じゃないんだけど…」
ツカハは相変わらずだった。だが、今にも凍えそうな目でキングを見つめる。気が晴れたオーガの魔族は仲間の血で染まる棍棒を地面にドシンッと振り落とす。
「ハァハァ、これで俺の女だっ!その生意気な顔をぐっちゃぐちゃにしてやんよ!」
「あら…聞いてなかったのかしら?今の貴方って好みじゃないの…出直して来る事ね」
「いい気になっているのも今のうちだ。俺には魔王様から賜ったスキルがある。見た所、お前とは相性が良さそうだ」
「へぇ…それは楽しみ、ねっ!!」
(残りの敵はこいつを入れて残り3体。さっさと終わらせなきゃ)
ツカハが足の裏に溜めていた力を一気に爆発させてキングへ爆速で詰め寄る。そして刀を抜き、冷気を纏った一振りがキングへ振り抜かれる。
だがその瞬間、キングの口が大きく開くとその中に溜まっていた火の塊が放出された。
「バカめっ!スキル"火炎地獄"」
「炎…っ!」
凍えてしまいそうな冷たい氷の刃とキングの口から噴射する炎の波がぶつかり合う。均衡、いや僅かにツカハの持つ刃が押され、彼女の身体にも熱が伝わっていく。
これは不味いと判断したツカハが手首を返して刀を下から上へと振り上げる。冷気によって出来た氷の壁が炎を遮り、なんとか直撃だけは免れた。
「最悪……相性悪すぎ」
「さぁ、諦めてキングの花嫁になるんだぁ。力の差は俺の方が上。この俺を拒むなら後ろにいる村人共は消し炭にしてくれよう」
「……っ、人質って訳ね…」
(ホント最悪……私がここを離れる訳にはいかないわ。多分、アイツは容赦なく炎で後ろにいる人を攻撃するに違いない。せめて人質がいなかったら…)
チラリと刀の刀身を傾かせて後ろの様子を確認する。怯え縮こまって固まる村人を見てどうにかしなくきゃと刀を強く握りこんで構え直した。
そんなツカハの後方、つまり村人達だが…。
「……村長」
「ああ、やむを得ん。やるしかないのぅ」
村の中で実力があるツカハが押されていると村人達に緊張が走る。そしてふと脳裏にある考えがツカハ以外の全員に浮かび上がった。
ーーもしツカハが負ける事があったら?
そしたら自分達はお終い。全てを燃やされ、尊厳も何もかもを失うだろう。でも、我々が生き残る術が一つだけある。
それは一種の賭けだが、こちらは最小の被害で済むかもしれない。自分達が生き残る可能性が、全員が生き残る可能性があるというならそちらに賭けた方がいい。
ーーーーそうだ、そうしよう。
「ツカハ…ツカハよ」
ツカハの背後から声を掛けるのはこの村の村長だ。心配でここまで来てしまったのだろうか。ツカハはそう思って村人達を安心させる為に声を張る。
「大丈夫、私にはお爺ちゃんから教わったこの刀がある。貴方達も知っているでしょう。不可能を可能にする私のお爺ちゃんの凄さを!」
「………いいや、ツカハ。君はそのお爺ちゃんではない。今じゃっ!!」
「なにを言って……っ!?」
ツカハが自分のすぐ後ろから声がした方向へ首を傾けると同時に身体が地面へ倒れる。そして動けない様に何人もの村人の男性が彼女の手足を押さえつけ、彼女から刀を取り上げた。
「ツカハ……すまんな。これもこの村が生き残る為……元々余所者であった君達を受け入れた恩を今返して貰おう」
「離しなさい!この…ぐっ、村長!刀を返してっ!戦わないとみんな死んじゃう!」
「黙っとれ!この小娘がぁ!!……誠にお見苦しい所をお見せして申し訳ございません。このツカハをキング様に献上致しますので我々だけはどうか見逃して頂けませんでしょうか?」
「私を売る気なの!それにこいつらの言う事を間に受けるなんて最低よ。本当にそんな約束守ると思っているの」
「これしか我々の生き残る道などない…!仕方ないんじゃ…」
「………っ、貴方達も分かっているでしょう!村の為に戦う人を貴方達は見捨てようとしているのよ!こんな、こんなのってあんまりだわ…!」
ツカハの怒りが爆発し、彼らの情へ訴えるが悲しきかな、誰しもが苦渋の表情を浮かべ、口を閉ざす。
僅かな可能性に賭け、自分が生き残る為に人の命を差し出すという愚行をこの身に実感し、ツカハは涙が溢れ出る。
「信じていたのに…!!村長も村のみんなも!家族だと思っていたのに、だから助けようって、戦おうって決めたのに…まさか裏切られたなんて……ぅぅ」
「へへっ、こりゃあいい。信じていた者に裏切られて可哀想になぁ…?そんな顔もそそるじゃねぇの!」
ーーーグギッ、ボキ、バキ。
「…………ぐっ、ぁ、ぁああアアア!!」
思わぬ裏切りを受け、泣き出すツカハは手足を押さえ付けられている為、全く動けない。
それをいい事にキングはツカハの細い両腕を反対方向へ捻り、骨を折る。
無理矢理骨を折られた事によるツカハの壮絶な叫び声が村の中に響き渡る。その叫び声を間近で聴いた村人はツカハを押さえつけるのを止めて一歩、また一歩と後ろへ後退した。
痛みを逃がそうと必死に首を振って暴れるが、あまりの痛さに力が上手く入らない。もうだれも押さえつけている人などいないが、全然立ち上がれない。立ち上がる事さえ今のツカハには余裕がなかった。
「…………決めたぜ。今ここで俺と結婚式だぁ。いい声で鳴くから興奮してきちゃったじゃねぇのぅ」
「くっそぅ、アンタなんて……アンタなんて地獄に堕ちるのがお似合いよ!」
「じゃけしい!……まずはその邪魔な服からだ…!」
首を掴まれて息が苦しそうなツカハを見てキングは醜悪な顔を晒し、大きな手で彼女の服を掴むとビリビリに引き裂いた。ツカハの病的なまでの白い肌が外へ晒される。
屈辱なまでの羞恥を晒され、何も出来ないこの状況にツカハは絶望する。両腕の骨を折られ、刀を持つことすら叶わない。
目の前には舌舐めずりをした醜いオーガの魔族。後ろには裏切りをした村人達。ツカハの味方は誰もいない。
ただ一つだけ…この場には居ない最近仲良くなった魔族。血生臭い洞窟にただ1人潜んでいた乱暴で凶暴、そしてふとした優しさを兼ね備えている魔族だ。
だから、最後にその名前を叫ぶ。
もう会える事はないだろう。
私の人生はおそらくこれで終わる。
これから起きる事はきっと残酷で最低で最悪な事だ。だから心を傷付けない為、感情を殺す前にどうしても言っておきたい。
「たすけて……つーちゃん……」
この次で土蜘蛛編は最後となります。
次回もよろしくお願いします




