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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
閑話 土蜘蛛編
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第127話 エピソードオブ土蜘蛛3 ツカハのスキル

あれから2人は毎日の様に会い、たわいのない話をする仲になっていた…と、ツカハは思いたい。

主にツカハが一方的に話していくことの方が多く、土蜘蛛はツッコミと相槌しか今の所打っていない。


「ねえねえ、つーちゃん」


「……………ふぁ〜ぁ」


「ねえねえ、つーちゃん」


(ウゼェ……)


それしか喋れねぇのかよお前は…。

水色の瞳の中に映るオレ様は何処かやつれている様に感じた。


「……つーちゃんじゃねェ。オレ様は土蜘蛛だって何回言えばわかンだよ…」


「愛称ってやつ?まあ良いじゃない。それよりもつーちゃんってさ、結構強いでしょ?だから私と手合わせっていうか、鍛えてくれない?」


「あ?何でオレ様が……」


「いいじゃない。どうせやる事と言えば食って寝て食って寝てだけ。運動もしなきゃさ」


いいじゃんいいじゃんと土蜘蛛の周りをぐるぐると回るツカハの顔を右手で鷲掴みにすると洞窟の外へぶん投げた。


「うぶっ!?」


「アー、うるせェッ!オレ様も身体が鈍っちまうからな。軽く運動がてら相手してやりゃあっ!」


ピューンと吹き飛ぶツカハとそれを追って洞窟から出てきた土蜘蛛。

地面と平行して仰向けに飛ぶツカハは腰に差してある刀の鞘の先端を軽く地面に押し当て身体を後ろへ回転させたのち、しゃがみ込むように着地した。


その身のこなしはまるで曲芸だなと土蜘蛛は少し感心する。しなやかな身体捌きを見せたツカハはブイと顔の横でピースして余裕の笑みを見せた。


「……なんだよ、思ったよりお前やるなァ」


「そう、ありがと。レディの顔を鷲掴みとか乙女の扱いがなってないわね。ツカハポイントが1下がったわ」


「ちんちくりんのお前がレディ…?ってか魔族にそんなん求める方がおかしいだろうがァ。それよりそのツカハポイントって何だよ。新手の呪いか?」


「ツカハポイントは5ツカハポイントで私と友達、10で親友、100で通い妻よ」


突然カミングアウトされたツカハポイント。その内容を知って土蜘蛛はげっそりした。


「ちなみに今のつーちゃんは99ツカハポイントだから後1ポイントで通い妻へ昇格するわ。頑張ってね」


「特大の呪いじゃねェかァッ!!!!」


土蜘蛛の叫びは野を超え、山を超えた。魔物の鳥は飛び立ち、彼らの近くにいた魔物は一体残らずその場を逃げ出した。予期せぬ安全確保だが、結果オーライ。


まあこの数日間。ツカハが土蜘蛛の飯を作りに来ていたという事実がある為、通い妻は否定出来ないとは思うが。


ただその場には呪いと言われたツカハだけが不貞腐れていただけだ。ぷぅと頬を膨らませて立ち上がった彼女は自分の装備を整えて土蜘蛛に向き直り、文句を言う。


「……呪いだろ。誰が好んでこんな変な女を欲しがるんだよ。オレ様だったらいらないね」


「酷いわ、つーちゃん。ツカハポイント1あがったわ。これで通い妻に昇格ね」


「上がるのはおかしいだろゥ!今の何処に上がる要素があったんだ!」


「自分に正直ってとても好感が持てるわ。そういう所結構好きよ、わたし」


「もう無敵だな。お前ェ……」


ツカハのポジティブさは前向きで見習いたい所はある。だがあまりに都合よく解釈するので土蜘蛛はついていけない。ツカハの自我の強さに土蜘蛛はドン引きしていた。

自分が何言ってもダメだこりゃともはや諦めの極地、こいつはこういう奴だと真面目に相手にするだけ無駄と悟りを開く。


ツカハと土蜘蛛の距離はおよそ5メートル。


向き直る両者は自然と構えを取る。ツカハは膝を曲げ、腰を軽く落として刀の柄を握る。対して土蜘蛛は4本の腕を広げ、身体を大きく見せる。


「そろそろ始めましょうか」


「ガハハハ、全力で来な。じゃねェと……一瞬で終わるぞ」


その言葉を皮切りにお互いは口を結んでじっと相手の出方を伺う。その場は一気に静まり返り、水の音と風で揺れる木の葉の音、そしてツカハと土蜘蛛の息遣いしか聞こえない。


(ツカハの奴…なかなかやるなァ。女の肉の感触は柔らかくて好きじゃねェが、強者は嫌いじゃねェ。こいつは思ったより楽しませてくれそうだ…)


「来ねェならこっちから行くぜェ…!」


「………」


そう言って距離を詰める土蜘蛛は4つの拳でツカハに強襲を仕掛ける。


相手の出方を伺ってだけじゃいつまで経っても面白くない。ドキドキとワクワクする心が土蜘蛛を突き動かしたのだ。


襲い掛かる土蜘蛛にツカハは神経を研ぎ澄ませ、刀を握る指に力を入れる。


「………"一天流(いってんりゅう) 石切り(いしきり)"」


刹那の抜刀。そして薄らと鈍い光を放つ刃が土蜘蛛を迎撃する為に音を切り裂いていく。


(早ェ…っ!)


