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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
124/148

第124話 ゼニスとトーマスの覚悟

ちなみに今の状態。

一般の村人の場合(1が基本ステータス)

体力1 力 1 守1 病み度1


アルバルト

体力3 力3 守2 病み度3


レティシア

体力2 力2 守1 病み度2 …………となります。

 アルバルト達がヒガリヤを去って数日後。


 剣舞祭準優勝者であるゼニスは貰い損ねた賞金をマーラットから受け取っていた。

 今は賞金よりも酒だ!とゼニスの師匠であるトキと飲み比べを優先した結果、すっかり賞金の事を忘れていたのである。


 魔物の皮を頑丈な紐を通した巾着袋を手に取ったゼニスが早々に中身を拝見する。

 金貨が数枚、銀貨と銅貨もたんまりと入っており、ゼニスは満足げに懐へ仕舞い込んだ。


「へへっ、悪いな。確かに受け取ったぜぇ」


「こちらの不手際でもある。それにしてもゼニス、今まで何処にいたんだ?この数日間、何処を探してもいなかったと部下から連絡を受けていたけどよ…?」


「あぁ…ちょっと外で山籠りしていただけだ……気にしないでくれ、頼む」


 マーラットの問いかけに顔を伏せて手を合わせるゼニスの脳内はあの時の光景を思い出していた。


 アルバルト、ユージーン、マーラット、そしてゼニスといった四馬鹿達による逃走劇。

 それは今じゃこのヒガリヤであちこちに噂が飛び交っており、外を歩けば好奇な目で見られる事が続いていた。


 それだけならまだ耐えられた。

 噂の殆どがアルバルトとレティシアに焦点が置かれ、逃走劇の始まり早々に脱落したゼニスとマーラットの話はあまり聞かない。


 まあ、それでもと言った感じではあるが…。


(俺がヒガリヤを離れた理由はあのカマ共のせいだ…あいつらに服を脱がされただけで済んだのは奇跡だが、朝の光景が暫く離れられなかったぜ…忘れるまで数日は山に篭っちまった)


「そういえば、奴は旅に出たんだろ。俺もこれから暫くはこの国を離れるわ。士官の話はまた今度にしてくれ」


「……お前もこの国を去っちまうなんてな。アルバルトといい、次々と実力者がいなくなっちまうのは悲しいぜ。お前にとっても良い話だとは思ったんだがよ…」


「アンタ程の男から認められるのは嬉しいが、もう決めちまったからな。それに此処には先生ぇが暫くいんだろ?なら問題はねぇさ」


「そうか…まあ、いつでも声掛けてくれや。俺はいつでも大歓迎だ!何たって俺は強い奴が好きだからなっ!!」


「はっ、そうかい!じゃあ、もう俺はいくぜぇ」


 マーラットの書斎を後にしたゼニスは長い廊下を歩く。

 木で出来た廊下を踏み締めて歩いているとトキ・ダルタニアンが外を眺めながら酒を煽っていた。


 恐らくは持ち前の気配察知で先回りしていたトキがこの国を去ろうとするゼニスに会いに来たのだろう。


「………ちっ」


 視界の先にトキがいる事を認識したゼニスは足の速度を緩めず、無言で彼女へと近付いていく。スタスタと歩くゼニスと静かに酒を飲むトキの間には異様な静けさがあった。


「………この国を出て行くんだって?」


 ゼニスが何も言わずにトキの脇を通り過ぎた時、トキは酒を飲むのを止めて口を開く。


 その言葉を聞き、ゼニスも足を止めた。


「俺は自分が強いと思っていた…アンタが俺の前から居なくなってから俺は自分の強さに驕っていたんだ」


 ゼニスは語る。ようやくトキが自分の事を弱いと言った意味を、肉体面で強くても精神面ではまだまだ幼かったとアルバルトとの戦いや自分よりも遥かに強い敵との戦闘によりそれを自覚した。それ以前はこう思っていた。


