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鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
113/148

第113話 後始末

 ーー俺が次に目を覚ましたのは戦いの後から1日経過した昼の頃だった。


 あの土蜘蛛との死闘を制した俺達は2人ともその場でぶっ倒れたが、後から駆け付けてきた冒険者達によって救出されて聖女マリア・デーリアの元へ運ばれた。


 最初にトキ、それからユージーンにゼニス。そして俺やレティシアという順に治療を施されていく。


 穴だらけになっていたトキに全身ボコボコに膨れ上がったゼニスがまだ生きていたのは正直不思議であった。

 ユージーンも内臓がやられてかなりの大怪我を負っていた様でミリアが泣き喚きながら側を一度足りとも離れなかった。


 大丈夫、心配掛けたねって自分が大怪我しているにも関わらず、ミリアの髪の毛を優しく掻き分けて言うもんだから医療スタッフさんの黄色い声援が飛びまくってうるさかった。


 マジで身も心もイケメンになったもんだから男として負けた感じがして凹んだ。


 まぁ、その黄色い声援の中に野太い声も混じってたから奴にロックオンされた事だろう。 


 カー◯ンとかカーマ◯とかベ◯ールとかに。


 だって奴ら、物凄い欲を含んだ目でユージーンを見つめて舌舐めずりしていたし…俺は知らね…何も見なかった。うん、そうしよう。


(魔力が少しでも残っていたら自分でさっさと治したものを…)


 俺も全身にやけど負っていて肌が空気に触れるとヒリヒリとして痛むし、魔力切れで倦怠感もあるから最悪だ。


 レティシアは被弾した箇所はそれ程多くなかった様で打撲と擦り傷を手当てして貰っていた。

 よく頑張ったなと頭を撫でれば嬉しそうに耳がピョコピョコと動いている。まだ表情は固いけど尻尾と耳の動きでだいぶ分かりやすくなってきた。


 ……この分なら俺に向けられている依存も治っていくかもしれない。いい兆候だ。


 簡易テントの部屋で横になっていると入り口からコツコツと足音が聞こえる。その足音は俺のすぐ側まで来たので目線をそっちに向けると両手手に大量のヒガリヤ饅頭を抱えた聖女様がいた。


「それは…くれるのか?」


「……?いえ、これは私が食べる分ですよ?貴方達には消化の良いルーファを用意していますから焦らずに」


(ルーファか…あの孤児院でシスターをしているラーナさんが作ってくれた以来だから楽しみだ。それにしてもな…)


「いや、饅頭の量おかしくね?その身体の何処に入るんだよ」


「あっはっは、何を言うかと思ったら〜前にも言った筈ですよ。お饅頭は別腹ですっ!」


「手にあった饅頭が消えたっ…!?」


 瞬きの間にマリアが持っていた饅頭が消えた。口を見ればモゴモゴ動かしているし、手にはもう次の饅頭が握られている。


 驚く俺を他所にマリアは両手に抱える程あった饅頭をものの数分で食い切るとは恐れ入る。


(…早ぇ、人の技じゃねぇぞ。本当にコイツは人なのか…)


 心に思った事でも言わぬが花。

 昼食を食べ終えたマリアはご機嫌で俺の火傷の具合を見て治療を施していく。


 その後のマリアの活躍は凄かった。全ての怪我を回復魔法でちゃちゃっと済ませてしまった。流石は聖女と言われるだけはある。あのレベルの怪我でも完治させるのはとても凄いと思う。


 用意されたルーファを食べ、怪我も気力も全回復した俺達はテントから外へ出て土蜘蛛と戦った現場へ足を運んだ。

 合体魔法のあの一撃で跡形も無く吹き飛んだと思うが、俺は何となく胸騒ぎがしたのでレティシアを連れて戻ってきた。


「……アルバルトさん、何か目ぼしい物は見つかりましたか?」


「いや、やっぱりどう見ても焦げ跡しか残ってない。魔石ごと消滅したのか…?」


 俺の気のせいだったのか?と唸っていると遠くから馬鹿でかい声で俺達を呼ぶ声がしたので振り返る。

 そこには土蜘蛛相手に共闘したこの国の王、マーラット・アルバス・ヒガリヤがいた。


「おーい、アルバルト!それとレティシア嬢!お前らこんな所にいたのなっ!!」


「マーラットか…あの後、全然見かけなかったから心配したぞ」


「…あん時は先に落ちちまってすまんかったな。これでもこの国の王だからよ。いつまでも寝てる訳にはいかねぇし、建物とかの修復やこの魔族襲来に対して色々とやる事が多くてな。あちこちに指示を出しまくって徹夜なんだわ」


 目元を見てみると確かに薄らとクマが出来ている。なんとなく肩も落ちている様だ。


 寝ていないから顔色もあまり良くないし、身体をぶっ壊さなきゃいいが…。


「あの……」


「ん…?あぁ、すまん。今回の件でそこにいるアルバルトに危ない所を助けてもらってな?んで、仲良くして貰ってんだわ。レティシア嬢も俺の事はマーラットと呼んでくれっ!」