刀の抜き去るヒュンと鳴る音を捉えた土蜘蛛は1つの拳の軌道を変えて突き出す。突き出した瞬間、ザクッと拳に違和感が走るが土蜘蛛はお構いなしに残りの拳でツカハを攻撃した。


「あっぶないわね…!」


「ほぅ…オレ様の外皮を貫くとは。なかなかいい切れ味してんなァ」


「………手合わせなんて言わなきゃ良かった。これは当たった時が恐ろしいわ」


土蜘蛛の攻撃が来る事を悟ったツカハは躊躇いもなく、刀から手を離して身を屈めながら距離を取る。思い切った行動のお陰で土蜘蛛の拳を避けた彼女だが、額には汗、頬には一筋の傷。そこから赤い血が出血している。


それもその筈。なんせ土蜘蛛の拳は一発でもまともに受ければ人が空高くぶっ飛ぶ程の威力がある。

まだ全力は出してなくともツカハがその拳を受ければ、意識は秒で吹き飛ぶだろう。


一瞬の攻防、頬に掠っただけでこの威力。流石のツカハも表面上では取り繕っても心臓がバクバクと激しく鼓動する。


こちらに余裕がない事を相手に悟らせてはいけない。平静を装って軽い口で土蜘蛛へ喋りかける。


「それはそうとその刀はお爺ちゃんから貰った大事なものなのよ、つーちゃん。だから丁寧に扱ってね?」


「お前、その大事なものを躊躇なく手放したよなァ…?」


「だって離さなかったらつーちゃんにぶっ飛ばされていたわよ。私、自分の命か刀かと言われたら命が大事だもの。お爺ちゃんも納得してくれるわ」


「ジジイが泣くぞ」


(とりあえずうるせェから返すか…)


相変わらずブレない、いやこの場合は逞しいツカハの言い分を聞き流しながら自分の拳にめり込んだ刀を引っこ抜く。それをそのままツカハの足元へぶん投げた。刀が地面に突き刺さる。


一応、当たらないように狙いは付けたので大丈夫の筈だが、そんな土蜘蛛の善意を知らないツカハからはブーイングの嵐だ。何とも理不尽である。


地面に刺さった刀を引き抜き、ツカハは自分の鞘へそれを収める。


(何だァ、もう終いなのか…?)


「………いいわ。私の実力だとつーちゃんの足元にも及ばないって事は分かった。なら今から私は全力を出すから」


「ガハハ…いいぜェ、来いよ。お前の全部を出し切ってみろ!オレ様のおもちゃになれるか試してやるぜっ!」


両者再び向かい合い、睨み合う。そしてツカハはまた先程と同じ体制になった。腰を落として手は刀、そしてただひたすらその時を待つ。


「さっきと一緒だなァ。その技はもうオレ様には通じないぜェ…?」


「ふふふっ…いい事を教えてあげる。私のスキルは"氷結"。ただ物を冷やすだけの能力なの」


その言葉を言った後、ツカハは目を閉じて神経を研ぎ澄ます。その気配はまるで触れたら斬るとばかりに鋭く尖っていた。


(ただ物を冷やすだけ…?何故奴はそんな事を今にして言いやがる。ハッタリか…いや、あの刀…薄らとだが魔力に包まれている…)


ツカハがやりたい事など想像も出来ない土蜘蛛はさっきとは何かが違うと脳内に警戒の音が鳴り響く。


ーーー似ている。


アルバルトとの戦いの中、幾度と見てきた炎の剣。それと似た感じがツカハが持つ刀から感じ取れる。これは思ったよりも楽しめるかもなァ。


いい意味で予想を裏切ってくれたツカハを見て土蜘蛛は口元を歪めてご機嫌だ。故に真っ向からその技を受ける事にした様でどっしりと構えを取る。


(結構楽しませてくれんじゃねェか…)


「ならよォ、しっかりと見せて貰うゼェェエエ!!!」


土蜘蛛は身体を左右に振った後、爆発的な勢いで一直線に突き進む。


黒い弾丸がツカハに向かっていく。そんな暴力の塊が彼女へ襲い掛かる寸前、ツカハの閉じていた瞳が薄らと開かれる。


「"一天流 氷天一刀(ひょうてんいっとう)"」


彼女が叫ぶと冷たい風が土蜘蛛の肌を触れる。そう肌で感じ取った瞬間、土蜘蛛の身体が氷に包まれていき、身動きを鈍らせていく。


ツカハの刀は氷を纏っており、その刃に触れた箇所から相手を凍らせるという恐るべき技だった。


例え相手が斬れなくとも氷漬けにしてしまうという強者を倒す為に編み出された技であり、ツカハが祖父から教わった剣術と自身のスキルを組み合わせて作り上げた奥義である。


「つーめてぇぇぇ、なァっ!!!」


「くっ、きゃあああああ!!!」


1本の腕が凍らせられたが、その腕を犠牲に他の3本の腕が自由に動き回る。ツカハは土蜘蛛の攻撃を刀で受け止めるが勢いを流し切れない。


刀越しでも分かるその破壊力、ツカハを押し返すと同時に土蜘蛛は更に距離を詰めて下から上へ放物線を描きながらスマッシュを繰り出しツカハを空へ吹き飛ばした。


「"粘糸"」


土蜘蛛の攻撃をモロに受けたツカハは意識を飛ばし、頭から地面へ落っこちていく。このままでは大怪我をするが、土蜘蛛の手から伸びる糸がツカハの身体を絡め取って地面との衝突を防ぐ。


「ガハハッ!オレ様の勝利だァ!」


「うーん、ダメよつーちゃん…まだお嫁さんにはツカハポイントが足りないわ…」


「おい、何怖ェ事寝言で言ってだァ…」


唸るツカハの頬を土蜘蛛がツンツンと指先で軽く押す。


むにゃむにゃとそのまま眠るツカハの側で土蜘蛛はしゃがんだまま呆れ顔で彼女の顔を眺めていた。

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