 自分の強さは知っている。自分はもう充分強い。


 ーーだから慢心していた。


 アルバルトがボロボロになっても最後まで戦い抜くという意志の強さ。その強靭な精神によって自分は押し負けた。


 もう立ち上がれない。

 反撃する力もないだろうと勘繰ったせいだ。

 油断さえしなければ勝てていた。

 遠距離から攻撃すれば確実だった筈なのに…。


 土蜘蛛との戦いで己の上がある事を知り、誰よりも最強の存在であった先生ぇが初めて見せた弱っている姿が今でも脳裏にこびりついて離れない。

 最強の存在であった筈のトキが土まみれで血塗れ。それを見てショックを受けた。自分の強さが足りなかった。もっと力さえあれば先生ぇをここまでみっともない姿にはしなかった。


 今回、土蜘蛛を退けた功績が大きいのはアルバルトだ。

 全力も全力。力を出し切ってから更に成長を遂げた。あの強さが欲しい。貪欲なまでに強欲なまでに心の底から切に願う。2度とあんな先生ぇは見たくない。


 だからまだこの程度の実力では満足しねぇ。

 いつまでも先生ぇにおんぶに抱っこじゃ格好がつかねぇ!


(根性がねぇ奴は大っ嫌いだが、それがまさか俺だったなんてな…)


「ーー俺は俺なりの道を行く。だから先生ぇ、アンタの下にいるのはもう辞めだ。俺はアンタを超える。その為にこの国を発つよ」


 強さに限界がない事はアルバルトが教えてくれた。俺よりも実力がなかった奴が今じゃ俺よりも強いなんて、馬鹿みたいな話だろ?


「………フッ、良い男になったじゃないか」


「惚れてもいいんだぜ?」


「馬鹿って言ってんじゃないよ、お前さん。それはあたいより強くなってからいいな」


 こんな穏やかな気持ちで行う師弟の会話はいつぶりだっただろう。先生ぇを超えると決めてから自分の気持ちに少し余裕が出来たみたいだ。

 最後の胸のつっかえが取れた気がした。


 この場から離れる為に一歩前に踏み出す。


「………怪我、するんじゃないよ」


 トキの一言がゼニスの心に刺さる。初めてトキから言われた心配の声。蓋をしていた感情が溢れ出しそうだった。


(折角、人が清々しい気持ちで立ち去ろうとしているのにこの女は……!)


 一言、文句を言わなきゃ気が済まない。


「バァカ、怪我は男の勲章だろうが…」


 勝手に流れる涙が頬を濡らす。

 くしゃくしゃになった顔は今までで1番のブサイクな面をしているに違いない。


 ……だが、悪い気もしなかった。


 ◆


 トキに別れを告げた後、ゼニスはある場所へ向かっていた。その前に少し寄り道をする事にした様だ。


「いらっしゃ〜い!うちの果物は新鮮で安いよー!」


 元気の良いハツラツとした女性の声が周りの騒音に負けじと響き渡る。その声によって買う人もいるみたいだ。


 ……確かこの辺だったか?


 ゼニスもその声に釣られて立ち寄る。

 ここは彼が子供の頃、よく盗みを働いていた果物屋だった。あの頃いた老人の姿はなく、若い女性が店番をしている。


「おい、ジジイはどうした?」


「いらっしゃいっ!もしかしてお爺ちゃんの知り合いですか…?ごめんなさい。お爺ちゃんは今、お店に立てなくて…」


 お爺ちゃんだと…この女はジジイの家族か?ジジイのうるせえ声によく似てやがる。全く遺伝って奴かよ。


「何だぁ?あのジジイ、遂にくたばっちまったのかよ」


「くたっ…!?そういう事言うのやめてください!…ただ最近は体調を崩し気味なだけです…私がもっと頑張って良い物を食べさせてあげればきっと元気になりますからっ!」


「ふん…そうかよ。ジジイに伝えとけ、今まで世話になったってな」


 これは貰ってくぜと言ってゼニスは店員の女性を鼻で笑うと目の前にあった果物を2つ取って歩き始める。

 当然、店の物を勝手に持ってかれては困ると女性はゼニスを止めた。


「ちょっとお代…!」


「あん?ああ、忘れてたわ。今までのツケを払っちまうか…」


 ゼニスが懐から取り出すのは先程マーラットから貰った剣舞祭の賞金である。大金も大金、袋から覗く硬貨の輝きが顔を照らす。


(……どれくらいで足りそうだ?)


