第107話 精霊石
これは武道大会の男性の部、決勝戦が開始される前の話、ヴィーラがアルバルトに問いかけた時の話だ。
「貴殿は精霊石という物を知っているか?」
「精霊石って…あの本にも出てきた精霊が眠ってる状態の石の事だよな…?」
「そうだ。その精霊石について私達は貴殿に御助力を願いたいのだ」
マリアとヴィーラがお願いしたい事。
それは勇者に選ばれたアルバルトに立ち会って貰いたかった。
何故か此方を拒み続ける精霊に力貸して貰う為だ。確率は高くなる方がいい。
「助力ってもなぁ…俺、出来る事なんてないと思うぞ?」
「いいえ、いくら精霊でも聖女である私と勇者であるアルバルト様が問い掛ければ答えてくれると思われます。私達の中には女神セレーネ様から供給される魔力がありますので、恐らく魔力を精霊石に流せば反応してくれる筈ですよ!」
マリアが元気よくガッツポーズをして言ってくるが、これ俺いるの?
魔力を流すだけならいらない気がしてならない。
「そう…なのか?だったらマリアだけでいいような……」
思った事がつい口から出てしまい、マリアとヴィーラに再度説得されてしまった。
◆
時計塔に吹き飛ばされ、身体中が痛い。
意識が僅かに飛ぶ中、思い出したのはマリアとヴィーラが話した内容だった。
(あれは…精霊石…か?)
瓦礫の中、倒れ伏す俺が顔を上げた先には怪しく光り輝く一つの紅い石がある。
聞いていた精霊石は見た者を魅了しそうな程、美しく怪しげな光を放っていた。
マリアが話していた精霊石、俺も本で読むで知ったぐらいだ。現物なんて初めて見た。
「……時計塔の中に祭壇があったなんてな」
(だから、この国の住人は毎日、この時計塔に向かって拝んでいたのか…)
ようやく合点がいった。あの石が本物の精霊石ならこの状況を打破できるきっかけになるかもしれない。
土蜘蛛にぶっ飛ばされた俺が時計塔の壁にぶつかった拍子に祭壇も壊れてしまったのだろう。
恐らくその時、高価な箱の中に入っていた中身が飛び出してきてしまった。
何とかあそこまで這っていけば、手が届く。
「……っ、………イテェけど…アレなら…!」
早くみんなの元へ戻らなければいけない。土蜘蛛という魔族の強さは別格だ。
とても人が対抗出来そうなレベルの強さではない。
なら人ではない、鬼人の血を引いている俺が何とかしなければ……これ以上、奴の好き勝手にさせる訳にはいかない。
ーーーその為には力がもっといる。
力といえば、ケルベラルの誘惑に負けて暴走状態に陥ってしまったあの力。
俺自身の限界を超え、そして俺が持つ筈だった鬼人族本来の姿にあれから俺は未だなれない。
以前よりも一段階、力を引き出せる様にはなった。
俺が力を引き出してもあの時感じた破壊の衝動と情動は襲って来ない。
もう一度、あの姿になれればこの緊迫した状況もあっという間に制圧出来るというのに。
「頼む、精霊様。俺の声が聞こえるなら力を貸してくれ。俺は俺の仲間やこの国の人々を救いたい!」
この状況を打開できる手段。
それは精霊に力を貸して貰う。これしか今の俺には思いつかなかった。
マリアの言葉が脳裏をよぎる。
(私達の中には女神セレーネ様から供給される魔力がありますので、恐らく魔力を精霊石に流せば反応してくれる筈ですよ!)
藁にも縋る思いで身体を這いずって精霊石に手を伸ばす。
「あと少し…」
俺の指先が精霊石に触れた時、頭の中に誰かの声が響き、辺りは真っ白な光で包まれた。
ーーー汝、資格を示せ。覚悟を示せ。
◆
眩しい光が収まると同時に俺の視界も回復した。
見渡すと周りはマグマに囲われており、陸地は俺がいる所だけだ。俺の視線の先にはこちらを睨む2つの瞳がある。
頭や身体には炎が覆われており、手には刺又の様な棒を持っている。そして俺より身体がデカい大男だ。
ソイツと俺の距離まであと数歩という所だろう。見上げる俺と見下すソイツという奇妙な光景が出来ていた。
無言が続く中、奴が口を開く。
「………運命に翻弄されし異端の子よ。汝は我に何を求めんとする」
このヒガリヤには精霊と呼ばれる存在がいる事は知っている。その精霊がこうして俺の目の前にいるという事実に驚きを隠せない。
確か祭り上げられているこの精霊の名前は…。
「火の精霊……イフリート……」
火の精霊イフリート。火の化身と言われて名高い存在を見て俺は足がすくんだ。圧倒的な存在感を放っており、恐怖で声が震える。
「あ……ぁぁっ……!」
「ーー答えよ。汝は何を求めんとする」
問いに答えろと言われている。答えなければ、こうしている間にもレティシア達に危険が迫っているかもしれないんだ。
小さな勇気を振り絞って声を紡ぐ。
「お、れは……アンタの力が欲しい」
「我は火、我は炎。闇を照らし、光を生み出す者なり。力が欲しくば試練を受けよ」
「試練だと……?」
俺が聞き返すと奴は持っていた棒を地面に叩く。
ゴゴゴッとこの辺一体が揺れ動く。
すると俺と奴の間にあった地面が盛り上がり、3つしかない短い階段が出現した。
これはどういう事なんだ…?