 いやー、あの時はほんと危なかったぜ!と笑っているが、笑い事ではない。 

 俺が間に合わなければ今頃は…仮にも一国の王なんだから自分をもっと大切にすべきだと思う。


 じと目でマーラットを見ているとそれに気付いた彼が親指を立てて自分に向ける。


「俺が王でお前らが民だ。日頃から俺は民によって支えられている。ならここ1番って時に王が出しゃばんなくてどうするよ?」


「ふふっ、素敵な考えですね…マーラットさん」


「ハハハッ、だろ?」


「それで…俺達に何か用があったんじゃないのか?」


「……そうだな、世間話はこれくらいにしとこう」


 レティシアの褒め言葉に機嫌を良くしたマーラットだが、俺達を探していたという事は何かある筈だ。

 まずはそれを聞こう。真剣な表情になったマーラットに対して俺もレティシアも背筋を伸ばす。


「ーーまずは礼を言う。お前達の活躍がなかったら被害はもっと甚大となっていただろう。心から感謝する。この国を俺の代わりに救ってくれてありがとう」


「……頭を上げてくれ、マーラット。最初に貴方が1人で土蜘蛛を相手してくれなきゃ、きっとあの場で俺達は全員殺されていたと思う。だからお礼を言うのは俺達の方だ」


 マーラットが導き出した采配。幾人もの相手を戦闘不能にまで追い込んだ化け物とただ1人だけ押さえ込んでいたのだ。


 土蜘蛛は明らかにあの道化師やティタノスネークと比べてみても頭一つ、いやそれ以上に抜きん出ていた。

 実際にAランクの魔物であるティタノスネークを傷一つ無く追い詰める程だ。


 それを一目見て1人で相手取りしようなんて誰も思わない。自殺行為に近い事をこの目の前にいる男は選択したのだ。


 下手に人員を土蜘蛛に割いていたらもう1人の魔族によって場がぐちゃぐちゃにされて土蜘蛛も手が付けられなくなっていたに違いない。


 だから、あの場でマーラットが答えが1番正しかった。俺達は誰1人欠ける事なく、こうして日常に戻れている。


 それはとても凄い事だと思う。


「……そう言って貰えると助かる。今度は二つ目、町の修復が終わったら王城で優勝賞品と賞金の贈呈となる。これには1週間程伸びる予定だ。幾ら職人が多い国とは言え、時計塔の外壁やここの施設がこうもぶっ壊されたんじゃな。総出でやってもこれくらい時間が掛かる」


「成る程、確かにまだあちこちに瓦礫等も残ってますね」


「まあ仕方ないよな…このところゆっくりする時間も無かったんだ。その間に美味い料理があるお店とか探して巡るのもいいな…」


「……!良いと思いますっ!私、実は気になっているお店があるのでそこに行ってみたいです」


 隣で尻尾が千切れんばかりにぐるんぐるん回る回る。余程気になっていたのだろう。


 大会とかで忙しかったから今まで言い出せずにいたと思うとなんだか健気で泣けてくる。


(…こういうところは可愛いよな、こいつ)


「なら明日にでも行ってみようぜ。鼻が効くレティシアがおすすめするんだ。絶対美味しいに決まってる」


「やりました…!」


 キラキラとするその目が眩しい。もう可愛さのあまり視界に入れたくない。入れたらきっとタイラさんみたいに過保護になってしまう様な気がする。


 俺はそっと視線をまだ話したそうにしているマーラットに戻す事にした。

 彼らの呑気な会話を邪魔するまいと話し終えるのを待っていたマーラットは一枚の紙をアルバルト達に手渡す。


「この紙は…?」


「優勝賞品のあれだ…こいつにアルバルト達が欲しい武器や防具を一つ書いてくれ。どんな素材でどんな形が良いのかを書き込んでくれればいい。それに加えてこっちで何かしら手を加えよう。書いたら王城にいる門番に渡してくれよな」


 紙の隅には何の紋様か分からないが、真ん中部分の白い所を残す様に彫られている。一目見て特別感のある見た目となっている紙だった。


「分かった。後でもっていく」


「おう、それ期限が3日までだから早めにしといてくれ。じゃあ、俺は酒でも引っ掛けて寝るとするわ」


 あばよ〜とマーラットは手をひらひらさせて帰っていった。それを見送った俺達は手元にある紙を見て頷く。


「今日は宿に戻って何が欲しいのか、一緒に考えようぜ」


「…ですね、アルバルトさんには何が良いでしょうか…?」


「俺の方じゃなくて自分の考えろよな…」


 まだ日は登っているが、久しぶりに宿でゆっくりするのも良いだろう。こういうダラダラした息抜きも必要である。


 俺とレティシアは戦いの場となった舞台から去って借りていた宿の部屋へ戻る事にした。

 途中、時計塔の方も見たがどうやら派手にぶっ壊されている様で何人もの職人があくせくと働いている。


……俺がぶつかって壊したんだよなぁ。


どうにか修繕費を請求されませんようにと願うばかりである。

最後まで読んでくださりありがとうございます。


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