 ジジイの怒鳴りつける顔や笑った顔が閉じた瞼の裏に映し出される。シワだらけでくたびれた装い、子供の頃に世話になったジジイの間抜け面が、親代わり、ライバル……そして恩人。


(そうだよな。()()()()()()()()はねぇよな)


「受け取れや、それだけあったら足りんだろ」


 それを惜しげもなく、巾着袋ごと女性に押し付けて去っていく。

 ゼニスから突然渡された大金に女性は目を白黒させた後、なんなのよ一体…と呟いた。


 ◆


 次にゼニスが行った先はチレーズが経営をしている宿屋だ。そこである人物に声を掛けるために寄ったのだ。

 ゼニスが宿へ入れば、そこにはバニースーツに身を包んだ全身ムキムキのチレーズが出迎える。

 その姿に吐き気を催しながらもゼニスは何とか耐えて口を開いた。


「よぉ、儲かってるかよ」


「貴方…私と甥を助けてくれた」


「トーマスが此処にいるんだろ?奴に話がある」


「トー坊なら今は裏で剣を振っているけど…」


 邪魔するぜと言って、チレーズが顔を向けた方向へズンズンと歩いて行く。

 ゼニスがトーマスの所へ行くのを見て止めようとチレーズが慌ててゼニスの後を追った。


「ここだな…」


 チレーズの静止を聞かず、ゼニスが裏庭に繋がる扉を開けて進んでいく。

 視界が開けた先には大粒の汗をかいて剣を一生懸命振るうトーマスの姿があった。


「百一、百二、百三…っ!!」


 ありゃあ…ダメだな。俺も剣を少しだけなら使った事があるが、足腰がまだ弱え。素振りよりも先にそっちを鍛えるべきだな。


「まだまだ体幹がなっちゃいねぇ。剣に身体が持っていかれている証拠だ」


「お前は…」


 突如現れたゼニスに驚き、トーマスは剣の素振りを途中で止めるとゼニスに向き直る。

 互いに出会いは最悪、戦いの中で少しはマシになったもののトーマスの感情はまだゼニスを見ると顔を顰める。


「何だって此処にいるんだよ。客じゃないなら出て行ってくれ。俺は今、忙しいんだっ!」


「へへっ、まあ聞けよ。なぁトーマス、俺と一緒に来ねえか…?」


 ブォンっと剣の素振りを再開しようとするトーマスを止めたのはゼニスだ。彼は腕を組んでトーマスを見下ろしながら喋り出す。


 自己鍛錬だけじゃ限界が見えていたトーマスにとってそれはすごく魅力的だった。だが、少年にも守るべき場所という物がある。


 それは少年の両親が残してくれたこのお店。今はチレーズが仕切っているが、ゆくゆくは家業を継ぎたいと思っている。

 家業を継ぐならこの時間は勉学に当てるべきだ。


 でも、アルバルト達のパーティーにも加わりたい。だから彼らがこの国を去った後でも毎日鍛錬をかかさずに励んでいた。


 そんな矛盾する動機に胸が張り裂けそうだったその時、この男は現れた。

 喉の渇きにオアシスを求め、探し当てる事が出来た。そんな幸運がトーマスの前に巡って来たのだ。


 トーマスは考える。考えて考えて考え抜いた結果を口に出す。


「……お前が俺を強くしてくれるのか?」


「へっ、甘ったれた事言ってんじゃねぇよ。俺は俺、テメェはテメェで勝手に強くなるだけだ。強くなりたきゃ俺を見て盗んで学べ。……気が向いたら助言ぐらいはしてやるさ」


「ぷ、プハッ…なんだよそれ、急に気持ち悪いし、似合ってねぇぜ」


「……うるせぇ」


 はははと軽く笑うトーマスだが、恐らくこのままじゃ幾ら経っても成長出来るのは微々たるものだと頭の中で理解はしている。強くなれるならどんな事でもやってみたい。


 ゼニスの提案が魅力的だったが、トーマスの気掛かりは一つある。チラリとゼニスの後ろで此方の様子を覗き見ているチレーズと目が合った。


「叔父さん…」


 見つめ合う事、数秒。チレーズはトーマスの身を晒すとゼニスを抜き去ってトーマスの前に立つ。

 その表情はいつにも増して真剣で空気が張り詰めている様に感じる。


「トー坊…お前はこれからどうしたい?」


