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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第一章 旅立ち
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第12話 酔いと覚悟の話

 俺が意識を取り戻してみた光景に目を疑う。


 俺はリサを抱き締めて寝ていた様だ。何故か俺の顔が濡れていてこんな体勢になっているのか分からない。


 とりあえず現状を把握するべくリサを離して椅子に座らせ、辺りをそっと見渡す。


 状況を整理しよう。料理は殆ど残っておらず、お酒も空っぽになっており、腕の中には顔を真っ赤にして気絶しているリサがいる。


 ランヌさんは鼻血を出しながらも幸せそうにテーブルに突っ伏し、キドウさんは顔を真っ青にしながら凄い顔で椅子にもたれ掛かっていた。


(なんだ、この地獄絵図は……)


「ああ、アルバルト。やっと気がついたか」


「キドウさん、これは一体…?」


「お前が酒を飲んで酔い始めてからこうなったのさ。まさか酔うと男もいけるなんてこんな…」


 そう言い残したまま、キドウさんは黙り込んでしまった。


 成る程…、俺がこの現状を作り出した原因だったのか。一体、俺は何をしたんだ…。


「キドウさん…俺は一体、何を…」


 俺が質問を切り出すと話してくれた。


「まず、ワシが君のグラスに酒を注ぎ足そうとしたんだが…」


 〜キドウ回想中〜


 今日はアルバルトの誕生日のお祝いだ。妻や娘が作った美味そうな料理に苦労して取ってきた酒。お祝いを開始してからもう料理もほとんど残っておらず、酒ももう僅かしかない。


 ふと彼のグラスを見てみると殆ど入っていねえじゃないか…!どれ、ワシが注いでやろう。


「おいおい、アルバルト。酒がもうないじゃなねぇか!どれ、ワシが継ぎ足してやろう」


 ワシは彼のグラスに鬼殺しを注ぐ為、テーブルから身を乗り出した。


 ワシが酒を継ぎ足そうとした時、彼の頭が下に大きく揺れる。


「アルバルト、大丈夫か?初めての酒で酔っちまったかのう?」


 彼が心配になり、酒を足すのを辞めようと身体を椅子へ倒そうとした時、それは起こった。


「キドウさん、俺は大丈夫です」


 ガシっとワシの手首を掴む。そしてぶつぶつと何やらうわ言を言っていた。


 顔を上げれば、その目は熱を帯びている様で何だか何処となく色気も…いやいや、ワシは何を考えてるんじゃ。


「あ、アルバルト!な、なんか変じゃぞ?」


「大丈夫ですよ、キドウさん。何も変な事なんてありません!」


 そんないい笑顔で自分は変じゃないと言われてもな。だが、どう見ても様子がおかしい。こちらに向けてくる目はなんだか妙に潤んでいてなんか怖い。


「俺、キドウさんの事、尊敬してるんですよ。この村をまとめ上げる長で、リサのいい父親で、めちゃくちゃ強い所や優しい所も好きなんです。」


 アルバルトはワシの手首を掴んだまま、ワシの事をどう思っているのかを話し始めた。


「2メートルを超えるような身長に程よく乗った筋肉。髪も男なのにサラサラで赤い目なんかはまるで宝石だ。」


 ずいっとアルバルトが腰を上げ、顔をキドウに近づける。


「だってほら、こんなに綺麗なんだから」


「ほぇ?」


 掴んでいる手首を離し、その手でワシの顎を優しく撫でる。


 キドウは突然の出来事で何がどうなっているのか混乱している。背筋が凍り、顔を真っ青にさせて僅かに身体を震わせていた。


「ぶはっ!!」


 キドウの隣に座っていたランヌがその光景を目の当たりにして勢いよく鼻血を出し、テーブルに顔を沈める。それと同時にキドウが腰を椅子に落としてぐったり倒れ込む。


 その奇行を見ていたのはもう1人いる。それはリサーナだ。アルバルトの奇行を目撃しつつも初めての衝撃的な光景にどうしていいか分からなかった。


 しかし、ランヌが鼻血を吹いた事で意識を取り戻して隣に座るアルバルトに詰め寄る。


「ちょ、ちょっと何してるんだ、アル!なんか変だぞ!」


「おいおい、さっきから大丈夫だと言っているだろう?全くリサは話を聞かないんだから…」


 ぐるんとキドウからリサーナへ標的を変えるように身体を向ける。話を聞かないという言葉を耳にしたリサーナは顔を真っ赤にして怒り出す。


「わ、私が話を聞かないって!いい度胸だな!せっかくの誕生日だから祝ってあげようと思ったのに!」


 目にうっすらと涙を浮かべて指を差しながら文句を勢いよく言っている。そんな様子を見たアルバルトはリサーナの手を引いて抱き寄せる。そして耳元でこっそりと囁く。


「ごめんよ、可愛かったからつい。許してくれ」


「そ、そそんなこと言ったって、誤魔化されないぞ!」


 一旦、リサーナからアルバルトは距離を取ると片手を壁にドンッと勢いよく着いて無言のまま視線を合わせる。


「壁どーん」


「へっ?かべぇ…?アル、近いよぉ……きゅぅ」


 顔を近づける。真剣な眼差しにリサーナはさっきよりも顔を真っ赤にさせる。頭から煙が出し、目がぐるぐるになりながらアルバルトへと倒れ込んだ。倒れるリサーナを素早く抱き止める。