「その段を登り、我の元へ辿り着いてみよ。全てを超えし時、我が力の末端を汝に授けん」
俺の目の前には3つの短な階段。少しジャンプをすれば一段ぐらいは飛び越える事も出来るだろう。
だが、それではきっと意味がない筈だ。此方を見下す奴の瞳を見れば自ずと分かる。
俺を見極めようとする視線を感じつつも階段を一段登る。
「ーーーーーッ!?!?!!!!」
足の裏から頭のてっぺんまで身体の中から炎に包まれて焼かれている様な感覚がする。
あまりの熱さに俺はその場に倒れ、身体中を掻き毟り、手足をバタバタとさせた。
生きたまま内臓が焼かれている。声にもならない程の叫びを上げ、身体中を蝕む激痛に耐えて数分。
ようやく身体中の痛みが薄れて消える。四つん這いで途切れ途切れになる息を整えていると俺の頭上から奴の声が聞こえる。
「1つ目の試練は汝の肉体を、2つ目の試練は精神を、そして3つ目の試練は魂を我の炎が焼き尽くそうとするであろう」
「はぁはぁ……今頃になって言うなよな…」
「これは試練である。汝の覚悟と勇気を我に示せ」
「だから3つしかない階段だったのか……今ので1つ、残りは2つ….」
一段目は身体の内側から焼かれる様な感覚だった。奴が言う残りの試練は後2つ。それだけなのに俺の足が動かない。階段を登ろうとするとさっきの激痛がフラッシュバックして膝が震える。
今と同じか、それ以上の苦痛がきっと待っている。そう思ったら怖い。何で俺だけがこんな目に合わなきゃいけないんだと考えてしまう。
(仲間を助ける。こんな所で怖がっていてどうするんだ、俺!)
震える膝を手で叩いて震えを止めさせる。そして勇ましくその一歩を踏み出した。
なかなかその場から動こうとしないアルバルトを見て火の精霊であるイフリートは失望し、諦めた様に瞳を閉じる。
その時だった。瞳を閉じた精霊の耳に雄叫びを上げる様な苦痛に満ちた悲鳴が伝わる。
瞼を開くとそこには二段目の階段を登り、頭を抱えて唸り続けるアルバルトの姿があった。
これには精霊も感心した様に微笑む。
「ほぅ……」
「アガァ…!ァアアアアァァァァ!!?」
2段目を登り切ったアルバルトは立ちながら白目を剥いて痙攣する。
頭の中にあった感情や想いが焼かれ、真っ新な状態にされた。一瞬、自分の状況は?何故苦しんでいるのか考えても分からないという最悪に陥った。
だが、そんな彼の意識を引き戻したのは精霊の火でも焼き尽くせない大切な存在。仲間の顔が脳裏を掠め、自分のやるべき事を再度思い出させた。
「………………………ははっ、酷いなこりゃ。精神を焼くってこう言う事かよ。下手したら廃人になってるな」
「汝の勇気しかと見た。残りは最後の試練。それは魂を焼く所業、此処までに感じた痛みや苦しみはその比べ物にはならない。最悪の場合、死に至る。此処での死は現実での死。それを乗り越える覚悟はあるか」
「もう後には引けねぇ…こうしている間にも仲間が危機に晒されているんだ。大いなる力を得る為に代償がいるのなら、俺はそれに全力を掛ける。ーー俺は諦めの悪い男だからな」
拳を固く握り、俺はそう言い切って三段目に足を踏み入れる。
その瞬間、俺という存在が消えていくのを感じ取った。
精霊石
何百年も前に精霊が結晶となって眠りについている状態。今回、アルバルトを通して流れてきた女神の魔力で目を覚ました。
現状、起きている精霊はグリーンフィールドにいる土の精霊だけだ。
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