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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
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第115話 アルバルトの鎧とレティシアの短剣

 

 ある日の夕方、王城からの使いが俺達のいる宿屋に訪問してきた。


 店の手伝いをしていたトーマスや店主にも声が掛かったようだが、大事な店があるからと断りをいれていた。トーマスは心境の変化があったみたいで店の手伝いをするといって引かなかったのは正直に驚いた。 


 てっきり俺は喜んでついてくるものだとばかり思っていたので意外だ。トーマスも精神的に成長したのだろう。


 俺はついついその小さな頭を撫でくりまわした。

 撫でくりまわ過ぎてトーマスが目を回す事態に…レティシア腕を引かれて中断された俺はそのままずるずると王城まで連行された。


「うわぁ、エウロアエの城とは内装も全然違うというか…なんか見た目がもう日本屋敷みたいなんだが…」


 門を潜った先は広大な土地に敷き詰められた砂利、大きな池があって水面には美しい白い花が浮かんでいる。

 時間の流れによって生み出された物の劣化具合もまた味が出て良い感じだ。


「何というか風情がありますね…池や木材を使用した建物、見ている物全てに趣を感じます」


「お気に召してもらえて何よりで御座います。これらは王の一族が代々受け継がれている由緒ある建造なんだとか…我々も定期的にお手入れをさせて貰っていますが、いつ見ても美しいですよね」


「……いずれはこういう家屋にも住んでみたいものです。ですよね、アルバルトさん?」


「おおぅ、そう…だな…ハハハ」


 レティシアが案内をしてくれている人から説明を受けて顎に指を置いた後、何やら考えを巡らせてうんうんと首を縦に振っている。


 考える事数秒、今度は俺の目を見つめて喋るからびっくりする。


 パッチリとしたお目目が何だか濁っていた気がしたので、顔を逸らして彼女を極力見ないで返事を返した。

 入り口の扉を通り、階段を上がっていくと広い部屋に通される。そこには美味そうな料理と酒、それからあの魔族襲来で活躍した人達がいた。


 俺と戦ったディフェンドが座って茶を飲み、トキとゼニスが酒を飲みながら飯を取り合っていた。

 ユージーンやミリアも料理に舌鼓を打っていたのでレティシアとそこへ向かい、彼らと合流して軽く挨拶をする。


 まだこの会場にはナセルやカーマン、ローゼがいない。集まるのに時間が掛かってんのかな?と思っているとマーラットが黒い着物を着て登場した。


「おうお前らっ!今宵は我が城へようこそ。歓迎するぜ。是非とも美味い酒にこの俺の自慢の風呂に浸かってけよな!」


 ビシィッと指差すマーラットに所々からパチパチと拍手が聞こえるが、マーラット本人はまだ不服そうな様子だ。


「……ノリの悪い奴らだぜ。まあ良いや、ここに居ない奴は夜だと日が合わなくてな。すでに昼間に招待してもてなした。だからお前らも遠慮なんかせずに騒ごうぜっ!」


 マーラットはそう言うとグラスに入った酒を掲げて一気に飲み干し、手前にあった骨付き肉を貪り食う。


 それを合図に俺とレティシアも目の前の料理に取り掛かった。


「モグモグ…ん、これもいけますね」


 指に付いたソースを口でペロリと舐めたレティシアは何処か妖美だった。しかし、口元にもソースがついている事で全部台無しだ。


「……口元」


「……………ん」


 俺は自分の指を頬に当てて彼女に教える。

 それを見たレティシアは顔を少し赤らめて自分のハンカチで拭き取った。


「よう、アルバルトとレティシア嬢。楽しんでるかっ!」


「ああ、お陰様で楽しませて貰ってる。マーラット、マリアの姿が見えないけど何処にいるんだ?」


「あー、聖女様はアレだ。昼間に食い過ぎて寝てる。全くあの饅頭女、胃の中に化け物でも飼ってんだろ。一回の食事で俺の1日分食うんだぞ」


「ハハハ……」


(やべぇ、どうしよう。旅に連れて行くのが不安になって来たんだが…)


