第126話 エピソードオブ土蜘蛛2 初めての経験
ツカハのスキル変更 異空間収納を変更して→魔法袋から取り出した事に変更いたします。
土蜘蛛との邂逅から翌日。
言葉通りにツカハは火傷に効く薬と包帯、それから香りの良い花を幾つか持って血生臭い洞窟の中へ入っていった。
そこには土蜘蛛が胡座をかいて座っていた。
「なんだ…ちゃんといるじゃん。意外と律儀なのね」
「ガハハッ、いいか?この怪我が治ったらお前を始めに喰ってやる!……それとオレ様に命令していいのは魔王だけだ。この世は強ェ奴が全てだからなァ」
グヘヘと笑う土蜘蛛を見てその様子に呆れながらツカハはそばに寄って包帯と薬を手に取る。
「はいはい。じゃあ腕出して。命令聞いて」
「サラッとオレ様に命令すんじゃねェ…!」
「あまり怒ると身体に良くないわ。ほら、このお花いい匂いがするでしょ?私もイラついた時はよくお花の匂いを嗅いでるの」
「……クッセェ」
顔の前に差し出された花は確かにいい匂いだ。
それは認めるが、この女、ツカハと言ったか?真面目に対応しようものならこうもこっちのペースを崩される。
実に滑稽な話だ。
(とんだお笑い草じゃねェか…あの同胞喰いとして恐れられていた土蜘蛛様がこんな小娘に…ぜってェにいつか喰ってやるぜェ…!)
だから今は活かしておいてやろう。
この怪我が治るまでだ。それまでは精々オレ様に利用されれば良いさ。
土蜘蛛が悪い笑みを浮かべ、ゲヘヘとツカハを見て笑うが、当の本人は気持ち悪い笑い方ねと鼻を鳴らして毒を吐く。
相変わらず強気な態度に面食らった土蜘蛛は舌打ちをした後、大人しくツカハからの治療を受ける事にした。
「………お前、何で魔族のオレ様にそこまですンだァ?お前ら人族とは敵同士じゃねェか」
「なによ急に…。魔族が悪い存在だって言うのは小さい頃から教え込まれたから知ってるわよ」
「分かってんならオレ様に構うなよ。人族ってのは雑魚だから群れる存在だ。オレ様に構ってるとお前、弾かれるぞ」
「あらっ…私を心配してくれるの?やっぱり貴方は優しいのね」
「オレ様が優しい…?」
「ええ。だって貴方が本気を出せば私なんてあっという間に挽肉のミンチよ。骨も肉もぐちゃぐちゃになるわ。その魔物の様にね…」
土蜘蛛のそばに置かれている骨や辺りに飛び散っている小さな肉片に視線を送る。小心者が見たら気絶する程の光景だ。それを眉をひそめる程度で済ますツカハを見て土蜘蛛は若干引いた。
ツカハが土蜘蛛の問いかけに答える。
(やっぱりこの魔族は私を気に掛けてくれる優しさがある。口では否定しているけど、こうして私の治療を大人しく受けているし、わざわざ口に出して忠告してくれる)
怪物、魔石喰い、暴力装置と言われ続けた土蜘蛛はツカハの優しいという言葉に動揺する。
人族や同胞である魔族からも暴食というスキルと土蜘蛛本人の残虐性な性格もあって双方から恐れられている。
強敵との闘いは最高に心が躍るし、自分の強さが向上するならば、味方であろうが敵であろうが屠り倒して喰らい、糧とする事など躊躇はしない。それが弱肉強食というこの世界の道理であり、摂理だ。
その信条があるからこそ、何故こうもツカハが自分に構ってくるのか分からない。わざわざ餌が警戒もなく、向こうから寄ってくる。
何度も喰らうぞと脅してやっているのに、一度は見逃してやったというのに近寄ってくるツカハの事が理解出来なかった。
(………逃げればいいのに馬鹿な奴だァ)
「はい、これでお終い。どう?包帯はキツくない?」
土蜘蛛の大きな腕に薬が塗られ、その上から薬が薄れない様に包帯をしっかり巻いてツカハはご満悦だ。土蜘蛛は腕を伸ばしたり、曲げたりして腕の調子を確認している。
「このくらいなら多少動きづらいが問題はねェ…」
「そ、なら良かった」
「…………」
土蜘蛛から視線を外し、魔法袋から取り出した物を使ってしまっていくツカハの背後へ近寄っていく。
(お前がいけねェンだぞ。忠告はしたんだからなァ?)
