第112話 ついに決着ッ!土蜘蛛vsブラックファング
気が付くと俺はうつ伏せに倒れていた。身体のあちこちからジクジクと痛みが走る。
「あいたたた……そうか戻ってきたのか…」
軋む身体に鞭を打って辺りを見渡す。瓦礫の山の上で俺はどうやら気絶していたみたいだ。
右手の甲を見るとあの時と同じ様に3本線が光り輝いている。身体が異常に熱くて仕方ない。
……てか、身体からなんか火とか勝手に出てるんだが……怖っ!
身体に魔力を通してそこら中の打撲や擦り傷等を治していく。
身体が全回復するまで時間が少し掛かりそうだ。余った時間を活用する為に時計塔の崩れたかった所から身を乗り出して土蜘蛛がいるであろう大会の会場に目を凝らす。
「……いたって、やべぇっ!!」
全回復とはいかないが大きな傷は修復した。後は細々したものだけだが、治している場合ではない。治療に回していた魔力を全て使って肉体強化の方へ当てる。
俺の周りに浮遊していた火も大きく燃え上がって身体に纏わりついて来るが、不思議と熱くはない。寧ろ、心地良い感覚だ。
「………フッ!!」
剣を構えて目的の場所へ飛んだ。火が激しく燃えてジェットエンジンを積んでいるかの如く速度で加速する。
……速い。
炎が燃えて生み出される推進力に身を任せて剣を振りかぶる。
そのまま炎を纏った俺がレティシアの首を掴んでいる魔族の腕を一閃。抵抗感はあれど落下の威力と鬼人族の腕力が合わさった一撃を喰らった土蜘蛛は腕を断ち切られた。
「グガァアアアアアアアアッ!!!オレ様の腕がァァァア!!!」
痛みに叫ぶ土蜘蛛を無視して、俺の腕の中で目を丸くする少女へ笑い掛ける。
するとレティシアは可愛らしく微笑みながら口を開いた。
「全くもう、貴方って人は……本当に遅すぎです」
この状況で憎まれ口を叩く余裕がまだあるなんて神経が図太すぎるだろ。将来は大物になりそうな彼女に反論出来ず、謝りながらもそっと地面へ降ろす。
ガブりは勘弁だが、この際どうでもいい。怪我をして動けない彼らが心配だった。
(さぁ、行くぞ土蜘蛛。俺達、黒い牙の力を見せてやる!!)
◆
ーーー何かがおかしい。
オレ様が戦っているのは何度も打ち倒して来た男と満身創痍の女が2人だけ。
雑魚が群れているだけ。その筈なのにどうしてだ。どうしてこのオレ様が押されているというのか!
「シャアッ!任せたレティシア…っ!!」
「ーー逃しません"旋風脚"」
「ちっ、邪魔だ、この女ァ!!!」
「させるかよ、ファイアボールッ!」
男の攻撃した後に合わせてカウンターを放つが、いつの間にか現れる女がオレ様の身体に蹴りを入れるせいでズラされて僅かに拳が届かない。
全力のオレ様とこうも戦えるなんて驚きだ。
だが、それだけだ。それじゃあ、オレ様には敵わねェ!!
………その筈なんだ。
(何だコイツは…打ち合うたびに少しずつ力が増して来ている…!まだこの男は成長するというのか…!)