「おっとと、危ない危ない。みんな本当にどうした……ぶへ?!」


 その直後、キドウから放たれた果汁水がアルバルトの顔へ降りかかる。


 顔に果汁水をかけられ、甘く冷たい感触にアルバルトの酔いが一気に晴れて冒頭へと戻る。


 〜回想終了〜


「ここまでがワシの見た出来事だ。リサに何を言っているかまでは聞こえなかったがワシと大体同じ事を囁いたんだろうと思っておる」


 マジか、全然覚えてねぇ。後、俺はホモじゃないホモじゃない。


「…すみません、全く覚えてなくて」


「あぁ、大丈夫だ。まさかあんなにすぐ酔うとは思わなかった」


「お互い忘れましょう。それにランヌさんとリサを起こさないと」


「そうだな、お互い…忘れよう。後、2人を起こす前にちょっと付き合え」


 キドウさんの頬が少し赤くなっているのは気のせいだと思いたい。原因を作ったのは俺だが、俺はノーマル。女の子の方が好きなんだ…。


 こっちへと案内されて着いていく。月が見える渡り廊下まで歩いて行き足を止める。キドウさんは月を見上げて話を切り出した。


「アルバルト、お前は今日で成人だ。これからどうするんだ?」


「そうですね、今日で俺は15歳です。」


 俺も月を見上げる。向こうだと月は太陽の光の反射で光っている様に見えているがこの世界の月はどうなんだろうとふと月を見て思った。


「俺は明日、旅に出るつもりです。親父を探し、何年掛かっても見つけ出すつもりです」


「そうか、遂に行くか」


 キドウさんは遠い月を睨む様に見上げている。何かを思い出す様に何かを忘れない様に。


「お前の選択は否定はしない。鬼人族は成人と認められればこの村から外の世界へ出てもいい、そういう掟だからな……だが、出ていってどうする。外で鬼人族と知られれば厄介な事になるのは目に見えているぞ。我々の血や骨は奴らに取っては極上の素材だからな」


 確かに昔から話を聞く限りじゃ、鬼人族とバレれば相当厄介だろう。恐れられてはいるが俺らの血は他の種族からしたら凄い薬にもなると聞いている。


「俺は鬼と人の混ざり者です。見た目は人に近くて、力は鬼には遠く及ばない。だけど、家族が消えたんです。俺は見つけたい。もう一度、お袋に会いたい!そして親父はどうしてもこの俺の手でぶん殴ってでもあの日の事を話させてやる!」


 震える拳を強く握り締め、あの時の光景を忘れない。力が足りず、何も出来なかった。母の身体が血溜まりに沈む姿はもはや悪夢だった。何度、忘れようとしても何度も夢に出てきてしまう。


「分かっている。お前が我らの鬼人族の中で弱い事も家族の愛に飢えている事も。当然だ、何年一緒にいたと思っている。それぐらいならワシにも分かっちゃいるんだ」


 キドウさんは月を見上げるのを止め、視線を此方に向ける。俺も彼を見つめ視線を合わせる。


「今のお前がこの広い世界を旅すれば、いずれ分かる。弱者は強者に潰される。戦い、勝ち進むしか事で生きていけない。お前にその覚悟はあるのか…?」


「諦めない、それが俺の魔法の言葉だ。お袋が教えてくれた。心が死んでなければいつだって戦える、高い壁さえも打ち破る事が出来ると言ってくれた。だから、俺は勝つよ。絶対に諦めねえ!」


 キドウは一呼吸置き、ガシガシと頭を掻くとため息を吐いて話を続ける。


「それにな…娘はお前の事を好いている。それはアルバルト、お前も感じている筈だ。後1年もすればあの子も成人になる。娘を嫁に迎えて幸せな家庭を作るのも手だとワシは考えるが?」


「…確かに俺もリサの好意は感じています。正直言ってアイツと一緒にいるのは楽しいし、かけがえの無い時間だ。長年、共に成長して向けられる幼馴染の気持ちはとても嬉しい」


「それならいいじゃねえか、お互い好き同士ならばそれで…なんの不満がある?お前が傷ついたり、苦しんだりする姿なぞ、絶対にワシらは絶対に望まないし、お前の母…ワシの妹も望んじゃいまい」


(分かってはいる。その選択が険しい道ってことも。だけど、だからこそ、俺は…)


 固く握り込んだその手は自分の意志を代弁するかの様だ。


「俺の意思は変わらない。リサは大切だ。俺の妹みたいで親友で口は悪い事もあるけど面倒見はいい奴だ。俺はそんなあの子が大切だ!」


 あんないい子で可愛い奴は俺だって好きだし、大切だ。だが、今はそれを受け入れられない。


「…だけどその前に俺は親父と決着をつけに行かなくちゃいけない。そうじゃないと自分を自分が許せそうにない」


 あの日から俺の時間は止まっている。弱くて強くなりたくて母に教えをせがんでいたあの日。父と一緒に薪を割り、笑顔で過ごしたあの日が頭からいつまで経っても離れてくれない。


 だからこそ、決着をつけよう。俺が前へ進む為にも俺を応援してくれるこの人達の為にもやらなくてはいけない事だ。それに彼女は連れていけない。俺の我儘で傷付く所なんて見たくはない。


「はぁ…やっぱり意思は変わらないのだな。それがお前の選択ならもう何も言わん」


「キドウさん…すみません」


「男が決めた事だ。いちいち、口を出すのは野暮ってもんよ。……これから大変な旅になるだろう。覚悟は決まってるな」


「はい!…俺は絶対に諦めません!」


「そうか、なら頑張れよ」


 キドウさんはすれ違いながらそういうとリサ達がいる部屋へ歩いていった。


 1人で廊下に取り残される。俯きながら月明かりに照らされる自分の影をジッと見つめ、考える。


 これからの事、父との決着、大切な人との別れなど色々な感情が混ざり合いながらも整理していく。


 考えが纏まると顔を上げ、キドウさんが歩いて行った後を辿るように足を進めた。



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