そして土蜘蛛は包帯で巻かれている腕を彼女の方へ伸ばし、大きな口を開けた。まずは自分の拳大程の頭から喰ってやると口から鋭い牙を覗かせる。
後数センチという所でツカハは振り返らずに土蜘蛛に話し掛ける。
「……ねぇ、つーちゃんって親はいないの?」
その一言に、土蜘蛛の身体がピタッと止まる。
親、それは土蜘蛛が魔族になる前の話。
アーススパイダーというAランク級の魔物から生まれた土蜘蛛は他に生まれた兄弟と比べると身体の色が薄く、その事が原因で敵認定され、よく他の兄弟から襲い掛かられていた。それは母親も例外ではない。
いつ思い出しても忌々しい記憶。舐めてかかってきた奴は全員ぶちのめし、魔王から与えられた力で親蜘蛛も倒した。そしてその魔石を喰って更に力を付けたのだ。生まれてから今まで敵以外の何者でもないと土蜘蛛は愚痴る。
「……生まれた時から兄弟や親はオレ様の敵だ。隙を見て相手を餌にする事しか考えたことはねェ…」
「そう……辛かったわね。私にも家族は居たんだけど、ふらっと家から出て行ってそれっきり……残ったのはこの何でも収納出来るお爺ちゃんの魔法袋だけ。お互いに親がいないなんて似た物同士で何だか嬉しいわ」
「ケッ、言ってろ。あー、クソッ!お前と話してると調子が狂って仕方ねェ。おい女ァ…何でもいい、今度からオレ様に食いもん持って来い。それが出来なきゃお前を喰ってやる。オレ様はいつでもお前を喰えるんだからなァ!……忘れんじゃねェぞォ?」
(ダメだ……これ以上、コイツといると頭がおかしくなりそうだ)
土蜘蛛はツカハを襲うのをやめると彼女の脇を通って洞窟の外へ出る。
腹が減り過ぎて仕方ない。食料を確保する為に自ら探しに行く事にした。
力はまだそこまで戻っていないが、それでも超人的な身体能力は高く、岩の尖りを掴んで崖をスイスイと登って姿を眩ませた。
「治療して貰って更にたかろうだなんて……ダメ男のセンスあるわね、つーちゃん。お腹が空いたなら……これがいいかしら」
1人洞窟の中で置いてけぼりにされたツカハは魔法袋から昨日仕留めた魔物を引っ張り出す。皮を剥いで近くの川で水洗いをし、血と生臭さを洗い流していく。
両手に抱えるぐらいの大きな肉の塊だが、ツカハは慣れた手付きで肉を棒に刺すとそのまま火を起こして肉を炙る。
定期的にゆっくりと肉を回しながら表面がパリパリになるまで焼いていき、極め付けに香りの強いハーブを火に追加で入れて肉に香りを付けていく。
後は縦に何度かぶつ切りにして大きな葉っぱで幾つか包んでいけば完成だ。肉を焼くだけで結構な時間が経っており、ついでとばかりに血生臭いこの洞窟を水魔法で洗い流していた為、だいぶ日も暮れてしまった。
「つーちゃん遅いわね。そろそろ料理が冷めちゃうじゃない。一緒に食べようと思って待ってたのに…」
そろそろ戻らなきゃいけないとツカハは作った料理を石の上に置いて村に帰る為、川沿いに降っていく。
その後ろ姿を洞窟の上から土蜘蛛は眺めていた。
ツカハの姿が完全に見えなくなるまで待った後、崖を飛び降りて地面に着地。
そして洞窟へと帰還した土蜘蛛の鼻がピクピクと動く。
「この美味そうな匂い…あの女が作った奴か」
鋭い爪先で肉を包んでいる葉っぱの結び目を切り付けて包みを開く。開いた途端に広がる肉の良い匂いに涎が出てしまった土蜘蛛だが、大きな口を開いて齧り付く。
「ウッメェ…!」
ガツガツと食べ切った土蜘蛛は残りの包みも手に取ってそのまま口の中へ運んでいく。
強靭な顎で肉を切り裂き、喉を通して胃袋へ突っ込む。今まで生肉を頬張る事しかしてなかった土蜘蛛にとってツカハの料理はかなりの中毒性を生んだ。
「女ァ……いや、ツカハかァ。クソ雑魚だが、なかなか有能な奴だぜェ。非常食として側に置いておいても良いかもなァ…」
今まで経験した事がない旨味という存在は土蜘蛛の全身に駆け巡り、脳内に刻みつける。
命懸けの戦い以外で興奮や満足はしなかった土蜘蛛が初めて人が作った料理に興奮したのだ。
彼の中でツカハの存在がどうでも良い面倒くさい人族から生かしてやってもいい存在へと大きく切り替わる。
その日、全ての肉を食い尽くした後、幸福感に包まれたまま土蜘蛛は眠りについた。その顔はニヤけていたという。
ツカハ
村に帰った後、「ちゃんと食べてくれたかしら」と心配で翌朝また土蜘蛛のところへ突撃しに行った。
土蜘蛛
うっまぁ!!何だこれはァ…焼くだけでここまで美味くなるとは……取り敢えず喰うのは後にしといてやる。
後日、また突撃しに来たツカハに飯を作れと吠えた。




