第123話 ヒガリヤ出国と怪しい影
あれから1週間が経った。
マリアとヴィーラが俺達の旅に同行すると聞いたユージーン達は目玉が飛び出そうな程驚いていて笑った。口をポカーンと開けて見ていて面白かったのだ。
この1週間にやった事と言えば、食糧等の買い出しに鍛錬、マリア達にユージーンらを紹介、冒険者ギルドで依頼を受けたり、空いた時間にトーマスと一緒に鍛錬を行ったりしていた。
準備は万端。ヒガリヤの王であるマーラット・アルバス・ヒガリヤから贈られたピカピカの鎧を身に纏い、大剣を背負ってヒガリヤの東門で到着が遅れているマリア達を待つ。
俺とユージーンは適当に駄弁り、レティシアもミリアと楽しそうに話し込んでいる。
まだ日が登りきっていない時間帯の事もあり、人通りが少ない。
最後にヒガリヤを目に焼き付けようと見渡せば、遠くから馬車が此方へ向かってくるではないか。幌と呼ばれる防水の布で覆われた大きな馬車がこちらに走ってくる。
「みなさーん、お待たせしました〜!」
馬車の荷台からは聖女であるマリアが顔をひょこっと前に出して手を振っている。
そのマリアの前に座る御者台には護衛であるヴィーラが馬の手綱を握っており、上手く舵を取っていた。
「すまない。到着が遅くなりました」
手綱を引くヴィーラが馬をその場に停止させ、俺達の目の前に到着するとマリアが降りてきた。相変わらず、天真爛漫で元気な奴だ。
聖女モードの時は冷徹な感じもするが、果たしてこいつの本当の顔はどちらなんだろうかと疑問に思う。
「やれやれ、やっと来たか…これでようやく出発出来そうだな」
「えへへ、マーラット王から渡して欲しい物があると止められまして…」
「渡したい物…?」
「これをアルバルト様に、だそうです」
そう言ってマリアから渡されたのはマーラットの直筆だろう手紙と封書だった。
封書を開ける前にまずは手紙の方を読む。手紙の内容はこんな感じだ。
<こんな手紙で悪いな。本当なら見送っていきたいんだが、生憎こっちが忙し過ぎて時間が惜しい。
聖女からグリーンフィールドへ向かうと聞いたぜ。
なら気をつけてるといい。あちらにも魔族の姿が複数体確認されているって話だ。
グリーンフィールドに着いたらその封書をその国の王ミドルウッド・グリーンフィールドに渡せ。きっとお前達の役に立つだろう。
またこっちにも顔を出せよ。その時はヒガリヤの最大のもてなしをしてやるぜ。楽しみにしとけよ!
最後にヒガリヤを救ってくれた我が友らに最大限の感謝と旅の無事を願う>
概ね、手紙の内容はこんな感じだった。
「……成る程。グリーンフィールドで魔族の陰あり、ですか…」
「ああ、そうみたいだ。真実はどうあれ、少し急いだ方が良さそうだな」
読んだ手紙をマリアに渡し、頭の中で考えを巡らせる。
王都エウロアエ、ヒガリヤ、そしてグリーンフィールド。
俺の行く先々で魔族の姿が確認されている。
これを偶然と言ってもいいものだろうか?