「おもしレェ、おもしレェよ。やっぱり最高だァ。名はアルバルトだったか…?」
駄目だ。こんな楽しい日は初めてだ。自分が自分を抑えきれない。魔物の本能が戦え、潰せ、壊せと叫びを上げる。
「ーーさあ、死合をしようゼェェェエ!!!」
「こんのォ!いい加減倒れやがれっ!!」
撃ち合いの連打が続く。
牙を剥き出しにして飢えた獣同士がぶつかり合う。戦場には3体の獣が激しく動き回っていた。
「"灼熱剣"」
「ーーーそこですっ!」
「チィッ!何だこの、力はァッ!!」
身体の動きが鈍って来やがった。女の方は攻撃のタイミングがイマイチ読めない。ダメージが身体にどんどん蓄積する。特にアルバルトのあの光る腕で殴られた所や剣で斬られた所が燃える様に熱く、ずっと火で炙られる様な感覚だ。
実際、数分経つが最初に斬られた腕がまだ再生しない。今の身体は水だと言うのにだ。
(恐らくはあの光っている腕に関係するとは思うが、確証がねェ)
ならばと女の方を先にやろうとすれば今度は男が火の球を飛ばして目くらませをして来やがる。これじゃあ、捕まえる事すら難しい。
こういう事がよく起き始めている。
絶妙なタイミングで邪魔をされて攻撃が中断される。拳がなかなか当たらなくなった苛立ちをぶつける為に地面へ思いっきりぶつけてどうにか冷静になった。
冷えた頭で考えろ。
自然では熱くなった方が喰われるのだ。厳しい弱肉強食の世界を生き抜いてきた自分をコントロールする。だが分からない。最強と自負する自分がどうしてここまで消耗させられる。
「………ゼェ、ゼェ。おいお前ら、どうしてそこまで一気に強くなった?お前らは1人1人、ただの雑魚だった筈だ。ーーなのにどうしてだ。たかが2人程度にこのオレ様が押されている?」
「簡単な事だ。守りたい奴がいる。その為に俺は痛みや苦しみと戦って強くなってきた」
「…背中に追いつきたいのに追いつけない。私は自分の無力さを嘆いて何度も挫折しました。でも、私には一緒に強くなろうと言ってくれた人がいる」
偉大な父と自分の隣で支えてくれる鬼人に少女は思いを馳せる。
まだまだ力が足りないと嘆く自分自身を見つめ直し、少女は貪欲に力を欲していた。
「ーー確かに1人、1人は弱いかもしれない。だが、俺達には仲間がいる。人は自分を支えてくれる仲間がいるだけで何処までも強くなれるんだよ」
「……理解出来ねェ。雑魚が何人集まった所でオレ様は全て蹴散らして来た。……だがお前らは違う。動きも何もかもが読めねェ。まるで互いの弱みを補う様に動きやがる」
「俺の相棒だからな。目を見りゃ分かるさ」
どれだけの彼女と手合わせをしてきたと思っている?
お互いの動きなど手に取る様に分かる。
「……違う、違う違うっ!雑魚が幾ら集まろうが関係ねェ筈なんだ!この世の全ては力ある者だけが生き残る。仲間なんてのはただの足枷にしかならねェ!」
「ならば、私達を倒してみなさい!!」
(じゃなきゃ、オレ様は…)
思い返すのはあの光景。力を得る為に逃げる同胞を散々喰ってきた残虐な自分の姿だった。
アルバルトの言葉を聞き、納得のいかない土蜘蛛は手から糸を伸ばしてレティシアを捕獲しようと試みる。
「お前がさっきから鬱陶しんだよォ"粘糸"」
「させるかっ!」
だが、アルバルトが黙ってそれを見逃すわけがない。
横から轟々とした炎を大剣に纏わせて剣を薙ぎ払う。剣の軌道を沿う様に炎が地面を走り抜けて土蜘蛛の糸を焼き尽くす。
(此処だ。此処しかない…!)
「アルバルトさん…!」
「分かった。そのまま突っ込めっ!」
「ハッ、バカがっ!自分から炎に突っ込みやがった!」
一見、無謀な行動に思える。翡翠の瞳と紅い瞳の視線が交差し、レティシアがアルバルトが作った炎の壁に突っ込んだ。
未だメラメラと燃える炎に身を焼かれて息も満足に吸えない筈だとあまりに愚かな行動に対して土蜘蛛は鼻で笑ったが、次の瞬間、その笑いも消えた。
「考えが甘いんですよっ!!」
「……何っ!?」
レティシアが風を前に飛ばして炎の壁に穴を空ける。一瞬で短いの時間だが、炎に穴が空いた。レティシアは持ち前のスピードでその中を駆け抜ける。
「こんのォ、女ァァァア!!!」
レティシアは土蜘蛛の攻撃が来る。その前に後ろへ飛んだ。ここで来るとまるで分かっていたとでも言わんばかりの行動だった。
2つの黄金の瞳が土蜘蛛を視界に捉える。
それはレティシアが炎に突撃した時に発動させていた魔眼"黄金の瞳"であった。
1秒先の未来を先見する恐ろしき魔眼が土蜘蛛の行動を見極める。
(避けた?いや違ェ、これはブラフだ…!!)
女に意識を集中させたのが裏目に出た。
舌打ちをしたい気分だが、そんな余裕がない。
此方に迫る凄まじいまでの気配を察知して身体を捻る。
そこには鮮やかに光り輝き、燃える剣を構えたアルバルトがいつの間にか接近していた。
(アルバルトを視界から外した事で奴に付け入る隙を与えちまった。くそっ、まさかあの時の目配せだけでここまで決めていたとでも言うのかよ…!)