「まあ、それは置いといて。お前ら、ちょっと付き合えよ」


 マーラットが俺とレティシアを連れ出して部屋を出る。

 マーラットの後をついて行き、長い廊下を歩いていくと道場の様な大きな建物の中へ入っていく。


 中は照明で照らされていて広いのに明るい。

 壁には剣や斧などの武具が立てかけられており、試し切りが出来る様に巻藁も置かれている。


 こんな所で何をと思っているとマーラットが俺達に振り返ってこう言った。


「お前らのご要望通りの品が出来たからよ。それを渡しに連れて来たのよ。お陰で俺はまた徹夜だ」


 肩をすくめて息を吐いたマーラットは横に置いてある1番上に積み上げられた木の箱を手に取ると俺に渡してくる。


「まずはアルバルトだ。これは軽さと頑丈さを追求した逸品物だぜ?」


 マーラットが差し出して来た木の箱を開けるとそこには上半身を守る様に設計された胸当てと腹当てが連結しているアーマーだ。


 手に取ると服の様に軽く、ヒラヒラとしている。服を軽く引っ張ると伸縮するので着用したらピッタリと身体にくっ付くだろう。


 その場で今来ているTシャツを脱いで着てみるとやはり思った通り、肌に張り付いて着心地もいい。


「凄いなこれ。動いても全然動きを阻害しない」


「アルバルトさん…かっこいいですね。これはミスリル、ですか…?」


 ペタペタと俺のアーマーを触るレティシアが何かに気付いた様だ。

 その疑問にマーラットが答える。


「そうだ。俺の国で取れる最高の鉱石を使ってある。ミスリルは軽くて丈夫。それから魔力伝導が凄く良いからな。要望を聞いた時にはこいつを使おうと思っていたのよ」


「ミスリル…このぐらいの量を使うとなると私の家が何軒も建っちゃいますね…」


「嘘だろ…着るのが怖くなって来た…」


 あまりに高い物に驚いて慌てて脱ごうとするが、マーラットに手で制される。


「まあ待てよ。アルバルト、火の魔法を出せるか?」


「火魔法か…ファイア」


 指先に火を集める。すると少しだけ魔力を動かしただけなのにファイアボールぐらいの大きさの火が手のひらに集まった。

 いつもの感覚で魔力を流した筈だが、此処までデカくなるのは初めてだ。拳を握って火の魔法を発散させる。


 アルバルトが戸惑っている中、マーラットが先程の現象について解説を始めた。


「俺らが使う魔法ってのは魔力を集中させ、イメージを持つ事でその力を発揮する。此処まではいいな?」


「ああ、それは知っている」


「だが、人は魔力を扱う事が不得意な生き物だ。発動自体はするが余計な力を加えがちで効率が悪い。だから魔力伝導が良いミスリルで正すとこうして火力が出ちまうんだ」


「成る程な、少ない魔力でも発動が出来るから戦いの中ではその分、有利に働く。強力な魔法を使おうとするなら尚更って訳だな」


「話が早くて助かる。一応、そのアーマーにはキズを自動で修復する魔法が掛けられているが、汚れは落ちねぇから自分で手入れしてくれ」


 俺の要望通り、軽くて頑丈な防具だ。腕を振り回しても動きに違和感が一切ない。この鎧だけで家が建つなんて金額にしたら恐ろしい。


 マーラットは俺への説明が終わった後、今度はレティシアに2振りの短剣を手渡していた。


「レティシア嬢にはコレだ」


「……2本も宜しいんですか?」


「だってお前、戦いの中で両手に剣を使っていただろう。それを知ってて一本だけ渡すなんてケチくせえし、あり得ねえからな!」


 わっはっはと笑うマーラットから手渡された2本の短剣を手に取ったレティシアがマジマジと剣を見る。


「いい剣ですね…軽くて何より手に馴染みます」


「おうよ!それ結構作るのに苦労させられたんだぜ?それにもミスリルやら他の鉱石も使っているが、それだけじゃねえ…」


 マーラットはそう言い残すと試し切りに使う巻藁をセットし始めた。

 それを設置した後、レティシアにマーラットが声を掛ける。


「レティシア嬢、そいつは俺の数ある作品の中でも自信作なんだ。魔力をその剣の持ち手の中心にある宝石に込めてみろ」


 レティシアがマーラットに言われた通りに魔力を込める。

 するとブォンッ!とショートソードの長さまで剣が伸びた。


「これは…私の魔力が剣になっている…?」


「正解だ。そいつは魔力剣と言って剣に魔力を込める事である程度の長さに調節出来る代物だ。切れ味も凄まじいから試しにコイツを切ってみな」


 マーラットにそう言われ、レティシアは彼女の魔力が固められて作られた剣を手に巻藁の近くまで行く。


 そして彼女の翡翠の瞳と同じ色に輝く剣が巻藁へ一閃。

 ハサミで紙を切るかの様にスーッと巻藁は真っ二つになった。


 目を丸くして驚くレティシアは自分の手元にある短剣を見つめて口を開く。


「……凄い切れ味。この剣があれば私でも強くなれます」


「元に戻す時は剣から手を離せば戻る。大事に使ってくれよ」


「素敵な物をありがとうございます。ここまでの品が出来るなんて想像も付きませんでした」


「喜んでくれたならいいぜ。俺も仕事した甲斐があるってもんだ!」


 レティシアが貰った短剣を大事そうに抱えている。俺もマーラットから貰ったこのアーマーを軽く撫でた。


 そういえば、此処に来てから時間がだいぶ経った様な気がする。

 俺が口を開く前にマーラットが自信ありげに言葉を発した。


「贈呈も終わった事だしな……お前ら、俺自慢の風呂に入ってけよ」


 マーラットが言ったセリフに俺とレティシアは顔を見合わせた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。


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