裏で糸を引く誰かがいると言われてもおかしく無い程に偶然が重なり過ぎている。
ヒガリヤで現れた魔族、スライムのハビョウと異常な強さを見せ、こちらを圧倒していた土蜘蛛。
彼らは魔王の命令によって聖女を、マリアを目的として動いていた。彼女と同行すれば、もしかしたらまた親父に会えるかもしれない。
(今回の騒動も裏で糸を引くのが親父だったとしたら必ず俺がぶっ飛ばしてやる)
「……大丈夫ですか?」
グツグツと煮えたぎる憎悪に顔をしかませていると隣に心配そうに此方を見上げるレティシアがいた。彼女の細い指先が俺の強く握り込んだ拳を包み込む。
獣人族の人肌は人族よりも温かい。彼女の体温が指先から俺の手に染み込んでくる。その温かさに俺は冷静さを取り戻した。
「……悪い。心配かけたな」
「いいんです。皆さんはもう馬車に乗り込んだ様ですので私達も早く行きましょう」
レティシアには迷惑をかけてっぱなしだ。彼女いる限り俺はこうして冷静になっていられる。彼女の好意に甘えてしまう自分が情けない。目の前で揺れる尻尾を視界に収めながら彼女に手を引かれ、そのまま馬車へ乗り込んだ。
「熱いねー、2人とも」
「うるせっ」
ニヤニヤと此方を見るユージーンの頭を軽く小突いてやる。人を弄ろうとするからだ。痛そうに頭をさするユージーンを横目に空いている場所へどかっと座り込む。
これで全員が揃った。馬車を移動させようとしたヴィーラが手綱を握り込んで、馬を動かす。ゆっくりと馬の歩幅に合わせて進んでいく馬車。何気なく後ろの光景を見納めするかと眺めていた時だ。
レティシアが服の袖を引っ張って来たと思ったら徐にある一点を指差す。
俺の人差し指程のサイズに見える距離にいたのはトーマスだった。大声で何やら此方を叫んでいる。俺はすぐに魔力で聴覚を研ぎ澄ませてその声を拾った。
「俺、大人になったら絶対に兄ちゃん達のパーティーに入るからっ!絶対に強くなるからーっ!!」
トーマスが叫んでいる。一生懸命に腹から声を捻り出して俺達に想いを伝えてくる。小さな身体から必死に紡がられる想いが耳に届き、俺の感情を揺さぶって来る。やめてくれ、感動で思わず泣きそうになっちゃうだろうがぁっ!
「だから、だからっ!!俺達を助けてくれてありがとうーーっ!!」
「………っ」
「アルバルトさん…」
レティシアが背中を優しく揺すってくれる。気配りの上手な彼女にありがとうと一言だけ礼をいい、今にも流れそうな涙を引っ込めて荷台から身を乗り出す。
息が絶え絶えになりながらも、全力で叫び、想いを伝えてくるトーマスに俺も全力で応えよう。最後が泣いてちゃ、しまらない。笑顔を作ってお別れしよう。
息を大きく吸ってあの距離から、いやヒガリヤ全土に響く様な声量で思いっきり叫んだ。
「その言葉、忘れねぇからなー!強くなって俺達を超えてみろっ!スッゲエ楽しみにしてるぜー!!」
実際に声がトーマスまで届いたかは分からない。だが、俺達の想いは声に出さなくても伝わったと信じたい。ガラガラと揺れ動く馬車に背中を預ける。
突然、大声をあげたアルバルトにユージーンがどうした?と突っ込みを入れるが彼は穏やかな表情でこう返す。
「なに、ただ未来のエースに別れを言っただけさ」
うん?と頭を傾げるユージーン達を見て俺とレティシアは顔を見合わせて微笑んだ。
こうしてアルバルト達一行はヒガリヤを後に、次の目的地であるエルフ族が国を治めるグリーンフィールドへ馬車を進める事になる。
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『グリーンフィールド内 ?????』
ドサッと何かが倒れる様な音がする。
「あら。まだ血と魔力が足りないわね」
「そろそろ新しい人員を増やさなきゃ、だね!ーーリリィ、頼める?」
「きゃはっ♡ 任せてお姉様ぁ。私のお兄様になってくれる人、たっく〜さん連れてくるわね♡」
グリーンフィールドで魔族の陰謀が着々と動き出す。
<買い出しの時の一幕>
アルバルトとレティシアは買い物中にそれぞれの買い物をしようと待ち合わせ場所を決めてから別れた。
その時のレティシアの様子。
「あの……」
「あらやだ…可愛いお客さんね…!ごめんなさい、お店は夜からなのよ」
「では、此処にあるお酒を1つ売って頂けませんか?」
「良いけど…これ、鬼殺しってお酒で金貨1枚掛かるわよ…?」
「金貨…………すみません、何でもありませんでした」
以上がベベールとレティシアの会話である。
次回の話でヒガリヤ編は最後となります。