反省する間もなく、オレ様に向かって炎の拳が来る。途轍もない圧迫感で足が止まる。
対処しろ対処しろ対処しろ対処しろォ!!!
考えが頭を過ぎる前に身体が反応した。無意識のうちに拳を握り込んでアルバルトの剣と衝突する様に殴り付ける。
「オレ様の方が1番、強ェに決まってンダヨォオオ!!!」
「うぉおおおおおおおおお!!!」
大丈夫だ、力はオレ様の方が上の筈。実際にコイツは2度もオレ様に負けている。
問題はない……その筈なのにさっきから冷や汗がとまらねェのは何故なんだ。
力と力のぶつかり合い。土蜘蛛が拳に身体中にある水を送って肥大化させる。まるで大きな魚雷の如く、ズンズンと拳と剣を合わせているアルバルトを押し返していく。
ーー勝てる。土蜘蛛の心に余裕が生まれた。やっぱりこの程度。更に腰を捻り、体重を乗せてアルバルトを更に押し返していく。
(クソォなんていう馬鹿力だ。折角、レティシアが作ってくれた隙なのに…無駄にしてたまるかよ…!)
押し返される剣に力を込める。自身に眠る鬼人の力を解放してようやく均衡する。
「負けられねぇんだよ。お前と違って背負っている命がある。俺の背中にはこのヒガリヤにいる何千、何万人の命を背負っているんだよ!この程度の逆境、跳ね除けてやるわぁぁ!!」
背中がゾワっとした。その直後、身体に何かが入ってくる感覚だ。
しかもそれは散々経験したあの炎の熱さ。
あの火の精霊イフリートが力を貸してくれている。
これならいけるかもしれない。
「ガハハハッ!その威勢は良し!だが、ここまでだ。残念だったなァッ…!」
「………いいや、お前は此処で終わりだ」
「なんだと…!?炎が更に上がって…」
俺の身体から飛び出ていた炎が下から上へと身体を伝って大剣に蓄積されていく。剣の倍ぐらい炎が膨らみ、土蜘蛛の拳を少しずつ押し返して切り裂いていく。
「土蜘蛛ォォォォォオ!!!」
「この、アルバル、トォォオオオ!!!!」
どちらも譲らない力の押し合い。より強いものが勝つ、ただこれだけのシンプルな事だった。体格差がある土蜘蛛と張り合うのは精霊の炎を宿すアルバルト。
吼える土蜘蛛にアルバルトは残りの力を振り絞って剣を握る。
(後一押し…!全身に力を入れろっ!後の事は考えるな。此処で倒れたら何もかもが終わる)
手や足から炎が上がる。身体がいよいよ耐え切らなくなったのだろう。自分の肉が焼ける匂いが酷くて吐きそうだ。
だけど無視を決め込む。更に魔力を込めて身体に負荷を掛け続けると炎が全身から出て俺の身体は炎に包まれる。
この程度、試練と比べたらどうって事はない。寧ろ生温い方だ。
身体ごと炎に包まれた俺はその吹き出す力を一点に纏めて剣を押し出す。押し返すと同時に土蜘蛛の身体にも炎が伝う。
その熱さに耐性がない土蜘蛛が悲鳴を上げ、力が僅かに緩んだ。
「俺の、勝ちだァァァァァァア」
一気に押し返す。この好機を逃すわけにはいかなかった。
剣は土蜘蛛の腕を切り裂いて、奴の身体に傷を付ける。
深手を負った土蜘蛛がその場から飛ばされて膝をついた。
(今しかない……!!)
近くにいたレティシアに指示を出す。あの魔法を撃つなら此処しかない。
「レティシア、合わせろっ!」
「はいっ!」
2人とも手を胸の前で構える。
アルバルトがイメージするのは最終試練で何度も自身を焼き尽くしたあの轟々しく燃える灼熱の炎。
「"暴風ーー」
レティシアがイメージするのは優しく包み込む柔らかな風。
「ーーー熱波"ッ!!!」
アルバルトとレティシアから放たれた火と風の魔法。本来混じり合う事のない2つの魔法が互いを求め合い、交わって爆発的な力を生む。
土蜘蛛が顔を上げた時、そこには神々しいまでの真っ赤な世界が広がっていた。
土蜘蛛
完全に引き際を誤ったが後悔はしていない。
やっぱりお前は最ッ高にイカれてる。
こんな楽しくて面白レェ日に感謝。
◆
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