 チレーズのその一言はトーマスの心に重くのしかかる。ただでさえ両親の死後、チレーズは甥のトーマスの為に生き甲斐の仕事を止め、この宿屋でひたすら働いているのだ。

 トーマスだって働き始めてから労働の厳しさを知っている。

 朝早く起きて、食事の支度に掃除、洗濯、買い出し等色々とやる事が山積み。その厳しさを知っていた。


 それを全部放り出してゼニスについて行く。


 それは叔父であるチレーズに今よりももっと労働をしろと言っているようなものである。

 内心では強くなりたいと願う少年の本心とこれ以上は迷惑が掛けられないと思う良心がせめぎ合ってトーマスを押し潰そうとしていた。


「……俺は」


「おいトーマス。顔を上げろ、お前の親父の目をよく見てみろよ」


 ゼニスの言葉にトーマスは顔を上げて叔父を見る。第二の父と言っても過言ではないチレーズの目を見つめる。


 その瞬間、トーマスは考えるよりも先に口から本心が飛び出る。その瞳はトーマスの父親と同じ色をしたまっすぐで力強い。


 いつも優しかった父の思い出が蘇る。

 トーマスは濁流の様に溢れ出る沢山の言葉を紡ぎ、涙を流して嗚咽を吐きながらも本当の自分を曝け出した。


「…うぅ…えっぐ……お、れぇ。もっとづよぐなりだいっ!ごめん…ごめんなさい。お店が大変だって、わがってるのに…それでも、それでも!諦めきれないっ!!!」


「トー坊っ!!」


 チレーズが子供らしく声を上げて泣き叫ぶトーマスの頭を優しく包み込む様に撫で、まだ小さな身体を抱き締める。


「……お前の気持ちはよく分かった!大丈夫、大丈夫だ。兄貴とお義姉さんの、トー坊の家は俺が守る。だからしっかりと大きくなって強くなって帰って来い!大丈夫…何たってお前は兄貴の子なんだ。絶対に強くなる。だから安心して行って来なさい」


 わんわんとひとしきり泣いた後、目元を真っ赤にさせた2人は気配を殺し、壁に寄り掛かって待っていたゼニスに向き直ると深々と頭を下げた。


「トー坊をこれからよろしく頼みます」


「……俺からも改めてお願いします。強くしてくれ。その為なら厳しくても何でも構わない!」


 親と息子だと思っていたが、甥と叔父の関係か…だが、親子と言っても良いほどそこには絆があった。それはまるで俺が欲しく堪らなくても手に入れられなかった家族愛が見えた気がした。


「………そうか。それで本当に良いんだな」


 ゼニスが腕組みを止め、チレーズに近づきその目の前に止まる。

 するとゼニスはチレーズに手を差し出すといつもの乱暴な言葉ではなく、なんとか丁寧な言葉で語りかける。


「俺はこの通りチンピラでならず者だ。俺は俺の都合でトーマスを連れて行く。危険な旅だ。安全は保証出来ねえし、守り切れる自信もない。ーーーでも必ずアンタの元へ生きて返すと魂に誓う。俺にトーマスの命を預からせてくれ」


「………ありがとう。甥を…息子を頼みます」


 ゼニスが差し出した手をチレーズは両手で握り締め、デコがくっつくほどまた頭を下げた。 


 それを見たゼニスはトーマスに顔を向け、行くぞと声を掛ける。手に持った剣を抱き抱え、慌てて荷物を纏めにいったトーマスに大人2人は顔を見合わせて笑った。


 雲ひとつない青空。晴れ渡る快晴の日差しがゼニスを照らす。それはまるで新しい道へ第一歩を踏み出した彼の心を表した様なものだった。


 ここまでご愛読頂きありがとうございます。

 これにてヒガリヤ編は終了となります。


 最初はゼニスをただのチンピラ役にしようとしましたが、師弟関係も良いよね…となり、メイン級に昇格しました。また後で再登場させようとは思ってますね笑


 次は土蜘蛛の話を挟んでからグリーンフィールド編へと行こうと思います。次回は13時に投下する予定です〜。


面白かった!続きはようという方がいれば高評価して頂ければ嬉しいです!

感想もお待ちしておりますのでよろしくお願いします!

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